夜刀神の暴走

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月17日〜04月22日

リプレイ公開日:2008年04月22日

●オープニング

 天下に忍び寄る暗雲。
 戦の気配が徐々に近付いていると、庶民の間でももっぱらの噂であった。
 また、最近の神々の復活や活動を再開した黄泉の軍勢などの動向が、人々を不安に陥れていた‥‥。

「鬼はいなくならねえし、戦は近いって言うし、恐ろしい妖怪は続々と姿を見せているし、本当に、世の中は大丈夫なのか」
「何もかんも噂だと思っていたけど、どうやら噂だけじゃすまないような気配だなあ」
 村人たちの不安は広がる一方である。

 そんな中、相変わらず猛威を振るっているのが、夜刀神である。



 暴走を続ける夜刀神の群れ。
 それを止める者はいなかった。
 夜刀神の群れが現れてから一月半が経過していた。
 京都近郊では村々が次々と襲われ、その被害は無視できないところまで広がっていた。

「――夜刀神だー! 夜刀神が近付いてくるぞ!」
 村人は慌しく駆け込んでくる。
 見ると、光が爆発し、炎が飛び交い、土煙を巻き上げながら接近してくる何かがある。光る蛇の大群。夜刀神だ。
 夜刀神は一見すると蛇のようで、固体によって様々な色を持っている。一匹一匹は大したものではないが、群れとなると脅威である。精霊魔法を使うため、数も集まればそれなりの脅威である。
 以前は村人たちの考えも千差万別であった。夜刀神のことは神の一種かその僕、聖なる生き物などと考える村人が多かった。しかし、ここ最近の夜刀神の猛威はもはや村人たちの生活圏を脅かしていた。
 村人が夜刀神の魔法に巻き込まれて大怪我を負うと言う事件も起こっていた。以前は穏便に夜刀神を退けて欲しいと考えていた村人たちも、最近の夜刀神の猛威に、徐々にその存在を疎ましく思い始めていた。

「このままじゃ、俺たちの方がやられちまう! 畑は滅茶苦茶にされてしまうし、村人にも被害が出始めている! みなの衆、もう相手が夜刀神だからって、黙っていたら俺たちの生活がやっていけねえ!」
 声高に熱弁を振るう若い衆の言葉に、村人たちは賛同の声を上げる。
 村人たちも何とか夜刀神が自然消滅することを願っていた。だが、もはやこれまで。
「夜刀神には気の毒だが、もうこれ以上は黙っていられねえ! 都へ使者を立てよう! 夜刀神を退治してもらうしかねえ!」
 こうして、冒険者ギルドに再び夜刀神の退治依頼が舞い込んだ。

●今回の参加者

 eb2390 カラット・カーバンクル(26歳・♀・陰陽師・人間・ノルマン王国)
 eb3667 リーナ・メイアル(28歳・♀・陰陽師・パラ・ノルマン王国)
 ec2524 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(43歳・♂・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4154 元 馬祖(37歳・♀・ウィザード・パラ・華仙教大国)

●サポート参加者

ベアータ・レジーネス(eb1422)/ 蔵馬 沙紀(eb3747)/ 磯城弥 魁厳(eb5249

●リプレイ本文

 都の陰陽寮を訪れた冒険者たち。夜刀神発生の原因を聞いてみる。
「‥‥夜刀神が大発生している原因はまだ調査中でしてな。詳しいことは分かっておりませぬ」
「何かの前触れとか、そういうことではないのですか」
 カラット・カーバンクル(eb2390)の問いに、陰陽師はうなった。
「無論色々な憶測は立ちますな。最近は何かと不可解な出来事が多いですからな。まあ以前から今回のような事態が起こっても不思議ではありませんでした。人は妖怪や精霊の境界を侵してきた。夜刀神の大発生は、人の行いに対する反乱とも言えるのかも知れません」
「都として何か対策はおありか」
 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)の言葉に陰陽師は腕組みする。
「正直なところ具体的な対策はありませんな。人の境界を侵してくるならば、それは撃退するしかないでしょう。今回あなた方が相手にするのは夜刀神。上位の精霊たちに影響を与えることは無いでしょう」
 陰陽師はそう言って肩をすくめるのだった。



