身代金強奪〜倉田屋事件、番頭の陰謀

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2006年11月24日

●オープニング

 えっほ、えっほ‥‥。
 籠担ぎの男たちが江戸の外れに向かっていく。
 籠の中には、卸売りの倉田屋を経営する倉田彦五郎が乗っていた。
 彦五郎はうたた寝していた。自分が江戸の外れに向かっていることなど知る由もない。
 そして、籠は止まった。
 彦五郎は目を覚まし、籠から降りた。
「ここはどこだ‥‥」
 寂れた長屋が軒を連ねている。
 彦五郎は長屋の扉を叩いた。
「ちょっと、すいません、誰かいませんか」
 返事無し‥‥。
 その時だった。不意に角を曲がって男たちが現れた。見るからに物騒な男たちが彦五郎の方へやってくる。
 彦五郎は背筋に冷たいものを感じながら立ち尽くしていた。
「彦五郎か?」
 男の一人が言った。
「えっと、あの‥‥私は‥‥」
 返事を待つまでもなく、男の一人が背後から彦五郎を殴りつけた。彦五郎は気を失った。

 ‥‥京橋。夕暮れ時。
 倉田屋の番頭義彦は女将の芳恵と表通りに出ていた。
「遅いですねえ、彦五郎さん、ちょっと商談に出かけたっきり帰ってこないなんて。寄り道でもしてるんですかねえ」
「どうせそんなところでしょうねえ」
 芳恵はため息をついていた。
「ま、そのうち帰ってくるでしょ。中に戻りましょ」
 倉田屋の中では、店員たちが接客に追われていた。
 義彦と芳恵は得意様に挨拶して回りながら、店の奥に消えた。
 二人の様子を見送っていた奉公人の洋輔は、目の前の客に目を戻した。
 客の男は、懐から手紙を取り出すと、それを洋輔に手渡した。
「それでは、手はず通りに」
 男はそう言うと、店から出て行った。
 洋輔は、ありがとございました! と言って男を見送ると、店に戻って奥に上がり込む。
 洋輔は奥の部屋でそろばんを弾いている義彦を見つけると、静かに歩み寄った。
「義彦さん」
「洋輔、どうした」
「今、男がこんなものを持ってやって来たんですけど‥‥」
 洋輔は件の手紙を取り出して見せた。
 義彦はそろばんを弾いている手を止めて、手紙を受け取った。
 ‥‥彦五郎の件にて至急お伝え申し候。
「何だ? 一体誰からなんだ?」
「さあ‥‥」
 義彦は手紙を開く。やがて、義彦の顔つきが真剣なものになった。
「彦五郎さんを返して欲しくば千両払え‥‥誘拐されたのか? おい洋輔、すぐに八丁堀に、いや待て! 町奉行に知らせると彦五郎さんの命はないって‥‥どうしよう」
「千両払いましょう、義彦さん。芳恵さんとも相談して」
「うーん、ちょっと待ってろ芳恵さんを呼んでくる」
 義彦は芳恵を呼んで戻ってきた。
 芳恵は手紙に目を通すなり、冒険者ギルドに知らせましょう、と言った。
「ギルドですか‥‥最後の頼みの綱ですね」
「でも、早く千両払わないと、彦五郎さんの命が危ないですよ」
 洋輔は切羽詰ったように言う。
「とにかく、明日、ギルドに行きましょう」
「そうですか‥‥」

 その夜‥‥。
 芳恵の寝室に、洋輔が忍び込んだ。
 洋輔は芳恵を呼び起こすと、小刀を突きつけた。
「金庫を開けろ! 早く! 早くするんだ!」
「洋輔‥‥あなた‥‥一体何を」
「早くしろ!」
 芳恵は鍵を取り出して、金庫を開けた。
「千両出すんだ」
 芳恵はなす術もなく千両出した。
 洋輔はその千両を袋に詰め込むと、脱兎のごとく逃げ出した。

 吉原‥‥。
 遊郭街に逃げ込んだ洋輔は高笑いして豪遊していた。
 そこへ現れたのはあの男。洋輔に手紙を渡した男である。
「よお! あんたか! 少し予定は狂ったが、何とか千両頂いてきたぜ!」
「ご苦労だったな洋輔」
 男は刀を取り出すと、素早い動きで洋輔の喉を切り裂いた。血しぶきが飛び、洋輔は倒れた。
 女たちは悲鳴を上げて逃げ出した。
 男は混乱に紛れて、千両が入った袋を持って店を出て行った。
 そして、男は橋の上で立ち止まった。流れ行く人々を男は眺めていた。
 そこへ現れたのは、倉田屋の番頭義彦。
「うまくいきましたか、先生」
「この通りだ」
 先生と呼ばれた男は千両が入った袋を持ち上げた。

