丹後の平定、大国主の侵攻【宮津】

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:05月16日〜05月21日

リプレイ公開日:2008年05月24日

●オープニング

 ――丹後。
「死人だー! 死人の群れが来たー!」
 村に響く警戒の声。
 村を覆う防護柵の向こうから迫り来る気配。アンデッドの群れである。死人憑きや怪骨の集団が防護柵に接近してくる。生者の気配を察知して、アンデッドは人々に襲い来るのだ。
 村人たちは押し寄せるアンデッドに対して防護柵を築いていた。主だった対抗策と言えばそれくらいである。
 アンデッドの大軍が防護柵に激突する。ゆらゆらと揺れる防護柵。これが突破されれば最後である。
 そして――
 遂に防護柵が突破される。村に次々とアンデッドがなだれ込んでくる。
 悲鳴と怒号が交錯する。あとは修羅場。我先に逃げ出す人々。
 と、逃げ出す村人たちの前に立ち塞がるものがあった。
 それは亡霊軍隊である。亡霊の大軍が村人たちの前に立ち塞がったのである。
 村人たちの足が凍りつく。背後には死人の群れ、前方には亡霊の大群。逃げ場はない。
 大半の村人たちはその場に座り込んだ。最後の時が来るのを祈って待つばかりであった。
 だが――
「者ども! 突撃せよ!」
 亡霊軍隊の兵士たちはときの声を上げると、村人たちを素通りして、死人の群れに向かって突撃していった。死人の群れを次々と撃破していく亡霊軍隊。
 村人たちは呆然とその成り行きを見守った。死人たちは大地に沈み、後には亡霊の大軍が残っていた。村人たちに襲い掛かってくる気配はない。
 そこへ一人の人物が現れた。古代の神官のような服装をした人物である。顔色は悪く、血の気が引いたように青白い。その男は言った。
「民よ! この地を覆う暗雲からお前たちを救って見せよう! 死人や盗賊たちからこの国を取り戻して見せよう! 余の力を持ってすればそれは不可能ではない! 今お前たちは余の力を見たであろう! 余の不死身の軍隊にかなう者などいない! 余は大国主! 王の中の王、そして神である! 民よ約束しよう! 余が王となった暁には、この地に平和と安定をもたらそう!」

 亡霊軍隊を率いる大国主の名は丹後の民を震撼させた。が、現に盗賊や死人を駆逐しながら大国主率いる亡霊軍隊は丹後を進軍した。そして――

 宮津――
 丹後宮津藩主、立花鉄州斎は宮津城下で家臣団から報告を受けていた。
「殿、大国主を名乗る者が率いていると言う亡霊軍隊が城下に接近しております。いかがなさいますか」
「迎え撃て、亡霊などに私の藩を好き勝手にはさせぬ」
「しかし‥‥相手は神ですぞ。天津神も丹後に振り下ろされる鉄槌として大国主の侵攻を予見しておりました」
「ではどうせよと言うのだ」
「噂では大国主は平和と共存の道を探っていると言います。何とか交渉の糸口を探し、ことを穏便に済ませる方策を探るべきではないでしょうか」
「ふん、そのような言葉信じられんな。亡霊を束ねる者が平和と共存の道を探しているなど、怪しいものだ」
 ――確かに! その通りだ!
「ですが、現にアンデッドを撃退するなど、民の間では大国主と不死人の軍隊の登場を歓迎する声もあります」
「よかろう、アンデッドを撃退してくれると言うならそれも良し。大国主の力を借りようではないか。だが、亡霊の軍隊とは穏便ではない。こちらも相応の用意が必要だろう。戦闘準備をして亡霊軍隊を出迎えよ」
「は‥‥」

