丹後の平定、大国主の侵攻【舞鶴】

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月08日〜06月13日

リプレイ公開日:2008年06月15日

●オープニング

 最近丹後の民の間で大国主の名が囁かれれるようになっていた。
 大国主とは神話に登場する神の名である。何ゆえ大国主の名が語られるようになったのか――
 先だって、丹後峰山藩と宮津藩に大規模な侵攻があった。亡霊の軍隊が押し寄せたのである。その亡霊を率いていたのが大国主を名乗る者である。その侵攻は大国主の侵攻として峰山藩と宮津藩を震撼させた。激闘の末に亡霊軍隊は引き上げていったが、その後も大国主は亡霊を率いて丹後の平定に向けて進軍を行っていた。そして今、再び丹後舞鶴藩に大国主の侵攻が迫りつつあった。

 ――舞鶴。
 舞鶴藩主相川宏尚は城内でせわしなく歩き回っていた。亡霊軍隊を率いる大国主が迫っていると報告があった。
 宏尚は大きな決断を行おうとしていた。大国主に従うか、あるいは戦うか。宏尚は中肉中背の一見どこにでもいそうな、特に目立つ印象のない風貌の人物である。その傍らには口もとに笑みをたたえる桔水御前がいた。御前は楽しげに宏尚を見つめている。
 と、そこへ侍が入ってきた。
「殿、大国主の使者がやって来ました」
 侍は伝える。丹後の平定に向けて動き出した大国主は舞鶴藩に恭順を求めている。王道楽土の建設に向けて動き出した大国主。恭順の意思を示さなければ舞鶴藩の命運は尽きるであろうと言ってきた。
 宏尚は侍に言った。
「大国主様を迎え入れる準備をせよ」と。

 そうして、亡霊の従者を従えた大国主は舞鶴城下に姿を現した。
「道を開けよ! 大国主様がお通りになる! 者ども道を開けい!」
 侍たちは人々に向かって怒鳴り散らして道を開けさせた。
 悠然と通り過ぎていく大国主と亡霊の一行。血の気を失った大国主の表情はまるで死人のようである。
 人々は侍と大国主の行列に道を開け、恐れをなして地面にひれ伏した。
 仰々しい行列を見せ付けて、大国主は舞鶴城に入った。

 宏尚は手をこすり合わせて大国主を迎えた。桔水御前はさながら崇拝者のように大国主にひれ伏した。
「お待ちしておりました、大国主よ」
 御前の声は朗々と室内に響き渡った。宏尚はと言うと、慌ててその場にひれ伏して、上座を大国主に譲り渡した。
 上座に着いた大国主を前に、侍たちもひれ伏した。
「藩主よ、並びに舞鶴の侍たちよ。余に忠誠を誓うか」
「ははっ! 我ら舞鶴藩は大国主様に忠誠を誓うものです!」
「それは結構。余の丹後平定に力を貸せ。民の繁栄を約束しよう。だが、余を迎え入れるからには必要なものがあるぞ」
 大国主は宏尚をじっと見つめた。
「何が必要なのでしょうか?」
 宏尚が問うと、大国主の口もとに笑みが浮かんだ。



