丹後の盗賊【白虎団・二】

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2008年06月07日

●オープニング

 丹後では有力な大名がいないことを良いことに、山賊や盗賊の集団が荒らし回り、平穏な暮らしを望む人々を脅かしていた。
 大国主の侵攻で丹後に激震が走っていたが、相変わらず盗賊たちの動きは活発なようである。
 盗賊王国、今の丹後をそう呼ぶ者もいた。中でも大きな勢力を持つのが白虎団と呼ばれる盗賊団である。武装組織としては丹後で最大規模。欲しいままに奪う彼らを実質的な丹後の支配者と呼ぶ者もいる。
 白虎団の頭領は破戒僧の永川龍斎と呼ばれる人物である。大名になり代わって丹後の天下を欲しいままにしている。
 死人に対抗できる武力を持っているのがこの盗賊たちである。死人の勢力が強いこの国で生き残るため、盗賊たちの多くがアンデッドスレイヤーのレミエラを装備している。しかし盗賊たちが人々の救世主となるはずもなく、何とかアンデッドの手を逃れて暮らしている人々を襲っては更なる被害を出していた。

 崩壊した丹後では、前藩主が滅亡した後、有力氏族が争い合って一時しのぎを削った。しかしアンデッドの脅威や盗賊たちの横行によりそれどころではなくなった。



 ――丹後宮津藩、郊外の小村。
 宮津藩の中とは言え、郊外ともなれば安全とは言いきれなかった。村人たちはいつ何時アンデッドや盗賊が襲ってくるかもしれないこの土地で、何とか暮らしていた。
 しかし‥‥。

 地平の彼方からやってくる者がある。盗賊たちである。
 盗賊たちはときの声を上げながら村になだれ込むと、次々と村人たちに襲い掛かった。
 村人たちは慌てふためいて逃げ出した。しかし盗賊たちは馬を操り村人たちを包囲しながら追い詰めていく。
 あっという間の出来事だった。村人たちは村の中心に集められた。
 そして、盗賊の頭と思しき若い女が村人たちに向かって言った。
「聞け! 今日よりこの村は白虎団の支配下に入る! 白虎団の名を知らぬ者はいないであろう! 知らないと言う奴は前に出ろ!」
 すると、村の青年が一人、前に出た。
「白虎団なんて知らない!」
「そうか、おい!」
 女は部下に合図した。手下の盗賊は青年の前にやってくると、刀で青年の顔を峰打ちした。青年は地面に崩れ落ちた。
 女は抜刀すると青年の喉元に剣先を突きつけた。
「勇敢な男だな。命が惜しくば我が白虎団に入れ。そうすれば村を助けてやろう」
「な‥‥何を」
「ふん、どうだ。我らに味方して村を救うか、ここで無駄死にするか。選べ」
「村を救ってくれるのか?」
「約束しよう」
 他の村人たちはざわめいた。よせという声がかすかに上がる。
 青年には躊躇いの色が見えた。どうすれば‥‥。村を救う機会が与えられようとしている。
 女は高らかに笑うと、剣をしまいこんだ。
「ふん、躊躇するような男は白虎団にはいらぬ。おとなしく下がっていれば良いのだ。白虎団は丹後の天下を預かる盗賊の一大勢力。大名すら我々には抵抗出来ぬ。丹後の民よ、この国が盗賊王国であることを忘れるな! 誰がこの国の主か、忘れた時はいつでも思い出させてやろう!」
 女はそう言うと、再び笑声を発した。



