反平織同盟、延暦寺の策

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:4人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月13日〜05月18日

リプレイ公開日:2008年05月21日

●オープニング

 伊賀の業火を背景に、京都に向かって進軍する尾張平織軍。
 その勢いは止まるところを知らず、とうとうここまでやってきた。平織氏の上洛である。
 伊賀を瞬く間に呑みこんだ平織軍は戦火交えることなく京都に入った。
 京都にまとまった軍事力を置いて中央の統制をはかる事は、大諸侯達の夢だった。
 源徳家康、平織虎長、藤豊秀吉は彼らの前の貴族達の内乱の反省から、敢えて京都の周りに大軍を駐留させない事でバランスを取っていたが、それが警察組織の乱立を生み、近畿を黄泉人の猛威に曝し、長州の反乱では首都とは思えないほどの軍事的脆弱さを露呈した。
 今、ジャパンの混乱に終止符を打つべく、尾張・美濃・伊賀・近江と、山城まで太いパイプで領地を結んだ平織家が大軍による上洛を果たした。
 長州に反乱を許した藤豊、江戸を追われた源徳の権威は地に落ちている。京都御所の神皇家を守護できる者は平織氏しかいない、この上洛はそれを世に知らしめることだ。
 そして平織氏が掲げる天下布武。武力によって天下統一を成し遂げようというこの平織氏の方針が変わらないとすれば、上洛は階段を一つのぼったにすぎない。
 これは終わりの始まりに過ぎないのだ。

 上洛を果たした平織氏はすぐさま京都御所に入り、神皇家をその庇護下に置いた。
 大軍を擁し、神皇家第一の臣を自任する平織家の行動に異を唱えられる者はいない。血を流すことなく、平織氏の京都支配は完成した。


 ――比叡山、延暦寺。
 一人の忍びが延暦寺から飛び出てきた。
 待てー! 止まれー!
 背後から追ってくるのは延暦寺の僧兵だ。
 びゅん! と矢が飛んでくる。忍びは刀で矢を跳ね返し、逃げ出した。
 と、その時である。目の前に一人の僧兵が立ち塞がった。
「どけ!」
 忍びは切りかかったが、次の瞬間僧兵のコアギュレイトが忍びの身体を捕縛していた。
 どさっと倒れる忍び。
 あとから続々と僧兵がやってくる。
「御坊、お怪我はありませぬか」
「無論だ。こやつ、どこから紛れ込んだ」
「お待ちを‥‥む、この小太刀の家紋は‥‥どこかの間者でしょうが」
「これは‥‥尾張平織氏の家紋ではないか」
「何ですと? つい最近京都に入ったというあの」
「一体どういうことだ。平織の間者がなぜ我らを‥‥」
「こやつ、締め上げますか」
「そうだな。何を企んでいるのか吐かせてやろう」

 ‥‥蔵の中で忍びは吊るされていた。
 僧兵たちが忍びを取り囲み、棒で殴りつけていた。
「吐け! 一体何を企んでいる!」
 僧兵は棒を叩きつけた。忍びは苦痛に耐えて歯を食いしばった。
「おのれ! しぶとい奴め! これでもか!」
 二度、三度、僧兵は忍びを叩きのめした。そして、ついに忍びは口を割った。
「もはや今さらどうあがいたところで手遅れだ。お前たち延暦寺の僧侶たちは火の海に沈むしかないのだ」
「何! どういう意味だ!」
「だから言ったであろう! もはや手遅れだとな! お前たちを全滅させるのが虎長公の御意思よ!」
 そう言うと、忍びは縄抜けで手かせを外すと、微塵隠れの術で消えた。
 真実、平織家の忍者であるかは分からない。しかし、不安と恐怖を残した。