「絶対の崇拝が必要だと?」
 舞鶴に大国主が入った。峰山藩と宮津藩にその情報が伝わると、両藩主は先の大国主の侵攻を思い出して連絡を取り合った。丹後を分割する藩主同士とは言え、ひとまず大国主の脅威の前に休戦と言ったところであった。
 峰山藩主中川克明は宮津城を訪れ、籠神社の天津神たちが宮津城に招かれていた。
 忍びからの報告を受けて、鉄州斎は扇をぱちんと折りたたんだ。
「大国主は絶対の崇拝を求めているようですが、どうしたものでしょうか。このままでは舞鶴は大国主の勢力下に入りそうな勢いですな」
「絶対の崇拝とは?」
「それはですな‥‥」
 大国主は神皇家より古く、ジャパンの正当なる支配者であるから、大国主に従うというなら京都の朝廷を敬ってはならない。神皇家がジャパンを平和に統治しているというならともかく、今の世の乱れようを見れば王家の寿命は尽きている。せいぜい王の一人に過ぎないのだから、二君に仕えるがごとき所業は許さない、と言っているらしい。
「そこまで言うからには、あの者は本物の大国主なのかもしれませぬな」
 峰山と宮津が大国主につかなかったのは、まさしくその一点が大きい。京都の権威を理由に拒絶された故に、大国主は舞鶴にそのような条件を持ち出したのであろう。
「舞鶴藩主はどのような人物なのだ」
 天津神が一柱天火明命は問うた。
「正直何を考えているのか分からない男ですな。丹後の盗賊と結んでこの国を手に入れようと画策していると、一部では噂されておりますが‥‥」
 余人が聞けば五十歩百歩と苦笑したか。宮津に天津神が降臨し、舞鶴は大国主に対抗する術が無かった。その差が両者を分けたのかもしれない。
「その者が本心から大国主と結ぶ事を選んだのなら、是非も無い。あの者は王権の復活を目的としているのだし、王には民が必要だ」
 中川克明は太い腕を組んで天津神を見つめた。
「そうも申せませぬ。我らは大国主を拒み、大国主が国を得ること、都と戦うことを選ぶなら、戦いは避けられぬが道理。本気で大国主が攻めかかってきたならばとても我らに太刀打ちは出来ませぬ」
「あの亡霊軍隊を撃退できたのは奇跡でしたな‥‥」
「とは言え、他に大国主を退ける方法が?」
「民を得るほど大国主は強力になろう。かの者が本物であれば、仮にもジャパンの王だった男だからな。崇拝を集める前に倒すが肝要か」
「何か、舞鶴を救う手立ては無いのでしょうか」
 鉄州斎の言葉に天御影命が答えた。
「問うだけでは答えなど見つかるまい。まだ舞鶴が大国主の手に落ちたと決まったわけでもない。己の目と耳で確かめ、考えよ」
 その通りだが、二人の藩主は亡霊軍隊が恐い。下手につついて藪蛇になる事を恐れていた。
「戦士たちを舞鶴に遣わせよ。大国主が舞鶴を手中に収める前にな」
 天火明命はそう言って藩主たちを促すのだった。



 ――京都、冒険者ギルド。
 自ら神と名乗って丹後の平定に乗り出している大国主。今回は丹後舞鶴藩で王に従う民を集め始めた。
 神皇家にも敵対する構えを見せており、その行動は謎に包まれている。王道楽土の建設を唱え丹後の繁栄を約束しているが、亡霊を使う者であり信用に値しない。
 すでに大国主と決裂した峰山と宮津と藩主が集まり、宮津の会議で舞鶴に救援を送ることが決まった。
 舞鶴で影響力を発揮しつつある大国主の動きを止めるべく、有志が募られた。舞鶴に大国主が根付くか否かは冒険者達の行動に掛かっている。

●今回の参加者

 ea0020 月詠 葵(21歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2756 李 雷龍(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea9455 カンタータ・ドレッドノート(19歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb2905 玄間 北斗(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)

●サポート参加者

イフェリア・アイランズ(ea2890

●リプレイ本文

「妙剣、水月!」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)の豪剣が死人たちを切り裂く。襲い掛かってくる死人憑きや怪骨の群れをたった一人で粉砕する。
 月詠葵(ea0020)もメグレズの傍らで死人たちを切り伏せる。
 その様子を白翼寺涼哉(ea9502)とカンタータ・ドレッドノート(ea9455)は離れたところから見ていた。
「お見事です」
「何のこれしき。しかしこの地は真に黄泉が徘徊する土地なのだな」
「どうしてこうなってしまったのか、今だ分かっていないのですが」
 この四人は先に宮津に用事があったので宮津城下へ向かっていたところである。死人たちを退けて宮津入りする一行。
 宮津藩主立花鉄州斎は冒険者の訪問を快く迎え入れた。
「今回は世話をかけるな」
 鉄州斎はそう言って扇を弄んでいる。その傍らには偶然宮津城下に来ていた天津神の天鈿女命がいた。
「白翼寺にございます。先日の会見では世話になりました。此度は救援の件で舞鶴藩主を伺いたく‥‥」
「うむ、で、何か私に協力せよとでも言うのか」
「宮津及び峰山藩名義で救援を派遣する。その旨したためて頂きたいのです。さすれば、舞鶴との関係が有利に進むでしょう」
「ほう、宮津、峰山を舞鶴と結びつけ、大国主と対抗させようというのか」
「何か不都合がございますか」
「敵の敵は味方と言う、舞鶴藩主を抱きかかえるのも妙案かも知れぬな‥‥」
 鉄州斎は思案を巡らして扇を弄ぶ。
「舞鶴藩主夫妻に謁見するには一介の冒険者の身分では不利ではないかと思うのです。丹後の藩主の御意思であれば、舞鶴藩主も無視できないのではないかと」
 そう言ったのは月詠。
「藩の名前を出せば舞鶴藩主は確かに一考するかもしれないが、藪の蛇を突付いて大国主の侵攻を再び招くような事態は避けたい」
 それが鉄州斎の本音だった。
「大国主に悟られないよう、舞鶴藩主との交渉には当たるつもりなのです」
 鉄州斎はうなったが、最後には折れて舞鶴藩主宛の親書を一筆したためた。それを受け取る月詠。
 それから白翼寺は天鈿女命に大国主の亡霊軍隊について助言を求めた。天鈿女命は数瞬思案して、
「我らは死など恐れぬが、生ある者にとってはあの亡霊どもは脅威じゃろう。迂闊に手を出さぬことじゃな」
 また白翼寺は盗賊から回収したレミエラの貸与を願い出たが、レミエラの着脱には時間が掛かることなどからそれを待っている余裕はなかった。



