丹後の戦い、大江山の鬼退治

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 60 C

参加人数:4人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月02日〜05月07日

リプレイ公開日:2008年05月08日

●オープニング

 丹後、かつて一人の術士がこの地に現れた。その術士の手によって、丹後は壊滅的な被害を被ったのである。術士が太古の結界を破壊したことで亡者が蘇えり、丹後は崩壊した。それから一年半が過ぎていた‥‥。

 人々の歌声は消え、かつて聞こえた笑声もいつのことであったか。
 残された者たちは肩を寄せ合いひっそりと息を潜めていた。
 亡者の群れが大地を支配し、妖怪や物の怪が跋扈している。

 丹後、現在この地は文字通り魔界と化している。
 人は片隅に追いやられ、勢力を増した死人や妖怪からかろうじて身を守り、生き残っている。



 ――丹後南部。大江山近郊。
 大江山は丹後の鬼の総本山であると噂されていた。人の手の及ばぬ地域は無法地帯と化しており、丹後南部の大江山一帯などは比叡山から流れ込んだ無数の鬼達が住み着いて、活発に動き回っているという。
 今の丹後で人が利用できる土地は限られている。僅かに残された土地で、人々は生活の糧を得なければならなかった。
 その残された人々を、さらに鬼の群れが襲うのだ。
「鬼だー! 鬼の群れが来たー!」
 山村に響く警戒の声。
 村を覆う防護柵の向こうから迫り来る気配。鬼の一団である。人喰鬼を先頭に、小鬼や茶鬼の群れが村に接近してくる。
「門を閉じろー!」
 村人たちは急いで門を閉ざす。遠くから鬼の咆哮が響いてくる。人喰鬼の咆哮だ。
 村人たちは防護柵の中で祈った。どうか鬼がいなくなりますように‥‥。
 やがて鬼達は防護柵のもとまでやってくると、ごつごつと柵を殴り始める。鬼の咆哮と柵を殴る音が不気味に響き渡る。村人たちは祈るだけだった。
 ――グオオオ!
 苛立たしげな人喰鬼の咆哮が轟き、人々は恐怖に身をすくめる。
「このままじゃそのうち鬼達が柵を破ってやってくる! 助けを呼ぼう! お侍様に助けを!」
「お侍様でもあの人喰鬼には歯が立たん! 都じゃ! 京の都まで助けを呼ぶのじゃ! 都のつわものでなければあの鬼には歯が立たん!」
 村の古老の言葉に、一人の若者が立った。
「俺が都まで行こう! 都の猛者に鬼退治を頼んでみよう!」
「行き先は分かっておるか? 京都の猛者が集まる場所じゃぞ」
「分かってる、京都の猛者が集まる場所だ。みんな、待っていてくれ! きっと助けを呼んで戻ってくる!」
 そう言って若者は村を脱出した。



 ――京都、冒険者ギルド。
 村の若者はどうにかこうにか京都まで辿りついた。 
 息も絶え絶えにギルドの手代に村の窮状を伝える若者。
「‥‥頼む、村が大変なことになっているんだ。人喰鬼が手下の鬼達を伴って村を襲っているんだ。村の防備で何とか持ちこたえているが、このままじゃいずれ防備も破られる。頼む! 助けがいるんだ!」
 若者はそう言ってギルドの手代に報酬の入った袋を手渡した。若者が持ってきたのは僅かばかりの報酬である。
 崩壊した丹後の噂はギルドの手代も聞いていた。人々は鬼や妖怪に追いやられているというが、最近になってようやく都からも丹後の窮状を何とかしようと動き出したところである。
 鬼が住み着いているという大江山。人の活動が停滞した丹後では、鬼達も活発な動きを見せているようである。
 丹後から寄せられた依頼、村人たちが待っている。冒険者よ急げ。

●今回の参加者

 ea8445 小坂部 小源太(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2690 紫電 光(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ec2524 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(43歳・♂・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4175 百瀬 勝也(25歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レラ(ec3983)/ シリウス・ディスパーダ(ec4270

●リプレイ本文

 村に到着した冒険者たち。
 早速物見やぐらに上って状況を確認する。
 鬼の群れが村の方々に散っていた。ほとんどが茶鬼や小鬼だ。その中にひときわ大きな体格の鬼がいた。人喰鬼である。
 今のところ鬼達は防護柵を破るには至っておらず、その周りでうろうろしていた。
 冒険者たちは隙を見て村に入り込んだのである。