 京都、冒険者ギルド――
 襲われた村に住まう地侍からギルドに救援の要請が届いた。村の青年が盗賊の目を逃れ、何とか京都へ辿り着いたのである。この依頼は二度目の依頼であった。以前救援の依頼が出ていたが、引き受け手がなく、盗賊たちは勢力を増しているようであった。
「頼む、都の援軍がないと俺たちの村は滅茶苦茶だ」
「京都も何かと慌しく、手が回らないのです。申し訳ない」
 ギルドの手代は吐息した。青年は身を乗り出して言った。
「あれから村には盗賊たちの援軍がやってきて、すっかり村は支配されてしまった」
「白虎団ですか‥‥」
「もうこれ以上耐えることは出来ない。盗賊たちは欲しいままに奪っている。奪い尽くしたら、北の半島に帰ってしまうだろう。このままじゃ本当に何もかも無くしてしまう‥‥俺たちを見捨てないでくれ」
 丹後を支配する最大の盗賊団「白虎団」。その脅威は丹後では音に聞こえていた。丹後半島の盗賊たちは大江山の鬼、丹後のアンデッドと並び恐れられる存在である。盗賊王国丹後。魔界と化した丹後。救いの手は差し伸べられるのか。
 青年の手にもはや報酬はない。最後の頼みの綱と頼ってここへ足を運んだ。このままでは村を壊滅し、盗賊たちは戦利品を手にアジトへ帰るのみだろう。壊滅寸前の村に救い手は現れるのか。

●今回の参加者

 ea8087 楠木 麻(23歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb2975 陽 小娘(37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 eb5618 エレノア・バーレン(39歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ec2108 春咲 花音(23歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●サポート参加者

白翼寺 涼哉(ea9502)/ ケント・ローレル(eb3501)/ 木下 茜(eb5817)/ 水之江 政清(eb9679

●リプレイ本文

「向こうの山にガラシャとテンジュがいるンだ! 俺様寄った村が‥‥」
 荒涼とした大地を行く一行。ケント・ローレルから丹後の話を聞かせてもらっていた陽小娘(eb2975)。
「ふーん。丹後って奥が深いんだね?」
 と、そこへ木下茜がやってきた。盗賊たちはアンデッドと並んで恐れられているともっぱらの話であった。
 白翼寺涼哉は調合してきた眠り薬を玄間北斗(eb2905)に渡す。
「助かったのだ。今回は人間相手だからこういう手もありなのだ」
「さて、と、俺たちはここまでだな」
 サポートの面々は冒険者たちを見送って京都へ帰っていった。

 改めて状況を確認する冒険者たち。
「依頼人から聞いた話では盗賊たちの数は二、三十人。まともにぶつかったらこっちも危ないと思うのだ」
 丹後の盗賊たちは多くがレミエラを装備しているとの噂である。
「レミエラなんて厄介だねー、没収だよ没収!」
 いきまく陽。
「まずは様子見ですか‥‥」
 春咲花音(ec2108)は思案を巡らせる。長らく放置されてきた丹後。盗賊たちの様子も今ひとつ掴めていない。いずれにしても相手の数が多いことから正面から攻撃するのは危険であった。
 それ以外にも気に留めていることがあった。村人が冒険者たちに救援を求めたとなれば、村に白虎団から報復攻撃があるのではないか、うまく依頼が成功すればの話だが。仮に盗賊たちを撃退したとして、その報復を呼ばないためにどうするか。
「やっぱりさ、ここは通りすがりの冒険者が義侠心で助けに来たってことで、あとあと村に被害が出ないようにしておくのが良策だと思うんだよね」
 陽の言葉に小さく頷くエレノア・バーレン(eb5618)。
「陽さんの流れに賛成です。丹後は治安も悪く、盗賊たちも警戒していないでしょう。まさか京都から冒険者が来るとは思っていないはず。今はこちらの身分を明かさず、相手の情勢を探るべきでしょう」
 琉瑞香(ec3981)も頷いてみせる。
「そうですね‥‥背後関係を探られると厄介です。盗賊団の規模も分かっていませんし」
 そこで玄間が口を開いた。
「前に来た時はここは平和になったと思っていのだ‥‥一年半でまるきり正反対の事態になってしまったのだ」
 玄間は吐息した。とはいえ――
 玄間は村人の救出を第一に上げた。どうなっているかは分からないが、村人たちが盗賊の手にあっては冒険者も身動きが出来ない。隠密能力に長ける春咲と玄間が村に先行潜入し、他の仲間たちは正面から盗賊たちを撹乱。その間に春咲と玄間で人質を救出し、可能であればその後に盗賊たちを挟み撃ちにするというものであった。
「問題は数だね」
 楠木麻(ea8087)は言った。今回参加した冒険者の中では歴戦のつわものである。
「まあちょっと魔法で驚かしてやるだけでも効果は絶大だと思うけどね。基本的には玄間さんの作戦に賛成かな」
 楠木は淡々と言ったが、心の奥底では盗賊のレミエラを狙っていた。その機会があるだろうか‥‥。
 仲間たちの大半は没収したレミエラは宮津城に届けるなどと言っていた。
「まあ滅多にそんな好機はあるものではないしなあ‥‥」
「何がです?」
 楠木の呟きに陽が突っ込んだが。
「あ、いや、何でもない独り言独り言。さあ盗賊退治だ、頑張っていこうか」
 そうこうして村に辿り着いた冒険者たち。



