京都近郊、愛し姫と骸骨侍

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:02月22日〜02月27日

リプレイ公開日:2008年02月29日

●オープニング

 ――京都近郊、夕刻。
 斜陽の明かりが大地を染め上げていた。街道を行く人々は追われるように都に向かっていた。
 日が沈んでいく中、商人の一団が街道を行き過ぎようとしていた。
 と、そのうちの一人の青年が足を止めた。
「おい、あそこにいるのは、女性じゃないか?」
 商人が目を凝らす先に、確かに女性が一人立っている。
 青年は商人たちのよせという言葉を無視して女性の方へ近付いていった。
 女性は街道から外れたところに立っていた。このような場所には似つかわしくない美しい着物を着た艶やかな女性であった。青年が近付いてくるのを待って、女性は口を開いた。
「ごきげんよう」
「こんな道外れでどうされました。間もなく日も沈む。もし京の都へ行かれるなら、我々も同じ方向だ」
「私を都へ連れて行くというのですか」
「あのう、最近は何かと物騒だ。こんな街道から離れたところに一人でいたら、もし野盗にでも襲われたら‥‥」
「その心配は無用です」
 すると、女性はけらけらと笑い始めた。
 な、何だ? 青年はあとずさった。
 次の瞬間、青年は背後から攻撃された。刀剣の一撃。
 激痛に身をよじる青年。彼に切りつけたのは鎧兜を着た骸骨であった。
「な、何だこいつは!」
 青年は腰を抜かしてひっくり返った。その背に何かが触れる。青年が見上げると、もう一体の骸骨侍が立っていた。
「ひいっ! お助け!」
 青年は必死に逃げ出そうと立ち上がった。襲い来る骸骨侍。青年は荷物を放り出して逃げ出した。
 出たー! 仲間の元へ引き返そうとするが、誰も居ない。他の商人たちはとっくに逃げ出していた。



 街道に出没して旅人を襲う女性と骸骨侍の噂はやがて冒険者ギルドにも届いた。
 果たしてその正体は‥‥、
「女性の姿をした者が“愛し姫”と呼ばれるアンデッド。それに付き従う骸骨が“死霊侍”と呼ばれる同じくアンデッドであると思われます」
 ギルドの手代は冒険者たちに告げる。都の治安を預かる御所の何某がギルドに退治依頼を出したのだ。
「情報を提供しておきましょう。愛し姫は魔法か銀の武器でなければ攻撃は通用しないと言われています。何らかの魔法を操り、またチャームの魔法に似た特殊能力を有しているとも言われています。死霊侍は怪骨の強力版です。普通の怪骨戦士より腕は立つとか。用心して下さい」
 かくして、京都近郊に出没する愛し姫と死霊侍、その撃退は冒険者の手に委ねられる。

●今回の参加者

 eb2390 カラット・カーバンクル(26歳・♀・陰陽師・人間・ノルマン王国)
 eb8646 サスケ・ヒノモリ(24歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec2524 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(43歳・♂・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

