関東動乱、下総攻略【其の二】

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:7 G 30 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:05月29日〜06月03日

リプレイ公開日:2008年06月05日

●オープニング


 房総半島、下総――。
 伊達家家臣の後藤信康は政宗より下総攻略の兵を授かり、この地に進軍していた。
 その前に立ち塞がったのは源徳派の豪族である下総の坂東平氏の名流千葉氏である。
 四月下旬に亥鼻城にて行われた戦いで信康は千葉氏を破った。これには冒険者の活躍もあった。
 その後の攻囲戦で亥鼻城は陥落。それは致命的な一撃であった。
 信康は下総各地に伝令を飛ばした。日和見を決め込んでいる地侍たちに降伏を呼びかけたのだ。ここに千葉氏は下総西部を失うこととなり、房総制圧の下地は整った。
「亥鼻城における勝利は下総の命運を決した。もはや千葉の敗北は明らかである。政宗公は無用の流血を望まない。これ以上の抵抗は無意味である。かくなる上は伊達の軍門に下り、政宗公の温情に報いよ。下総平定の後には、馳せ参じた者を手厚く迎え入れるであろう」
 勝っているうちは景気の言いことが言えるものだ。とは言えこうなった以上は地侍たちも旗色を決める決断を迫られた。
 房総攻略を確実なものにしようと江戸の伊達政宗は増援を送り、更に伊達に下った下総の地侍を合わせて信康率いる伊達軍の規模は二千に膨れ上がった。
 信康はその二千の兵を以って、下総の本城、千葉常胤が居城本佐倉城に軍を進めた。

 さしたる抵抗もなく、信康は本佐倉城を包囲した。城内に残るは千葉常胤とその家臣団、残る兵力は数百と思われた。常胤は信康の降伏勧告を無視し、最後の一兵に至るまで抵抗すると返答があった。
 兵力では勝るとは言え、本佐倉城は千葉氏の主城であり、守りは固い。
 無論、数に物を言わせて攻め滅ぼすことは難しくないが、時間もかかり、徹底抗戦されたなら損害も無視できない。更に懸念は安房の里見氏である。千葉氏は当然、里見に救援を求めているだろう。二千の大軍でこちらの士気も高いが、挟撃される事になれば厳しい勝負になる。
 信康は卓上の地図に目を落としながら武将たちと意見を交換していた。
 その中にはこの戦に馳せ参じた冒険者の姿もあった。前回の戦で戦功を上げたこともあり、信康は冒険者たちの力に期待するところも大きかった。
 神でない信康には、まさか久留里城の里見が千葉の救援を突っぱねて、江戸城を狙うつもりであるとは夢にも思わない。

 今回の攻城戦、冒険者たちはどのように動くのか。
 下総攻略、信康率いる伊達軍二千は未曾有の大混乱のただ中に居ることを未だ知らず。下総の平定に向けて、最後の戦いが始まる。

●今回の参加者

 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb4890 イリアス・ラミュウズ(25歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5475 宿奈 芳純(36歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb9090 ブレイズ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

イリアス・パラディエール(eb5648)/ レア・クラウス(eb8226)/ チュカ(ec4895

●リプレイ本文

 本佐倉城を包囲する伊達軍二千に対して徹底抗戦の構えを見せる千葉氏。果たしてその帰趨は‥‥。

 宿奈芳純(eb5475)は小高い丘に登ると、偵察を開始した。テレスコープとエックスレイビジョンで敵城内をくまなく見渡していく。
 千葉方の守りは城門前に密集している。突入してくる伊達を迎え撃つつもりなのだろう。
 と、そこへペットの鷹が帰ってきた。偵察に送り出していたのだ。鷹とテレパシーで意思疎通を図る宿奈。
「見える、見える‥‥」
 鷹は「見える」と繰り返すばかりだった。所詮は鷹である。偵察と言っても期待したほどの成果は得られなかった。
 それから宿奈はたっぷり時間をかけて本佐倉城内を探った。その成果を手に入れて、宿奈は伊達軍の本陣に戻る。