 地面に手を当てるエレノア。バイブレーションセンサーを唱える。地面から伝わる振動が多数。大きさは人くらい。盗賊や村人たちだろうと思われた。
 数人の盗賊が不思議そうにエレノアを遠くから見ていた。エレノアはいったん後退する。
「やはり二、三十人はいるようですね」
「まともにやり合っては勝負にならないよ。奇襲、撹乱、それから村人の保護だけど‥‥」
「とりあえず春咲さんとおいらで村人の様子を見てくるのだ」
 玄間と春咲は村の中へ潜入する。

 ‥‥盗賊たちは飲め歌えやの宴会を行っていた。村のそこかしこでどんちゃん騒ぎを起こしてげらげらと笑う声が聞こえる。
 村人たちは家の中に閉じ込められ、時々宴会の手伝いをさせられている様子だった。盗賊たちは村人たちをこき使い、やりたい放題だった。これが丹後の現状なのか。
「難しいなあ、一体どうやって村人たちから盗賊の目を放すか」
「地道にスタンアタックで助けられるだけでも助けるとか」
「いったん戻って状況を報告なのだ」
 玄間と春咲は仲間たちのもとに戻る。

 数では圧倒的な盗賊たち。村人たちは方々におり、少人数で助け出すには時間が必要と思われた。
「夜を待ってみては? 盗賊たちの見張りも手薄になっているかも知れません」
 エレノアの提案で冒険者たちは夜を待った。

 そして夜。再び玄間と春咲は村に入り込んだ。
 村の中は昼間に比べると静かだった。村の片隅で火を焚いて宴会を続ける盗賊たちがいた。
 玄間はこの間に盗賊たちの酒と眠り薬入りの酒を入れ替えておいた。うまくいけば多少の足止めにはなるかも知れない。
 村人たちは家の中にいた。盗賊たちは特に見張りは立てていなかった。いずれにしても村人たちも行く当てがないのだ。
 それでも玄間と春咲は村人たちを訪問し、都からの救援であると伝え、彼らを避難させた。夜の逃避行。盗賊たちに気付かれることなく村人たちは外に出た。
「京都からの救い、感謝しますぞ。うちの若い衆が京都に辿り着きましたか‥‥」
「お待たせして申し訳ない」
「いや、何の。これまでの辛酸に比べれば、待つことなど何でもありません」
 村の古老はそう言ってお辞儀するのだった。