孫策 伯符(eb9221

●リプレイ本文

 噂の妖怪が出没すると言う場所へ向かう冒険者一行。空は晴れ渡り、春の到来を感じさせる。
 ともあれ物の怪の出没に旬の季節も無い。冒険家業をしていればいつでもこのような退治依頼を引き受けることもある。
「何となく僧侶っぽい事をしとこうかと思って来て見ましたけど、やっぱり失敗だったかも? おっかないの苦手ですしー」
 何か悪いことでもしたかのように「あははははは‥‥」と笑うカラット・カーバンクル(eb2390)。
「でもせめて応援とかだけでも頑張ってます。皆さまガンバ!」
 自分は何もしないつもりか、誰かに「待て」と突っ込んでもらいたいところだ。
 そんなカラットの様子を見て肩をすくめる結城弾正(ec2502)。
「天下の往来をアンデッドの好き勝手させないぜ。この俺が来たからには妖怪どもを何としても叩き潰してくれよう」
「まさに。ミーほどのシシが来たからには問題は既にクリアしているといえるかもしれない。ミーの戦力は一説によると‥‥忘れた」
 赤い髪をなびかせて奇妙なアクセントで言うのはジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)。放つ言葉は全て意味不明な変人だが、驚くべき事に彼は志士らしい。世界は驚愕に満ちている。
「噂の怪異、愛し姫さん以外には一切の攻撃が無効だろうかホネ?」
「さあ、どうでしょう」
 ジョンガラブシに問われて首を振るカラット。ノルマン人の彼女は今は京都で僧侶になる修行中。負の生物に関する講義も受けているが、まだ身につく程では無い。
「さもあろう。だが愛し姫さんを射程外より攻略するほどの戦術以外は持ち合わせていないホネ」
「むう、つまり弓が達者だと言いたいのだな? ところでおぬし、何故に語尾にホネを付けるのだ?」
 弾正がいぶかしむが、ジョンガラブシは全く気にした風もない。仲間たちもそれ以上は気にしない事にした。
「愛し姫と言えば不死の魔物でも高位のモノと聞く。そのうえ死霊侍‥‥俺たちの手に負えるとよいが」
「まあ、やってやれるだけのことはするしかないだろう」
 とサスケ・ヒノモリ(eb8646)。
「人語を解すとは言え相手は生者を食らう不死人、交渉は出来まい。恐らく人間のような思考とは無縁なのだろう。油断は禁物だ」
 そうこうする間に日も落ちる。野営を張る一行。

 火を起こして暖をとる冒険者たち。雑談を交わしながら休息のひと時を過ごす。
 食事の用意をしたり荷物の見張り番などに従事するカラット。
 ぱちっと弾ける焚き火。夜ともなればいつ怪異の類が出没してもおかしくはない。警戒を続ける冒険者たち。
 結城は焚き火の炎を見つめながら周囲の気配に気を配っている。
 今回のパーティには二体のゴーレムが付き従っている。サスケに仕える二体のゴーレムである。ゴーレムには周りの注意を引かないようにフード付きのマントを被せてある。聞けばサスケはゴーレムニスト見習いであるという。今回の依頼では心強いサポートが期待できる。
 カラットは愛犬のその名も“ライス長官”と、ドラゴンのぬいぐるみ“どらごん君”と一緒に見張りを行う。じっと暗闇に目を凝らすカラット。ぐぐっと拳を握り締める。高まる緊張。
「あたしと愛犬、ぬいぐるみ、三人寄れば‥‥いざと言う時は自分だけでも逃げ延びて見せますよ!」
 ずっこける他の面々。
「うむ、出来ている。安心したのでミーは先に休むホネ。交代の時間が来たら起床する」
 そう言って寝袋に入るジョンガラブシ。
 果てさてこのメンバー、恐るべき不死人たちと対抗できるのか。

 そうこうしながらも、着々と現地へと向かう一行――



 現地に到着した一行は早速聞き込みを開始する。
 近くの宿場町では噂のアンデッドの話を聞くことが出来た。
「魔物が現れるのは決まって夕暮れでさあ」
 と茶屋の主人は告げる。
「街道から外れたところで女の姿をした魔物が出没するそうで。骸骨侍はどこからやってくるんでしょうなあ。いずれにしても、しっかりと退治のほど頼みますよ」
 主人は茶菓子を用意してくれた。
 他の旅人たちもようやくギルドが動いてくれたと喜びの声を上げている。
 期待に沿うことができればよいが‥‥冒険者たちは宿場町をあとにすると、緊張した面持ちで魔物が出没すると言う街道へ向かう。



 昼間に十分な休息をとってから、夕暮れを待つ冒険者たち。
「さて、こちらの狙い通り発見できるとよいのだが」
 サスケは斜陽の明かりを見つめながら呟く。
 と、その時だ。
「みなの衆、あちらを見てみよ」
 結城の言葉に一同視線を向ける。
 その先に、一人の女性らしきの姿が。街道から外れたところにたたずんでいる。
「気をつけろ。‥‥きゃつの罠の可能性もある」
 仲間に警戒を促すジョンガラブシ。冒険者たちは女性の方へ向かって歩き出す。