 伊達軍本陣――。
 兵士たちの士気は高い。侍たちは兵士たちを叱咤激励し、最後の一戦に臨まんとしていた。
 宿奈は伊達の大将後藤信康のもとへ向かった。
 信康は宿奈の情報を待っていた。今回はそれに大いに期待していたと言っても過言ではない。
「それで、陰陽師の術で何が分かった」
 信康は宿奈に問うた。
「兵糧の保管場所、矢弾の保管場所などは城の中心付近にあります。兵士は城門前に密集しており、総大将を思われる千葉常胤は城内の最奥に」
 信康は頷くと、宿奈に筆を持たせた。卓上の紙に地図を書くように促す信康。宿奈は紙の上に綿密に地図を書き込んでいく。
 出来上がった地図を眺める武将や冒険者たち。改めて堅牢な城であることを確認する。死角はない。
 シオン・アークライト(eb0882)は冒険者の行動指針を説明しておく。
「今回私たちは正面から城門を突破します。また私が空中から奇襲を仕掛け、城門から注意をそらしますので、その隙に一気に突破を図ってもらいたく」
「本佐倉城は堅牢な城だ。突破口は正面の門しかない。いずれ正面から仕掛けるしかないのだが」
 イリアス・ラミュウズ(eb4890)は一つの案を出した。味方の兵を千人ずつの弓兵部隊と足軽部隊に分け、弓兵部隊に弾幕を張らせ敵を牽制している間に足軽部隊が城に接近、城門を突破し城内に雪崩れ込むという流れである。また、シオンの奇襲を夜間に行いたいことから、敵城の攻略は夜に行いたいとも付け加えた。余談ではあるが、イリアスは先の政宗との会合で伊達家の騎馬軍団の一員となっている。今は伊達家馬上衆と呼ばれる身である。
「よかろう、シオン殿を援護したいところだが、それでは奇襲の意味がなくなってしまうな。単騎での行動となるが、シオン殿の働きに期待させてもらおう」
「微力を尽くします」
 またブレイズ・アドミラル(eb9090)は城門突破の策として、簡易盾による上方からの防御を提案した。簡易盾を装備した足軽で亀甲陣を組み、城門の攻略に臨もうというのだ。亀甲陣はジャパンでは珍しい戦法だが、信康はブレイズに城門攻略の先陣を任せた。
 そんなわけで亀甲陣を組むための簡易盾の作成が始まった。近隣の木々を切り出して伊達軍は次々と盾を作り出していく。

 ‥‥その頃。
 磯城弥魁厳(eb5249)は安房の里見の居城に潜入していた。信康から許可をもらい、最初から里見の動きを探るつもりでいたのである。
 夜、磯城弥は城内に忍び込み、里見の内情を探っていた。
 城内の廊下を素早い身のこなしで行き過ぎる磯城弥。と、明かりのついた部屋の手前で磯城弥は立ち止まった。
「殿は江戸に向かわれる‥‥‥うむ…千葉の援軍は断った。‥‥気の毒なれど‥‥我らが江戸を落とさば‥‥時間稼ぎを‥‥」
 何と‥‥。途切れ途切れに聞こえる内容に磯城弥は言葉を失った。里見は江戸に向かうつもりだという。何の為に? 江戸城を落とす気なのだ!
 兵が前線に出払っている今、江戸城が手薄になっているとは言え、大胆な策に出たものである。陸路ならば下総、武蔵の支城を一気に抜けねばならず至難。となれば海路か。安房の港を確かめねばと思考を巡らし‥。
「‥‥」
 この時、磯城弥の背後から里見の忍びが一人近付いていた。磯城弥は決して油断していたわけではないが、相手は完全に気配を絶っていた。忍びはゆっくり磯城弥の背後に付くと、刀を振り上げた。その時、幸運にも月明かりが差した。床に映った忍びの影を見て、磯城弥はとっさに身を翻した。刀は空を切った。
「伊達の間者か!」
 忍びは怒鳴った。
「何事だ!」
 部屋の扉が開いて、里見の侍たちが姿を見せた。
「忍びだ逃がすな!」
「何! 曲者だ! 者ども! 出あえ!」
 夜の城に声が鳴り響き、続々と兵士たちが現れる。
「生かしては返さんぞ。覚悟しろ」
「わしとしたことが、不覚を取るとは‥‥」
 磯城弥は一歩、二歩後退する。絶体絶命、そう思われたが。磯城弥は素早く印を結んだ。
「忍法、微塵隠れの術!」
 爆発が起こって侍たちを怯ませた。あとには磯城弥の姿はなく、すぐに辺りを探したが見つからなかった。里見の侍たちは地団太を踏んだ。



 再び本佐倉城前、夜半――
 亀甲陣の盾作りが終了し、いよいよ本佐倉城攻略が開始された。
 シオンはペットのヒポグリフに乗って本佐倉城の上空を舞う。千葉方は張り詰めた空気が支配しており、突然現れたヒポグリフの鳴き声に動揺が走った。
 宿奈はムーンシャドウで城壁のすぐ下まで移動しており、シオンの行動をテレパシーでサポートしていた。城内の動きをエックスレイビジョンとインフラビジョンのスクロールで観察する。
「シオンさん。北側の守りが手薄になっています。そちらからなら進入可能かと」
「了解」
 シオンは宿奈の援護を受けて城の北側に回り込む。城内に急降下すると、千葉の兵士に襲い掛かる。
 仰天したのは千葉の兵士。
「敵襲よ」
「何?」
 シオンは抜刀すると、兵士に切りかかった。ディザームで相手の武器を叩き落すと、シオンは刀を収めた。
「観念しなさい。どうあがいたってそっちに勝ち目はないのよ」
「単騎で乗り込んで来て何を言うか! 敵襲だ!」
 続々と兵士たちが集まってくる。シオンはにんまり笑うと、
「あら、狙い通りじゃない」
 そう言い残すと素早くペットに乗って逃げ出した。