 翌日、冒険者ギルド。
 芳恵は焦燥しきった顔で、ギルドの受付にことの次第を話した。その傍らには、芳恵を支えるようにして立つ義彦がいた。
「もう何がなんだか‥‥」
 芳恵は言葉をまとめていた。
「とにかく、今は彦五郎のことが心配で‥‥身代金の千両は洋輔が持って逃げてしまって‥‥」
 受付の青年はメモを取りながら頷いた。
「ええっと、身代金の受け渡し場所は、郊外の神社ですか。それにしても、洋輔というのは誘拐犯の一味だったんですかねえ‥‥」
「分かりません‥‥でも、彼が何を考えていたのか‥‥」
 芳恵はそこで涙ぐむ。
 青年は困った様子で頭をかいた。
「まあ、依頼はお受けしますので‥‥ご主人の発見と救出に手を尽くします」
「お願いします」
 芳恵は頭を下げた。
 横に立つ義彦も頭を下げる。その口もとには、笑みが浮かんでいた。

●今回の参加者

 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb8219 瀞 蓮(38歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb8832 朝日奈 龍姫(24歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb8882 椋木 亮祐(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb9063 リグミアテラ(21歳・♀・チュプオンカミクル・パラ・蝦夷)
 eb9118 丹下 左善(29歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb9183 佐藤 友哉(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●倉田屋にて
 合流する冒険者たち。一行は奥の座敷に通された。
 女将の芳恵が彼らを出迎える。遅れて番頭の義彦もやってくる。
 リグミアテラ(eb9063)は芳恵と義彦相手に事件の確認を行う。
 誘拐が起こってからの洋輔の行動‥‥。
「なんだかそわそわして、落ち着かない様子でした‥‥」
 芳恵の言葉に頷くリグミアテラ。
「普段使っている籠担ぎの男たちはどこにいますか?」
「なぜ籠担ぎのことなど気にするのですか」
 義彦が苛立たしげに口を挟む。
「何か不都合でも?」
「いや‥‥」
 義彦は引き下がる。
 それからリグミアテラは洋輔と親しい他の使用人がいないかを尋ねる。
 それに続いて誘拐された彦五郎と行方知れずの洋輔の特徴、行きつけの店を尋ねる椋木亮祐(eb8882)。
 ひとしきり話を聞いて立ち上がる冒険者たち。
 椋木はそぞろに出て行く仲間たちを見送りつつ、芳恵、義彦に倉田屋の事情について聞いてみる。トラブルや内部でのいざこざがないか。椋木はこっそり店員たちにも話を聞く。
 洋輔と親しくしていた他の使用人たちに最近の洋輔の動向を尋ねるリグミアテラ。

●捜索開始
「とはいえ、さてどう当たったものか‥‥洋輔とやらが犯人の仲間だったのか、それとも欲に目がくらんでただ掻っ攫っただけか、或いは彦五郎殿を心配して1人で渡しにいったか。最後の可能性は低いにしても、見つけて千両を取り戻せば今後、犯人と接触するにもやりやすかろうな。探してみるかの」
 瀞蓮(eb8219)の言葉に頷く朝日奈龍姫(eb8832)。
「どうも洋輔は遊郭街にいるみたい。お金を持って遊郭で豪遊でもするのかな〜。単純だよね〜。この分だとすぐに見つけられるね」
「そうじゃ、義彦殿」
 瀞は義彦を顧みる。
「我々に同道願えまいか。何、わしらは洋輔とやらの姿は知らぬ。よく知るおぬしがおれば、たとえ変装しておっても見つけられるかもしれんじゃろ」
 義彦は渋々ながら同意する。

 花街や酒場を回る瀞と義彦。
 洋輔の足取りをつかむのは容易いことだった。千両などという大金を持って逃げるという、浅はかな行動をおかした者。花町や酒場で阿呆のように大金を使っていた。そして、瀞は洋輔が吉原で殺されたことを知る。
「洋輔のことは残念じゃったな。それにしても千両はどこへ消えたのか。のう? 義彦殿。おぬしも千両が取り戻せればそれに越したことはあるまいて」