 ――宮津城下周辺
 家臣たちは甲冑をまとって亡霊軍隊を迎えていた。家臣たちは基本的に大国主と何とか交渉に臨みたいと考えていたが、中には戦々恐々とする者もあれば一戦交えるつもりの者もいた。
「一体大国主とは何者なのだ。亡霊の軍隊を率いているとは。しかも民を救ったと言うではないか」
「およそ人間ではあるまい。そのような者とまともな交渉が出来るのだろうか‥‥」
「だが、民の間の噂では、王と名乗って自ら神と称しているそうだ。最近の天津神の降臨と言い、一体この地に何が起きようとしているのだ」
 そうこうしている間に、宮津軍の眼前に亡霊軍隊が現れた。迎え撃つ宮津藩。
 亡霊軍隊は接近してくると停止した。不気味な軍隊である。甲冑をまとった死人の姿をしている。
 と、中から一人の人物がやってきた。青白い顔をした死人のような壮年の男である。大国主である。
「丹後の民よ! 武器を収めよ! 余は大国主である。余は平和と共存の道を望んでいる! 武器を収め、余が示す道に従え! そうすれば事なきを得て全ては穏やかに進むだろう」
 武将たちは動揺する兵士たちを押さえながら大国主の前に進み出た。
「あなたが大国主と申されるか。この亡霊軍隊は穏やかではありませんな。ところで、あなた様が示す道とは何なのですか」
「余をこの国の王として迎え、余とともに国津神の王国を築くことだ。無論余はこの地の安泰に全力を上げるつもりだ。この地を覆う暗雲を振り払い、王道楽土を築き上げるのが余の望みだ」
「とにかく、いったん兵を引き上げてもらいましょう。王道楽土を建設するというのであれば民の協力なくして成し遂げられるものではないでしょう。我々の主に話をいったん持ち帰り、検討したく思います」
「何か勘違いしているようだな」
 大国主は笑った。
「余の目的は丹後の平定。その前に立ち塞がる者は誰であろうと叩き潰すつもりだ。実際、お前たちに選択肢などないのだ。余に従わぬと言うならお前たちを叩き潰すまでだ」
 武将たちは危険を感じてあとずさった。
「とは言え、すぐに決められぬと言うならよかろう、猶予をやろう。答えが出るまで暫し待ってやろう」
 大国主はそう言うと引き下がり、亡霊軍隊も後退した。

「これが天津神が言っていた鉄槌か‥‥」
 鉄州斎は戻ってきた家臣団から大国主の言葉を伝え聞いていた。
「さてどうする。恭順の意思を示さねばこちらを叩き潰すと言うが‥‥」
 鉄州斎は扇をもてあそんだ。
 と、その時である。兵士の一人が飛び込んできた。
「申し上げます! 籠神社の天津神様が鉄州斎様にお会いしたいと申され、やって来られました!」
「何?」
 そうして、天火明命、天御影命、天鈿女命の三神が室内に入ってきた。三神とも炎をまとっている。
「大国主が来ているのであろう。どうするつもりだ」
 天火明命の言葉に鉄州斎は、
「分かりませぬ。天津神には何か妙案がおありですか」
「妙案と言えるほどのものはない。が、助け舟を出しに来た」
「伺いましょう」
「戦士たちを呼べ」
「と言いますと、京都の冒険者たちですか」
「その者たちのことは知らぬが、今の世にも天津神の戦士に匹敵する者たちがいよう。彼らの力を借りよ」
「ふむ‥‥」
 鉄州斎は扇を弄びながら三神の天津神を見つめるのだった。



 京都、冒険者ギルド――
「丹後に危機が迫っています。大国主が亡霊軍隊を率いて押し寄せ、恭順を迫っております。従わねばただでは済まないだろうと言っております」
 宮津藩の使者はいったん言葉を切った。
「その時です。天津神様が藩主の前に姿を見せられ、冒険者の助けを呼べとおっしゃいましてな。我らが藩主鉄州斎様はこの困難に京都の戦士たちの力を借りることを決意なさいました」
 ギルドの手代は真剣な顔つきで筆を走らせていた。最近京都は情勢が緊迫しているのだ。
 丹後宮津藩に迫った大国主との交渉はぎりぎりの展開が続いており、いつ宮津が亡霊軍隊に占領されてもおかしくない状況であった。
 冒険者たちはどう動くのか。宮津藩の行く末は‥‥。