 シオンが注意を引いている間に亀甲陣を組んで城門に迫る伊達軍。それを率いるのはブレイズである。その先頭には城門破壊のための超重量武器を携えたイリアスがいる。その脇を九紋竜桃化(ea8553)とグレン・アドミラル(eb9112)が固める。
 千葉軍は亀甲陣の伊達先鋒に猛烈に矢を浴びせかけた。その攻撃を盾で受け止めながら先鋒隊は城門まで辿り着く。無論、無傷とはいかない。味方がばたばたと倒れていく中を必死で走り抜けたのだ。
 伊達の本隊も果敢に攻めかかり、弓隊が本佐倉城に矢雨を降らせた。
 城門前では突破が試みられる。させじと矢や石や熱湯、油が降ってくる。攻める方も守る方も命懸けだ。ヒュージクレイモアを振り上げるイリアス。長さ3mの直刀、並の人間では持ち上げるだけでも一苦労の代物で、機動力を失ったイリアスを守るために足軽達が盾になっている。
「いけえ!」
 イリアスは思い切りクレイモアを城門に叩きつける。スマッシュEX+バーストアタック。もの凄い音がして、クレイモアは城門を突きささった。
 一撃、二撃、三撃、巨人の武器を振りまわして、繰り返される蛮勇に、ついに城門は悲鳴のような破壊音を残して砕け散った。肩で息をするイリアスはクレイモアを捨てると武器を持ち替える。
 亀甲陣を組んだ先鋒隊は歓声をあげて、そのまま城内へなだれ込む。城門前の兵士たちの戦列は亀甲陣に押されて砕け散った。あとに続く伊達の兵士たち。
 オーラ全開で突撃する九紋竜。千葉軍の兵士たちを次々となぎ倒していく。
 伊達軍の足軽槍隊は三人組で一人の敵に対応する戦術をとった。数的優位を生かしてのことだ。これはブレイズとグレンの提案によるものだった。
 なだれ込んだ伊達軍と千葉軍の間で最後の城内戦が繰り広げられる。
 伊達軍の三人組の足軽は効率的に千葉軍の動きを封じ込めていく。
 ブレイズとグレン、九紋竜、イリアス、戦線に合流したシオンらが千葉氏の武将と相対し、激闘の末に降伏させていく。千葉の武将にも熟練の侍がいたが、冒険者の腕に勝るものはいなかった。
 冒険者たちはどんどん城内の奥まで突き進んでいく。すると――
「これ以上は進ません!」
 千葉氏の近衛兵らしき兵士たちが立ち塞がる。
「もはやこれまでだ千葉常胤! これ以上の流血は無用! 伊達家武将イリアスが一騎打ちを申し込む! この戦はそれで終わりだ!」
 その声に、奥の間から一人の男が姿を現した。立派な甲冑をまとった人物、千葉常胤である。
「殿! お下がり下さい!」
「よい、もはや我が家の命運は尽きた。大言壮語を吐く伊達の武将との一騎打ち、受けてくれよう」
 そうして、最後の一騎打ちが始まった。近衛兵も冒険者たちも、常胤とイリアスのために場を空けた。
 勝負はあっという間についた。イリアスの常人ならざる剣術の前に、常胤と言えども敵ではなかったのだ。鎧を撃ち砕かれて膝をつく常胤は遂に降伏した。
 こうして、本佐倉城攻略戦の勝敗は決した。



 ‥‥戦闘終結後。
 九紋竜は信康に源義経の件で嘆願していた。伊達家に義経挙兵の支援を頼むと言うのである。
「本来であれば、義経殿は今ここに居られるはずであろう。個人的な事を申せば、肝心な時に勝手に動かれるとは、何を考えておるのか分からぬ。
 だが、政宗公は義経殿に源家の再興に協力すると約束された。政宗公は寛大なお方だ。案ずるには及ぶまい。義経殿が真に悪路王を討つおつもりなら、伊達が味方するは当然のこと」
 信康はそう言って九紋竜の嘆願を聞き流した。
 そこへ磯城弥が帰ってきた。初めて里見が江戸を狙っていることが明らかになる。
 信康は驚いたが慌てなかった。
「八王子が予想より早く府中を奪ったゆえ、府中に援軍として送った二千の兵は手前にあり、すぐ江戸城に引き返せる距離だ。攻めている間に本城を落とそうとはまるで昨年の我らを真似たようだが、距離が足りぬ。里見が天魔でなければ、江戸城は落とせぬはず」
 武将達の動揺を抑えるように信康はそう云った。ともあれ、今からでは間に合わない。下手に引き返しては千葉勢が息を吹き返す恐れもあった。信康は下総の占領を進めるとともに、武蔵側、上総側の警戒を強めることにした。

 軍議の後‥‥。
 磯城弥に信康が声をかけた。
「磯城弥殿、たった一人で里見の情報を得るとは十分な功績でござる。昇進を望まれていると聞いたが、お主の技を役立てる道を選ぶ気はないか」
「と言うと?」
「伊達忍軍黒脛巾組の一員として働くつもりはないか」
「もとより拙者は忍び。それは望外の計らいだ。お受けしよう」
 磯城弥は伊達忍軍の一員となった。里見偵察の功を認められた形だが、はたして江戸城は?