 上洛した平織軍は手始めに延暦寺の攻略を準備している事が程なくして明らかとなった。
 平織軍は畿内を統制するには、全国の天台宗徒を束ねる比叡山延暦寺を押さえることは必要不可欠と言える。
 延暦寺はこれまで黄泉人や五条の乱では特に何もせず中立を装いながら、勝手に武田信玄に上洛を要請したり、最近はジーザス教を弾圧したりと自儘に振る舞っている。その上、鬼門を守護する王城鎮護の寺を名乗りながら、噂によれば鉄の御所の酒呑童子と秘密裏に講和するなど、その行動は目に余るものだ。
 多数の僧兵を抱え、天台宗の総本山として武力影響力共に抜群の比叡山が都の意に沿わないのでは天下布武など夢幻である。
 平織虎長は延暦寺に対し、支配下に入るよう内々にて打診を行った。
 都に最も近い大軍団として、都への臣従を求めたのである。信仰には口を出さないとしながら、目的は僧兵を管理下に置く事だ。
 天台座主慈円は、平織家の要求を突っぱねた。延暦寺は如何なる権門にも屈しないと。
 予想された答えだった。一国に勝る軍事力を持つ延暦寺が戦わず従うとは思わない。平織家は速やかに延暦寺攻撃の準備を始める。
 状況は一触即発の様相を呈している。



 この状況下において、延暦寺が取った選択肢の一つが、京都御所の安祥神皇との接触である。
 上洛した平織氏の権威は何と言っても京都御所の神皇家の存在である。京都御所さえ押さえてしまえば、平織氏は攻撃の大義名分を失う。
 とは言えことは至難の業である。都と比叡山は指呼の間、いつ平織軍が行動に移るか分からない。
 しかも平織の庇護下にある神皇家が、延暦寺に味方してくれるかどうか。神皇家自身も比叡山が都に従わない事には常々不満を持っているとも言われている。
 この謀略がうまくいくとは限らない。
 それでも、延暦寺からしてみれば選択肢は多い方が良い。いかに多数の僧兵を抱えた延暦寺とはいえ、正面から戦えば平織軍に勝てる保証はない。
 そうして、冒険者ギルドに延暦寺から秘密の依頼が舞い込んだ。

 京都御所の神皇家と接触し、平織氏の延暦寺攻撃を阻止せよというものである。ことは内密に、慎重に運んでもらいたいとのことである。しかし急いで欲しいと延暦寺は言う。さてこの依頼、冒険者はどう動く?



 ‥‥京都御所。
 安祥神皇は空を見上げて吐息した。傍らには侍従が膝をついていた。
「また、戦が始まるのか」
「神皇様‥‥虎長公は、全ては平和のためだと」
「それでも、双方ともに無傷では済むまい。止めることは出来ないのか。余にはその力はないか」
「恐れながら、ことここに至っては、虎長公の慈悲に期待するしかないでしょう」
 侍従はかしこまって言った。
 期せずして神皇自身も平和を願い、しかし、攻撃を阻止する手立てをその手に持たず。
 空を見上げる安祥神皇の瞳には、何が映るのか。

●今回の参加者

 eb0340 夕弦 蒼(30歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb0861 無頼厳 豪刃(43歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ec2524 ジョンガラブシ・ピエールサンカイ(43歳・♂・志士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4175 百瀬 勝也(25歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

