【天下布武の嵐】乱世の刀匠

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 22 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月13日〜04月27日

リプレイ公開日:2008年04月19日

●オープニング

 畿内の諸侯たちの動きが慌しさを増しているという。
 尾張平織氏が上洛の構えを見せていることが原因である。
 かつて平織虎長が守護職を務めていた京都ではその上洛を歓迎する声が高い。
 だが一方で、諸侯たちは平織氏の天下布武に警戒感も強めているようだ。無理もないことである。
 平織氏は平氏の頭領であり、その勢力は紛れもなく畿内最大。それが軍事力を背景に行動を押し進める事になれば、味方はともかく中立や敵対する勢力は戦々恐々。
 これが大戦の前触れであると考える者は少なくない。これまで色々とあっただけに、ようやくかと思う者もいるだろう。いずれの諸侯たちも密かに軍備の拡充を進めているとのもっぱらの噂だ。
 雲行きは怪しい方向へ向かっている。
 畿内の諸藩の動き、その噂は冒険者たちの耳にも届いていた。

 そんな状況の中、噂の一端を示すような話が人々の耳に入ってきた。
 諸国の大名が各地の刀匠を勧誘していると言うのである。
 噂によれば軍備拡大のために諸大名は刀匠を必要としており、現在大名たちはこぞって刀匠の囲い込みに躍起になっているのだと言う。
 熟練の技を持つ刀匠、あるいは鍛冶集団は有事に備えを必要とする大名たちにとって、今や是が非でも欲しい存在なのだろう。乱世が近いと噂される昨今、強力な武器を必要とする大名たちは彼らを呼び寄せ、軍備の拡大を図っていると言う。

 そんな刀匠の一人に、備前包平がいた。野太刀「大包平」の作成者として知られる包平は、現在備前の地に留まり、黙々と刀を打っていた。
 彼のもとにも大名から多くの勧誘が寄せられていた。しかし、包平はそれらの勧誘を断り、一向に首を縦に振ることはなかった。聞けば、包平は軍備拡大のために刀を打つことを良しとせず、そのため大名の勧誘を断っているのだと言う。乱世の刀匠、彼のように有力な刀匠はそう呼ばれ、大名たちからの勧誘が絶えない。包平の腕を惜しむ声は高く、その腕を見込んで諸大名は執拗に勧誘を繰り返していると言う。



 冒険者ギルドに意外な形でこの刀匠に関わる依頼が舞い込んできたのは、四月の上旬のことである。
 依頼者は神皇家に仕える公家で、ギルドマスターに直接依頼が伝えられた。その依頼とは――。

 備前包平の勧誘である。表向きは畿内の有力大名の依頼として出されたその依頼、集まった冒険者を前に、依頼者の公家は真相を告げた。
「現在の状況は薄々みなさんもお気づきでしょう。畿内の状況が慌しくなっていると言う噂が飛び交っており、何やら不穏な気配が迫りつつある、我々も大名たちの動きを逐一把握しているわけではないのですが、尾張平織氏上洛の構えで、状況はにわかに慌しくなっております」
 冒険者たちは話を聞いていた。噂は冒険者たちも耳にするところである。
 さて、と公家は話を切り出した。
「一昨年の五条の反乱で神剣が失われて以来、神皇家の威信は低下しております。少なくとも我らはそのように感じておるのです。大名たちを治めるはずの神皇家の威信の低下が、現在の混乱を招いているとも言えるでしょう」
 そういうものだろうか、冒険者たちは内心に呟きながら公家の言葉に耳を傾けていた。
「この困難な状況において、我らも何とか対策を立てようと、新たな神剣の製作に着手することになりました。そう、新たな神剣作りが密かに始まっているのです。まだ暗中模索の段階なのですが」
 新たな神剣作り? 冒険者たちは意表を突かれた。公家は話を続ける。
「神剣作りに必要なものは、神剣の材料と刀匠、そして神剣の作り方を知る者です。そこで、今回白羽の矢が立てられたのが、刀匠の備前包平です。大包平の製作者である包平は日ノ本有数の刀匠の一人。神剣作りを依頼できる技量の持ち主でしょう。聞けば、包平は大名たちの勧誘を断って備前から動くことがないそうです。軍備の拡大のために刀を打つを良しとしないとか」
 大名の勧誘をことごとく断っているという備前包平。その刀匠を説得して京都に連れてきて欲しいと言うのが今回の依頼である。
 刀匠の勧誘、どうやら中立的な立場にある冒険者がその役割を担うのが最適だと神皇家は判断したらしい。昨今の冒険者の活躍を買ってのことだろう。
 神剣作りと聞いて包平がどのような反応を示すかは分からない。のるかそるか、備前まではちょっとした遠出になる。密かに始まった神剣作りを巡る冒険が始まる。