●今回の参加者

 ea5062 神楽 聖歌(30歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2277 レイムス・ドレイク(30歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb5988 バル・メナクス(29歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb9090 ブレイズ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ec0569 ガルシア・マグナス(59歳・♂・テンプルナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

チサト・ミョウオウイン(eb3601)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

 宮津軍――。
 グレン・アドミラル(eb9112)は一同を代表して宮津藩主の立花鉄州斎に進言していた。
「私は以前、京都近郊であの亡霊軍隊と遭遇した経験がございます。その時の偵察で判明した軍勢の数は千を超えました。これは比叡山に匹敵する、いえそれ以上の軍勢です。まともに戦っては勝ち目が無く、救援を願う事になるでしょう。
 しかし救援と言っても、そう簡単には来ないでしょう。ならば相手が本当に民の平和を望み、話が通じる相手か如何か確め、もしこの国のみならず、京にまで戦火を及ぼす相手なら援軍を請う事も出来る筈です。まず其処を確めるべきだと思います」
 道理である。天火明命が頼れと言った京都の冒険者の言葉だったし、鉄州斎は冒険者たちの進言を容れて、大国主との再度の接触を図ることにした。

「ふう、どう動きますか‥‥」
 神楽聖歌(ea5062)は遠くに見ゆる大国主の軍勢を見つめた。自分たちが来たことで状況は変わりつつあった。大国主の軍勢と戦うつもりでいた宮津藩主の意向に修正が加えられ、いったん宮津勢と大国主の間で交渉が持たれることとなった。そしてその重要な役割を藩主の立花鉄州斎は冒険者たちに委ねたのである。
「成功すれば良いですが」
 神楽の思考は、戦闘になった時のことを想定していた。オーラ全開で宮津の盾となるつもりである。
 と、その傍らに甲冑をまとった鉄州斎が立った。
「交渉はうまくいきますかな」
「分かりませんわ。ただ、あの亡霊軍隊に従うのは危険でしょう。大国主の言葉は脅迫です」
「その通りです。ところが、民の間にはあの亡霊軍隊を歓迎する向きもあるようでしてな」
 鉄州斎は厳しい表情で亡霊軍隊を見つめた。

 宮津軍の中には炎をまとった三柱の天津神も姿を見せていた。
 宮津軍は総勢百騎余り。その後方に天火明命、天御影命、天鈿女命が控えていた。
 天津神のもとには楠木麻(ea8087)とガルシア・マグナス(ec0569)、グレンがいた。今回グレンはガルシアの通訳である。
「神々よ、こんなところにいては危険です」
 戦場に出てきた神々に感銘を受けないでもないが、楠木には無謀と思えた。
「国津神が交渉で神々との交換を要求してきたらどうしますか。交渉が成功しても安心はできません。裏で暗殺を狙うかも。神々には、天照様がおわす伊勢に避難して頂きたく」
「我は戦士だ。危険だから下がるなど、考えた事がない」
 天火明命はそう言って楠木の忠告を一蹴した。
 ガルシアは天津神に大国主と争うつもりであるのか問うてみる。
「大国主の出方次第。あれがどうやって現世に蘇えったか知らぬが、どんな国をたてる気か。それによっては味方せぬでもない」


