闇の深まり、蘇えりしもの

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月06日〜04月11日

リプレイ公開日:2008年04月16日

●オープニング

 深い洞窟の底、暗闇の中にそれはあった。一体の石像である。
 石像はすでに数世紀の間そこに鎮座していた。
 音もない暗闇の底、人知れず、石像は歳月を越していたのだ。風化することもなく。
 と、その時である。遠くの方から明かりが近付いてくる。
 何人かの人が、松明を片手にやってくる。
 やがて、その一団は石像の前までやって来た。
「ここだ」
 一団のリーダーと思しき男が松明の明かりで石像を照らし出した。
 古代王朝の神官のような姿をしたその石像は、直立不動の姿勢でたたずんでいた。
「王は復活の時を待っておられた。今こそその時がやって来たのだ。者ども心せよ。我らが王の復活の時ぞ」
 男は部下たちに合図する。
 部下の一人が魔法を唱える。
 するとどうだ、石像の石化がみるみる解けていくではないか。石像は人間が石化したものだったのだ。

 復活した石像の人物は、悠然と周囲を見渡す。
「王よ」
 男はひざまずいた。
「一度は滅びた我が肉体、歳月を経て再び蘇えったか」
 蘇えった石像の人物はそう言うと、満足そうに一同を見渡した。
「お前たちは我が僕か。私が何者か知っていような」
「無論でございます王よ。私は王の忠臣、長髄彦でございます」
「長髄彦? 私が見知っている姿ではないな」
「すでに私の肉体は滅びました。これは仮の肉体にございます」
「そうか。して長髄彦、私を呼び覚ましたからには準備は整っているのだろうな」
「残念ながら、邪魔が入りました」
「何、どういうことだ」
「天津神の戦士に匹敵する者たちが今の世に」
「何と言うことだ。奴らはまだ生きておるのか」
「末裔でしょうか、古代の魔法を操る者もおり、その力は侮れません」
「こしゃくな。魔法の力を身につけたか。だが所詮は人間、我等の力を越えることは叶わぬわ。で、天津神の動きはどうなっている」
「人の世から隠れているようです。主だった天津神の姿が見えませぬ。天照、天火明命の名を耳にしましたが出てくる様子もなく、天津神と人の関係は崩れております。ともすれば我等の側につく者もおりましょう」
「それは重畳極まりないことだ。障害が無いに越したことはないからな」
「それでは八十神の王たちに号令下さい。ひとたび王の号令が下れば、八十神の王たちは進軍を開始するでしょう。‥‥無き今、進軍を邪魔するものはどこにもおりませぬ。民は王たちにひれ伏すことでしょう」
「よろしい、王たちはどこにいる」
「あなた様の目の前に控えております」
 すると、次々と立派な甲冑をまとった亡霊の王が現れた。
 蘇えった人物は亡霊たちを見渡すと呼びかけた。
「王たちよ! さぞや無念であろう! だがその時は近付いている! 再びこの国を我らの手に入れる日が近付いている! 彼奴ら無き今その日は近い! 者ども! 進軍を開始せよ! 民を平定し、天津神の戦士達からこの国を取り戻そうぞ!」

 ――おお! 進軍の時が来た!

 亡霊の王たちはときの声を上げると、進軍を開始したのである。



 京都近郊――
 一見平穏な日々が続いていた。農民たちは噂では怪異や物の怪の類を耳にしていたが、彼らにとってそれらは非日常の出来事で遭遇するものである。
「やあ、もうすっかり春時だな」
 農作業の手を止めて、青年は川の方に目を向けた。桜並木は八分咲き以上になっていて、美しい景色を彩っていた。
 いつもの景色、風景、何事かが起こる気配は無かった。
 そんな時である。
 悲鳴が上がった。
「何だ?」
 青年は声の方向に目を向けた。
 何やら騒ぎが起きているらしい。人々が大声で騒いでいる。
 青年は人々が集まっている方に走っていった。
 そして、青年は信じ難いものを目にする。
 近付いてくる集団がある。亡霊だ。亡霊の軍隊である。それも半端な数ではない。百? 二百? いや、もっといる。数え切れない亡霊の軍隊が近付いてくる。
 村人たちは圧倒されて、その場に立ち尽くしていた。
 接近してくる亡霊軍隊。やがて、それは村人たちの前までやって来た。
 唖然とする村人たちに、立派な甲冑をまとった亡霊の王が口を開いた。
「民よ聞け! 王は復活された! 天下泰平の世は王のもとに統一されるであろう! 天津神はお前たちを見放した! これからは復活された王とその忠臣がお前たちを統治する!」
 村人たちは呆気に取られていたが、亡霊の王の威厳にははーっとひれ伏した。
「者ども心せよ! 天津神と名乗る者たちはお前たちの力にはならぬ! 奴らは人の世を疎んじ、すでにお前たちを見放した! これからは我ら国津神がお前たちを守ることになるであろう!」
 国津神‥‥。村人たちの間にざわめきが走る。
「あ、あのう、あなた様のお名前は何とおっしゃるのですか」
「我らは八十神の王たちだ! 王に仕える王、そして国津神である!」
 ははーっ! 村人たちは再びひれ伏した。



