丹後の平定、大国主の侵攻【峰山】

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月17日〜05月22日

リプレイ公開日:2008年05月24日

●オープニング

 ――丹後。
「死人だー! 死人の群れが来たー!」
 村に響く警戒の声。
 村を覆う防護柵の向こうから迫り来る気配。アンデッドの群れである。死人憑きや怪骨の集団が防護柵に接近してくる。生者の気配を察知して、アンデッドは人々に襲い来るのだ。
 村人たちは押し寄せるアンデッドに対して防護柵を築いていた。主だった対抗策と言えばそれくらいである。
 アンデッドの大軍が防護柵に激突する。ゆらゆらと揺れる防護柵。これが突破されれば最後である。
 そして――
 遂に防護柵が突破される。村に次々とアンデッドがなだれ込んでくる。
 悲鳴と怒号が交錯する。あとは修羅場。我先に逃げ出す人々。
 と、逃げ出す村人たちの前に立ち塞がるものがあった。
 それは亡霊軍隊である。亡霊の大軍が村人たちの前に立ち塞がったのである。
 村人たちの足が凍りつく。背後には死人の群れ、前方には亡霊の大群。逃げ場はない。
 大半の村人たちはその場に座り込んだ。最後の時が来るのを祈って待つばかりであった。
 だが――
「者ども! 突撃せよ!」
 亡霊軍隊の兵士たちはときの声を上げると、村人たちを素通りして、死人の群れに向かって突撃していった。死人の群れを次々と撃破していく亡霊軍隊。
 村人たちは呆然とその成り行きを見守った。死人たちは大地に沈み、後には亡霊の大軍が残っていた。村人たちに襲い掛かってくる気配はない。
 そこへ一人の人物が現れた。古代の神官のような服装をした人物である。顔色は悪く、血の気が引いたように青白い。その男は言った。
「民よ! この地を覆う暗雲からお前たちを救って見せよう! 死人や盗賊たちからこの国を取り戻して見せよう! 余の力を持ってすればそれは不可能ではない! 今お前たちは余の力を見たであろう! 余の不死身の軍隊にかなう者などいない! 余は大国主! 王の中の王、そして神である! 民よ約束しよう! 余が王となった暁には、この地に平和と安定をもたらそう!」

 亡霊軍隊を率いる大国主の名は丹後の民を震撼させた。が、現に盗賊や死人を駆逐しながら大国主率いる亡霊軍隊は丹後を進軍した。そして――

 峰山――
 丹後峰山藩主、中川克明は峰山城で家臣の安中吉天から報告を受けていた。
「殿! 大国主を名乗る者が率いていると言う亡霊軍隊が間もなく城下へ入ろうとしております! いかがなさいますか!」
「迎え撃て、亡霊などに我が藩を好き勝手にはさせぬ」
「しかし‥‥家臣団も兵士たちもすっかり怖気づいております。聞けばあの亡霊たちは民を救っているとか。話の通じる相手であれば、交渉も一つの手段ではないでしょうか」
「馬鹿を申せ!」克明は激怒した。「得体の知れぬ輩に国を明け渡してなるものか。亡霊にこの国を蹂躙させるのか。わしは断じて許さぬぞ!」
「殿――」
 傍らに控えていた克明の娘、春香姫が口を開いた。
「私が行って様子を見て参りましょう。危険な相手であればその場で斬って捨てるまで」
「それこそ馬鹿を申せ! お前が出て行くような相手ではない!」
「それではどうなさいますか、家臣団は亡霊軍隊に恐れをなしております。いずれにしても、誰かが亡霊と相対せねば」
「だからと言ってお前をやるつもりは毛頭ない! 控えておれ! 安中! 亡霊を一匹たりとも通すな!」
「ははっ!」

