陰陽寮からの依頼、出雲の変
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:13 G 87 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:03月11日〜03月25日
リプレイ公開日:2008年03月19日
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●オープニング
闇の中に響き渡る鼓動。深い、深い暗闇の底で、それは目覚めつつある。
数百年にわたる怨念が、暗闇の中でうごめいている。
それは今や抑えきれないところまで高まっており、怨念の余波は地上にも現れていた。
京都から西に約百里、山陰に出雲という国がある。
最近この地で異変が起きていた。とある河川がその支流に至るまで真っ赤に染まっているのだ。
なぜ川が赤くなるのか、その原因は分からない。
たまたま近場に派遣されていた陰陽寮の陰陽師岡部は、川の状況を調べてみた。
最初は夕闇に赤く光る川を誇大に言っているのか、死体でも流れているのかと思ったがそうではない。
岡部はまず周辺の村人たちから話を聞いて回る。川が赤く染まり始めたのはこのひと月ばかりのことだと言う。これまでにこのようなことは起こったことがないと古老たちも口を揃えて言う。
これが物の怪か怪異の類の仕業だとすれば冒険者ギルドに依頼を出すことになるだろう。一つの川をまるごと怪異で包むとは厄介な相手であるかもしれない。岡部は上流がどうなっているのかも調べるために山へと入った。
川の上流も赤い。朱色の滝が山あいの渓谷から流れ落ちている。
岡部は滝の様子を眺めながら周辺を捜索した。と、岡部は気配を察知してそちらに目をやった。一体の猪が歩いている。異様なまでに鈍重な動きの猪である。それは腐敗した猪、アンデッドであった。
「こんなところに不浄の魔物が‥‥」
岡部は巻物を取り出すと、猪のアンデッドを焼き払った。
赤く染まった川にアンデッド、何か異変が起きていることは間違いなさそうである。岡部はひとまず山を下りる。
翌日、シフール便で京の都に状況を知らせた岡部は、再び川の調査に向かった。
もう一度川の様子を調べる岡部。あるいは物の怪の類が潜んでいるのかもしれない。岡部は川辺に近寄っていった。
その様子を幾人かの村人たちははらはらしながら見つめていた。
川辺に立つ岡部。ふうと息を吐き出し、水面を見つめる。
その時である。岡部の足元の水面から手が現れ、岡部の足首をがっしりつかんだ。
「何だ!」
仰天する岡部だったが、手の力は凄まじかった。あっという間に川に引きずり込まれる岡部。
――うわああああ!
やがて、岡部は川の底に消えた。
一夜明けて、岡部の亡骸が岸に打ち上げられた。目立った外傷はなく、恐らく溺れて死んだのだろうと思われる。
京都、冒険者ギルド――
出雲で起こっている異変について、陰陽寮から冒険者ギルドに申し伝えてきた。
内容は「出雲に派遣していた陰陽師が急死したので後任の陰陽師を派遣する事になった、ついては道中の護衛を頼みたい」とのことである。
異変そのものの調査依頼でないのは、出雲は遠くて長期の冒険者派遣が難しいからだろうか。
今のところ冒険者には行く先での陰陽師の護衛が託されたのみである。さてこの依頼、どのような顛末を迎えるのか。
●リプレイ本文
事前に加速系アイテムのブーツと草履を移動手段のない者たちに渡しておくライル・フォレスト(ea9027)。
宿奈芳純(eb5475)とともにギルドの中で顔を付き合わせるライル。卓上の地図を見つめる。
道筋、難所や山賊等の危険箇所を確認しておく。今回は長旅である。道中予想外のことがあるかもしれない。サポートからも情報を貰っておく。
宿奈はダウジングペンジュラムを地図の垂らしてみる。
「岡部の死んだ原因」
と指定してみると、出雲の辺りでペンジュラムは揺れた。
次いで「異変の源」と指定してみると、ペンジュラムは止まったままだ。
「漠然としすぎましたか‥‥まあ、所詮は占いですが」
宿奈は興味深げに地図の上でかすかに揺れたペンジュラムを見つめる。
出雲は京よりも長州に近い。長州藩に対して出雲はどのような態度を取っているか、神木秋緒(ea9150)は事前に確認しておく。今のところ出雲は長州に対して目立った行動は取っていなかった。今日より近いと言っても隣接する訳では無い。よほどの事が無ければ目立つ動きは無いだろうし、また見える事もないだろう。
京都を出発した冒険者たち。いつもの冒険に比べれば道中は長い、時折雑談を交わしながら進み行く一行。
「赤い川、か‥‥。まあちょっと見てみたい気もするな」