 翌日、盗賊たちは異変に気付いた。村人たちがいないのだ。
 酒を飲みながら盗賊たちは村の中を歩き回っていた。
「村の連中はどこに行ったんだ‥‥それにしても眠い‥‥」
 ばたっと盗賊は倒れこんだ。眠り薬が効いているようだ。
「馬鹿が、飲み過ぎだ」
 と、そこへ冒険者たちが正面から乗り込んできた。
「こら! そこの盗賊! いつまで平然と村でどんちゃん騒ぎをやってんの! ドロボーは出てけー!」
 先頭に立って陽は盗賊を指差した。
「何だお前らは」
「通りすがりの冒険者よ。あんたらの横暴もこれまでよ!」
「冒険者あ? ふん、この国を救った英雄はもういない。誰が丹後の天下を握っていると思う。丹後の天下は盗賊団が握ってるんだ! 聞けば最近神様やらおかしな亡者を操る奴が出てきたようだが、天下を握っているのは俺たち白虎団だ! おい! 野郎ども! 久しぶりに喧嘩を売りに来た奴らがいるぞ!」
 続々と盗賊たちが集まってくる。
「覚悟しなさい! あんたらの天下もこれまでよ!」
「へっ! ちびっ子が何抜かす! やっちまえ!」
「何ですってえ!」
 戦いが始まった。
 エレノアはアグラベイションをかけて盗賊たちの動きを封じる。動きが鈍った盗賊たち、楠木のストーンアーマーで防御力を高めた陽は軽いステップで盗賊たちの攻撃をかわす。
「おっとっとっとっとっ‥‥ていやぁ!」
 囲まれてバランスを崩しながらも陽はトリッピングで向かってくる盗賊の足を払った。もんどりうって倒れる盗賊。
 琉はコアギュレイトで援護。
 盗賊の一撃を受けるもストーンアーマーのおかげで陽は助かった。
 楠木は高速詠唱ストーンウォールで石壁を倒して盗賊を押しつぶす。
 意外な抵抗に盗賊たちは後ずさる。
「何だこいつら、予想以上に強えぞ!」
「ちくしょう、頭を呼べ! 他の連中も呼んで来い!」
「こんな時に眠ってる奴らがいるぜ、ちくしょう!」
「いいから早く頭を呼べって!」
 右往左往する盗賊たちは、頭の女を呼んできた。
 そして盗賊の頭目と思われる女が姿を見せた。
「何事だ」
「お頭! 冒険者の連中がやってきまして、意外に手強い連中ですぜ!」
「冒険者?」
 女は鋭い眼光を冒険者たちに投げつけた。
「あんたが頭目? 今のうちに降伏しないと痛い目を見るよ!」
 陽の言葉に女はにんまりと笑った。
「面白い、数の上ではこちらが有利。例え歴戦の勇者でも正面からぶつかればただでは済むまい。それでもやるか」
 と、その時盗賊たちの背後で騒ぎが起こった。玄間と春咲が奇襲攻撃をかけてきたのだ。
 不意をつかれた盗賊たち。
 琉が女にコアギュレイトを仕掛ける。女の動きが止まる。
 そこでエレノアがローリンググラビティーを放った。舞い上がって落ちる盗賊たち。
「や、やべえ‥‥」
 盗賊たちは意外な展開に狼狽した。動きを封じられた女は悔しそうに冒険者を見つめている。
「逃げろ!」
 頭を失えば呆気ない。盗賊たちは戦意を喪失して逃げ出した。



 戦闘終結後‥‥。
 頭目の女は縄でがんじがらめにされて引っ立てられた。他にも捕縛された盗賊たちが数人。
 楠木はいずれにしても盗賊の報復はあるだろうと、村人たちに宮津への避難を求めた。それに従う者もいれば、ここに残ると言う者もいた。簡単には村を捨てていくのも忍びないということであった。
 そうして冒険者たちは宮津城下まで盗賊たちを護送した。琉のホーリーライトでアンデッドを避けながらの道のりとなった。
 エレノアは例の頭目の女に説得を試みる。
「宮津城へ帰属するつもりはありませんか。死人と戦う戦士はどの藩も必要としています。今のままでいるより、生きて成り上がりませんか」
「藩主が我らを召抱えるというならいつでも用意があるぞ。盗賊を召抱える藩主がいるとも思えんがな」
 女はそう言って笑った。
 城下では宮津藩の侍が謝辞を述べて冒険者たちを出迎えた。
 エレノアはそこでも侍に言った。
「この盗賊たち、いたずらに殺生するよりも従わせた方が丹後のためになりましょう。生かして使うべきでは」
「白虎団は義賊ではありませんぞ。無論いたずらに殺生するつもりはありませんが、連中を野放しにしておくことも出来ませぬのでな」
 侍はそう言って盗賊たちを引き受けるのだった。