「‥‥厄介な状況ですね」
 小坂部小源太(ea8445)は村の周辺に目をやりながら呟いた。
「京都近郊でも鬼が絶えないが、この丹後の地にもその脅威が及んでいるのか」
 紫電光(eb2690)は吐息する。
「この大江山連邦はすっかり鬼の巣窟と化してしまったようだね」
 そう言いつつ紫電は村の周辺に目を向ける。仕掛けたライトニングトラップに引っ掛かる鬼達もいて、村の外では鬼達が騒いでいた。
 昨今、京都の周辺でも鬼の被害が絶えない。人喰鬼の一団が村々を襲うという事件は頻繁に起きていた。いずれも比叡山から下ってきた鬼達である。冒険者の活躍によってある程度は撃退しているものの、何と言ってもジャパンは鬼族が数多く存在し、ひとたび人里を離れればいつどこで鬼と出くわしても不思議ではなかった。
 この丹後も長引く戦乱で人の勢力は後退し、ここ丹後南部の大江山周辺は鬼族が支配する土地となっていた。
 百瀬勝也(ec4175)は村人たちを勇気付けていた。
「安心しろ。あんな鬼達など、俺たちが捻りつぶしてやるさ」
 力強い言葉の裏で百瀬は緊張していた。人喰鬼と言えば強力な冒険者でも遅れを取ると言われる相手だ。自分には荷が重過ぎるかもしれない。
 だが百瀬には秘策があった。オリファンの角笛である。このマジックアイテムはその音色を聞いた者を動けなくしてしまう魔法の笛であった。人喰鬼に対して、ここぞと言う時に使って勝利を引き出すつもりであった。それには仲間との連携が欠かせないが。
「お侍様、この土地にはまだ地侍が残っております」
 村人の一人が言った。
「丹後の有力氏族以外にも、もう一人この地で覇道を志すお方がおられます」
「覇道? そのような者がいるのか」
「はい‥‥私どもは密かに丹後の覇王とその方をお呼びしています」
「誰だ、その人物は」
「京極高知とおっしゃる方です」
「京極家‥‥丹後の侍か」
「はい、この地で雌伏され、鬼を打倒した暁には、この丹後南部を平定されるおつもりです」
「そのような者がこの地にいるのか。興味深い。一度会ってみたいものだな」
「そのうち会う機会があるかも知れません。高知様はようやく最近になってこの地の侍たちを集め、従えるようになったと聞きます。きっと都にも勇士を募る声が掛かるでしょう」
「京極家か‥‥」
 百瀬はその名を記憶しておくことにした。

 愛騎のペガサスに乗って村人たちの前に降り立つジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)。
「ふ‥‥おまかせくださいあなたのジョンガラブシです。ミーほどの志士が居りながら苦労をかけかたじけないこと海の如し‥‥」
「は‥‥?」
 呆気に取られる村人たち。一体今何を?
「ふ‥‥おまかせくださいあなたのジョンガラブシです。ミーほどの志士が居りながら苦労をかけかたじけないこと海の如し‥‥」
「志士‥‥様ですか?」
「そうだ。ミーは京都の志士である。ユーたちの助けに求めてこの地に参上した次第」
「そうですか‥‥」
 村人たちは不安そうに顔を見合わせる。大丈夫だろうか、これで志士だというが‥‥。
「ふ‥‥鬼退治などミーほどの志士に掛かれば赤子の手を捻るようなもの。村人たちよ、安心されよ。ミーの戦いを見ればきっと不安も解けるだろう」



 いよいよ鬼との戦闘である。村を飛び出した小坂部、紫電、百瀬。一方、背後の村からは愛騎に跨ったジョンガラブシが飛び立った。ジョンガラブシは馬上から矢を構え、いつでも攻撃出来る態勢をとった。
 茶鬼や小鬼たちは小坂部、紫電、百瀬たちを見ると襲い掛かってきた。
 まとまりのない動き。ばらばらにやってくる鬼の群れを、三人は蹴散らした。
 鬼達はわめきながら後退する。一体一体の戦力は大したことはない。ばらばらに動いているうちは冒険者も互角以上の戦いが出来た。
 撃退された鬼達はわめきながら後退して逃げ出した。もともとそれほど戦意が高いわけでもなさそうだ。あるいは人喰鬼のもとへ冒険者の出現を知らせに行ったのかも知れない。そこまで統制されているかどうかは疑問だが、人喰鬼の中には意外に知恵の回る者がいる。総力戦になれば数では負ける。そうなる前に、やはり人喰鬼を仕留めておきたいところである。

「ブレスセンサー!」
 紫電は風の探知魔法を使って人喰鬼との距離を測る。
「近いよ! すぐそこまで近付いてる」
「他に鬼達は!」
「他の鬼達は‥‥人喰鬼の他にも何匹か取り巻きがいるみたいだ」
 小坂部はインフラビジョンを使う。やがて遠くに赤い塊が見えてくる。
 小坂部は村人から貰った灰を取り出すと、魔法を唱えた。アッシュエージェンシーである。一握りの灰から自身の分身を作り出す魔法。小坂部は次々と灰から分身を作り出す。
 数十体の分身が鬼達の方へ向かっていく。

