丹後の戦い、大江山の鬼退治・其の二

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:06月23日〜06月28日

リプレイ公開日:2008年06月27日

●オープニング

 丹後南部、大江山連峰――
 丹後南部は鬼が徘徊する厄介な土地である。死人や盗賊たちも姿を見せないこの地を支配しているのは大江山に住み着いた人喰鬼たちである。人喰鬼たちを始めとする鬼軍団が丹後南部を勢力下においており、鬼の小国を築き上げていた。鉄の御所を真似て大江山は要塞化されており、小比叡山の様相を呈していた。無論あの酒呑童子が放つ風格にかなう鬼はいない。だが統制されていない分、鬼本来の本性に従って鬼達は暴れ回っており、人々を脅かしていた。
 元々大江山の奥地に封じ込められていた鬼達が活発に動き始めたのはここ最近のことである。盗賊やアンデッドの脅威で治安が悪化し、人の勢力が後退した分鬼たちが出張ってきているというわけである。ことに比叡山から流れ込んできた人喰鬼たちは厄介である。人の勢力が後退したのを良いことに、人喰鬼たちは互いに競って人里を襲って勢力を伸ばしていた‥‥。

 そんな丹後南部にとある侍集団がいた。京極高知を中心とする侍衆、京極家である。高知は有力氏族がいないこの丹後南部に進出し、雌伏の時を過ごしていた。
 大江山連峰には数々の峠があり、高知はそこを要塞化して城砦を築き上げていた。いつでも鬼の攻勢に耐えられるように、高知率いる侍たちは準備を進めているのである。
 今日も京極家の侍たちは山村を訪れていた。変わりはないかと尋ねる侍たちに村人たちは不安を隠せない。
「近頃は大江山の鬼達が暴れまわって厄介です。この地の希望は絶えました。我ら丹後の民が住まうべき場所は次々と奪われ‥‥いずれはこの地を去ることになるのでは」
「馬鹿を申すな。かつて丹後の民は自立自尊の民と言われていたではないか。希望は必ずある、望みを捨てない限り」
「それは昔のこと‥‥今では平地は盗賊や死人に奪われました‥‥自立自尊と謳ったところで私たちは無力です」
 侍はうなった。少なくともこの地の鬼を退治しなければ民にも京極家にも明日は無い。
 そんな時だ。山奥から轟いてくる咆哮があった。
「む、鬼か」
 侍たちは刀に手をかける。
「お前たちは門を閉めろ! 鬼は我らが引き受ける!」
 侍たちはそう告げると、村の外に駆け出した。

 山の中、やがて侍たちは人喰鬼と遭遇する。侍たちはその数に驚いた。十体もの人喰鬼が一団となって現れたのである。
 人喰鬼は一体で足軽十人以上に匹敵する大鬼だ。生半可な相手ではない。
 侍たちは数でも劣っていた。人喰鬼の突進を止められるはずも無く、侍たちは蹴散らされた。
「くそ! あの鬼ども村へ向かう気か!」
「殿に知らせろ! 援軍を呼ぶのだ!」

 京極高知は城砦の一つを居城としていた。人喰鬼の出現を聞いた高知は立ち上がる。その決断は早かった。
「先の京都の戦において鬼の軍団を止めたのは冒険者たちだ。かの者たちを呼べ。至急京都のギルドに援軍を要請するのだ」
 高知はそう言うと、オーガスレイヤーのレミエラが付与された自身の愛刀をつかんだ。
「殿! まさか御自ら出陣なさるおつもりで? 危険です!」
「十体もの人喰鬼、腕の立つ家臣でもそうそう相手に出来まい。京都から援軍がやってくるまで持ちこたえることが出来ればいい」
 高知はそう言うと、甲冑を身にまとって出陣した。

●今回の参加者

 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea9502 白翼寺 涼哉(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2483 南雲 紫(39歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5817 木下 茜(24歳・♀・忍者・河童・ジャパン)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec0261 虚 空牙(30歳・♂・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

琥龍 蒼羅(ea1442)/ 西中島 導仁(ea2741)/ 李 雷龍(ea2756)/ エレノア・バーレン(eb5618)/ 狩野 幽路(ec4309

●リプレイ本文

 すわ丹後南部、大江山。結城弾正(ec2502)は棲家に戻ると装備を整え、愛騎に跨り京都を発った。
「はあっ!」
 結城は馬に鞭を入れる。京都近郊を駆けていく結城。村人たちは何事かとその様子を見つめていた。
「驚かせてすまぬな! だが今は一刻を争うのだ!」
 結城は駆け過ぎながら馬を飛ばした。
 と、空を通り過ぎる影が四つ。それぞれ飛行ペットに乗ったマミ・キスリング(ea7468)、ベアータ・レジーネス(eb1422)、アレーナ・オレアリス(eb3532)、ロッド・エルメロイ(eb9943)らである。
「お先に!」
「頼んだぞ〜。直ぐに追いつくからな〜!」
 結城は上空を飛んでいく仲間たちに手を振った。
 アレーナは結城の上空をくるくる旋回しながら手を振って応えた。小さくなる結城を見つめながらアレーナは他の面子を見つめた。
「大丈夫か?」
 アレーナはベアータとロッドの脇にペガサスを寄せる。二人とも危なっかしい飛び方をしているからだ。
「いやあ、もう少し速度を落とした方が良いかも知れません」
 ベアータとロッドはグリフォンにしがみつきながら答える。
 そういったわけで最も騎乗に長けるアレーナが四人の先頭に進み出て、ナビゲーター役を務めることになる。

