関東動乱、下総攻略

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月24日〜04月29日

リプレイ公開日:2008年05月02日

●オープニング

 昨年春に江戸城を奪って以来、江戸の統治に腐心して一定の成果を得た伊達政宗は、三河尾張同盟の決裂で家康が動けないと知ると、関東に残る源徳派の一掃に乗り出した。
 房総半島の豪族千葉氏や里見氏、それに箱根小田原藩の大久保氏である。未だ伊達に完全に信服しない八王子などの小勢力が頼みとする房総と相模を叩けば、奥州藤原氏の江戸支配は完全なものになる。
 箱根は隣国武田に攻略を任せ、房総攻略には本国奥州から増援を頼み、さらに越後上杉謙信にも援軍を要請した。
 一度に多方面を攻めるのは危険という声もあったが、完全に制圧する必要はない。尾張と不仲になった以上、三河の後詰は無いと政宗は読んでいた。未だに源徳を頼みとする輩にそれを知らしめれば十分だ。助けが期待できない状況で源徳のために伊達と戦うのは無意味だ。領地安堵を条件に、伊達に従う者は増えるだろう。

 政宗はこの一年、着々と関東での基盤を築きつつあった。
 義経の名前を利用して源徳時代の旧臣を多く召抱え、行政面では源徳時代を継承することで混乱を押えようとした。度重なる災難で空同然だった金蔵に奥州金を運び込み、復興に努めることで人心掌握を図った。
 実際問題、江戸の民の暮らしぶりは源徳時代とあまり変わらない。摂政が消えた事で外交面では甚だしい問題が起きていたが、不思議と表面化はしていない。都も随分と機能不全が続いているから、長崎の秀吉が苦労しているという噂話が聞こえるくらいである。
 しかし、朝廷は伊達を無視した。滑稽な話だが、討伐する力が無く、家康が摂政である以上は無視するしかない。源義経による源家再興の訴えも居留守を決め込んで受け取らない。平織や藤豊が調停に乗り出してくる事もなく、政治的には伊達は江戸の居候のままである。権威が物を云うジャパンにおいて都合が悪いこと夥しい。
 房総と小田原を臣従させる事で、行動により朝廷に伊達を認めさせる気であるようだ。
 それは同盟国である上州の新田義貞、甲信の武田信玄、越後の上杉謙信に対して伊達の力を見せておく為でもあるだろうか。国力回復に忙しい新田はともかく、武田と上杉は伊達に江戸統治の器量無しと見ればどう動くか分からない。


「俺が戦好きに見えるか?」
「見えるね」
「そうだろう。だがな、この戦は関東平定の必要な戦いだ。本家の許しも得た。小田原と房総が江戸に喧嘩腰じゃ商売が出来ないと江戸の民にも泣きつかれた。つまり、平和のためだ‥‥信じるか?」
「いや全然」


 このところ伊達を中心に回っていた東国の情勢が、今回の房総攻略で再び動き出す。
 伊達の要請を受けた武田は利害の一致から箱根攻略を承諾した。しかし謙信は政宗の要請を断った。源徳家臣の小田原はともかく、源徳に臣従しているというだけで房総を侵略するのは正義が無いと謙信は判断したのである。

「敵は源徳であるはず。情理を解き、無用な争いを避けるべきである」
「千葉と里見には何度も使者は送ったのだ。形だけでも伊達に臣従する姿勢を見せれば全てこれまで通りで構わないという好条件で。人質も不要と言ってやったが、奴ら、盗人に従う気はない、弓矢で問えとずいぶん威勢がいい」
「五度断られたなら、十度送れば良いこと。伊達は江戸に入ってまだ一年、人心を得るに10年を費やしたとしても長すぎる事はないはずである」
「‥‥俺は坊主ではないのでな、それほど気長にはなれぬ。家康を追い出した俺に、立ち止まる道もあるまい」

 房総攻略にはまとまった兵力が必要である。
 一年の間に武蔵の三分の二までは伊達家の支配下にあったが、やはり基幹となるのは仙台兵だ。
 奥州本国の増援は必要不可欠と考えていた政宗だったが、悪い知らせが届く。奥州の藤原秀衡からの知らせであった。
 政宗は藤原秀衡からの書状を握りつぶした。未だ混沌とした那須藩の問題と、それ以上に東北での悪路王の被害増加で、容易に増援は派遣できないという回答であった。
 本国の増援がない以上、現状関東に滞在する政宗麾下の軍団で房総攻略に赴かねばならない。仙台兵に武蔵兵を加えて、約二千。今回は房総も様子見の豪族が多いだろうから、恐らく五分。
 今後の関東情勢を占う戦となるかもしれない。