 その頃、冒険者の一部は大国主との交渉に当たっていた。
 大国主は意外に状況を把握していた。京都の冒険者と聞いても驚かなかった。
 大国主を王として迎えるのは難しいと伝えるカンタータ・ドレッドノート(ea9455)。
「京都で大きな争いが始まろうとしています。大乱の兆しあり、問題が収束するまでの間だけでも力を合わせて解決に当れないでしょうか」
 カンタータは大国主に和解案を示す。
 大国主は和解案を一蹴する。
「余は王の中の王であるぞ。この地に王道楽土を建設するのが余の目的。京で乱が起きたなら、丹後の有力者は余に従い、国をまとめるが最良。一時の和睦など‥‥混乱するだけである」
 レイムス・ドレイク(eb2277)も説得を試みる。
「死人達から民を守ろうとする志には敬服致しますが、今、大国主様を王と仰ぐには参りません。
 この地は、黄泉人達の侵攻により死人の徘徊する魔界となりました。
 その地に光臨し鎮護の意思を示される大国主様は民の希望と相成りましょうが、そのお姿は死人のそれにございます。
 配下の方々は太古の英霊‥‥ですが、亡者と恐れる者もおりましょう。黄泉人の同胞と思われねません。
 誤解が諍いを生じれば、丹後を滅ぼすのみならず、異教の信徒や天津神が立つ事になりましょう。
 どうか今しばらく、各地の藩主の攻略を思い止まり、民をお救い下さい」
「これは余の復権の第一段階に過ぎぬ。余に反感を持つは理解できるぞ、権力者とは然様なものだな。故に余を王と認めぬ者は叩き潰し、王の力を見せるのだ」
 大国主は丹波の外も視野に入れている。妥協していては丹波統一でさえ覚束ない。
「話がでかい。だが、共存共栄は呑めても降伏・恭順は呑めぬ」
 毅然と主張したのは明王院浄炎(eb2373)。
「言う事を聞かねば力押し‥‥とは神話に名高い神の行いとは思えぬが、その真意は何処にあるのだ。不撓不屈の民と謳われた丹後の民を見定めようとしての行いか、あるいは都の喉元を抑え睨みを利かす為か、それとも、この地に集る陰の気を用いる為か」
「言ったであろう、これは余の復権の第一段階だと。藩主に伝えよ、余に従えぬのなら覚悟せよとな」
「大国主よ、幽冥主宰大神とも呼ばれし貴行なら、打砕かれし陰陽の循環を取戻す術も、地に溢れし死霊を治る術もご存知ではないかな」
「ほう、見えざる者に手を出すか。ならば黄泉を友とせよ。答えはそこに無いが、道標となろう」
 大国主はそう言って笑った。
 もはや望みはなさそうだが、ブレイズ・アドミラル(eb9090)も説得に当たる。
「大国主様に鎮護の志有り、民を救わんとして頂いた事には感謝いたしますが、神より預かる人の世の王と言う形は、お認めになるのでしょうか」
「望みを申せ」
「今、世を預かる神皇様と神皇様の元、国の平定に動こうとするのは、尾張藩の虎長様と申します。大国主様が訪れた後、天津神様の使者や、魔王の使いと称する使者が訪れるだけで無く、天照様の降臨、対立する勢力の尾張の虎長様との対立が深まる中、降る事も、戦する事も大国主様に良からぬ風評が流れる事を懸念します。その為、降る事は出来ませぬが丹後の地に蔓延する死者・妖怪を大国主様と共に退治し、この地に平穏を取り戻す事で、大国主様の志を世と主家に知らせたいと考えます。大国主様には再三の願いとなり心苦しいですが、如何かお聞き届け下さい」
「世が乱れておる。だから降れぬ。先に魔物を退治せよ、そうすれば志を知らせると‥‥余を大王と知ってそこまで愚弄するか。今の大和の王どもは、余を魔物の親玉くらいにしか思っておらぬようであるな。
 余には分かっておった。戦なくして国は取れぬ。賢明な者は中々おらぬものだ。認めぬというなら、王の力、示してくれよう」
 この神は和平の道を自ら絶った。



 さて、冒険者たちの提案で戦闘地域に防護柵が築かれていた。
 それを指揮するバル・メナクス(eb5988)とグレン、ガルシア。
 バルは足止め用の罠として虎バサミを改良して設置していたが、
「亡霊相手にどこまで罠が通用するかは分かりませんねえ」
 足のない相手に虎バサミが通用するであろうか、バルの言葉はもっともである。
 宮津兵はせっせと柵を築き上げていく。
 兵士たちを指揮するグレンとガルシア。バルは慣れた手つきで工具を扱いながら柵の作成に取り組んでいた。
 そうして、宮津城下と戦場との間に広大な柵が築き上げられた。



