丹後の戦い、黄泉人来襲
|
■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:06月15日〜06月20日
リプレイ公開日:2008年06月24日
|
●オープニング
丹後、峰山藩――
峰山藩主中川克明は四男三女の子宝に恵まれていた。末弟の四男は今年十歳。克明の奥方志乃はいまだに子育ての真っ最中であった。そんな中にあって、長女の春香姫は腕自慢の家臣も顔負けの武芸者で、剣術の腕に長けていた。春香姫は時折城を抜け出しては侍たちを率いて藩内を駆け回っていた。そんなある日‥‥。
春香姫らは峰山西方の国境地帯を巡回していた。
そこで一行はアンデッドの一団と遭遇する。十体ほどの死人憑きだ。
「姫! お下がり下さい!」
侍たちは抜刀すると姫を守るように防御隊形を取る。
「まだこれほど‥‥この死人たちを何とかしなければ、丹後は滅びてしまいます‥‥」
春香姫の瞳に憂いの色が浮かぶ。姫は抜刀する。
「私も戦います」
「これだけ数が多くては仕方ありませんな。しかし無理はなさらぬよう」
侍たちはオーラを刀身に付与すると、死人憑きの群れに突撃していった。春香姫も後に続く。姫の胸に光り輝く紋様が浮かび上がる。姫一人がアンデッドスレイヤーのレミエラを装備していた。
そして戦闘の末に一行はアンデッドの一群を打ち倒す。
安堵の息をもらす侍たち。
しかしそれも束の間、遠方から迫り来るものがある。
「あれは‥‥何?」
その数十や二十ではない、大軍だ。三方向からこちらを目指して進んでくる。
春香姫と侍たちはその群れに用心しながら接近して行った。
「また不死者なの?」
春香姫の目に映ったのは、生気の失せた獣の群れ、中には怪骨の姿もちらちらと見える。
「どうやらそのようですな‥‥ここはいったん引きましょう。この地は放棄せざるを得ません。一度体勢を立て直して、援軍を呼びましょう‥‥」
侍がそう言っていると、群れが停止した。不気味なまでの静寂が支配した。
「何だ? なぜ止まる?」
すると、アンデッドの群れの中から衣服を身にまとった人らしきものが数体現れた。その顔はミイラのように干からびている。黄泉人だ。
「雌伏の時は過ぎた‥‥我らが神が復活した! あのイザナミ様が! この地は完全に我らのもとにひれ伏すことになるだろう。都へ進軍する我らの軍勢の前哨地とするのだ。畏れよ! 丹後は我ら黄泉が頂くぞ!」
宣戦布告というわけか。侍たちは少なくともそう受け止めた。峰山の侍たちは黄泉人の正体を知っているわけではなかったが出雲の異変について噂を聞き及んでいた。黄泉人たちは高らかに笑声を上げる。
「姫、とにかくも城まで戻りましょう。急ぎ殿にことの次第を伝えなくては。出雲の異変がここまでやってこようとしています‥‥」
「そうですね‥‥」
春香姫は吐息した。出雲の異変は聞こえていた。噂ではイザナミが復活し、死人の群れが猛烈な勢いで増加中とのことである。
――京都、冒険者ギルド。
丹後峰山藩からの救援要請が来た。峰山藩西方に黄泉人が出現。アンデッドの群れを率いて三方向から進入し、一帯を制圧しようとしていると言う。峰山藩は自前の戦力で撃退することも考えているが、各地の防備も考え全戦力を投入することは不可能。伝え聞くところによれば出雲でイザナミが復活し、今回現れた黄泉人もその戦力の一部ではないかと思われた。いずれにしても緊急の応援依頼である。いざ、丹後峰山へ。
●リプレイ本文
「峰山を急襲したという黄泉人ですが、出雲の様子はどうなっているのでしょうか‥‥」
明王院未楡(eb2404)は荷物の紐を結びながら仲間たちに問うた。
「出雲の情報は錯綜しているらしい。噂ではイザナミが復活したとか何とか」
ルーラス・エルミナス(ea0282)はペットのグリフォンに荷物を積んでいた。
出雲で復活したイザナミは黄泉人たちを従えて西方を死人の王国に変えている、そんな噂が京都にも届いていた。
「そんなものが出てくるから男漁りしている暇も無いのよね、全く‥‥」
そう呟くのは百目鬼女華姫(ea8616)。今回はこの女忍者も峰山の窮状に思うところがあったのだろうか‥‥。ぶつぶつと言いながら荷物をまとめる女華姫。
「戦士系と魔法使いがバランスよく集まりましたね‥‥魔法が使える僕は後方支援に回るつもりです」
「俺はアンデッドを切って切って切りまくる。それだけだな」