●今回の参加者

 ea8341 壬護 蒼樹(32歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb6967 トウカ・アルブレヒト(26歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ec2738 メリア・イシュタル(20歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 ec4175 百瀬 勝也(25歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

奏 柳樹(ec3996

●リプレイ本文

 備前包平は邸宅でお茶を飲んでいた。包平は二十代後半で、この若さにして日ノ本きっての名工と呼ばれる人物であった。
 昨今の情勢に包平は困惑していた。有力な大名から次々と自分のもとへ勧誘の話が舞い込んでくる。藩のために刀を打ってほしいというのだ。
 よくよく話を聞けば、それらは諸藩の軍備拡大のためであるという。刀工は所詮刀工、刀を打つのが刀工の役割。とは言え、どこどこの藩に仕えるというのはおいそれと決断できる話ではなかった。
 そこで包平は、とりあえず軍備拡大のために刀は打てないと、大名からの話を断っていた。
 だがそれもいつまで持つか‥‥。
 刀工は所詮刀工である。刀を打ってこその刀匠である。いっそ、全ての依頼を受け、日ノ本で名を上げるのも一つの道か、そんなことを包平は考えていた。乱世の刀匠と呼ばれるのも一興である。
 噂によれば、各地の刀工たちは次々と大名のお抱えになっているという。そんな話に包平も無心ではいられなかった。
「刀工は所詮刀工か‥‥」
 包平は呟いた。
 と、そこへ包平の妻がやって来た。夫が迷っているのを妻は知っていた。
「まだ迷っておいでですか」
「迷っている。だが、少しずつ心が決まり始めている。大名の話を受けようかと思い始めている。乱世の刀匠と呼ばれるのも一興かも知れぬ」
「そうですか‥‥」
「そうなれば、この備前から近畿へと移ることになるかも知れぬ。どこの大名に仕えるにしろ。聞けば、各地の刀工たちも有力な大名に召抱えられ、腕を振るっているという。この情勢で、いつまでも備前に引きこもっているわけもいくまい。いずれどこかに移らねばなるまい」
「私は、あなた様が行かれるところならどこへでもご一緒いたしますよ」
 包平は妻の言葉に勇気をもらった様子である。
「決めた、私は備前を出るぞ。諸大名にシフール便を送ろう。この包平、どこへでも出向こうとな」
 と、そこで妻は包平の意表を突く言葉を投げかけた。
「実は、都から使者が参っております」
「何だと? 都から使者が?」
「刀に関わることだそうです」
「都が一体私に何用なのだ」
「不思議な取り合わせでございます。ジャイアントにエルフ、子供に若侍と言った組み合わせ。京都の冒険者だそうです」
「冒険者?」
 冒険者の噂は包平も聞いたことがある。何でも騒動屋とも言われているが、その功績も大きく、幾度か京都の危機を救っているという。
「会おう」
 包平の言葉に妻は頷くと、いったん部屋を出て行った。そして、四人の冒険者たちを連れて戻ってきた。