 ――舞鶴。
 玄間北斗(eb2905)は村々の統治状況を見て回っていた。予想通り大国主は絶対の崇拝を強いていた。今の丹後の現状においては村人たちは誰が統治しようと構わないと言った様子であったが。

 さて、舞鶴城下に先行した者たちは――。
 ある程度予想されたことだが、マミ・キスリング(ea7468)は舞鶴藩主と面会することが出来なかった。フランク王国の騎士という肩書きは役に立たず、門前払いを食った。
「まあ仕方ありませんわ。藩主との直接交渉は他の方が向かわれるようですし」
「その間に城下の様子を探っておきますか」
 李雷龍(ea2756)の言葉に肩をすくめて同意して見せるマミ。
「外では亡霊軍隊が待機していました。大国主は城の中でしょうか‥‥」
 山本建一(ea3891)はそう言って城の方を見ていた。
「多分、そうなんでしょうね。とかく噂が先行しているけれど、先日の宮津と峰山の戦いは紛れもない事実。交渉がうまくいくといいけど‥‥」
 そうして三人は手分けして城下町を回った。城下町では大国主の噂で持ちきりだった。亡霊の従者を従えて城へ入ったきり姿を見せることなく、一体何が起こっているのか、町の人々は大国主の言葉に恐れをなしていた。外にいる亡霊軍隊が攻め入ってきたらどうなるのか、殿様は何を考えているのか、舞鶴はどうなってしまうのか‥‥。

 そうしてカンタータ、白翼寺、月詠、メグレズらが舞鶴に到着する。宮津からの使いという形で彼らは藩主との面会を求めるが、舞鶴の侍たちはかたくなにその言葉を聞き入れず、やはり四人も門前払いを食ってしまう。
「参ったな‥‥既に舞鶴は落ちたか?」
 白翼寺はそう言って閉ざされた門を見つめていた。
 するとカンタータが進み出て、メロディを歌いだした。

 生者と死者には境在るべき。
 舞鶴を
 誠に丹後の行く末憂うならば
 強者に盲従するだけが最たるか今ひとたび心に問い掛けたい
 志在る丹後の勇士たち返れ〜

 カンタータは歌い続けた。すると、再び門が開いた。そしてもう一度侍が進み出てくる。
「大国主様に従い、死人を駆逐し、丹後に王道楽土を築き上げること、それが藩主宏尚様のお心だ。宮津は大国主様と決裂したではないか」
「まずは、宏尚様にお目通りを。宮津藩主からの親書をお渡しするつもりです」
 侍は結局折れた。四人は舞鶴城に入って舞鶴藩主相川宏尚のもとに通された。
 宏尚の傍らにはその奥方の桔水御前がいて、冒険者たちを見定めるかのように控えていた。幸い大国主はいなかった。
「京都の医師・白翼寺にございます。此度は宮津・峰山藩の命によりまかりこしましてございます」
 白翼寺がそう言うと、月詠が進み出て親書を宏尚に手渡した。と、宏尚が親書を受け取ろうとしたところで、桔水御前が進み出て親書をひったくった。
 御前は親書を開くと、朗々とその内容を読み上げた。大国主への臣従を思いとどまるよう、宏尚に宛てて書かれたものである。御前は狂ったように笑い出す。
 メグレズはデティクトアンデッドを使って気配を探っていたが反応はない。
「殿! この者たちを討って大国主様への忠誠の証とするのです! 宮津からの使者など、今の舞鶴に何の益がありましょうや!」
 御前の目はぎらぎらと光っていた。何かに取り付かれているようだ。
「わしはまだ大国主様に心を許したわけではない!」
 宏尚は意外にも力強い声を出した。御前は驚いた様子で夫を見つめている。
 宏尚は臆病で虚栄心の強い人物のようだが、悪人というわけでもないようだ。一方御前の方は何を考えているのか想像もつかない。カンタータはそっと仲間たちに耳打ちした。
 冒険者たちは先の戦の件も踏まえ、大国主の脅威について訴える。すると宏尚は意外な言葉を発した。
「丹後を分割統治している諸藩の現状はさておくとしても、大国主の件で宮津と峰山が協力するというなら受けても良い」
「それは‥‥つまり?」
「大国主への臣従を思いとどまっても良いということだ」
 宏尚の言葉に桔水御前は喘ぐような息をもらした。慌てて部屋を出て行く。それを見送って、宏尚は沈黙を保っていたメグレズに発言を求めた。メグレズは言った。
「強い軍勢を持ちながら、その兵士達は住民を『ただその場にいたから』という理由で殺しまわり指揮官はそれを咎めません。この軍勢とその指揮官をどう思われますか」
「亡霊軍隊が虐殺を行ったというのか」
「藩主様が忠誠を誓われた大国主神は配下である黄泉人達がいくら住民を殺しても咎めません。これは最近都付近で勃発した大国主神を崇める黄泉人勢力の騒動で明らかです。住民のためを思うのであれば、相手の殺し癖を改善する努力をされた後でもよろしいかと愚考致します」
 宏尚は吐息すると言った。
「大国主には舞鶴から立ち去って頂く」