 交渉役の冒険者たちは戻ってくると、藩主の鉄州斎にその決裂を告げた。
「何と、あの亡霊たちは神皇家に敵対するというのか。大国主とは一体何者なのだ」
 鉄州斎の驚きに、カンタータは天津神たちに問いかけた。
「大国主との間に何があったのですか」
「大国主とはかつて戦った間柄だ」
 天火明命は答えた。
「かつて? というと、それは昔のことですか」
「そうだな」
 大国主の国譲り神話にまつわる逸話だろうか。カンタータは興味を覚えてさらに問いかけた。
「その時から、大国主はあのような亡霊軍隊を率いていたのですか」
「いや、あのような亡者を束ねてはいなかった。我らが戦った時、あ奴は王と呼ばれていた。ただ、あ奴は死んだはずなのだが‥‥」
「その戦いは、どれくらい昔のことなのですか」
「さてな。我らに、時は意味が無い。ずいぶん昔であったような」
 天火明命は火の精霊である。精霊は云わば意志を持つ自然現象であり、人格を持つと言っても人間とは考え方が根本的に異なる。定まった寿命も無く、そもそも生死の概念が殆ど無い。
「二百年くらいでしょうか? 五百年、千年‥‥それとも、もっと?」
 冒険者たちは天津神の返答をじっと待った。
 待つこと数分‥‥天火明命は突然笑い出した。
 呆気に取られる冒険者たち。
「いやはや! 昔のことなので忘れてしまったわ!」
 肩透かしを食らった冒険者たち。天御影命がうおっほん! と咳払いすると、天火明命は何かを思い出したようで、
「いや、一つ思い出したぞ。あ奴は、魔王とも呼ばれておった」
「魔王?」
 冒険者たちは首をひねった。天津神の記憶も肝心なところではあやふやなようで謎は解けない。
 いずれにせよ、大国主は一戦交えるつもりだ。冒険者たちは気持ちを仕切り直して戦いに臨む。



 前進してくる大国主の大軍。亡霊武者たちが隊列を組み、滑るように進軍してくる。
「グラビティーキャノン!」
 楠木の両腕から魔法の重力波がほとばしる。波動が亡霊軍隊を貫き、亡霊たちを吹っ飛ばす。
 しかし亡霊軍隊は意に介した風もなく進軍してくる。
 二度、三度と炸裂する楠木の魔法。 
 効いてはいる。しかし亡霊軍隊は前進を止めない。
「我らが守りしは、力なき無辜の民の平穏な日々! 各々方、守るべき者を持つ人の強さ、しかと見せ付けようではないか! 勝ち急ぐ必要はない! 我らは只“負けねば”良いのだ! 彼の者達に何度来ようと無駄と思い知らせれば良いだけの事よ!」
 明王院の言葉に兵士たちは奮い立つ。
「今日この日を、私たちは負けないために戦いましょう! いつの日か亡者の群れがこの地を支配する時が来るかも知れません! ですが、それは今日ではありません!」
 神楽も兵士たちを奮い立たせる。
「今日この日を我らは戦わん! 負けないために! 我らは盾となろう! 宮津のために!」
 バルの言葉に兵士たちはときの声を上げた。

 ――宮津のために!

 ――行くぞ! 突撃ー!

 ――ウオオオオ!

 神楽、レイムス、明王院、バル、ブレイズ、グレン、ガルシアらは先頭に立ち、剣を構えて亡霊軍隊に突撃していく。後に続く宮津の兵士たち。

 ――行けええ!

 激突。宮津軍は正面から亡霊軍隊と激突した。

 そして――



 激闘の末に、大国主率いる亡霊軍隊は引き上げていった。勝ったのか、あるいは予想外の抵抗に恐れをなしたか。
「これで終わったのでしょうか」
 神楽の問いに、天津神の天火明命が答えた。
「始まったばかりだ。かつてのあやつとの戦は、長い長いものだった。大国主は必ずや再来するだろう」
 天津神の言葉に地平の彼方を見つめる冒険者たち。