鎌刈 惨殺(ea5641)/ 小鳥遊 郭之丞(eb9508)/ レラ(ec3983)/ リディック・シュアロ(ec4271

●リプレイ本文

 目前に迫った比叡山攻撃を阻止しようと、四人の冒険者は策を練る。
 依頼主は延暦寺。神皇家と接触して平織軍の攻撃を止めよというが、何かつてがある訳でもなく、たった四人で何が出来るか。正直、絶望的な依頼である。
 しかし、冒険者たちの心にあるのは等しく同じこと。依頼こそ延暦寺から出されたものだが、この戦を平和裏に収める事だけを考えている。
「虎長と悪魔がつるんでるって噂もあるけど、まだ確証はないし、今ここで争うのは危険すぎるよなぁ」
 良い策がまとまらず、夕弦蒼(eb0340)は頭を抱える。
 現在、ジャパン全土が騒乱の空気に満たされている。
 人間の戦だけでなく、神々の復活や黄泉人、悪魔の策謀も見え隠れする。無茶な依頼でも引き受けたのは、何かしなければとの思いからだ。
「だからこそ、今回一縷の望みを託して延暦寺の依頼に乗ったわけだが‥‥」
 無頼厳豪刃(eb0861)はそう呟きながら筆を取っていた。机の上には神皇家に出す予定の書状が載っていた。草稿は有弦が作り、無頼厳はそれを添削して書状にしたためた。
 書状の内容は、丹後で聞こえる神の暴走や、反平織を表明した天照の決断について、また江戸の冒険者から伝え聞く房総で始まった戦の話や、これも最近噂されている黄泉人の動きが活性化していること等。その上で、悪魔は戦乱を利用して下僕を増やす生き物だと危険性を述べ、今もし戦渦を広げれば江戸の大火のようなことになるかもしれないと忠告する。要は神皇の危機感を煽る内容だ。
 長文をすべて書き終えて無頼厳は筆を置いた。
「まあ、こんなところか。拙文だが、拙者達の気持ちを伝えることが出来ればそれで良いだろう。どうだ?」
「いいんじゃないか? 俺は学のある方では無いんでね。神皇様に読んで貰う文の良し悪しなど分からんよ」
 百瀬勝也(ec4175)は一通り文面に目を通してから、身も蓋もない事を言って肩をすくめた。志士であり、四人の中で一番文章が達者な無頼厳に任せるだけ。
「俺たちに出来るのはこれが精一杯だ。こちらの意思が伝われば、それで良しとせねばな」
「だが、どうやって神皇様に渡す? 御所の連中がまともに取り合ってくれるとも思えないが」
「延暦寺の使者として行けば、まさか無碍にはしまい。とは言え、御所は平織が守っているし、この交渉自体、今の段階では表に出せる話では無い。どうしたものか‥‥」
「確実な話では無いが――敵の敵は味方という。今、一番御所を動かしたいと思っているのは、それも俺達と同じく平織に内密でと考えているのは長州だろう。俺は長州とコンタクトを取ってみようと思う」
 夕弦は手紙を折りたたむと、それを重箱の中に入れた。この重箱がうまく神皇家のもとへ辿り着くことを祈って賭けに等しい行動に出る。


 ――冒険者が推測した通り、平織支配下の京都で水面下の動きが慌ただしいのは長州だ。折角神皇家と交渉に来たのに、平織の出現で全てご破算ではたまらないと躍起になっている。
