地獄の沙汰も何とやら、少年の切なる願い
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:フリーlv
難易度:難しい
成功報酬:5
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月19日〜02月24日
リプレイ公開日:2008年02月24日
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●オープニング
京都、冒険者ギルド。最近になって似たような依頼を持ち込む者たちがギルドに長蛇の列を作っていた。
「すいません‥‥実は借金のかたに娘を取られてしまって‥‥へえ、ここに来れば借金の肩代わりをしてくださる方々が大勢いるって聞きまして。はい? 借金の総額ですか? 実は‥‥百両ほどでして」
こんな話はもとより――
「お願いします! 助けて下さい! このままじゃ私は明日にもあいつらにす巻きにされて川に沈められてしまいます! ここに来れば必ず助けてくださる方がいると聞きまして! え? 何の依頼かですって? 実は‥‥借金を肩代わりして頂きたくて‥‥私、金貸しに五十両ほどの借金がありまして‥‥」
まだまだある――
「あのう‥‥あっしのたまりにたまった飲み代、十両を清算してもらえないでしょうか‥‥ここに来れば、借金を肩代わりして下る方々が大勢いると聞き及びまして」
さらにさらに‥‥と続くところでギルドの手代は机を叩いて立ち上がった。
「ええい! あんたたち! ここを何だと思っているんです! ここは無償で人助けをする場所じゃありません!」
激昂する手代の勢いに押されてたじろぐ依頼者たち。が、中の一人が前に進み出てくる。
「で、ですが、この間、二宮銀之助から金を借りていた権太を、冒険者の皆さんはお助けになったじゃあありませんか! 借金の肩代わりをして!」
そう、そういった事情がある。先月のこと、とある依頼で借金の肩代わりをした冒険者がいるのである。その言葉に再び勢いづく依頼者たち。
「そうだそうだ! 権太を助けて俺たちを助けないなんて、そんなのえこひいきだ!」
「だーかーらー、えこひいきだ何だと仰られても、ここは無償で人助けをするような依頼を受ける場所じゃないんです!」
手代の言葉はもっともである。こうして水際で割に合わない依頼を断るのも手代の仕事のうちである。しかし依頼者たちも引き下がらない。数で圧倒してくる。借金の肩代わりをしてくれ俺を救ってくれと言い立ててギルドの中で騒ぎ出した。ギルドの中はちょっとした騒動になり始めた。
そこで手代の上役が調停に現れた。
「どうされましたかな、皆さん」
「こいつが俺たちの依頼を受けられないと言い出すんだ! そんな馬鹿な話はないぜ! 先月ここで依頼をしたら、借金の肩代わりをしてくれたそうじゃないか!」
「左様。そのようなこともありましたな」
だったら、と迫り来る依頼者たち。上役はにこやかな笑みを浮かべると、
「それでは皆さんの依頼をお受けしましょう。ささ、順番に並んで下さい」
その言葉におとなしくなる依頼者たち。ぱらぱらと並んで順番に依頼内容を述べていく。と、何やら腑に落ちないものを感じた依頼者の一人が上役に問うた。
「なあ、俺たちの依頼、間違いなく受けてもらえるんだろうな」
「それは分かりません。依頼を受けるかどうかは冒険者の判断に委ねられています。あなたの出された依頼に引き受け手が現れるか、それは分かりません」
「こいつ! とりあえず受けときゃ俺たちが引き下がると思ってるぞ! みんな! 騙されるな!」
「そう言われても、実際依頼を受けるのは冒険者ですからねえ。我々の方ではどうにも出来ませんよ、こればかりは」
冒険者ギルドは冒険者を斡旋するのみ。上役の言葉に渋々引き下がる依頼者。さすがにこれ以上無理を言っても無駄だと悟ったようである。
そんなこんなで「金をくれ」依頼の数は相当数に上った。何という紙の無駄。依頼者たちが引き上げていったところで、ギルドの手代は依頼書の束をくずかごに捨てた。上役からそのように申し伝えられていたのだ。
ふう、と手代は息を吐き出した。まったく、とんでもない連中だった。
「あの、すいません‥‥」
手代が見上げると、カウンターの向こうに少年が一人、少女の手を引いて立っていた。
「何か」
手代が問うと、少年は意を決したように口を開いた。
「父さんと母さんが、家を出たきり戻らないんです」
人探しか‥‥。手代は少年の様子を眺めながら筆を取った。少年の年の頃は十歳くらいか。聞けば少女の方は妹だそうである。
さて、肝心の内容だが、少年の父親と母親が戻らない。すでに家から姿を消して数日が経過していると言う。最後に両親が家を出たのは、金貸しの二宮銀之助のもとへ向かう時であったと言う。両親は二宮銀之助に借金があり、家にもたびたび取立てが来ていたそうだ。何かの事件に巻き込まれたのか、それは分からない。今のところ冒険者ギルドにもそのような話は入ってきていない。