 ‥‥そして。
「あなたに臣従することは出来ませぬ。私がどうかしておりました。亡者の軍隊に舞鶴を蹂躙させるわけにはいきませぬ」
「そうか、お前も余の覇道に立ち塞がるか。残念だ。お主が心から余に従ったなら、舞鶴は楽土となったものを。一度余に忠誠を誓うと言いながら、他人の言葉で簡単に変心するとは不実な者よ。舞鶴は亡者に蹂躙されて滅ぶことになるであろう」
 宏尚の言葉を受けた大国主はそう言い残すと、舞鶴城から出て行った。



 李、マミ、山本は町の人々から話を聞いて回っていた。藩主が忠誠を誓う大国主が亡霊の軍隊を操ること、これが何を意味するか、彼らは住民たちに問いかけていた。
 玄間の予想通り舞鶴の民は本心では諦め半分だった。現状では大国主に従うしかないと誰もが考えていた。玄間は街角で家庭薬の無償配布を名目に人を集め、先の宮津と峰山の戦の様子を劇的に語っていた。題して「宮津、峰山の撃退劇」である。
「『丹後の誇り、しかと見よ!』と、見てて気持ちが晴れる思いでした」
 玄間の言葉に人々の間からまばらな拍手が起こる。そんな折、城下に激震が走る。大国主と宏尚の決裂が伝わったのだ。
「交渉班が成功したのでしょうか」
「意外な展開ですね、まさか大国主がそれを受け入れるとも思えませんが‥‥」
 人だかりが集まっているところへ向かう冒険者たち。大国主と思われる一団が亡霊を従えて城下を出て行く。人々は呆然とそれを見送った。
 それで終わりではなかった。大国主が舞鶴を出て行くのと呼応して、城外に待機していた亡霊軍隊の一部が舞鶴城下に攻撃を開始したのである。にわかに状況が慌しくなる。侍たちは武装して出撃した。
 これあるを予期していた冒険者たちも戦闘に参加する。
 城下に侵入してくる亡霊たちを迎え撃つ舞鶴の侍と冒険者たち。慌てふためく住民たちを白翼寺とカンタータが避難させる。
「城へ向かえ! みんな城へ!」
 月詠、メグレズ、李、マミ、山本たちは前線に立って亡霊たちとの戦闘に突入する。攻撃してきたのは一部の亡霊たちであった。
 マミは亡霊の攻撃を跳ね返すと言った。
「大国主がこの民の主となるのであれば、何故守るべき民を攻撃する!? それは本末転倒ではないか!? そのような恐怖を与える者に、民は統治を委ねたりはせぬ! 磨魅キスリング、推して参ります‥‥御覚悟を!」
 マミは李のオーラが掛かった刀身で亡霊を切り裂く。
 舞鶴の侍たちとともに亡霊を撃退する冒険者たち。残った亡霊たちにマミが言う。
「帰って主に伝えなさい。このフランク王国が騎士、磨魅キスリングがあなたたちを倒したのだと」
 亡者達は、すぐに後退した。辛くも舞鶴も亡霊軍隊の難を逃れることとなる。