 こうした情勢の中、政宗を始めとする各諸侯は争って有能な冒険者を募っていた。西も東も騒がしい。騒動屋とも揶揄される冒険者ではあるが、諸侯たちは能力のある者は冒険者であろうと積極的に登用していた。
「ほう‥‥伊達からの依頼か。何々、政宗公は広く仕官を求めている、と」
 ギルドに張り出された依頼書を前に立ちつくす彼らの視線の先に映るものは‥‥。



 房総半島、下総――。
 伊達家家臣の後藤信康は政宗より下総攻略の兵を授かり、この地に進軍していた。
 その前に立ち塞がったのは源徳派の豪族である下総の坂東平氏の名流千葉氏である。
 千葉氏の頭領は千葉常胤。長らく続いていた下総の混乱を収め、家康の信任を得て下総国司となった男だ。
 伊達軍陣中では、信康が沈思の中、使者が帰ってくるのを待っていた。
 信康は千葉氏に対して数度にわたって降伏勧告を送っていたが、今のところ千葉氏の側がそれを受け入れる気配は無かった。
 と、そこへ使者が戻ってきた。
「信康様、使者が戻って参りました」
 信康はじっと鎮座しており、まぶたを閉じたまま、不動の姿勢を保っていた。
「ご報告申し上げます! 常胤殿は我らの最後の勧告も聞き入れず! かくなる上は戦場にてあい見えるのみ、いずれにしても我が軍が下総から出て行かねば徹底抗戦すると申しております!」
「そうか‥‥千葉は政宗公の降伏には応じぬか」
 信康は立ち上がると、卓上の前まで進み出てきた。
 卓上には下総の有力拠点の一つ、亥鼻城周辺の地図が置かれていた。
 千葉氏は伊達軍の進行をさえぎるように眼前に部隊を展開し、その後ろに亥鼻城がある。信康の伊達軍は約千、それに対して約三里先に布陣する千葉軍は約五百、半里ほど後方の亥鼻城の中の兵力は数百と思われる。数の上ではほぼ互角か。
 卓上の地図を見ながら始まった作戦会議には、伊達軍の募集に応じて集まった冒険者の姿もあった。此度の戦、冒険者たちはいかにして動くのか。
 下総攻略、その戦いの趨勢は今のところ予測不可能である。幕は上がった。どのような結末を迎えるのか、全ては双方の行動に掛かっている。

●今回の参加者

 ea5708 クリス・ウェルロッド(31歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4890 イリアス・ラミュウズ(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5246 張 真(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb9090 ブレイズ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

四神 朱雀(eb0201)/ メグレズ・ファウンテン(eb5451

●リプレイ本文

 伊達本陣――。
 シオン・アークライト(eb0882)は後藤信康の傍らにあって話をしていた。
「信康様、早計かも知れませんが、敵の大将はいかが致しますか? ここで逃げられると後々厄介ではないでしょうか」
 信康は肩をすくめる。
「此度の戦、冒険者には大いに期待している。お主らはみな名うての猛者と聞く。戦場での判断は任せるが、もちろん大将を討つのは大きな仕事の一つであろう」
 張真(eb5246)は尾張藩武将・母衣衆だと言う身分は隠し、一介の冒険者として伊達軍に協力していた。
「信康様、これから政宗公の取るべき方針はいかがなものでしょう。政宗公の目指す理想はどこにあるのでしょうか。また江戸城攻略後、武田様、上杉様とは協力体制にあるのか、新田様、平織様との同盟についてはどのように考えておられるのでしょうか」
 張の問いに信康は、
「政宗公は天下人だ。どこまでも行くところまで行かれるだろう。まずは関東の平定に力を注がれるだろうが。そのためには諸藩の大名をいずれにしても収めねばなるまい。‥‥新田か。あれは朝廷の後ろ盾が無くては何も出来ぬ男だ。が、平織との関係上政宗公も迂闊には手を出せぬ」
 と、そこへ宿奈芳純(eb5475)が姿を見せた。
「占いの結果が出ました。此度の戦、いずれにしてもただではすまないでしょう。多くの凶兆が出ております」
「凶兆か。どのような修羅場が待ち受けていようと凶兆など粉砕してくれるわ」
 信康はそう言って笑声を上げた。占いに一喜一憂する信康ではなかった。
 その傍らで腕組みするイリアス・ラミュウズ(eb4890)。
「伊達軍は千、城外の敵は五百。数の上で伊達の敗北はあり得んが、だからこそ不自然だな。我が方としては当然攻勢に出るべきところだが、むしろそれを誘っているかのように思える。奇襲の用意でもあるのか、援軍の当てがあるのか。それとも戦場に罠でも仕掛けているのか。ここは敵地であるから仕込みようは幾らでもある。まずは偵察結果を待つべきだろうな」
 同じく腕組みしながら戦場に目をやるブレイズ・アドミラル(eb9090)。
「敵の布陣は、明らかに野戦を誘っているので、別働隊の危険性を考える必要があるでしょう」