何分子供の依頼ゆえに仕事料は望み薄だが、本当に困った者の依頼とあれば無碍にもできない。いや先刻の者達も本当に困って此処に来たのは間違い無いし、絶望して首をくくられないとも限らないのだが。
手代は少年少女の両親を探してもらえるように依頼書を作成すると、それを張り出した。
少年からの依頼、無論成功報酬のめどは立っていない。それでも、引き受け手が現れることを祈って、手代は子供たちを励ますのだった。
●リプレイ本文
依頼書を前に卓を囲む冒険者たち。
「銀之助はそんなにえげつない取立てをする人ではない。なので依頼人が事件に巻き込まれている可能性は薄い‥‥。ただしそれは依頼人の両親が銀之助だけにお金を借りている場合の話。もし、子供たちに内緒で、銀之助以外からお金を借りていれば、事件に巻き込まれている可能性はあるわけだ」
とクリムゾン・コスタクルス(ea3075)。
「ご両親の失踪ですか‥‥しかも金貸し絡みとなると、前回を思い出しますね。一連の騒動には責任を感じておりますが、先ずはこの件を解決しなくてはなりません」
島津影虎(ea3210)は前回の依頼を思い出す。今回の依頼は子供、まだ情報も少ない。まずは情報を集めるべきか。
「なんだか、すごい騒ぎになってるわね。う〜ん‥‥冒険者のまいた種、何とかしたいけれど。ギルドとしては、『冒険者が勝手にやったこと、今後ギルドとしては直接借金をどうこうという話は受けない』ぐらい言ってもらったほうが良いかも? 前回の件、実際は債権買取とは言え、どうとでも都合のいいように解釈する人は出るでしょうし。『冒険者に頼めば』という気運を勢いづけちゃうと駆け出しの人とか大変だと思うし、ギルドに寄った時に詰め寄られても冒険者は自分の悪評覚悟で突っぱねるしかないわね」
そう言うステラ・デュナミス(eb2099)。その言葉を聞けば騒ぎを起こした依頼者たちも諦めるのではないだろうか。
その傍らで、依頼者の小吉少年とその妹はぐったりと眠っていた。
子供たちが目を覚ましたところで、まずは依頼者である彼らの話を聞く。
彼らの話によれば、二宮のもとへ向かう際には特に変わったところはなかったという。その後、取立てが来ることもなかったという。
ふむ、と腕組みする島津。
「取立てが続く様なら、何らかのトラブルに巻き込まれたか、蒸発した可能性も考慮しなくてはなりませんが、それが無いところを見ると、金貸しとご両親との間で何かしらの合意‥‥職の斡旋や身売りといった事が行われた可能性もありますね」
宿奈芳純(eb5475)は子供たちから両親の名前と両親が出て行った日時を聞き込む。両親が出て行ったのはかろうじて一週間以内。パーストの魔法で両親が家を出た日時に合わせ過去視する宿奈。何度か試みて両親の姿を確認すると、ファンタズムでその姿を映像化して仲間に見せる。ギルドの筆記者に頼んで人相書きを書いてもらう。
その間に洛中洛外図の上にダウジングペンジュラムを垂らし、消えた両親の名前を告げる宿奈。
「小吉の両親、権左と菊」
しかしペンジュラムはぴくりとも動かない。宿奈は肩をすくめた。前回は運が良かったのだろう。
「安心しろ、両親はきっと無事でいるさ」
ライル・フォレスト(ea9027)は子供たちを安心させようと笑顔で話しかける。さて、とライルは腰を上げた。ライルはひとまず子供たちを送り届けることにする。
ライルが子供たちを連れて彼らの隣家の扉を叩いた。隣家の住人は何用かと顔を出した。
ライルは子供たちの両親から頼まれたと、子供たちの世話を隣人に頼み込んだ。噂好きの隣人か、何か事件でもあったのかと突っ込まれたが、ライルは適当に誤魔化して、子供達の生活費と手間賃として十両を渡した。十両を見て隣人の態度は和らいだ。併せて最近の両親の仕事や家庭の状況等を聞き込むライル。隣人は取立てがあったらしいことは知っていたが、特に目立ったことは知らなかった。とにかくも数日ならと、隣人は子供たちを預かってくれた。
情報収集を開始する冒険者たち。
金貸しとの間で何らかの合意が得られたのではないか、ということで、冒険者たちはひとまず最短の手がかりである二宮銀之助のもとを訪れた。
二宮が居を構える左京区の一軒屋を訪れたのは島津に宿奈、ステラ。
二宮と会う前に、事前に宝手拭で顔を拭っておく宿奈。
二宮はかつてそうであったように、冒険者たちの来訪に意表を突かれた様子であった。
「権左と菊が行方知れずだそうですな」
そう言って二宮は冒険者たちに席を勧める。訪問内容は事前に係りの女が告げていた。
自分たちが冒険者であることと、子供から依頼を受けた事を明かした上で、両親の権左と菊が来たかどうか、それだけでも教えてもらえないか頼んでみるステラ。
「教えてもらえれば気持ち程度でも謝礼は出すわ。念のために言っておくけど、私たちは権左さんと菊さんがここに来て、出たあとでトラブルに巻き込まれたのか、その前に何かあったのかが知りたいだけ」
こちらが頭から疑っているとは言わないステラ。二宮の回答は、「二人は来た」である。