 愛し姫は冒険者たちが近くに来るまで何の反応も示さなかった。はっきりと冒険者たちの方からも姿が確認できたところで、愛し姫は彼らの方へ首を傾けた。
 本当にこれが噂の魔物か、普通の人間のようである。
 カラットは話しかけてみる。
「あのう、この辺で魔物が出るって聞いたんですけど、何か存じませんか?」
「魔物? さて、これは奇妙なことを言う。この辺りで魔物が出るなど、聞いたことがない」
 愛し姫の言葉に惑わされる冒険者たち。カラットは懐から巻物を取り出そうか迷い、他の仲間達は一瞬気が緩んだ。
 その時である。
 気配を察知したジョンガラブシと結城がさっと振り返った。
 どこに隠れていたのか二体の死霊侍が愛し姫の傍らから姿を見せ、冒険者たちに襲い掛かる。
「やはり! こやつらか!」
 結城は距離を取り、オーラパワーを得物のハンマーにかける。
「やはり怪骨、鎧で守りが堅い上に中身が骨だけでポイントアタックが利かぬ俺には最悪の相手だが」
 事前に知っておれば対処が出来るのだ。知恵を絞った結果がハンマーという選択。突きも斬撃も効かないなら叩き潰すのみである。
「あの敵に攻撃! 破壊の光、発射!」
 サスケは死霊侍を指差してゴーレムに命令する。ストーンゴーレムの目から放たれる破壊の光が死霊侍を直撃する。よろめく死霊侍。
 後ろに下がり、フレイムエリベイションを準備するカラット。それからマグナブローで味方の援護に回る。
 もう一体の死霊侍には結城が突っ込んだ。
「うぉぉぉっ!!」
 両手に持ったハンマーを力任せに叩きつける。死霊侍の攻撃は骨とは思えぬ鋭さ、全てかわすつもりだったが一撃貰ってしまった。だがオーラを込めた槌を受けて、死霊侍は大きく体勢を崩す。
「俺とおぬしの相性はとことん悪い。侍は負の魔物にとって天敵、さあ土に還れ!」
 死霊侍と愛し姫の位置関係を目で追い、挟撃されないよう立ち位置をこまめに変えつつ止めの機会を探る。
 愛し姫の相手はジョンガラブシだ。彼は愛馬ブラックに騎乗したまま愛し姫を狙って矢を放つ。
「どうしたの?」
 放たれた矢は狙い違わず愛し姫を捉え、手前で壁にぶつかったように弾き返される。それでもジョンガラブシは距離を取り、繰り返し愛し姫を撃ち続けた。何らかの障壁、梓弓なら続けて撃てば破れるかもしれないし、仮に届かなくても足止めにはなる。ぶっちゃけ、愛し姫を一対一で倒せるとは思っていない。
 高速詠唱+グラビティーキャノンで死霊侍を狙うサスケ。転倒する死霊侍。
「もらった!」
 結城はハンマーを振り下ろす。ぐしゃっ、と死霊侍の頭部が破壊される。
 もう一体の死霊侍もかなりのダメージを受けている。止めをさす結城。
 愛し姫の方を見ると、さらに現れた死霊侍が周囲を囲んでいた。地中にでも潜ませていたのか。
 死霊侍は愛し姫の合図で二、三体ずつ襲い掛かってくる。ジョンガラブシも愛し姫だけに集中できなくなった。
 死を恐れぬ骨侍の猛攻を必死に耐える。

 最後の死霊侍を倒した頃には、愛し姫の姿は無かった。
「終わったか‥‥みんな無事か?」
「大丈夫だ。愛し姫には逃げられたようだな」
「数が多すぎた。王都がこうも乱れるとは情けないぜ。人手不足は分かるが、時が奪われてからでは遅すぎる」
「あー、おぬしの云うことはよくわからん」
 とにかく、総数十体近い死霊侍を倒した。いくら愛し姫でも打ち止めと思いたい。ひとまず依頼は達成したと見るべきだろう。

 カラットとサスケは形だけでもと、弔いを捧げておく。
 死霊侍を丁重に葬り、冒険者たちは京への帰路へと着くのであった。