 ――峰山城下。
 怯える家臣団と兵士たちを安中は叱咤激励していた。
「亡霊を一匹たりとも城下に通すなとの殿の仰せだ! 者ども! 死兵となって戦え!」
 そんな時、安中の横に甲冑を着た春香姫が現れた。
「姫?」
「安中、亡霊と戦うのは愚作というもの。とは言え私は藩を亡霊に蹂躙させるつもりもありません。お前の言う通り、まずは交渉するべきでしょう」
「姫、城を抜け出したことを知れば殿はお怒りになりますぞ」
「いちいち細かいことを気にしている場合ですか。あの亡霊たちと戦って勝ち目があるとも思えません。協力してくれますね」
「仕方ありませんな」
 そうこうしている間に、亡霊軍隊は城下に迫っていた。迎え撃つ峰山藩。
 亡霊軍隊は接近してくると停止した。不気味な軍隊である。甲冑をまとった死人の姿をしている。
 と、中から一人の亡霊がやってきた。こちらは若い青年の姿をしている亡霊である。
「丹後の民よ! 武器を収めよ! 我らは大国主の使いである。大国主は平和と共存をお望みである! 武器を収め、大国主の示した道に従うことを要求する!」
 春香姫と安中は動揺する兵士たちを押さえながら亡霊の前に進み出た。
「我々は丹後峰山藩の代表です。大国主はどこにいるのですか」
「王は別の場所に向かっておられる。私は王の忠臣長髄彦。王の代理である。答えを聞こう。王に従うや否や」
「大国主の示す道とは何です?」
「大国主を王として迎え、王のもとに国津神の王国を築くことだ。無論王はこの地の安泰に全力を上げられるだろう。この地を覆う暗雲を振り払い、王道楽土を築き上げるのが王のご希望である」
「とにかく、兵を引き上げてもらいましょう」
 春香姫は言った。
「王道楽土を建設するというのであれば民の協力なくして成し遂げられるものではないでしょう。我々の主に話をいったん持ち帰り、検討したく思います」
「女よ、何か勘違いしているようだな」
 長髄彦は笑った。
「我々に与えられた役割は丹後の平定。その前に立ち塞がる者は誰であろうと叩き潰せとの王のお言葉だ。実際、お前たちに選択肢などないのだ。王に従わぬと言うなら斬って捨てるまでだ」
「姫――」
 安中は危険を感じて春香姫を下がらせた。
「とは言え、すぐに決められぬと言うならよかろう、猶予をやろう。答えが出るまで暫し待ってやろう」
 長髄彦はそう言うと引き下がり、亡霊軍隊も後退した。

「王道楽土‥‥」
 克明は戻ってきた春香姫と安中から長髄彦の言葉を伝え聞いていた。
 克明は首を振ると、吐息した。あの亡霊たちに国を明け渡せと言うのか‥‥。
 丹後に振り下ろされた鉄槌。それを跳ね返すには自分たちだけでは力が足りない。
 克明はふと冒険者の言葉を思い出した。助けが必要であれば、京都にはその声に応じる者がいるだろう‥‥。



 京都、冒険者ギルド――
「丹後に危機が迫っています。先日やってきた冒険者は申しました。助けがあればそれに応じる者がいるだろうと。私たちは今助けを必要としています」
 ギルドの手代は目の前の着物を着た美しい娘を見やった。丹後峰山藩の春香姫であると言う。
 丹後峰山藩に迫った亡霊軍隊との交渉はぎりぎりの展開が続いており、いつ峰山が亡霊軍隊に占領されてもおかしくない状況であった。
 冒険者たちは間に合うのか。峰山藩の行く末は‥‥。

●今回の参加者

 ea2741 西中島 導仁(31歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6264 アイーダ・ノースフィールド(40歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1065 橘 一刀(40歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb3501 ケント・ローレル(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb3834 和泉 みなも(40歳・♀・志士・パラ・ジャパン)
 eb9091 ボルカノ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