 鎌刈惨殺の助けで、夕弦は長州藩士と接触した。
 長州藩士から指定された料亭に入る夕弦。
「いらっしゃいませえ」
 女中が夕弦を出迎えた。
「田中殿と待ち合わせているのだが」
「はい、伺ってますよ。田中様は先にお付きです。どうぞ」
 女中の案内で夕弦は奥の部屋に向かう。膝をついた女中が障子を開けた。
「待ち合わせのお客様がいらっしゃいました」
「ああ、待ちかねた」
 中から田中‥‥長州藩士と思われる者たちの声がした。
 夕弦は緊張して部屋に入った。数名の長州藩士たちがいて、しかめっ面で夕弦を見つめている。
「忙しい中で無理を聞いて貰い、感謝する。俺は夕弦蒼。紹介者から名は聞いていると思うが」
 頷く長州藩士。
「感謝されるか否かは、用件次第だろう。とはいえ、我らに頼みとは穏やかな話ではなさそうだ」
「嫌だなあ。まあ警戒されるのも当然ですが」
 夕弦は藩士たちの前に座る。生きて出られるかはまさしく運次第。
「実は、延暦寺から依頼を受けましてな。現在の状況は皆さんもご存知でしょう」
「平織が増長し、延暦寺を攻撃するのは予期できた話だ。都が我らの忠言を聞き入れず、反対に大諸侯の専横をみすみす許す結果になったのはまったく同情出来ないが、天下国家を思えば憂慮する事態と言わねばなるまい」
 夕弦は黙って聞いていた。長州藩士達を凄いと思うのは、こんな所だろう。彼らはいつも自分達がジャパンを救うつもりでいる。いや、腐敗した大諸侯を打倒してジャパンを救うのは自分達以外に無いとすら考えている。そこに付け入る隙は十分ありそうだった。
「延暦寺の要請とはいかなるものか」
「京都御所の神皇家と接触し、神皇家から平織軍を止めよ、とのことです」
 長州藩士たちは呆れ返った。
「どのような策があるのかと思っていたが。延暦寺にはまともな策がないのか?」
「延暦寺は無数の策を持っている。これもその一つだが、長州には悪い話ではないはず。平織が警護する御所に、陛下は事実上、監禁されているのだ。長州の力で御所の陛下と連絡を取る事が出来れば、必ずや味方してくれるだろう。陛下をお救いすれば、長州の真意も伝わるに違いない」
 夕弦は口から出まかせを言ったが、長州藩士たちは考え込んだ。罠である危険もあるし、冒険者達を信用するのは難しいが、確かに悪い話でない。その様子を見て、夕弦も確信を得た。こと都の地下活動にかけて長州は第一人者。平織の支配下にあっても御所潜入、やはり不可能ではないらしい。
「それで、我々にどうせよというのだ」
 結局、彼らはこの話に乗る事にした。飛び上りたいのを押えて、夕弦は用意してきた箱を取り出す。
「この重箱を神皇家に渡してください。以前の会談で、冒険者から神皇様への贈り物を預かったということで。中には神皇様にしたためた封書が入っております」
「ふむ‥‥中身を確かめるが良いな」
「勿論です」
 長州藩士たちは重箱を開いた。それから封書に目を通す。
「分かった、確実に神皇様の手に渡るよう図ってみよう」
「感謝します」