日向陽照(eb3619)の言葉に結城弾正(ec2502)は「姫切」アンデッドスレイヤーの刀身を頼もしそうに見つめた。
チサト・ミョウオウイン(eb3601)は今回の依頼とは直接関係無いが、宮津藩にも警戒を呼びかけておく。「峰山藩付近に黄泉人の軍勢が出没、丹後侵略を宣言。宮津藩においても警戒強化を!」との宮津藩主宛の親書を自分の名でしたため、ペットのホワイトイーグルに託して飛ばす。
「宮津の人に渡したら戻ってきて下さいね」
チサトは飛んでいく白鷲を見つめるのだった。
さて、最短日数で峰山入りする冒険者たち。峰山城に到着した冒険者たちを春香姫が出迎える。
「春香姫、お助けに参りました」
ルーラスはそう言ってお辞儀した。
「よくぞ参られました。京都の冒険者には前回も世話になりました。今回も期待しています」
春香姫の言葉には毅然とした響きがあった。
「はい、姫君の危機には、騎士が駆けつけるもの、此処は我等にお任せを」
ルーラスの物腰に春香姫は好感を持ったようでにこやかな笑みを浮かべる。
「父が待っています。ご案内しましょう」
そうして、冒険者たちは峰山藩主中川克明のもとへ通される。
「状況は芳しくない」克明は言った。「西方で復活したと言われるイザナミの影響であろう。丹後にはその余波が出始めている。黄泉人は都への進軍を企図しているようだがな」
この頃になると克明の下にも黄泉人の情報は入っていた。黄泉人を恐れる克明ではなかったが、何しろ丹後のアンデッドは数が多い。領内全てを数少ない侍たちでカバーするのは不可能だ。
「現地には安中吉天を向かわせた。吉天麾下の三十名の侍たちが死人の群れと対している。亡者たちは西方から続々と流れ込んできており、規模を拡大しているとのことだ」
「死人の規模はどのくらいですか」
克明の言葉に未楡は問うた。
「五十は下らないだろうと言うことだがな」
報告では死人の群れは獣のアンデッドであるという。峰山軍の侍たちが遅れを取るとは思えないが、数の上では不利だ。また黄泉人の存在には留意すべきところであった。
冒険者たちは克明との面会を済ませると峰山の西方、戦場となる現地へ急行した。
おおおおああああ‥‥おおおおああああ‥‥。
大地に響き渡る亡者ならぬ亡獣のうめき声。峰山西方の一角で、安中吉天ら三十人の侍たちはアンデッドのおぞましい声を聞いてこの数日を過ごしていた。
敵は三方向から侵入しつつあり、三つの集団は一応の統制を保っているようであった。
「亡者どもめ‥‥地獄絵図だな」
吉天は額の汗を拭った。アンデッドの一団は姿を見せたものの、そこから攻め入る気配を見せず停止して何かを待っている様子であった。
そこへ冒険者の一行が到着する。
「状況は? と尋ねるまでも無いか‥‥」
ルーラスは眼前のアンデッドを見やりながら目を細める。
「黄泉人が統制しているのですね」
「そのようです。何かを待っているようですが」
「背後からさらに死人の群れがやってくるそうですが」
「小規模の集団が幾つか合流しているようですな」
「西方の様子が気がかりですが、今は目の前の黄泉人をここで止めなくては」
黄泉人は軍勢を拡大して峰山に攻め入るつもりなのだろうか。
チサトは自身の知識で黄泉人の情報を提供しておく。
「黄泉人は生者に変じ忍び込む事もあります‥‥が、知る術はあります。気がついた事があったら私や陽照さんにお声を掛けて下さいね」
冒険者たちからは幾つか提案が出された。特に冒険者たちが重視するのが黄泉人である。アンデッドを統制している黄泉人を先に倒し、それから敵の軍勢を各個撃破していけばよいという案が出された。また峰山軍の陽動攻撃を交えて黄泉人たちを撃破し、その際には別働隊が他のアンデッドを引き付けるという案も出された。いずれにしても、黄泉人を中核とする一隊に冒険者たちで当たるという方針に変わりは無い。
「それでは、私がひとまず敵情を偵察してきましょう。黄泉人の位置が分からなくては攻撃しようもありませんから」
ルーラスがグリフォンに乗って飛び立つ。
上空からアンデッドの一群を偵察するルーラス。相手の陣容は陣形と呼べるものではなかった。アンデッドの群れがばらばらに散っている。一応三つの集団が出来ていて、それぞれに集団を束ねていると思われる黄泉人がいた。
「おのれ! 小ざかしい奴だ!」