「むう‥‥」
 ジョンがラブシはその時を待っていた。
 どうやら小坂部が作り出した分身に恐れをなして、茶鬼や小鬼たちの中には逃走する者が多数いるようだ。
「そろそろか」
 ジョンガラブシは戦闘地域の方へ手綱を操り、そちらへ向かう。

 小坂部が作り出した分身は予想以上の効果をもたらし、仰天した茶鬼や小鬼は逃げ出した。
 人喰鬼は苛立たしげに踏み出してくると、分身を殴った。その一撃を受けた分身はもろくも崩れて灰に戻った。
 人喰鬼は配下の鬼達に向かって何やら怒鳴った。その声に叱咤されるように、鬼達は前に進み出てくると、小坂部の分身を攻撃し始めた。
 次々と破壊される分身。
「分身が破られるのは計算のうちです‥‥バーニングソード!」
 小坂部は剣に炎を付与する。
 そして紫電はライトニングソードの魔法で雷の剣を手にした。
「行くぞ!」
 小坂部と紫電は耳に詰め物をして準備する。突撃する二人。
 そして百瀬はオリファンの角笛を吹き鳴らす。
 角笛の音を聞いた鬼達の動きが止まる。
 そこで小坂部と紫電は同時にソードボンバーを繰り出した。二人が繰り出す衝撃波が鬼達を直撃する。
「――奥義、雷火扇陣!」
 衝撃波を受けた茶鬼と小鬼たちは怯んだ様子で後退する。

 オーラエリベイションを発動させていたジョンガラブシは、オーガスレイヤーの神木矢「榊」を放つ。シューティングPAEXで人喰鬼の目を狙った。動けない人喰鬼の片目を矢が貫いた。
 ――グオオオ!
 人喰鬼は絶叫して棍棒を振り回した。
 ジョンガラブシはすぐさま二の矢、ダブルシューティングEXを放つ。
 人喰鬼の体に矢が突き立つ。
 ジョンガラブシは仲間たちに合図を送る。

 百瀬は再びオリファンの角笛を吹き鳴らす。
 そこを狙ってジョンガラブシが人喰鬼に集中攻撃を浴びせる。
 小坂部と紫電はソードボンバーで攻撃。
「紫電殿!」
 百瀬はオリファンの角笛を紫電に手渡すと、刀を抜いた。耳に角笛の音が聞こえないように詰め物をする百瀬。
 紫電は百瀬の代わりに角笛を吹き鳴らす。
 三度吹き鳴らされた角笛が鬼達の動きを封じる。人喰鬼の体に次々と矢が突き刺さる。
「行け! 人喰鬼の動きが鈍ったぞ!」
 ジョンガラブシは上空を舞いながら叫んだ。
 小坂部、紫電、百瀬は突撃した。
 ――グオオオ!
 人喰鬼は他の鬼達を蹴散らすと、突進してきた。
 小坂部は人喰鬼の攻撃を跳ね返しつつ逃げた。まともに食らってはひとたまりもない。人喰鬼は苛立たしげに冒険者の動きを追う。
 紫電は手にしたライトニングソードで打ちかかり、百瀬も追儺豆を投げつけて刀剣で攻撃する。小坂部も加わり、三人で人喰鬼に猛攻をかける。人喰鬼は棍棒を振り回していたが、一体では防戦に追い込まれ、徐々に後退し始めた。
 ジョンガラブシは他の鬼達をダブルシューティングで狙い、仲間たちを援護する。
 小坂部が正面から攻撃し、紫電と百瀬が側面に回りこみ、また人喰鬼が体勢を変えれば別の者が側面に回りこみ、執拗に攻撃を加えていく。
 冒険者たちは巧みに人喰鬼の動きを封じ、攻撃を加える。時折クリティカルヒットが炸裂し、人喰鬼は苦痛にわめいた。
 そして――
 長い攻防の末に、遂に勝ち目無しと見たのか、人喰鬼は最後の咆哮を上げて逃げ出した。
 人喰鬼が逃げ出したのを見て、他の鬼達もわめきながら逃走していった。

「やりましたね」
「何とかやったね。ぎりぎりの戦いが続いたけれど、みんな無事で良かったよ」
「薄氷を踏む戦いだったが、どうにかこうにか勝利を手に入れたな」
 冒険者たちは逃げ出す鬼達を見送りつつ吐息した。刀を収め、村に戻る。
 ジョンガラブシは村人たちの感謝に応えていた。
「まあせいぜい気をつけろ、安全なんて神話に過ぎぬ」
 相変わらず意味不明の言葉を連発するジョンガラブシ。愛騎のペガサスの手綱をさばくと、空に舞い上がって京都への帰路に着くのだった。