ゴールド・ストーム(ea3785)/ 白翼寺 涼哉(ea9502)/ チサト・ミョウオウイン(eb3601

●リプレイ本文

 亡霊軍隊と向き合う丹後峰山軍百騎余り。そこへ冒険者たちが到着した。
 早速峰山軍の武将たちと状況を確認する。藩主の中川克明も甲冑をまとって陣中にいた。
「大国主は神皇家にすら矢を向けるようですね‥‥」
 明王院未楡(eb2404)は娘から届いたシフール便に目を通す。もう一つの宮津の戦いの状況を知らせてきたのである。
「宮津にも大国主の軍勢が‥‥?」
 克明は言葉を投げかけた。
「ええ‥‥ご存知ありませんでしたか。大国主の侵攻が始まったのです」
 明王院はいったん言葉を切った。
「此度の戦、丹後の民は侮れぬ‥‥そう思い知らせればいいのです。五条の宮も望んだ、猛き不屈の民の底力を思い知らせる‥‥ただそれだけの事で良いのですよ」
「不屈の民か‥‥懐かしい響きだ。しかし大国主とは何者なのだ‥‥」
「分かりません。ただ、民心に配慮した行動を取る者ではないようですね」
 そこで、和泉みなも(eb3834)が支援物資の食糧を届けにやって来た。和泉が用意したのは保存食百個。
「兵士たちに手配しましょう。京都からの支援物資だと」
 克明はそう言って和泉の援助を受け入れた。

 交渉の段取りが整うまで峰山城下に入る和泉。城下では民が亡霊軍隊に恐れをなして噂し合っていた。
 これから峰山はどうなってしまうのだ‥‥。
「大丈夫です。決して諦めてはいけません。神皇様は民を見捨てられるような方ではありません。希望は必ずあります。どうか、諦めないで‥‥」
 和泉はそう言って峰山の民を慰めた。



「タンゴの民はしぶてェぞ!何たって頼れる神様がいるからな!」
 丹後には守り神がいる。そう信じてやまないケント・ローレル(eb3501)。神の定義はまちまちだ。唯一神を信仰するジーザス教徒には噴飯ものの話だが、魔物も妖怪も精霊も、人や鬼も神になる。
「久々の京都の仕事だが、亡霊と交渉とは‥‥都もどんどん物騒になる」
 西中島導仁(ea2741)は亡霊軍隊の方を見やる。
 今のところ、長髄彦率いる亡霊軍隊は沈黙を保っている。
 和泉は古風土記を用いて長髄彦や大国主の情報を仲間に伝えた。神話の大国主は立派な神である。
「大国主が民を顧みぬ様な者であれば信用出来ないですね‥‥」
 これまでの話では長髄彦は危険な存在だと言う。またサポートから届いた情報によれば宮津において大国主との交渉が決裂し、戦になったらしい。
「やはり、戦になるのでしょうか‥‥」
「宮津で戦端が開かれたとなれば、ここ峰山での交戦も必至。ですが、まだ望みが完全に絶たれたわけではありません」
 明王院の言葉にボルカノ・アドミラル(eb9091)は希望を失わず。今回は彼が交渉役を務める。ケントに西中島、明王院は護衛である。
 四人は亡霊軍隊に近付いていく。すると、長髄彦が現れた。