 京都を出発した冒険者たち。被害のあった村に到着する。
 カラットは村人たちから話を聞いて回っていた。
「皆さん大丈夫ですか」
 カラットの言葉に村人たちは「大丈夫なもんかい」と声を荒げる。
「ここ最近の夜刀神の猛威はもう滅茶苦茶でさあ、私たちにも我慢の限界ってものがあります」
「そうだ! あれはもう神様じゃなえ! いや、神様かもしんねえけど、俺たちだってこのままやられっぱなしじゃやっていけねえ!」
「本当のことを言えば俺たちだって退治依頼なんか出したくなかった‥‥」
「だが仕方が無いのだ。夜刀神様の怒りはもっともなものかも知れん。わしらは夜刀神様に対して敬意を払う心を失ってしまっておった‥‥とは言え、夜刀神様のお怒りはもう我々の手に余る。限界を越えておるのだ」
 人々は夜刀神に対して様々な思いを抱いているようだが、その暴走には困り果てているようだ。
「夜刀神はどこからやってくるのですか?」
「多分の山の方からじゃないかと思うんですけどね。これまでこんなことは無かったのに‥‥」
「俺たちだって夜刀神様がおとなしくしてくれたら、これからは夜刀神様をきちんと祀って、礼を失することが無いように、また夜刀神様と仲良くやっていけたらいいと思ってるんだ」
「だがなあ、仲良くやっていくと言ったって、実際退治してもらうしかないんだが‥‥」
 村人たちは吐息する。仕方が無いのだ。これ以上夜刀神の暴走を放置しておくことは出来ない。
「頼みますぜ冒険者の皆さん、何とか夜刀神を退治して下せえ」
 村人たちは一様に頭を下げる。
「夜刀神を祀っていた祠などはありますか? もしあれば、そうした祭壇を修復して、暴れる夜刀神を鎮める儀式などを執り行ってもらえば」
 カラットの言葉に村人たちは肩をすくめる。
「夜刀神を祀る祠なんてありませんねえ‥‥そんな儀式で夜刀神の怒りが収まるんですかい?」
「いや、実際どうすればいいかは分からないんですけどね」
 笑って誤魔化すカラット。

「村人のみなさん、聞いて下さい――」
 夜刀神退治の際、魔法を使うことを事前に告知しておくリーナ・メイアル(eb3667)。
 メロディの効果を説明し、事前に魔法の影響が出ないように話をしておいた。
「わたくしたちが夜刀神を退治している間は、いったん村から避難して、安全なところにいて下さい」
 それからリーナは村人たちを元気つけるためにメロディを歌った。
 ――民の明かりは陽の明かり〜、みんな踊れや歌えや陽の明かり〜、わっしょいわっしょい!

 ‥‥村人たちの前にペガサスに跨って現れたのはジョンガラブシ。しぶーい顔で村人たちを見渡す。村人たちは異様な気配を発する赤毛のジョンガラブシを前に、ごくりとつばを飲み込んだ。
「この世の摂理が乱れているぜ。戦は近い、魔物は地を荒らしまわり、人々の慟哭が聞こえてくる‥‥ブライ兄さんに跨り天から参上するほどのミー、神剣は失われ、いよいよ乱世が近付いていきた。つまり‥‥村人の皆さんにはもうお分かりですね? このミーの心の悲しみを。ですが安心召されよ。神皇様に忠節を誓う志士、ミーが来たからにはすごく‥‥安心です!」
 ジョンガラブシの意味不明な言葉に呆気に取られる村人たち。
「あんた何もんだ」
「がはは、面白い冗談だっただろうか? 遠慮してはいけない常に。戦場と言える全てが。ミーは志士、諸君の依頼を受けてやって来た京都冒険者ギルドの使いだ!」
「冒険者か‥‥何もんかと思ったよ」
 ジョンガラブシの意味不明の言葉は村人たちを混乱させるだけのようだ。
「ともあれ、安心召されよ。ミーが来たからには、夜刀神の十や二十物の数ではない」
「とにかく頼まあ、夜刀神はそのうちやってくる。しっかり退治して下さいよ」
「任せておきたまえ!」
 ジョンガラブシはペガサスの手綱を操ると、空に飛び去った。



 元馬祖(ec4154)はフライングブルームに乗ってゆっくりと飛んでいた。扱いに慣れていないのでやや危なっかしい飛び方だ。山の方を探って夜刀神の発見に目を凝らしていた。
 と、元は地面を這う蛇の群れを発見した。山を出て、これから農村部へ向かおうという夜刀神の一群だ。
「見つけた!」
 夜刀神の群れは人間が走って追いつけないようなスピードで山を下り、平野部に出て村へ向かっていた。
 急がねば。
 元はスピードアップした。夜刀神を振り切って抜き去ると、村の方へ向かって飛んだ。
 そうして村に到着した元。
「夜刀神がやってくるよ! 急いで! 避難して!」
 元の言葉に村人たちは避難した。