 ‥‥日本橋。
 大通りを歩きながら朝日奈は思考を巡らせる。
 ‥‥結局、洋輔はとっくに殺されていた。殺した浪人っていうのが誰かは解らないけど裏に誰かいるみたい。やっぱり誘拐犯達が冒険者に邪魔されるのを嫌ったのかなあ‥‥ん〜、お金を持っていくのが早すぎないかな〜、だって、お金を揃えた日の内に急いでどこかに隠れている誘拐犯の所に行って相談した後に急いで帰ってきてお金を持っていく、なんてすごく大変だと思うんだけどな。なんかすぐ近くの人と相談したみたいに決断が早い気がするんだよね〜

 椋木は洋輔の行きつけの店や遊郭、賭場を中心に聞き込みを続ける。豪遊していった人間がいないか調べてみる。
「金を持った悪党の行動なんぞ、たかが知れてるもんだ」
 そして椋木も洋輔の足取りをつかむ。

 洋輔が殺されたことを知った捜索メンバーは一時市中で集合する。
 椋木が捜索対象の変更を告げる。
「洋輔を殺した男を捜そう」と。
 頷く瀞と朝日奈。
 三人は再び市中へと散っていく。

 再び吉原。椋木は洋輔が殺された場所にいた人から男の特徴を聞き、目撃者の有無、どちらに逃げたかなどを聞き込む。
「景気のいい話をしているような奴ですか‥‥」
 遊郭街の店員がそれらしき人物の居場所をほのめかす。吉原の酒場である。
 店員が酒場の外から一人の男を指差す。
 その男は酒を飲みながら洋輔がどうのこうのとわめいていた。
 椋木は店員に礼を言うと、酒場の中に入り込み、不意を付いて男を押さえつけた。
 男は抵抗するが、椋木は後ろ手を取って男をねじ伏せる。
「洋輔がどうしたって?」
「何なんだ! 町奉行所か!」
「やかましい、さっさと答えろ」
「俺は何も知らねえ!」
 椋木は腕に力を込める。
「俺たちはまだ何もやってねえ! 身代金が消えたんだ! 俺たちはまだ何もしてねえ!」
「まどろっこしいことを言うな」
「洋輔は‥‥殺されたんだ」
「誰に?」
「義彦だ‥‥倉田屋の番頭の」
「なーるほど‥‥と言うとでも思ったか! 誰がそんな突拍子もない話を信じるか」
 椋木は男の腕を押さえつけると、抜刀した。椋木は刀を男の手の平に突き立てる。
「勘弁してくれ! あいつだ! あいつなんだ! 洋輔を殺したのは義彦と組んでいる浪人だ!」
 椋木は男の手から刀を抜くと、足早に吉原の街から出て行った。このことを皆に知らせなくては。

●彦五郎救出
 剣真(eb7311)はリグミアテラの聞き込みで得られた事前情報をもとに、籠屋に彦五郎のことを尋ねてみる。
「彦五郎の居場所を知ってるか?」
「お前は誰だ?」
「それはこっちの台詞だな」
 剣はずけずけと言う。
「お前らこそ始めてみる顔だな? 彦五郎を連れて来いと言われたが、どこに行けば良い」
「彦五郎に何の用なんだ」
「内容は知らん、連れて来いとだけ言われた。場所がわからん。案内してくれ」

 ‥‥江戸の外れ。
 案内された剣は人気のない裏通りの、長屋の一軒に入った。
 家の中には男たちがたむろしている。剣に視線が注がれる。
「彦五郎はどこにいる」
「何だと? お前は誰だ」
「彦五郎を連れて来いと言われている」
 剣は言い放つ。
「聞いてないなそんな話」
「当然だ。お前たちは知る必要のないことだ。知る必要のないことをあれこれと詮索するな。彦五郎を渡せ。お前たちは予定通り身代金の受け渡し場所へ行け」
 男たちはひそひそと話し合っている。やがて、男の一人が彦五郎を連れて現れた。
 剣は彦五郎を伴って外に出ると、足早にそこから立ち去りながら口を開く。
「ご無事で何よりです彦五郎殿。私は冒険者ギルドの者。芳恵さんのご依頼であなたを救いに来ました」
「本当ですか?」
「急ぎましょう。じきに連中は我々の後を追ってやってくるでしょう」