 ――偵察。
 宿奈はテレスコープを使って敵方の情勢を図っていた。
「む‥‥あれは」
 敵軍の背後からぞくぞくと兵隊が合流している。亥鼻城からの援軍であろう。
 どうやら千葉方は正面から決戦を挑むつもりのようだ。
 その様子をテレパシーで信康に伝える。
「意外だな。前ヶ崎と連携してわれらを挟撃するつもりかと思っていたが」

 イリアスは空飛ぶ木臼に乗って味方の上空を飛び回っていた。それほど高くはないが上空から戦場となるであろう一帯を見渡す。伊達軍の兵士たちは不思議そうにイリアスを見ていた。イリアスは飛びながら味方を鼓舞して回っていた。

 クリス・ウェルロッド(ea5708)と磯城弥魁厳(eb5249)は敵軍に忍び寄って様子を探っていた。
 千葉氏の側は意気盛んで、士気は高いようだ。大将格と見られる武将たちが陣中を走り回っては馬上から兵士たちを激励していた。
「敵軍もやる気満々のようですね」
「これは侮れんな。正面からぶつかれば伊達もただでは済むまいぞ」
「陽動作戦が許可されれば、それを活用して何とか伊達有利にことを運ぶことが出来れば」
「そうじゃの。よし、いったん戻るとしようか」

 千葉方の情勢が分かったところで、信康は主だった武将と冒険者たちに向かって言った。
「千葉方は我らの再三にわたる降伏勧告にも応じてこなかった。ことここに至り、双方剣を交えることとなった。みなのもの、時は来た。恐れを振り払い、敵の盾を打ち砕き、我らの凱歌を千葉の者どもに轟かせ、震撼寒からしめてやろうぞ!」
「信康様――」
 シオンが言った。
「敵方との戦力は拮抗しております。我々の仲間が亥鼻城に陽動を仕掛けるのをお許し下さい」
「結構だ。忍びの術に長けた者もいるようだし、期待させてもらおう」
 そうして、信康は諸将に配置に付くように言った。



 それから両軍ともに接近し、いよいよ開戦が近付いてきた。

 クリスと磯城弥は敵軍を迂回し、一足先に亥鼻城に近付いていく。
 多くの兵士が出払っていたが、それでも警戒は厳重で、入り込む隙は見当たらなかった。
 こうなっては正面から行くしかない。
 そうして、二人は待った。正面の見張りは数人いた。やがて、交代の時間が来たのか、そのうちの何人かが持ち場を離れた。
「今じゃ」
 二人は行動を開始した。クリスが正面から、磯城弥は城壁に沿って見張りの背後を襲う。
 無防備に近付いてくるクリスに不審の目を向ける兵士たち。
「戦が近いと聞きましてね。千葉氏は伊達に戦いを挑むそうじゃありませんか」
 クリスが兵士の注意をそらした隙に、磯城弥が兵士の背後に回りこんでスタンアタックで気絶させる。
「お見事」
「急ぐぞ、帰りもここを通っていけるかどうか分からん」
 二人は駆け出した。

 城内は慌しさを増していた。兵士がせわしなく行き交い、曲者を探していた。
「敵兵が侵入したぞ! 者ども、城内をくまなく探せ!」
 磯城弥とクリスはその様子を見つめながら天井裏に潜んでいた。
「どうやら気付かれたようじゃの」
「早く兵糧の倉庫を見つけなくては」
「思い切って出るしかないの。‥‥よし、今じゃ、下りるぞ」
 二人は天井から飛び降りた。そして部屋を出ると、物陰に身を潜めながら進んでいく。
 と、二人の前方を一人の兵士がぎしぎしと床を軋ませながら歩いていく。二人は音もなく兵士の背後に近付くと、スタンアタックで気絶させた。
 それから素早く城内を駆け抜けていくクリスと磯城弥。
「ここだ」
 倉庫に辿りついた二人は慣れた手つきで錠前を開ける。
 倉庫の中に積まれた兵糧。磯城弥は油を振り掛けると、倉庫に松明を放り込んだ。
 瞬く間に燃え上がる炎。
「よし、あとは逃げるだけじゃ」
 クリスと磯城弥は騒動に紛れて城から逃げ出した。