 後発の冒険者たちも京都を発っていた。
「人喰い鬼十匹か。なかなか楽しませてくれそうだな。朧拳流和刀術の試し切りにはちょうどいい」
 華国出身の武道家、虚空牙(ec0261)は愛馬の手綱を操りながら言った。
「俺から見れば一匹の人喰い鬼など大した脅威でもないが、一般の民にとってはとんでもない脅威だろう。俺達が帰ったあとのことを考えれば、確実に敵を殲滅しておく必要がある、か」
「俺は何度か丹後に出向いているがな、今の丹後は悲惨だな。民は死人や盗賊に追いやられ、次から次へと沸いて出る悪鬼羅刹に蹂躙されるか‥‥どうにかならんのかね」
「かつて丹後の民は自立自尊の民であったが。あの土侍たちが帰ってくれば状況も少しは改善するのかも知れぬ」
 白翼寺涼哉(ea9502)の言葉に明王院浄炎(eb2373)はうなった。
「土侍か‥‥彼らはどうしてしまったのかね」
「私は丹後に出向くのは初めてだけど、容易ならざる状況のようね」
 南雲紫(eb2483)はそう言って吐息した。これほどのつわものが集まれば人喰鬼は大した脅威ではないだろう。だがこれは丹後の暗雲の一端に過ぎない。丹後は崩壊し、人々の希望は絶えたと言われている。
 やがて冒険者たちは暗黒の大地、丹後に入る。

 ‥‥鉄の御所との戦いの後は、大江山の鬼達との戦い。つくづく鬼との戦いが絶えない。しかし、鬼との戦いを避けて通る訳にはいかない。ここで鬼達を食い止める。
 大江山連峰の鬱蒼とした森林のなかを駆け過ぎる影があった。忍の木下茜(eb5817)である。ペットの柴犬雷王丸と炎王丸とともに大江山の中を疾風のように行く。
 と、遠くからおよそ人とは思えない咆哮が響いてくる。鬼であろう。小比叡山と呼ばれる大江山。どこに鬼が潜んでいても不思議ではない。
 ぎゃあぎゃあとわめきながら飛び立つ鴉。野鳥や獣たちの鳴き声が蜃気楼のように山に響き渡る。
 木下は樹木に手をつきながら空を見上げた。希望の絶えたこの地に明日はあるのだろうか‥‥。木下は吐息すると、再び駆け出した。



 先行の四人は大江山の上空を飛びながら戦場を目指していた。
「見えたぞ! あれか?」
 先頭を行くアレーナは目的地の村を発見して仲間たちに合図を送る。煙が上がっている。どういうことなのか。
 降下しつつ村の上空に入る冒険者たち。火の手が上がって村を覆う防護柵が焼かれている。人々の悲鳴と怒号が交錯して、眼下では混乱が拡大している様子だった。
「間一髪間に合ったのか‥‥京極家は?」
「人喰鬼と思われる大型呼吸が十個、東の方角、百メートル先で集団を作り京極家の兵士達と思しき呼吸と交戦中です!」
 状況を見渡すアレーナとマミ、ロッドのもとにベアータのヴェントリラキュイで情報が入ってきた。
「ちっ、急げ!」
 アレーナは手綱をさばくと、東へ向かった。
 戦場では人喰鬼が巨大な松明を掲げながら侍たちと相対していた。侍たちは人喰鬼を近づけまいと刀を振り回していた。
 マミは急降下すると地面に飛び降り、刀を抜いた。
「京極家の方ですか? 京都からの援軍で参りました」
「援軍か! ありがたい! 待ちかねたぞ!」
 のんびり話している暇はなさそうだ。マミは侍たちと合流して目の前の人喰鬼を止めることに専念する。
 ベアータは愛騎に人喰鬼への攻撃を命じたがグリフォンは逃げ出した。そのうち帰ってくるだろう‥‥。改めて侍たちの後衛に回ると、ストーンウォールのスクロールで防壁を構築していく。ストーンウォールを連発したのでソルフの実をほとんど使った。
 アレーナは鬼達の後方に回ると、奇襲攻撃をかける。スマッシュEXで強襲する。またインタプリティングリングで人喰鬼にテレパシーを送る。
「鬼達よこれまでだ。我らが来たからには好き勝手にはさせないぞ。都の騎士の剣の前に露と消えよ」
『グハハハ、たった一人で冗談か! 笑わせるな!』
 人喰鬼は棍棒を振り下ろすが、軽くかわすアレーナ。逆に反撃して一撃を加える。
『ぐおっ! たかが一人でこしゃくな!』
 人喰鬼は仲間を呼んだ。
 と、そこでもくもくと煙が一帯に立ち込める。瞬く間に視界が遮られていく。ロッドのスモークフィールドだ。アレーナはその隙に逃げ出した。
 煙の中から飛び出してくる人喰鬼にベアータがアグラベイションをかける。動きが鈍った鬼達にストームを放つベアータ。吹っ飛ぶ鬼達。さらにロッドのファイヤーボムが炸裂する。
 マミとアレーナがさらに鬼達に痛撃を加えると、鬼達はいったん後退した。
「ふう、鬼はひとまず退きましたか」
 と、見れば侍たちは何やら騒いでいる。
「殿! 殿! 気を確かに!」
「殿! しっかりなされよ!」
「どうなされました」
 マミが尋ねると、侍たちは心配そうな表情を浮かべている。
「殿が負傷されましてな」
「高知様が?」
 マミの視線の先に横たわる壮年の男がいた。甲冑に身を包んだ京極高知である。
「これしきの傷‥‥」
 高知は立ち上がろうとしたがやはり崩れ落ちた。マミは高知を支えた。
「お主は?」
「マミ・キスリングと申します。京都からの援軍として参りました」
「そうか‥‥京都の」
「高知様」ロッドが口を開いた。「遅れて他の冒険者たちも到着する予定です。ご安心下さい」
「それを聞いて安心した‥‥」
 高知はゆっくりと起き上がったが、直後に再び倒れこみ、意識を失った。