「京都からの使者ということだが‥‥これはまた奇妙な組み合わせだな」
 包平は冒険者たちを眺めて言った。
「刀に関わることだそうだが、一体どういうことなのか」
 まずは一同を代表して壬護蒼樹(ea8341)が挨拶した。
「初めまして、備前包平さん。僕は壬護蒼樹、僧兵をしている者です。この度は神剣作成のお願いに参りました」
 それから簡単に挨拶をするトウカ・アルブレヒト(eb6967)、メリア・イシュタル(ec2738)、百瀬勝也(ec4175)。
「神剣作成とは、一体どういう事情なのか」
 一応話を聞いてみる包平。
 壬護は包平に今回の依頼について話す。依頼人が神皇家であること、密かに神剣作りが始まっていること。
 すると、包平はその話を一笑に付した。
「何を馬鹿な。神剣作りなど、私をたばかっているのであろう」
「僕たちは本気です」
「いや、本気だとしても、どの道神剣はおいそれと打てるものではない。現在ではその作成方法も失われてしまったのだ。神剣を打つのは不可能なのだ」
「だとしても、神皇家は本気です」
 メリアは言った。
「現在の近畿の情勢を憂うる神皇家は、神剣の威信によって治安の回復を図ろうとしています。神剣作りはもしかしたら新たな戦の種になってしまうかもしれません。でも、争いが起こらないようにと努力している人物もいるのです。そのために包平様の協力が必要なのです。包平様は軍備の拡大に刀を打つのを良しとしないと聞いております。であれば、この国の行く先を憂う人たちのためにその力をお貸し頂けませんか」
 むうとうなる包平。包平にしてみれば神皇家の真意を図りかねた。神剣を打つのは不可能なのだ。その製法は失われ、今では神剣を打つなど誰にも出来ないだろう。
「繰り返しになってしまうが、神剣の作り方は失われたのだ。仮に私を取り立てたとしても、神皇家の意に沿えるかどうか」
「包平さん、神皇家は何としても神剣を手に入れるつもりのようです」
 壬護は言った。
「僕たちの依頼人は言いました。神剣作りに必要なものは神剣の作り方を知る者、刀匠、そして神剣の材料だと。今は暗中模索の段階ですが、一つずつ難問を解決していくしかないのではないでしょうか。いずれにしても、神剣作りに刀匠は欠かせません。包平さん、どうか京都へお越し下さい」
「神剣作りか‥‥難しい決断だな」
 トウカも説得を試みる。
「包平様、この国で最高の、そして国を治める印たるほどの比類なき神刀を自身の手で打つことに興味はございませんか。思うに、各藩の誘いなどは結局のところ『藩の為』に帰結する、依頼する側の立場に立ってのみの勧誘だったのではないでしょうか。私は包平様の事を深く知っているわけでもありませんし、包平様にとって刀を打つことがどういうことかも知りません。ただ、もし包平様の望みと、神剣を作るという目的、その二つに繋がるところがあるならば、どうかお力をお貸し頂きたいと思いますが」
「興味がないことはない。神剣を打つということは刀匠にとって最高の仕事となろう」
「それでは、京都に来てくださいますか」
「考えても良いが‥‥」
 決めかねる包平を前に、壬護は口を開いた。
「こんな事言うのは、不謹慎なのですが、僕は正直、正しく治めてくれるのであれば誰が国を治めても良いと思います。ですが、今のままでは国は乱れます。僕は今、外国に居を置いていますが、外国でも魑魅魍魎の企てで国が乱れました。乱れ、沢山の血が流れました、悲しい事です。そしてそれは多く、民草が流す物です、戦と関係のない人々が流すなど、以っての外です。今この国でもそれが起ころうとしています、それも人達の手によって。大名たちは軍備の拡大にいそしみ、畿内では尾張平織氏が上洛の構えを見せており、それに対抗する諸藩の動きもあり、雲行きは怪しくなっています。このような人の世の乱れが神剣によりせめて和らげる事が出来るのなら、どうかお願いします、神剣を打って頂きたい」
 また百瀬も言った。
「私は京の都に平穏が訪れる事を願っています。そのための一歩が、畿内の大名を纏めるべき神皇家に神剣という名の威信を取り戻す事だと考えます。刀は人の命を奪う武器であると同時に、敵味方共に守る武器でもある‥‥。片身にのみ刃をもつのはその証であり、だからこそ名刀は人々の心を打てるのでしょう。どのような衝撃を伝えるのか――、それを備前殿にお任せしたいのです。戦を治め、都に平穏をもたらせる力を神皇家にお与え下さい。備前殿の刀で、京の地に平穏を取り戻したく思います」
 まだ年端もいかぬ者たちから熱心に口説かれ、さしもの包平も考えた。
「状況はあい分かった」
 包平は一日考えさせて欲しいと言った。じっくり考えた上で、決断したいと。
「包平様、最後に一つ」トウカは一押ししておいた。「あなた様にしか果たせぬこともありましょう。これも何かの縁ではありませんか」
「縁か‥‥そうかも知れんな」



 翌日、冒険者たちは包平の邸宅を再度訪れた。
「答えは決まりましたでしょうか」
「うむ‥‥」
「うかがいましょう」
「即日というわけにはいかぬが、引き受けよう。近々京都を訪問させてもらおう」
「引き受けてくださいますか、ありがとうございます」
「何、礼には及ばぬ。これも何かの縁だと思うておる。お主らの依頼人に宜しく伝えてもらおう」
「承知いたしました」

 こうして、備前包平は神皇家の依頼を引き受けることになる。
 近く包平は京都を訪問すると約束した。
 冒険者たちはその返事を持って、京への帰路に着くのであった。