丹後巡察、夜明け

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月10日〜04月15日

リプレイ公開日:2008年04月19日

●オープニング

 丹後、かつて一人の術士がこの地に現れた。その術士の手によって、丹後は壊滅的な被害を被ったのである。術士が太古の結界を破壊したことで亡者が蘇えり、丹後は崩壊した。それから一年半が過ぎていた‥‥。

 人々の歌声は消え、かつて聞こえた笑声もいつのことであったか。
 残された者たちは肩を寄せ合いひっそりと息を潜めていた。
 亡者の群れが大地を支配し、妖怪や物の怪が跋扈している。

 丹後、現在この地は文字通り魔界と化している。
 人は片隅に追いやられ、勢力を増した死人や妖怪からかろうじて身を守り、生き残っている。



 人が利用できる土地は限られている。僅かに残された土地で、人々は生活の糧を得なければならなかった。
 その残された人々を、さらに死人の群れが襲う。
「死人だー! 死人の群れが来たー!」
 村に響く警戒の声。
 村を覆う防護柵の向こうから迫り来る気配。アンデッドの群れである。死人憑きや怪骨の集団が防護柵に接近してくる。生者の気配を察知して、アンデッドは人々に襲い来るのだ。
 村人たちは押し寄せるアンデッドに対して防護柵を築いていた。主だった対抗策と言えばそれくらいである。
 アンデッドの大軍が防護柵に激突する。ゆらゆらと揺れる防護柵。これが突破されれば最後である。
 そして――
 遂に防護柵が突破される。村に次々とアンデッドがなだれ込んでくる。
 悲鳴と怒号が交錯する。あとは修羅場。我先に逃げ出す人々。
 しかし全員無事に助かったわけではない。足の遅い者は置き去りにされ、アンデッドの餌食となった。
 こんなことが毎日のように続いている。いつもどこかで、アンデッドの餌食となる人々が後を絶たない。



 人々の脅威となるのはアンデッドだけではない。有力な大名がいないこと良いことに、山賊や盗賊の集団が荒らし回り、平穏な暮らしを望む人々を脅かしていた。
 盗賊王国、今の丹後をそう呼ぶ者もいた。中でも大きな勢力を持つのが白虎団と呼ばれる盗賊団である。実質的に丹後を支配している最大の勢力である。
 白虎団の頭領は破戒僧の永川龍斎と呼ばれる人物である。大名になり代わって丹後の天下を欲しいままにしている。
 死人に対抗できる武力を持っているのがこの盗賊たちであるのだが、盗賊たちが人々の救世主となるはずもなく、何とかアンデッドの手を逃れて暮らしている人々を襲っては更なる被害を出していた。

 崩壊した丹後では、前藩主が滅亡した後、有力氏族が争い合って一時しのぎを削った。しかしアンデッドの脅威や盗賊たちの横行によりそれどころではなくなった。


 こうした、崩壊した丹後を憂う声が無いわけでもなかった。しかし、京都を取り巻く環境も忙しく、丹後の件はこれまで後回しにされてきた。
 中央でたらい回しにされた挙句、ようやく回ってきたのが冒険者ギルドへの依頼であった。
 かつて丹後では冒険者たちが死闘を繰り広げたのである。その頃とは状況も一変している。
 丹後は崩壊の時を経て、魑魅魍魎が跋扈する魔界と化した。盗賊たちが支配する悪の巣窟となった。
 この状況を打開するには大きな力が必要となろう。もはや見捨てられた土地、丹後。そこで新たな冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3785 ゴールド・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea8755 クリスティーナ・ロドリゲス(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb1599 香山 宗光(50歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb3501 ケント・ローレル(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3601 チサト・ミョウオウイン(21歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

サントス・ティラナ(eb0764)/ 橘 一刀(eb1065)/ 和泉 みなも(eb3834

●リプレイ本文

 出発前にギルドで丹後の状況を聞いておく香山宗光(eb1599)。
 丹後は魑魅魍魎が跋扈する魔界と化した、そう言われた。
「丹後はその様な状態でござるか。その仔細を自分の目で確かめ、報告すれば良いのでござるな」
 香山は峰山方面へ向かうつもりである。
「丹後か。京都からそれほど遠い土地ではない。それが、盗賊王国とは‥‥。早急に対処を考えねばな」
 香山の傍らで言ったのは天城烈閃(ea0629)。天城もまた峰山へと向かうつもりであった。
 方向が同じ二人はともに京都を立つ。