「私は長髄彦! 答えは出たのか! 聞かせてもらおう!」
 冒険者たちは長髄彦の前に進み出る。今回長髄彦は顔半分が骸のようにぼろぼろだった。彼は死者、現世への執念で踏み止まる亡者であれば、交渉が至難である事は最初から分かっている。
「陛下に恭順するや否や! 聞かせてもらおう!」
「私どもに恭順の意志はございません」
 明王院は言った。
「ただし、真に平和と共存の道を望むのであれば、上下の関係はなく、同格の者としてなら歩み寄る事は可能です」
「同格? 大王とあの藩主がか‥‥正気とも思えぬが、それは如何なる戯言か?」
 するとボルカノが口を開いた。
「大国主様に鎮護の志有り、民を救わんとして頂いた事には感謝いたしますが、神より世を預かる人の世の王と言う形は、お認めになるのでしょうか」
「簡潔に話せ」
「今、世を預かる神皇様と神皇様の元、国の平定に動こうとするのは、尾張藩の虎長様と申します。大国主様が訪れた後、天津神様の使者や、魔王の使いと称する使者が訪れるだけで無く、伊勢では天津神の天照様の光臨、対立する勢力の尾張の虎長様との対立が深まる中、降る事も、戦する事も大国主様に良からぬ風評が流れる事を懸念します。その為、降る事は出来ませぬが丹後の地に蔓延る死者・妖怪を大国主と共に退治し、この地に平穏を取り戻す事で、大国主様の志を世と主家に知らせたいと考えます。大国主様には再三の願いとなり心苦しいですが、如何かお聞き届け下さい」
「分からぬ。何を申しておるのか一向に分からぬぞ。神皇家‥‥それは大和の王の事だな? 彼奴らは我らの国を奪った者共ぞ。我らは平和を望んでいたのに‥‥神より世を預かるとは、戯言を申しておって! そうか、我らに降らぬというなら、戦だ! 帰って藩主に伝えよ、和平の道は閉ざされた!」
「黙れぃっ! 貴様らの言っている事など、詭弁以外の何物でもない! そういう」
 交渉決裂とみて、西中島が吠える。タイミングが違う気がしなくもないが。
「訳の分からぬことを‥‥何者だ?」
「名前だと! ふっ‥‥貴様らに名乗る名前はない!!」
 強引に己のペースに引き込む男、西中島。
 長髄彦は剣を抜く。
「愚弄するか!」
 冒険者たちは急いでその場を離れた。
「決裂だ!」
 西中島が大きな声で叫ぶ。
 見える位置に潜んでいたアイーダ・ノースフィールド(ea6264)。鉄弓につがえていた破魔矢を引き絞ると、長髄彦目がけて矢を放った。シューティングPAEX+ダブルシューティング。長髄彦は一つはかわし、一つは霊体の剣で受けた。
「ぐおっ」
 霊体の剣は驚いた事に矢を弾いたが、剣も本体の一部である。ダメージを受けて苦しむ長髄彦。
「奇襲か! ますます小賢しい! まずは貴様らから粉砕してくれるわ!」
 長髄彦は空中を滑るように移動し、亡霊軍隊の方に消えた。
 アイーダは鉄弓はその場に捨てると、武器を梓弓に持ち替え、口笛で合図して馬を呼んだ。アイーダは馬に飛び乗ると素早く後退する。