 京都近郊の山中、天津神の天火明命は下界の様子を見守っていた。
 天火明命は炎をまとった天津神である。その傍らには焔法天狗が控えている。
「焔法天狗よ、下界の様子をつぶさに見てくるのだ。ひとまず今後の状況をつかんでおきたい。今のところ手を出す必要はないぞ」
「かしこまりました、天火明命様」
 焔法天狗は立ち上がると、山を下りていった。



 京都、冒険者ギルド。
 国津神が近郊の民を平定しながら進軍を行っていると言う噂は徐々に広まり、それを調べよとの依頼が回ってくる頃には、最近の情勢を鑑みて冒険者たちの間で様々な憶測を呼んでいた。
 復活したのは八十神の王たちであると言う。巨大な亡霊軍隊を率いて進軍する彼らの目的は判然としないが、破滅的被害には至らず、彼らは周辺の村々に現れては意味深な言葉を投げかけて人々に従うよう迫っていた。
 亡霊の言葉がどこまで真実なのかは不明だ。しかし、その言葉には謎がつきまとう。天津神はすでに人を見捨て、これからは国津神が民の守り手になるという。
 天津神と云えば神皇家の祖先とされる天の神様である。亡者達の言葉がまことなら遥か昔に神皇家に敗れた者達が復活し、復讐しようとしているのか。
 この事態に天津神達はどう対処するのだろう。それは今だ見えてこない。人を見限ったかはともかくとして、天津神達の姿を見た者は殆ど居ないのだ。
 ともあれ今の状況を見る限り、どうやら国津神が天津神に先んじて行動を起こしつつあるようだ。
 憶測や推測が飛び交う中、復活した国津神を巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea0042 デュラン・ハイアット(33歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9090 ブレイズ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

「天津神だの国津神だのと、この国はどうしてなかなか面白いものだな」
 デュラン・ハイアット(ea0042)の言葉に腕組みするルーラス・エルミナス(ea0282)。
「黄泉人達と言い、古き神々の復活。何が起きているのだろうか‥‥」
 ふん、と鼻を鳴らすのはバーク・ダンロック(ea7871)。
「不浄なアンデッドが神を名乗るなんざ、世も末だな。セーラ・タロン・阿修羅の3神への冒涜だぜ。とは言え、俺達だけで倒すのはさすがに無理だ。死んで亡者の仲間入りなんかしたらパラディンの名折れだし、今回は偵察にとどめるか‥‥。なあどうだ」
 バークの言葉に一同頷く。
 それにしても、と口を開くのはブレイズ・アドミラル(eb9090)。
「京に来るのは久しぶりだが、ずいぶん大変な状況だ。古き者、力有る者が復活し、その威を振るうか。そんな事にならない様に、亡霊たちの真意を見極めたいものだ」
「兄上、長州の一件の後、京近郊に潜む怪異の動きの目覚しき事、類を見ません。この地に何かが起きつつあるとしか思えません」
 グレン・アドミラル(eb9112)は侍、兄のファイター・ブレイズの注意を喚起する。
「では、行くか」
 ハイアットの言葉を受けて一同京の都を出発する。そしてそれぞれの方向へ散っていく。