「丹後の調査でいいんだよな? 何だか範囲が曖昧でどこから手ぇつけていいのか分らねぇが、適当に調べてくるかな‥‥ところでこの依頼の依頼人ってどこになるんだ? 場合によっては人から話を聞く時に名前を使えると思うんだがな?」
 ゴールド・ストーム(ea3785)の問いにギルドの手代は依頼を出したのは中央の役人であると答えた。
 それからサポートに丹後の大まかな地図を書いてもらう。サポートには荷物の整理も頼んでおいた。
 ゴールドは舞鶴方面に向かうことにする。
 クリスティーナ・ロドリゲス(ea8755)もひとまず舞鶴へ向かうことにする。クリスティーナはかつて丹後の依頼で訪れた漁村も訪問するつもりであった。

「丹後って京の喉元だと思うんですけど、随分と放って置かれたものですね〜」
 カンタータ・ドレッドノート(ea9455)の言葉に頷くベアータ・レジーネス(eb1422)。
 二人は沿岸地域から宮津方面へと向かうつもりであった。

「あいつら元気にしてっかなあ」
 ケント・ローレル(eb3501)はチサト・ミョウオウイン(eb3601)に問いかける。
「丹後はどう変わってしまったのでしょうか‥‥私が知る丹後はもう無いのでしょうか」
「何だか物騒なことになっちまったようだな。なるだけ巻き込まれねえようにしねえとな!」
 かつて丹後の依頼に関わった二人。果たして懐かしき顔に会えるのだろうか。



 ――峰山。
 なるべく人目に付かないように歩いていた天城と香山。
 付近の村々は防護柵で防備を固めており、その周りは人の気配も無く荒れ果てていた。時折人々の亡骸を目にする。内紛が続いているのだろうか。
 森の中で野営していると、遠くの方から騒がしい声が聞こえてくる。
 天城は声のする方角の様子をうかがった。行き過ぎるのは盗賊たちであろう。武装した一団が通り過ぎていく。
「この国は俺たちとっては天国よ! 魔界と化した丹後、京の都も恐れをなしてこの国には入ってこないからな!」
「侍衆なんぞ恐れるに足らん! 丹後の天下は俺たちのものだ!」
 天城は盗賊たちを見送った。
「何と言う事でござろうな‥‥」
 その傍らには香山がいた。
「信じられぬ‥‥あのような盗賊たちが天下を欲しいままにしているとは‥‥この国の侍たちは一体どうしてしまったのでござるか」
「それを確かめるためにも、峰山の有力氏族とやらに一度会っておく必要があるだろう」
 むうとうなる香山。

 その後も横行する盗賊たちをやり過ごす二人。アンデッドの一団もやり過ごした。噂通り丹後は崩壊していた。

 峰山城付近に近付いたところで、二人は戦いを目の当たりにする。
 武士団とアンデッドの一団が戦闘状態にあったのだ。
 初めて見るこの国の侍である。
 天城と香山は互いに頷くと、侍たちに加勢して突撃した。
 二人の加勢もあって死人憑きの一団を撃退した侍たち。
「加勢助かった。お主たちは何者だ」
「京都の冒険者ギルドの依頼を受けてこの地に来たものだ。峰山の有力氏族を訪ねてきた」
 京都と聞いて侍たちはどよめいた。

 二人は峰山藩主、中川克明のもとへ通された。中川克明は強面の壮年の偉丈夫であった。
「京都からの使者と聞いたが」
「丹後の惨状は都にも聞こえている。差し出がましいこととは思うが、率直に申し上げる。このまま魑魅魍魎や白虎団の行動を放っておけば、この一帯とて、そう長くは持ちますまい。早急に何らかの策を講じるべきと考えるが?」
「策など無い。この地はもはや見捨てられた土地。人の希望は消えた」
「京の冒険者ギルドを頼られよ」
 香山が言った。
 天城がその後を紡ぐ。
「全てを一度に変えることは難しくとも、今この時に出来ることはあるはずだ。その道が見えたなら、声をかけるといい。冒険者は、その救いを求める声に応える」
「救い、か‥‥その言葉、覚えておこう」
 会見はそれで終了だった。



 ――舞鶴。

 死人の大軍が大地を動き回っていた。村々は完全防備の体制だったが、中には壊滅した村の跡も見られた。

 それらをやり過ごし、ゴールドは舞鶴城下に入った。舞鶴城の周辺は何とか持ちこたえているようであった。
 町の人々から話を聞くゴールド。現在の舞鶴藩主は相川宏尚という人物である。宏尚の噂はすこぶる良くなかった。最低限アンデッドの勢力から舞鶴を守ることでは一応の役割を果たしているものの、最近は盗賊と結んでいると噂されていた。というのも、盗賊団と思しき者たちがたびたび舞鶴城に入っていくところを目撃されているのである。侍たちは口をつぐんでいたが、人々は滅多に人前に姿を見せない宏尚に不審の目を向けていた。