「交渉は決裂か」
 バーク・ダンロック(ea7871)の言葉に頷く明王院。
「予想されていたことではありますが」
「一番槍は俺に任せてもらおう」
「ご武運を」
「任せておけ。数は多いが、俺を傷つけられる程のものはおらぬだろう」
 バークはプレートアーマーを叩いた。鉄壁と呼ばれる重戦士。
 明王院はバークが時を稼いでいる間に態勢を整えようと走り出す。

 クリムゾン・コスタクルス(ea3075)は山本建一(ea3891)とともに戦場に罠を張り巡らせていた。兵士たちも罠作りを手伝う。冒険者たちの破魔矢を仕掛け、それらが一斉に亡霊軍隊に向かって飛び出すように図る。

「ぬぉぉぉぉっ、なんだこれは‥‥」
 亡霊軍隊に飛び込んだバークの体に、無数の亡者が群がってくる。なでられた程にも感じないが、亡者の剣や槍が彼の体に触れる度に体が重くなる。鎧もオーラの防御も無視して生命力を奪う。
「かぁーーーー!!」
 オ−ラアルファ−でバークは亡者達を弾き飛ばした。たまらず膝をつくパラディン。
 バークの危機に、柵と罠を超えて救いに行く冒険者達。

 雪崩をうって迫る亡者の群れ。
「く、来るぞ! 隊形を整えろ!」
 救出されたバークは回復もそこそこに迎撃の先頭に立った。
 クリムゾンは引魂旛を振って亡霊たちを呼び寄せる。引魂旛に吸い寄せられるように罠目がけて亡霊たちが群がってくる。
「今だ!」
 クリムゾンはロープを断ち切った。一斉に破魔矢が飛び出す。雨あられと降り注ぐ破魔矢。亡霊たちは破魔矢の雨を受けて叫び声をあげるが、前進を止めない。
「何と言うおぞましい軍隊だ。死者の群れか‥‥」
 橘一刀(eb1065)は抜刀して呟いた。
「撃って撃って撃ちまくるしかないね」
 クリムゾンは矢をつがえる。
 峰山軍は防御隊形を取って亡霊軍隊の攻撃に備える。
 しかし、相手は亡者。恐怖が先に立つ。このままでは蹂躙されるかもしれない。誰もがそんな恐怖を抱いた。峰山の兵士たちは一歩、また一歩後ずさる。
 駄目だ‥‥こんな亡霊の群れに勝てるはずがない。誰もがそう思った。その時――
 西中島、山本、バーク、橘、明王院、ケント、ボルカノが突撃した。
「峰山の兵士たちよ! 後に続けえ!」
 西中島は兵士達の勇気を奮い起そうと声をあげた。西中島もこれだけの数で亡者軍隊に突撃するのはぞっとしないが、冒険者が前に出ないと防御陣が戦わずに瓦解していた。
「ナガスネヒコやオオクニヌシなんかにこの国は渡さねえ! 誰のためでもない! 丹後の民のためにここでこいつらを止めなきゃ誰が丹後を守るんだ!」
 装備に身を包んだケントも兵士たちを鼓舞する。
 そこで藩主の克明も目を覚ましたように兵士たちに檄を飛ばす。
「者ども! 京都の戦士たちの後に続け! ここで負ければ我らに明日はない! 今日を生き抜くために今ここで奴らを食い止めるのだ!」
「ここでやらねば誰がやる! 峰山を亡霊に明け渡すのか!」
 山本の言葉に兵士たちの勇気が戻る。
「よし! 行くぞ!」
 兵士たちは武器を構えると、突撃の構えを見せる。

 冒険者たちは前線に踊り出ると亡霊の第一陣と交戦に入った。
 西中島は亡霊の武将と一騎打ちになる。
「この世との別れまで覚えておくがいい。我こそは悪断つ義の刃! その身でとくと味わえ!」
 同時に高速詠唱オーラエリベイション専門を発動する。その身を貫かれた亡霊が露と消える。
「我は八十神の王である! 貴様は天津神の手下か!」
 亡霊の鮮烈な問いかけにバークは、
「馬鹿を言うな! パラディンが仕えるのは阿修羅神のみ。そもそも神とはセーラ・タロン・阿修羅の三神だけだ。天津だの国津だの、神を名乗ってるだけの精霊だかアンデッドだか人間だかなんぞの部下と一緒にするな」

 切り込んでいく橘を援護射撃する和泉。婚約者のことが心配なのだ。無事に戻ってきて欲しい。そう思いつつ矢を放つ。
 クリムゾンはひたすら矢を撃ち続ける。仲間からも矢を借りてひたすら亡者を撃つ。
「長髄彦! あんたがやることなんてたかが知れてるんだよ! あんたに丹後を任せたって、そこにあるのはどうせ混乱と殺戮だけさ!」
 アイーダは戦場を馬を操りながら騎乗シューティングで亡霊を狙う。長髄彦を探してみるが中々見つからない。乱戦である。

 冒険者たちだけで亡者の群れを支えきれるものではない。
 あふれる亡者たちが峰山軍の陣地に攻め込む。
 冒険者たちは陣地に戻ると、防御に徹して戦う。
「怯むな! 押し返せ!」
 明王院の叱咤激励に応えるように兵士たちは亡霊たちを押し戻す。
「守るべき者たちのために、ここで踏みとどまるのだ! みなの者! 何としても長髄彦の魔の手から峰山を守ろう!」
 橘も懸命に刀を振るう。
 兵士たちは「おお!」と歓声を上げて亡霊たちを迎え撃つ。

 そして――
 激闘の末に、長髄彦率いる亡霊軍隊は引き上げた。
 理由は分からないが、いずれにしても、ひとまず峰山は救われた。