とクリムゾン・コスタクルス(ea3075)。出雲に興味があるというよりは奇怪な出来事に興味が沸いたようだ。
むう、と王零幻(ea6154)は腕組みする。
「形を潜めていた黄泉人の再出現。京の周辺に現れる神。そして出雲での陰陽師岡部の怪死。さらに猪の死人というのは、どうにも繋がりを予感させる」
「三輪山の一件と言い、最近は神々に纏わる事件が多過ぎる。何かが、この国で起ころうとしている様に思えてならないわ」
神木は王の言葉に応じながら上空の雲を振り仰いだ。
「早く到着したいでござるが、お前に何かあっては元も子もない。急ぐ時こそ確実にでござる」
そう言って愛馬を労わるのは香山宗光(eb1599)。はやる気持を抑え、馬に無理させず進む。
王は同行している陰陽師から岡部の死について確認した。
「何でも川で溺れ死んだとか、例の川にやはり怪異の類がいるのでしょうか」
陰陽師は神妙な面持ちで答える。
先行していた天城烈閃(ea0629)とライルは異変に遭遇していた。
この辺りは盗賊が出ると言われていた。ライルは天城の肩を叩いてその方向を指差す。
天城が目をやると、山間でうごめく影が見える。
どうやら賊らしい。一応道返の石を発動させておく天城。二人は後方に下がる。
賊の話をしていたら、本当に賊が出た。十人くらいの山賊である。
不運は山賊達の方だ。
音に聞こえた凄腕の冒険者の実力、自ら知る事になる。賊たちは素手の冒険者たちにこてんぱんに叩きのめされた。
道中で出会ったのはこの賊くらいである。あとは平穏な道だった。
「川が赤くなるというのが何かの前触れだとして、他に起こっている異常が無いか注意しておきたいな。広い視点からこの異常の原因を探ってみるべきだと思う」
天城の言葉に従って、休憩に立ち寄った村などで、古い神の伝承について、また最近の周辺の魔物達の動向について訊ねる。聞けたのは郷土の神様の話など。月が欠けたとか死人の群れが現れたという話もあったが、そんな兆候は特になく、川の異変で人々の恐怖が話を作りだしているようだった。おしなべて、この辺りは京都ほどには魔物たちの動向は活発ではないようだ。
そんなこんなで出雲入りする冒険者たち。
現地と出雲大社が偶然近いということもあり、天城と神楽聖歌(ea5062)、神木はかの有名な神社を訪れることにする。
古い伝承の聞き込みと、文献に目を通して調べることが主な目的である。特に、各地の神々の出現を考慮して、古い時代の出雲における神魔の戦いに関する伝承を中心に調べたい天城。
神楽も文献の調査に当たってみる。
神木も何かの伝承が残されていないか、神社の文献を真剣な目で追う。三輪山の大物主神。国津神の主神とも言うべき大国主神が祀られている出雲。二箇所でほぼ同時期に事が起きたのが偶然とは思い難い。国津神達が活動を始めた様に思う。
問題は、何故今目覚め、何を目的としているのか。記紀の伝承では、大国主達国津神は天より下った天津神に国を譲り出雲に祀られたと言う。それは決して円満に行った訳では無い。猿田彦神や天火明命と言った天津神の動きに呼応したとしたら、嫌な予想ではあるがそれは或いは敵対的な動きなのかもしれない。
想像は色々出てくるが、実際文献にはこれと言った手がかりは見つからなかった。というより、漠然とした調べ方では問題が絞れないのである。文献に最初から答えがあるなら冒険者が出てくる必要もない。必要なのは飛躍と実証。十のうち九が外れても、他に答えに至る道はない。答えとは結果であり、最初から正解が用意されている訳では無い。
「仮に、出雲で起きているのが国津神の目覚めで、彼らの目的が天津神への攻撃だとすれば」
目覚めるのは誰で、誰をどのように攻める。
「‥‥大国主? だけどどうすれば大国主に近づけるのかしら」
神主にも話を聞いてみるが、聞けたのは記紀神話に纏わる専門的な話くらいである。
時間の制約もあって、一通り調べものをした彼らは現地へと向かう。
現地入りした一行は川の前にいた。
「うわぁ‥‥どうやったらここまで真っ赤になるんだよ」
クリムゾンは圧倒された様子で赤く染まった川の端から端を眺めている。
「こんな怪異は聞いたこともないな。考えられることとしては、精霊か、あるいは可能性は低いがデビルが引き起こした超常現象とか、その辺りか」
クリムゾンは赤い川から少し離れたところを歩いていた。川に怪異の類が潜んでいるのかもしれない、用心するにしくはない。
香山は万が一に備え道坂の石を使用しながら調査する。
「川がこれほど赤いとは‥‥まさか!」
赤い川について、玉鋼製造の元になる技術が頭を掠める。しかしこれ程の規模では何の為のものなのか見当もつかない。