「私たちはお二人のご子息より『両親が帰ってこないので探してほしい』と依頼を受けております。差支えなければお二人が二宮様のもとへお越しになった理由や、その後お二人が向かった先の心当たり等、無論二宮様のお仕事上話せない内容もあるとは存じますが、話せる範囲で構いませんのでお教え頂けないでしょうか?」
宿奈の言葉に神妙な面持ちの二宮。
「私の取立てが少々厳しかったのは認めましょう。ですが、事件のことは存じませんな。二人は確かに数日前にここへ来ました。そして、返済分を全て清算して行ったのです。残念ですが私はあまりお役に立てないようです」
権左と菊は借金の清算のために二宮のもとを訪れたのだ。だがその後の行方は分からないという。調査は難航しそうだ。
銀之助以外の金貸し業を回っていたクリムゾン。
「権左について何か知ってるか?」
「あんたんところからお金を借りてねぇか?」
といった感じで聞き込みを行っていく。広大な京の都を歩き回ることになるクリムゾン。
金貸し業の中には悪質なものもあると思われるので、街の人から銀之助以外の金貸し業について評判を聞いてみる。が、一般の人にはあまり馴染みが薄いのか、目立った情報は得られない。
それでも手当たり次第に金貸しのもとを訪れるクリムゾン。権左に金を貸していたという業者には厳しく追求する。
「知ってんだろ? 権左のこと。あんたの顔に傷が付く前に正直に言いな」
「俺は何も知らねえよ、本当だ。金を貸してるんだから、こっちが探したいくらいだ」
「おい! 隠すとためにならねえよ!」
クリムゾンは金貸しの首を締め上げる。
「本当に何も知らないってば! ‥‥く、苦しい、助けて!」
クリムゾンは金貸しを放すと吐息した。全く、どこを探しても当たりが無い。
今回は前回を教訓として、探している両親の遠縁の者・友人として行動する島津。
「借金で困っていると聞き、身内でお金を何とか工面したが、行方が分からないので捜しております」
などと言って聞き込みを行う。子供達とも口裏を合わせておく。
聞き込みをしていると、権左は最近借金の清算にめどがつき、金貸しとは縁が切れつつあるとのことである。
子供を棄てて逃げたとは思えない。銀之助のところへは借金の返済に現れた。それでも帰ってこないところを見ると、一体どういう事情があるのか。ステラも聞き込みを続けるが、目立った情報は無い。もし金貸しのところにたどり着くことなく姿を消したなら、お金目当てのトラブルに巻き込まれた可能性もあるのだが、果たして‥‥。
再び洛中洛外図の上にダウジングペンジュラムを垂らしてみる宿奈。ペンジュラムは動かない。やはり前回は運が良かったのか。
全く情報が得られぬままに三日が過ぎようとしていた。そんな時である。
ベアータ・レジーネス(eb1422)が町の一角で権左と菊を見たと言う情報つかんだのである。手分けして探していた成果であろう。何とか足取りを追うことが出来るかもしれない。エックスレイビジョンのスクロールで建物の中などを覗き込んだり、証言をもとに、詳しい日時を聞いた上でパーストのスクロールで過去視を行い、両親がどこへ向かったのかMPの続く限り追跡するベアータ。
そうして、ついに権左と菊を発見する冒険者たち。二人は一軒の店で働いていた。
両親のもとへ向かう冒険者一行。折を見て声をかけるライル。
子供達に頼まれ探しに来たことを伝え、事情を聞く。聞けば金貸しの左門から借りた金だけが清算できず、そのためにここで働くことになったと言う。ライルは一度戻って子供達に事情を説明して欲しいと説得するが、勝手に持ち場を離れるわけにはいかないとのこと。事情を知って、ライルには子供たちの世話を頼む権左と菊。
状況を鑑みて、すぐには二人は戻れないと判断したライル。戻れるまで子供達は隣家に頼み、生活費は当面心配ないようにすると伝えておく。子供達への伝言を聞いて例の隣家の住人のもとへ戻る。隣家には改めて両親が戻るまでの兄妹の世話を頼んでみるが、いつまでもよその子供は預かれないと断られた。
そうなった以上、左門という名の金貸しと交渉するしか道はなさそうだ。
その左門との交渉には宿奈が当たった。
「卒爾ながらこのお二人の債権を買い取らせて頂けないでしょうか。勿論利子を含め全額即金でお支払致します」
と肩代わりを申し出る。残りの借金は九両。
その肩代わりは宿奈とベアータ、島津が均等に引き受けることになった。借金を清算して証文を手に入れる冒険者たち。
こうして権左と菊は無事に開放された。それから仲間全員と貸主全員の立ち会いのもと、自分達を貸主とする新しい証文作成を支援するベアータ。この肩代わりをちゃらにするかどうかは、また別の機会に話し合って決めることになる。
冒険者たちは両親を保護して家に帰す。
事後はギルドに迷惑をかけたことを謝罪するライル。ギルドの上役と相談の上、肩代わりを依頼に来た人達の所を回り、前回作成した証文を読んで見せ、前回の借金は貸主がこちらに変わっただけで、肩代わりしたのではないことを納得するまで説明するのだった。