 千葉陣中では、予期せぬ事態に動揺が広がっていた。
「見ろ! 城の方角から火の手が!」
「どういうことだ!」
「敵の陽動かもしれん、念のために城に兵を戻せ! 背後に気をつけろ!」
「伊達軍が突撃してきます!」
「迎え撃て!」
 千葉陣中では怒号が飛び交う。

 開戦を告げる戦笛が吹き鳴らされ、両軍ともに動き出す。
 突撃する伊達軍。
 ――やああああ!
 兵士たちはときの声を上げて突撃していく。
 その先陣を切って冒険者たちも突撃する。
 足軽の攻撃を跳ね返しながら突破していくシオン、イリアス、張、ブレイズ。
「行け行け! 雑魚には構うな! 狙うは敵の大将首だ!」
 シオンは足軽の攻撃をデッドorライブで受け止めながら敵軍の戦列を突破していく。
「どきなさい! 前ヶ埼城は伊達の手に落ちたわよ!」
 シオンははったりをかけながら千葉の足軽に猛攻をかける。後退する足軽たち。足軽たちは群がってくるが、それらをひたすら跳ね返し、シオンは前進する。
 イリアスも足軽の攻撃を跳ね返しつつ敵の戦列を突破していく。
「うおおおお!」
 イリアスの攻撃は半端な動きではない。そしてイリアスは守備力も高い。足軽の群れを蹴散らしながら敵軍を突破していく。目指すは敵軍の大将のみ。
「どけどけ! 痛い目を見たいのか! 邪魔だ! どけい!」
 イリアスは戦場を駆け抜けながら道を切り開いていく。
 張は武道家らしく素早い動きで足軽の攻撃をかわしつつ、右腕に装備した武器で相手の攻撃を跳ね返しながら走っていく。冒険者たちが目指すは大将首、群がってくる足軽たちの攻撃をやり過ごしながら張は走る。
 ブレイズもまた高い守備力を生かして敵陣を突破する。
「狙いは大将首ただ一つ! 雑魚に用はない!」
 ブレイズは巨体を生かして足軽を蹴り倒すと、盾で足軽の攻撃を跳ね返して突破する。
 冒険者たちを先頭にした伊達軍は千葉軍と激突する。戦場は瞬く間に乱戦状態に。

 伊達の陣地に戻ってきたクリスと磯城弥。
「お見事だ。見たところ千葉は混乱している。陽動作戦はうまくいったようだな」
 信康は二人の労を労った。
 信康の傍らには宿奈がいた。宿奈は本陣にあって、テレパシーで諸将との連絡をとりあっていたのだ。
「戦況はどうなっていますか」
「混乱はしているものの、大勢に影響はありません。今のところ一進一退の攻防が続いています」
 宿奈はそうクリスに伝える。
 磯城弥は亥鼻城の地図を記したスクロールを信康に見せる。のちの城攻めに役立つことだろう。
「私は戦場に戻りましょう」
 クリスはバックパックから矢を取り出すと、戦場に戻っていった。

 ――戦場では冒険者たちが千葉氏の戦列を突破し、敵将と相対していた。
 シオン、イリアス、ブレイズはそれぞれ武将を一人ずつ仕留め、降伏させた。張は彼らのサポートに回って活躍した。クリスも矢を全て撃ち尽くした。
 冒険者の活躍も手伝って、伊達軍は徐々に千葉軍を押し始めた。
 そして、ついに冒険者たちは千葉軍最後尾を突破し、相手方の陣地に乗り込んだ。
 突入してきた冒険者たちを見て狼狽する千葉の大将。
「おのれ! この命知らずどもを蹴散らせい!」
 大将は近衛の兵士たちに命令し、自身は亥鼻城に向かって逃げ出した。
 その後近衛の兵士たちを降伏させた冒険者たち。
 今回は善戦と言えるだろう。敵陣にまで踏み込んだのだ。緒戦としては上出来であろう。

 武将が倒された千葉軍は敗走していた。伊達側にほとんど被害はなかった。千葉の側は百名近くが捕虜となり、残りは亥鼻城に逃げ込んだ。



 戦闘終結後――
「此度の戦功見事であった。早速仕官があったことを政宗公に知らせておこう」
 後藤信康はそう言って、イリアスとブレイズに仕官推薦状を手渡した。
 また磯城弥も戦功が認められ、政宗に仕える忍兼武将となった。