黄泉人の一人がルーラスに威嚇のウインドスラッシュを放つ。
「これ以上の進軍は許さぬぞ! ここでお前たちを止めてみせる!」
ルーラスは滞空しながら黄泉人に向かって言い放った。黄泉人は笑った。
「無駄なことだ! イザナミ様が復活された今、我らに敵は無い! もはやこの地が落ちるのも時間の問題よ!」
「そうはさせないぞ」
ルーラスは黄泉人に一瞥をくれると、戻っていく。
ルーラスの帰還を待って、峰山軍と冒険者たちはいよいよ攻勢に転じる。
「これ以上待っている必要はありませんね。このままでは亡者の群れを抑えきれなくなります」
ブレイズ・アドミラル(eb9090)はそう言って姫切アンデッドスレイヤーに手をかける。
「兄者の意見に私も賛成です。油断は禁物ですが、こちらから仕掛けて様子を探ってみるしかないでしょう」
グレン・アドミラル(eb9112)もブレイズの意見に賛同する。
「元凶の黄泉人はなるたけ俺たちが引き受けるが、やはり陽動が必要か」
「先に仕掛けて相手を引きずり出し、私たち冒険者で黄泉人の背後を討ちますか‥‥」
結城と未楡の言葉に頷く吉天。
「‥‥これ以上亡者が増えれば押さえきれなくなりそうです。黄泉人の出方を待っていましたが」
吉天は冒険者たちと作戦を打ち合わせると、出陣の号令をかけた。
いよいよか‥‥。侍たちに緊張が走る。
「皆さんが本来の気性を忘れずに居てさえくれれば、大丈夫です。一緒に、子供達の未来を守りましょう」
未楡は侍たち一人一人に声をかける。侍たちは未喩の言葉に勇気を貰ったか。
峰山軍の攻撃が始まる。三十人の侍たちはそれぞれ十人ずつに分かれて亡者の群れに突撃して行った。
「皆さん! 分かれて!」
チサトの声に侍たちが散会する。アイスブリザードを放つチサト。魔法の吹雪がアンデッドに襲い掛かる。
「‥‥我は放つ、審判の矢‥‥」
また日向はブラックホーリーで突撃していく侍たちを援護する。
「アタシ、いい物持ってきたの。援護主体の人は、これの側にいると良いわよ〜」
女華姫はチサトと日向の側に適当な棒を立てると魔除けの風鐸を下げておく。魔法の鈴音がアンデッドを遠ざけるだろう。鈴音を確認して女華姫も仲間のもとに向かう。
ルーラスはオーラ全開、コンバットオプションを使用しながらアンデッドを切り伏せていく。上空からのチャージングを交えて一撃離脱。
「地を騒がす黄泉人共、英国騎士の剣を受けよ」
ルーラスの一撃の前に沈んでいくアンデッド。
女華姫は重量武器でアンデッドに相対する。長刀野太刀「物干し竿」でアンデッドを串刺しにする。
「囲まれると厄介よ、ここは一撃離脱で‥‥」
深追いはせず、目の前の敵を確実に仕留めていく。アンデッドの攻撃は回避でしのぐ女華姫。
盾のレミエラを発動させておいた未喩。アンデッドの動きが鈍ったところをシュライクやスマッシュ併用で打ち倒していく。未楡も深追いはせず、アンデッドの鈍い攻撃を回避しながら確実に一体ずつ仕留めていく。
その間にもチサトと日向の援護射撃が来る。魔法の援護を受けながら、前線に立つ峰山軍と冒険者たちはアンデッドを打ち倒していく。
峰山軍の攻撃で前方のアンデッドは次々と前進を開始していた。
その背後に回りこんだブレイズ、グレン、結城らは黄泉人がいる一団に突撃した。
結城もまたレミエラを発動させておく。アンデッド対策だ。
「行くぞ! 背後はがら空きだ、黄泉人を確実に討ち取る好機!」
姫切アンデッドスレイヤーで敵を切って切って切り倒しながら三人は突き進んだ。
さすがに接近されて黄泉人も気付いた。慌ててアンデッドを呼び戻そうとするが間に合わない。
「終わりだ黄泉人!」
ブレイズの一撃が黄泉人を捕らえる。
「ぐおっ!」
グレンももう一体の黄泉人にカウンター・スマッシュEXを叩き込んでいた。
結城は懐から清めの塩を取り出すとそれを全て黄泉人に振り掛ける。
「止めだ!」
結城の一撃が黄泉人を切り伏せた。
「おのれ‥‥貴様ごときに」
「もう迷い出る事、叶うまいよ」
結城は最後の一撃を振り下ろす。
残る一体は空中に飛んで逃げ出した。
そこへグリフォンに乗ったルーラスが突進してくる。ルーラスの切り札、白い閃撃が黄泉人を貫く。
「白き戦撃の前に霧と消えよ」
黄泉人は墜落して大地に還った。
黄泉人を失ったアンデッドは烏合の衆だった。ばらばらに行動するアンデッドを峰山の侍たちと冒険者たちは残らず打ち倒したのである。