 剣は一気に江戸市中へと向かう‥‥が、予想通り、後を追って悪党たちがやってくる。
「このままでは追いつかれるな。彦五郎さん、少しそこへ隠れて下さい」
 と、そこへ駆けつける冒険者たち一行。
「剣! 無事か!」
 抜刀しつつ剣の横に並ぶ椋木。
「ああ、どんぴしゃのタイミングで来てくれたな。助かったぜ」
 剣は法城寺正弘を抜きながら仲間たちから手短に状況を聞きだす。
「そうか‥‥洋輔を殺した犯人と義彦は一つの線でつながったか」
「お前が浪人に不意を突かれやしないかと心配でな」
「それは御丁寧に」
 と、そこで口を開くリグミアテラ。
「冗談を言ってる場合じゃありませんよお二人とも」
 瀞、朝日奈はすでに迎撃態勢に入っている。
 ばらばらと現れる悪党のちんぴらたち。その先頭には、浪人姿の男がいる。
「先生のお出ましか」
 椋木が一歩前に出ると、浪人の男は抜刀して構える。
 剣、瀞、朝日奈は他の悪党たちと激突する。
 詠唱を開始するリグミアテラ。印を結ぶ手が魔法の完成を告げると、光線が悪党目がけて降り注ぐ。動揺するちんぴらたち。
 瀞は両手で相手の攻撃を次々と捌きながら、ものすごい速さで蹴りを繰り出す。蹴りの直撃を受けてたじろぐちんぴら。
「く、くそ‥‥」
 ちんぴらたちは瀞を取り巻きながら隙をうかがうが、すっかり怖気づいた様子で及び腰。
 朝日奈の方へ目を向ければ、その一撃がちんぴらの頭部を捕らている。ちんぴらは声を失って昏倒する。
 剣はというと、法城寺正弘を振るって全くちんぴらたちを寄せ付けない。
 そして椋木と浪人の一騎打ち。椋木が剣を振るうと目には見えない衝撃波が浪人を直撃する。
「な、何だ」
 狼狽の声を上げる浪人。
 椋木はその隙を逃さず一気に切り込む。
 浪人は必死に椋木の猛攻をしのいでいたが、やがて形勢不利と見るや逃げ出した。
 椋木はそのままちんぴらたちとの戦いに加わる。椋木の刀が次々とちんぴらを切って捨てていく。
 そして遂には、生き残ったちんぴらたちも戦意を喪失して逃げ出した。
 と、朝日奈が声を上げる。
「捕まーえた!」
 朝日奈に引っ立てられて姿を現したのは義彦。
 義彦はすっかり怯えた様子である。
「義彦殿、こんなところで何をしておられるのだ」
 刀を収めつつ近付く剣。適当に誤魔化そうとする義彦に対して、誘導尋問を試みる。
「お主‥‥金さえ貰えば手を貸すぞ」
 なおも適当に誤魔化そうとする義彦。あえて追求する剣。そして、
「黒幕はお主のようだな」
 剣がその言葉を口にした瞬間、義彦は小刀を取り出して襲い掛かってきた。が、剣は義彦の小刀を取り上げると、義彦を殴り倒した。
「お金のために人殺しですか、人を殺すということは、自分も殺される可能性を認めること‥‥覚悟はできてますよね」
 リグアミテラの言葉は手厳しい。
 逃げ出そうとする義彦だったが、椋木が義彦を切って捨てた。

●帰還
 冒険者たちは倉田屋に帰還した。
 出迎える芳恵。彦五郎は真相を話して聞かせる。芳恵は愕然として聞き入っていた。
「それで‥‥義彦は」
「ああ‥‥義彦は八丁堀の御用となった。こちらにいる冒険者の皆さんのおかげでな」
 彦五郎は適当に誤魔化してみせる。
「そうですか‥‥このたびは、お世話になりました」
 再開を祝す芳恵と彦五郎。
 その姿に今は亡き両親を重ねるリグアミテラ。
「良かったですね」
 と、朝日奈は彦五郎に千両が入った袋を手渡す。
「こいつは‥‥一体どこで」
「義彦の自宅にありました」
「そうでしたか‥‥ありがとうございます」
 冒険者たちに頭を下げる芳恵と彦五郎。
 事件は無事解決。あとはギルドへの報告を済ませるべく、冒険者たちは日本橋の町を後にするのであった。