 侍たちが見守る中、白翼寺は高知にリカバーをかけてその傷を癒した。
 後続の冒険者も到着し、鬼への備えは万全である。
「気分はいかがです」
「傷は癒えた。白僧侶の力か」
 高知は白翼寺に礼を言った。白翼寺は頷いてみせる。
「京都の医師・白翼寺涼哉にございます。以後、お見知りおきを。‥‥丹後の希望は絶えたと言われていますが、今の丹後の民が頼るべき藩主として、あなた様には戦う意思がおありのようですが」
「本来なら藩主が民の守り手となるべきところを、ふがいないことだ。鬼の一匹すら満足に退治出来ないようでは、民を守ることもかなわぬな」
 高知は口惜しげにそう言うと、再戦に備えて自身の愛刀を手に取った。

 再び決戦の時が来た。人喰鬼が再度押し寄せてきたのだ。これあるを待ち受けていた冒険者たちは京極家の侍たちと連携して鬼の攻勢に当たる。
 ロッドは仲間たちにフレイムエリベイションをかけておく。
 マミはオーラ全開。その上でオーラテレパスを使って鬼に一言。
「我が名は磨魅キスリング。我こそは悪を断つ義の刃なり! 我が刃、その身に受けなさい! そして、倒れるまでの短い間、私の名を覚えておくことです!」
 そしてオーラシールドを発動させる。
『マミキスリング、倒してやる!』
「お前ら如きが金剛童子の後釜気取りとはな。片腹痛いわ」
 浄炎はそう言って拳を打ち合わせた。
「行くぞ!」
 南雲の掛け声で冒険者たちは突撃した。後に続く侍たち。
「皆の者、手柄を焦っては無駄死にするばかりだ! 一度に皆で斬りかかり確実に仕留めるのだ! でなければ村は守れんぞ!」
 結城は侍たちをリードしながら長槍で人喰鬼を牽制する。
 鬼達のど真ん中に飛び出した空牙。華麗な体さばきで鬼達の攻撃をかわしつつカウンターで和刀を叩き込む。そして爆虎掌が炸裂。気が敵の肉体を貫き鬼は激痛に咆哮を上げた。
 木下は鬼の攻撃を引き付けつつ侍たちに攻撃の機会を作る。自身も回避した後で時折至近距離で矢を放つ。
 アレーナは正面から鬼に挑む。鬼切丸が人喰鬼の肉体を切り裂き、スマッシュが更にそのダメージを増大させる。鬼切丸の一撃で血しぶきが舞う。
 ――グオオオ!
 南雲も人喰鬼を圧倒。コンバットオプションを合成して強力な一撃を見舞う。
 浄炎もオーラ全開で立ち向かう。――牛角拳! 浄炎の拳が鬼の分厚い肉体にめり込む。
「ぬしらの横暴で天樹が願いついやす訳にはいかぬのでな」
 マミの鋭い一撃が人喰鬼を捕らえる。
 ベアータはアグラベイションのスクロールで鬼の動きを封じる。
 ロッドは威力を押さえたファイヤーボムで鬼を牽制する。
 白翼寺は後方に控えて戦況を見つめていた。この面子なら人喰鬼に遅れを取ることはまずない。
「今回は余裕か‥‥」
 やがて体力の落ちた人喰鬼から冒険者たちが確実に止めを刺していく。逃げ出そうとする鬼も侍たちは逃がさなかった。そして人喰鬼たちは全滅した。

 戦闘終結後マミと木下が京極家の客将に名乗りを上げた。高知は喜んで彼らを迎え入れた。
 大江山の戦いは始まったばかりである。前途遼遠に思いを致し、冒険者たちは京都への帰路に着くのであった。