 近郊の村に到着したハイアット。
「どうも、村々を支配下においている様だが、別に統治をして軍隊を置いているわけではあるまい」
 その予想通り、村はいつもと変わらぬ風景を保っていた。
 と、村の子供たちがやってきて、興味深そうに派手な衣装のハイアットを見上げた。
「子供たちよ、私は冒険者のハイアット。村長はどこにいるか教えてもらおう」
 子供たちがびくびくしていると、村の中から娘が一人現れた。一体どうしたのかと尋ねる娘。
「安心せい娘よ、私は京から依頼を受けてやって来た冒険者だ。例の亡霊軍隊の件で調査中でな。村長から話を聞かせてもらおうか」
「あ‥‥冒険者の方でしたか」
 ハイアットの頼みを快諾した娘は、子供たちを伴って、ハイアットを村長の家まで案内した。

「あれは‥‥尋常なものではありませんでした。国津神と呼ばれるものを見たのは初めてでしてな。驚きました。あの神様は一体どこからやって来たのでしょうな」
 村長の言葉に首を振るハイアット。
「まだ神と決まったわけではない」
「そうでしょうか‥‥」
「奴らは、何か言っていたか」
「そうですなあ、印象深いのは、天の神様はすでに人を見放した、と」
「それは聞いている。他にないか。例えば、亡霊たちの出所について何か関係のありそうなこととか」
「分かりません。ただ、こうも申しておりましたぞ、天の神は必ず集結してくる、今は隠れているだけだ、民よ、ゆめゆめ天の神の甘言に惑わされるな、と」
「ふん、いかにも天津神は悪だと吹聴して回っているわけか。どういうつもりだ。まあいい。村長、世話ついでに一晩の宿を借りたいのだが」
「おお、結構ですぞ。お部屋を用意しましょう」
 ハイアットは村に一夜の宿を借りた。

 それから亡霊軍隊の足取りを逆算していくハイアット。その足取りから、相手の本拠地を突き止めようというのだ。そうして、ハイアットは京都近郊の山に辿りついた。ハイアットはテレスコープの巻物を使ったりリトルフライで偵察してみる。離れたところからはよく分からない。と、ハイアットの視界に、亡霊軍隊が映ったのは、依頼最終日だった。
「何だ、帰ってきたのか?」



 付近の村々を訪れ、亡霊軍隊の規模を調べるルーラス、ブレイズ、グレン。その数はとてつもない数だったと言うが。
 ブレイズは亡霊軍隊が現れた方向の足跡や、森の様子等を徹底的に調査する。歩兵と騎兵で構成されていたと言う亡霊軍隊。まるで本物の軍隊のように騒々しい音を立てながら進軍していたという。
 グレンもまた村々を訪れる。八十神の王達はどの様な姿で、どれ程の軍勢だったか尋ねてみる。亡霊軍隊はみな骸骨が鎧をまとったような姿をしており、アンデッドであろうと思われた。その規模は村人たちには図りかねた。

 村での調査が済んでから、ルーラスはペットのグリフォン、エアグライドに跨り、上空から亡霊軍隊を追う。ブレイズとグレンもその足取りを追う。
 やがて亡霊軍隊の上空に到達したルーラス。
「何と言うことだ‥‥」
 ルーラスは絶句した。大地を埋め尽くす大軍団である。どれほどの規模か分からない。百や二百ではないというのは本当だった。千は越えるだろう。
 グリフォンが怯えている。距離を保って着陸したルーラス。ブレイズとグレンも合流する。
「とてつもない数だ。一国の軍隊に匹敵するぞ」
 と、その時である。一体の亡霊が彼らの背後に現れた。
「何者だ」
 亡霊は言った。
 三人は驚いて振り返った。立派な甲冑をまとった亡霊が宙に浮いている。
「私はこの世界で主君に仕える騎士です。あなたは、何と申されますか?」
 ルーラスの問いに、
「余は八十神の王の一人だ。こそこそと我らの周りをかぎ回っている者がいるようだな」
 三人ははやる気持ちを押さえつつ亡霊との会話を試みる。
「王よ、私はあなたに問いたい。天津神はすでに人を見捨て、これからは国津神が民の守り手になると言われたが、それは真実なのか。これから後、王たちはどの様に民の守り手になるのか、どの様な国を思い描いているのですか」
「この世で主君を持つ者よ、それは真実だ。これからは我らが民の守り手となろう。国津神と呼ばれる我らこそ、民を守る力を持つものだ。天津神どもに民を守る力はない。我々はお前たちの世界を変えることなく共存できる。天津神どもには出来ぬことだ」
「王よ、長い歴史によって、国津神、天津神の事の真意は失伝され、今は天津神を崇める寺社のみに言い伝えが残るのみ。、国津神の真意はどこあるのかお尋ねしたい。又、黄泉人を名乗る者達とはどのような関係にあるのでしょうか」
「黄泉人! あの亡者どもには祟られたわ! 敵に加担し、我らが王を弑逆した」
「王とは?」
「王の中の王よ。我らを導いて下さるお方だ」
 そこでブレイズ・アドミラルが口を開いた。
「王よ、それでは別の件について問いたい。あなた方王達の目的と、国津神、天津神について、当事者としての意見を聞いてみたい」
「かつて、この国は我々のものであった。我らはこの国を支配する王であった。それが、天津神などという得体の知れぬ者どもに奪われた。民は我らに背き‥‥いずれにしても、我々は再びこの地を取り戻すつもりだ」
「日ノ本の主君に仕える侍、グレン・アドミラルと申します、王よ、国津神、天津神の戦いの歴史とはいかなるものだったのでしょうか」
「それは想像を絶する長く苦しい戦いであったという。余は戦乱の最後に王に仕え、天津神の戦士の一撃を受けた。今でもその傷は残っている」
 亡霊はそう言うと、胸の辺りを押さえた。そうして、亡霊は空中に溶けるように消えてしまった。