「砂鉄を取り出す技術に『かんなながし』というのが在る。花崗岩を細かく砕き、山の上から篩い(ふるい)にかけ砂と砂鉄以外の物を水で流すと赤い水が出る。得られる砂鉄に比べ砂が大量排出され、様々な害が出る為今は使われない技術と聞いているでござるが‥‥」
一体誰が何のためにこのような業をなしたのか、香山には見当もつかなかった。
現地に埋葬されたと言う岡部の亡骸。王はそこへ向かった。
村人に案内されてやって来たその場所には簡単な墓標が立っている。
王は供養の念仏を唱える。
「岡部殿、死して手伝わせること、ご容赦頂きたい」
そう言ってから、デッドコマンド専門を墓に向かって唱える。残留思念が答えたのは、「水」と「女」という二つの単語。
「女、水かあ‥‥」
王から情報を得たクリムゾン。
「女の姿をした精霊かな。噂には聞いたことがある。川に住む精霊の話を」
川周辺の不審な足跡や痕跡を調べていたライル。
肝心の陰陽師が無防備に川に近付こうとするのでそれを止める。
「まずは安全確認だぜ」
ライルは惑いのしゃれこうべを取り出しその頭を叩く。しゃれこうべはアンデッドが近くに潜んでいれば歯を鳴らすのだ。しかししゃれこうべには何事も起こらない。それでも適時しゃれこうべを使いつつ川を調査するライル。ペットの犬にも念のため匂いや気配で警戒させておく。
水際、水面に気配や影がないかをまず確認する。
と、その時だ。陰陽師が悲鳴を上げて倒れた。見れば、水中に引きずり込まれそうになっている。
「やばい、おーいみんな! 手を貸してくれ!」
ライルの声を聞きつけて冒険者たちが駆けつけた。
一同素早く陰陽師の手を取ると、ぐいっと引き上げる。力の強い者たちでどうにかこうにか陰陽師を引き上げる。
「水辺に近付く時はロープが必要ですな」
王はそう言って命綱を取り出す。
「岡部様は恐らく溺れて死んだ‥‥。引きずり込まれた可能性も捨て切れませんね。そういった魔物の可能性もありますので水辺では注意が必要ですね」
神楽は陰陽師に注意を促した。
調査は続く。
宿奈はリヴィールエネミーを使って川や周辺に何か敵意反応を示すものがないかを探査する。
「先ほど陰陽師殿を襲ったのが謎の怪異でしょうか」
隣に立つライルは「さてどうかな」と首をかしげる。
と、宿奈の視界を青白いものが横切っていく。川の中である。どうやらこちらに敵意を持つ者が川に潜んでいるらしい。 テレパシーの高速詠唱でライルやクリムゾンに敵の存在を知らせる。
「どうやら川の中に一体、こちらに敵意を持つ者がいるようです」
宿奈が怪異を発見したとの話を聞きつけて、冒険者たちは集まってきた。
宿奈は引き続きインフラビジョンのスクロール+テレスコープで広範囲の熱源探査を行っている。しかしインフラビジョンでは水中に潜む何者かを捕らえることは出来ない。宿奈はリヴィールエネミーとテレスコープの併用に切り替えて、川を探査する。
「こちらに向かってきます!」
宿奈が警戒の声を上げる。
それは水面から飛び上がった。人だ。人の姿をしている。それはそのまま水面の上に着地した。
それは美しい女性の姿をしている。水の中にいたというのに着物も髪も全く濡れている気配がない。
噂の怪異か、川の精であろう。一同武器を構える。
「待て、死んだ陰陽師も気にしていたようだが、川の水を丸ごと変化させるなど、誰かが意図的に行うとしても並の魔力で出来るようなことではない。何か大物が関わっているのは間違いないと思うが‥‥しかし、この精霊がその大物とは思えない」
天城の言葉ももっともである。
「去れ! 間もなくこの地は滅びる! 暗闇がこの地より現れてお前たちを食らい尽くすぞ!」
川の精はそう言うと滑るように突進してくる。
――ぉぉぉぉああああ!
川の精の咆哮に何人かが動けなくなった。
「ちいっ! 魔力の咆哮か!」
ライルはシュライク+ポイントアタックで応戦する。
神木は突進してくる川の精に七支刀を叩き込んだ。
オーラパワーを付与した刀を振るう香山。
冒険者の反撃を受けて、川の精は逃走した。
「やったのか?」
「いや、浅かった」
その後、川の近くで死人の調査を行う冒険者たち。数体の死人憑きと遭遇したが、大量発生した形跡はなく、特別視するほどには至らない。
ライルは調査結果を今後の為に全てスクロールに書き留める。
「うーん。俺達は護衛で来たんだし、そろそろ京に戻らないとなぁ」
後ろ髪を引かれる思いがしたが、陰陽師を無事送り届けて冒険者達は帰路を急ぐ。
長旅を終えて京に帰還した一行。
香山は一同の武具を無料で整備する。この瞬間が至福の一時。
「あのような怪異が相手では整備は欠かせぬでござる。遠慮はいらぬでござるよ。今回も良い仕事でござった」