 冒険者たちはそれぞれ位置につく。


 リーナは村の正面に立ち塞がり、迫り来る夜刀神に備える。
「いよいよですね‥‥仮にも神と崇められるほどの存在を鎮める事ができるかは正直、自信がありませんが‥‥わたくし一曲ごとに全身全霊、魂を込めて臨ませて頂きますわ。あなた‥‥どうかわたくしを見守って下さいましね」
 リーナは天に向かって祈りを捧げる。
 やがて、リーナの前方から光と爆発が迫ってくる。
「あれが‥‥夜刀神の群れ」
 リーナは迫り来る夜刀神の群れを見据えた。光る蛇の大群が炎や土煙を巻き上げながら猛スピードで接近してくる。
 深呼吸するリーナ。
 それからリーナは黄金の竪琴を軽く弾き鳴らした。美しい旋律がリーナの手によって奏でられる。
 迫り来る夜刀神。
 そしてリーナは歌いだした。
「夜刀神たちよ〜己の生まれ故郷へお帰りなさい〜」
 竪琴の調べはこの世のものとは思えぬ音色である。リーナの指先が魔法のように竪琴の上を舞う。
「夜刀神たちよ〜今こそ旅立ちのとき〜、何処か遠くへ新しい出会いを求め旅立って〜」
 リーナの歌声を聞いても驀進してくる夜刀神の群れ。リーナは歌い続けた。
「夜刀神たちよ〜走るのはお止め、もうお眠りなさい〜」
 このままいけばリーナと激突しようかという時、夜刀神の群れはリーナを避けるようにして二つに分かれると、そのまま通り過ぎていった。

「これ以上は通さないよ!」
 元はオーラボディで防御力を高めると、夜刀神の群れに立ち塞がった。
 カラットはフレイムエリベイションのスクロールを使う。
「仕方ありませんね‥‥これ以上村に近づけるわけにはいきません」
 夜刀神の群れは突撃してくると、ばっと飛び上がった。
 アイスブリザードのスクロールで攻撃するカラット。
 接近してくる夜刀神を払いながら後退する元。夜刀神の群れを引き付ける。バックアタックで不意打ちを防ぎながら立ち塞がり、羊防守と氷晶の小盾で夜刀神の魔法攻撃を受け止め、仲間を支援する。
 暴れて飛び跳ねる夜刀神の群れ。
「やっ!」
 元は夜刀神を払った。
 夜刀神は元の一撃を受けて地面に叩きつけられる。
 と、炎がほとばしって元を襲った。夜刀神の魔法である。その瞬間、元は気を高めて羊防守で魔法を受け止めた。炎が元を直撃するが、元はびくともしない。
「はあ!」
 元は夜刀神を叩き伏せる。
 夜刀神は時折魔法攻撃を交えてくるが、元が囮になってそれらを受け止める。
 混戦状態になりつつあるところへリーナも合流を果たし、カラットからスクロールを借りて攻勢に転じる。
 リーナとカラットはソルフの実でMPを回復しながら夜刀神を攻撃する。

 上空からその様子を見ていたジョンガラブシ。夜刀神と奮闘する仲間たちの上にやってくると、攻撃を開始した。
 ヤドリギの矢をつがえると、一本、一本確実に狙いを定めて矢を放つ。
「何とかここで食い止めねばな、夜刀神には気の毒だが、討たせてもらう」
 ジョンガラブシの放つ矢が確実に夜刀神を仕留めていく。

 そして――
 数を減らした夜刀神は冒険者たちの周りをぐるぐると回っていたが、やがて逃げ出した。



 戦闘終結後‥‥
「どうして出てきてしまったんですか? 村人さんも別に退治したいと思ってたわけじゃないみたいなのに‥‥」
 カラットは弱った夜刀神に手を当てがった。リシーブメモリーをかけてみる。
 カラットが手に入れた夜刀神の記憶は、白い光だった。白い光――それが何を意味するのかは分からない。
 ぐったりした夜刀神は、カラットの手の中で息絶えた。

 ジョンガラブシは村人たちに言って回っていた。
「夜刀神に明確な害意はなかったようだ。どうか彼らの領域を侵さず怒りを静めて欲しい」
「まあ、とにかく退治してくれて助かったよ」
 村人たちは安堵の息を漏らす。
「これでいなくなればいいけど‥‥」
「でも、怒った夜刀神がこれ以上の大軍で押し寄せたらどうしよう」
「そうだなあ‥‥でも暴れる夜刀神と共存はできないぜ。その時はまた退治してもらうしか‥‥」
 一抹の不安の声が上がる。
「まあとりあえずこれで様子を見てはどうかな。これに懲りて夜刀神がおとなしくなるかも知れんしな」
 ジョンガラブシはそう言って村人たちをなだめるのだった。