 動きだす亡霊軍隊。どこかへ向かって進み始める。
「よお、何か分かったか」
 バークが三人のもとへ近づいて来る。どうやら遠目に三人の様子を伺っていたらしい。
 三人は亡霊から聞けた話をバークに聞かせた。
「ふーん、まあ、神と言ってもアンデッドだぜ。何を考えているのやら。おい、またどこかへ向かって動き出したようだな。後をつけるか」
 そう言って四人は亡霊軍隊の後をつける。



 依頼最終日、バーク、ルーラス、ブレイズ、グレンの四人は、京都近郊の山へ辿り着く。
 そこで彼らはハイアットと合流を果たした。偶然ハイアットも足取りを追ってここへ来たのだ。
「お主らも一緒か、何か手がかりはつかめたのか」
 これまでの成果を報告する一同。むうとうなるハイアット。
「どうやら亡霊軍隊はこの山から出てきたらしいぞ」
「よし、どこへ消えるのか、探ってみるとするか」
 バークの言葉にルーラスとブレイズ、グレンが同行することにした。

 先頭に立って進むバーク。
 亡霊軍隊はどんどん進んでいく。そして――。

 彼らは山中の開けた場所に出た。
 物陰から様子を伺う。亡霊の兵士たちはどこかへ消えたようである。そこにいるのは二人の人物であった。一人は侍、もう一人は‥‥御伽噺の中から抜け出してきたような姿をしている。古代の神官のような服装をした人物である。
「長髄彦、余はこの足で北の半島に向かう」
 神官らしき人物が言った。
「王よ、では、さらに王たちを復活させるのですか」
 侍――長髄彦が問うと、王と呼ばれた人物は、
「さしあたり、余は北の半島に居を構えるつもりだ」
 バークたちは話を聞いていたが、彼らが何について話しているのかさっぱりだった。
 と、その時である。バークらの背後に一体の亡霊が回りこんだ。
「曲者だ! 曲者がいる!」
 すると次々と森の中から亡霊が現れた。
 バークたちは押し出された。謎の人物と対面する四人。
「何者だ」
 王と呼ばれた人物が問う。
「こっちが聞きたいね、とは言え、ここは逃げるが勝ちだ!」
 バークはオーラアルファーで亡霊たちを吹っ飛ばした。
「逃げろ!」
 バークの言葉で逃げだすルーラス、ブレイズ、グレン。
「天津神の戦士だ!」
 長髄彦の言葉を聞いて、王と呼ばれた人物は腕を一振りした。

 ――巻き起これ炎の嵐よ!

 激しい炎の爆発が四人を襲った。吹っ飛ぶバークたち。
「行け行け!」
 バークは仲間を先に行かせ、ソルフの実でMPを回復しながら追ってくる亡霊をオーラアルファーで吹っ飛ばして逃げ出した。



 脱出した四人、ハイアットと合流を果たす。
 事情を聞いて首を傾げるハイアット。
「一体何者だそ奴は? 国津神の頭領か? 八十神の王以外にも王がいるのか?」
「とにかくやばかった。強力な魔法使いだ」
 バークの言葉に他の面々も頷く。
 さて、今回の調査はここまでである。結果は後日ギルドへの報告となるだろう。