 数日後、冒険者たちのもとに御所から密かに使者がやって来た。
 会いたいというのである。
 驚くべき話だった。冒険者達もそこまでは期待していない。状況的に、書状が届けば御の字で、破り捨てられても仕方がないと考えていたのだ。
 冒険者達は陰陽寮に調べ事があるという名目で御所に入り、そこから陰陽師の手引きで密かに内裏へはいる。

 内裏に通された冒険者たち。しばらく待っていると、高位と思える公家が姿を見せた。
 平伏する冒険者達に、公家が声をかけた。
「延暦寺から話があるそうだが」
 公家はそう言って微笑んだ。書状には具体的な事は書いていない。どう切り出すか迷っていると。
「よい、忌憚なく思いのままを申してみよ」
「では‥‥」
 夕弦が口を開いた。
「我々が書き記しました封書は、目を通して頂けたでしょうか」
「あれはそち達が書いたのか。うむ、読ませてもらった」
「延暦寺は、陛下に虎長様を止めてもらうことを望んでいます。しかし、今すぐに止める事は難しい。
 いざという時に神皇様が『待った』と言ってくれれば大きな切り札になる。その時が来たならば、ご英断をお願い致しまする」
「‥‥それだけか?」
 公家は怪訝な顔をした。何か条件を持ってきたのかと思っていたのだろう。
「はい」
「何か裏があるのか?」
「残念ながら、確たる事は申し上げられません。ただ、虎長には悪魔とつるんでる噂がある」
「悪魔とな?」
 冒険者は何かというと悪魔の仕業だという。ジャパンで馴染みの薄い悪魔の事を、一番宣伝しているのは冒険者だろう。そのため、悪魔は冒険者の売り文句と思われている節もあるが。
「荒唐無稽と思われるかもしれないが単なる噂、ではない」
 と言ったのは無頼厳。
「虎長が魔王と呼ばれるのは、延暦寺を攻撃しようとしているからだけではない。延暦寺と平織軍が争うことになれば、必ずや魔性の者達も動くに違いない。何が起こるかは分からないが、大混乱が起きる。奴らが動く時は必ず国を揺さぶる騒ぎが起きている。その時、陛下の言葉があれば、迷う事なく延暦寺も冒険者もいっせいに動きましょう。平織軍もまさか、神皇様に危害は加えますまい」
「そち達の言葉は、一つも確かなことが無いな。いたずらに不安を口にし、陛下の御心を乱して御意を得ようとは、そち達こそ、悪魔に踊らされた輩のようじゃ」
 公家はやれやれと溜息をついた。
「神皇様のお心はいかに?」
「沈んでおられる。戦を快く思ってはおられぬが、虎長が延暦寺を従わせられるというのを信じておられる」
 すると百瀬が口を開いた。
「かつての虎長公ならば、無法な延暦寺にも情理を尽くされた筈。公の復活に関係したジーザス会の中に悪魔を感じた者が何人もおります。万が一の時には、神皇様には民の味方になって頂きたい」
「また悪魔か。証拠はあるのか?」
 悪魔は神出鬼没で証拠を残さない。昨日は江戸で反乱を扇動する源徳武士に化け、今日は京都でジーザス教の宣教師に化けているといった具合である。だから感知し、姿を見ようと冒険者の証言では弱い。悪魔の専門家でかつ身分の高い者を味方にする必要があるか。
「それでは遅いのです。
 戦乱の世になれば武士は主君のため、自ら争いを起こすもの。
 戦が起きれば数多の命が失われる。それこそが悪魔の目的。平織と延暦寺が衝突して、大戦に発展しないはずがありません。
 そして、今回の戦を止められるのは神皇様のみ。
 比叡山を攻めるなど、本来なら言語道断の悪行のはず。神皇様にこの戦の是非を明言して頂ければ、勅命という大儀を失った平織の動きは止まりましょう。それでも虎長公は比叡山を焼こうとするかもしれませんが、一日二日の猶予は出来るはず。それだけあれば、最悪の戦は避けられます」
 そう言って百瀬は吐息した。
「私は侍ですが、仕えるべき主を迷っています。ことここに至り、叶うならば神皇様のために働かせて頂きたいとも思っております」
 すると公家は書状をしたためた。
「若武者よ、それは重い決断だぞ」
「はい‥‥」
 百瀬は志士推挙状を受け取った。
 と、その時である。廊下を安祥神皇が通りかかった。神皇は立ち止ると室内に一歩入ってきた。
「この者たちは?」
「延暦寺の冒険者たちです」
「そうか、この者たちが‥‥」
 と、その時である。
 上空から愛騎のペガサスでジョンガラブシ・ピエールサンカイ(ec2524)が登場した。
「正義の使者‥‥参上! あっ!」
 次の瞬間、衛兵の矢を雨あられと受けて、ジョンガラブシはバランスを崩して地面に倒れた。
「各々方、曲者でござる!」
「単騎で御所を襲うとは、太い奴!」
「なめおって。生まれた事を後悔させてくれるわ」
 夥しい罵声を受け、立ち上がるジョンガラブシ。無論、三人の冒険者は他人のふりだ。
「ふ‥‥王よ、あなたの民が咎無く死に至ろうとしている。王よ、人の子になられよ。人のまま、人の中心になるのです。そうすれば貴方はこの国そのものになる。ミーはあなたに仕える志士である。神皇の言葉とあらば百千万の敵と言えど立ち向かい、その言葉と意思を伝えよう。人は力を合わせる事で強くあり、王はその要となる。正しき者よ、躊躇わずその言葉を紡ぐのです‥‥ぜ」
 ジョンガラブシの姿は群がる衛兵の海に消えた。そのまま御所の外に連れ出されるジョンガラブシ。信じがたい話だが、彼は本当に志士である。ぼっこぼこにされたが、志士が御所に乱入など公言できる筈もなく、この件は不問にされた。
 呆気に取られていた冒険者たち。まさか強行するとは‥‥。
 安祥神皇は再び室内に目を向けた。
「余は一刻も早く戦が終わることを祈っている。汝らの尽力を期待している」
 神皇はそれだけ言うと、哀しそうな笑みを浮かべて部屋を出ていた。
 あっという間のことだったので、冒険者たちは答える時間もなかった。
「今は我らも虎長に手を出しようがないが、お主らの言葉は確かに受け取った。では、会見はここまでだ」
 公家はそう言うと、会見の終了を告げたのだった。