 ――漁村。
 新巻鮭を頬張りながら、クリスティーナはかつて訪れた漁村に目を向けていた。
 漁村は健在だったが、何やら様子が違う。盗賊と思しき者たちが漁村を歩き回り、人々を支配している様子だった。
「噂の盗賊か‥‥白虎団かな」
 と、そこでクリスティーナは気配を察知した。振り返ると、死人憑きが一体、こちらに向かってゆらゆらと近付いてくる。
 クリスティーナは弓に矢をつがえると、次々と矢を放った。矢を全身に受けて、死人憑きは沈んだ。
 丹後全域を歩いてきたクリスティーナ。アンデッドを見るのはこれが初めてではなかった。
 今のところ丹後には一縷の希望も見出せなかった。盗賊が横行し、アンデッドが人々を脅かしている。



 ――丹後半島、沿岸部。
 盗賊たちは海を押さえているのではないかというカンタータの読みは当たっていた。沿岸部には盗賊たちの町が点在し、伊根には噂の白虎団の本拠地があった。町と言っても盗賊たちにまともな統治など出来るはずも無く、荒れ放題であった。

 盗賊たちの町を後にした二人は宮津へと向かう。その途中で、見捨てられた村に立ち寄った二人。ベアータは夢の続きで村人達の心身を治療し、富士の名水でMPを回復しながらクリエイトウォーターのスクロールで可能な限りの飲み水を作り出した。村人たちはベアータの手厚い看護に礼を言った。

 宮津は半壊していた。城は機能しておらず、城下町は分厚い壁で仕切られていた。宮津の半分はすでに死人の領域と化していたのだ。城下町に人は住んでいるが、半分は死人に占領されていた。

 ベアータは単身宮津城に忍び込んだ。空中からグリフォンに乗って城の敷地内へと下りる(城と言っても天守閣があるわけではなく館作りの城郭である)。
 ブレスセンサーに反応は無かったがバイブレーションセンサーには反応があった。死人か。
 エックスレイビジョンとリヴィールマジックを使って城内の様子を探りながら進む。
 城の奥に進んだベアータ。そこで前方からやってくる死食鬼の群れと遭遇する。突撃してくる死食鬼たち。ベアータはストームで死食鬼の群れを押し戻すと、城を出て飛び去った。

 宮津の城下町の一角に、宮津周辺を治める立花鉄州斎という人物がいた。鉄州斎はまだ若く、美貌の青年であった。
 カンタータとベアータは丹後の窮状に何か協力できることがないか聞いてみた。
「正直言ってお手上げだ。一体どうしたら丹後の窮状を救うことが出来るのか、舞鶴藩も峰山藩もアンデッドには手を焼いている。盗賊も然り。何か良い方法はないか」
 カンタータとベアータは鉄州斎の言葉に思案を巡らせる。出来ることは限られている。何から始めたものだろう。



 ――金剛童子山。
 ケントとチサトはやってきた、この地に再び。
「天樹さん‥‥ガラシャお姉ちゃん‥‥どこですか?」
 しばらく山の中を彷徨っていた二人。そして――。
 ケントは彼らの姿を見出した。鬼と美女、金剛童子とガラシャである。
「テンジュッー! ガラシャッー! 俺様の事ァ忘れてねェかァー!」
 丹後一の美女と抱擁を交わすケント。それから金剛童子の天樹と握手を交わす。
「へへっ、俺様ァ結婚する事になったンだ!(左薬指を光らせる)江戸に行く前にツラ出ししようと思ってよー! 祭りン時ガラシャが来てくれるとはなァ! てめェにしちゃァイキなんぢゃねェ?」
 テンジュの胸を小突くケント。
「グオオオ」
 天樹の言葉をガラシャが通訳する。
「お前が喜ぶのは分かっていた、そうです」
「ははっ、言ってくれるね!」
 ケントが笑みをこぼすと、天樹は「グハハハ!」と笑った。

 再開を祝した彼らであったが、現在の丹後については天樹もガラシャも把握していなかった。

 続いて皇大神社へ向かう二人。
 神社の神主に新巻鮭を寄付するケント。
 皇大神社は無事だった。

 それから近くの村にも寄ってみる。
「一体どうなっちまったんだ?」
 尋ねるケント。
 チサトは村人たちから話を聞いて、聞き取りのお礼に残りの保存食を分けていた。
「あれから亡者があふれ出し、亡者たちは疫病のように丹後に蔓延しました。今では手がつけられない有様に。有力氏族は争いを続け、治安は悪化し、盗賊たちがはびこるようになり、死人たちは勢力を拡大し、今となっては丹後を救う道はもう‥‥」
 村人たちは言葉を失った。

 それから宮津で休息し、薄墨桜のもとへ向かう。
 桜は元気に育っていた。この戦乱を生きながらえ、成長していたのである。地霊たちは新しい命が育っていることをささやかに喜んでいたのであった。