「比叡山焼討」後日談〜仮設村
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:06月29日〜07月04日
リプレイ公開日:2008年07月04日
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●オープニング
戦が終わり、平穏な日々が戻ってきた。関白秀吉が京都入りしてひとまず情勢は沈静化した。今回の戦は悪魔が引き起こしたものだという前代未聞の秀吉の発言は人々を唖然とさせたが、とにかくも戦は終結したのだ。とは言え、戦の傷跡は今も残っている。京都は復興の只中にあり、様々な問題を抱えていた。そんな問題の一つに、戦時中に建設された仮設村があった。
近江坂本の南に平織軍が設置した仮設村は、両軍の負傷兵や延暦寺から下山した非戦闘員、京都の避難民などを引き受けて現在は一千人ほどの避難キャンプ化している。平織領内であり基本的には平織家の管理下だが、設立経緯から冒険者の協力が求められていた。一時的な避難所としてこの先、自然消滅するのが望ましいが、京都復興まで時間もかかる状況で、一千人近い人口の町として避難民や食糧など、様々な問題を抱えている。
そんなある日‥‥。
「何が悪魔だ! 我らが天台座主が悪魔にたぶらかされたなどと世迷いごとを! そもそも言いがかりをつけて今回の戦を仕掛けてきたのは虎長ではないか! 貴様ら平織のおかげで我らは慈円様を失い、僧侶たちは血にまみれた。何れ貴様らには御仏の天罰が下るわ!」
そう言って平織の兵士を罵るのは比叡山の僧兵である。負傷してこの仮設村に運び込まれたのだが、ことあるごとに平織側の人間と衝突してトラブルを引き起こしていた。
今日も平織軍として戦った足軽の負傷兵たちと口論になり、罵り合いが始まったところである。
「何おう! 貴様ら僧侶が虎長様の言葉におとなしく従い、下山しておれば事なきを得て済んだものを! 何が仏敵だ! 魔王だ! いかにも悪魔にたぶらかされていたのはお前たちではないか!」
足軽たちはそう言って反撃した。
双方の言い分にはそれぞれ理があった。とは言えお互い戦場で血を流した者同士、呉越同舟とはよく言ったものである。
彼らを取り巻く一般の避難民たちは迷惑そうに両者の言い争いを眺めていた。だが、やがてそうも言ってられなくなる。
口論が激しさを増していくうちに、仮設村にいる僧侶と足軽たちが集まってきて二つの集団を形成し始めたのである。不穏な空気が充満し始め、ついに彼らの争いは口論を越えて武力沙汰になる。
二つの集団は仮設村の一角にバリケードを築き出し、僧侶と足軽に分かれて睨み合いを開始した。そこに避難生活で鬱積したものを抱える血の気の多い輩が加わり、双方合わせて五十人ほどの小集団が今にも衝突寸前にあった。
――仮設村の状況はすぐに冒険者ギルドに飛び込んできた。どうやら平織の武士も持て余しているらしく、このままでは仮設村全体に騒乱が広がるのではないかと懸念されていた。仮設村で避難生活を送る大半の者は行く当ての無い者たちだ。問題は山積しているが、差し当たっては今回の騒動を鎮圧してからのことになるだろう。
●リプレイ本文
「で、馬鹿騒ぎをしている連中はどこにいる?」
「こちらです」
アリアス・サーレク(ea2699)の言葉に平織武士は冒険者たちを現場に案内する。
仮設村を見渡す冒険者たち。仮設村は重苦しい雰囲気に包まれていた。千人もの人間が集まって出来た仮設村は今やちょっとした町になっており、それなりの賑わいがあってもよさそうなものだが、人々の顔に笑みはなかった。平織武士も持て余している現状、手はつけられておらず、村は放置されている様子だった。人々は肩を寄せ合い、くたびれた様子でうずくまっていた。まともな食事も取っていないのであろう。人々の表情は憔悴していた。
「お恵みを!」
彼らのもとにぼろをまとった老人が近付いて来た。
「こら! あっちへ行っておれ! この方々は例の騒動を静めにこられたのだ!」
平織武士は老人を追い払った。
汚れた顔の子供たちが指を加えて通り過ぎる冒険者たちを見つめていた。アリアスは吐息した。
「見たところ碌に食事も取っていないようだが、ここの状況はあれから放置されているのか」
「ええ、正直我々も持て余しているのが現状でして‥‥改善案も出されておりませんし。この者たちの受け入れ先もまだ決まっておりません」
「平織家が支援しているのだろう?」
「いや‥‥尾張からの支援も今のところ決定しておりませんでな」
「馬鹿な‥‥」
「まあ最小限の支援はありますよ。時折支援物資があちこちから送られてきます。支援物資は我らが割り当てております。ここの住人は今のところそれを頼りに生きていくしかないのです」
平織武士の言葉の一言一句がアリアスの胸に突き刺さった。仮設村の責任者としてなすところが無かったのは事実である。そのことは先の尾張の会合でも触れてきた。近々浅井家に担当を振るそうだが、実際問題どうなるか‥‥。やつれきった人々の顔を見て、アリアスはとても他人事とは思えなかった。
このような状況下であれば、今回のような騒乱が起きても不思議ではない。このまま放置しておけば大規模な暴動でも発生しかねないと思えた。いや、今回発生した騒動はその兆候とも言えるだろう。
仮設村を横切って、一行は現場に到着した。
バリケードを築き上げて睨み合う僧兵たちと尾張の足軽たち。お互いにやじを飛ばしては時折物を投げつけている。
「戦争行為、騒乱の禁止。宗教論争、勧誘の禁止。これは仮設村を設立した際に立てた三則の一則と二則だ。‥‥守れないならば当然出て行ってもらう。‥‥足軽どもはひとまず任せろ」
アリアスは抜刀するとゆっくりバリケードに向かって歩き出した。
「仏敵虎長の下僕ども! 思い知らせてくれるぞ! 覚悟しろ!」と僧兵たち。
「何おう! 悪魔にたぶらかされたえせ僧侶どもが! 掛かって来い!」と足軽たち。
ここまで元気ならもはや仮設村にいる必要も無いだろうとも思えたが‥‥。
怒号が飛び交う中、アリアスは足軽たちの方へ近付いていく。その姿を目撃した足軽の一人が声を止める。
「あ、おい、母衣衆のアリアス・サーレク様だ」
「何だって? 母衣衆の?」
予期せぬアリアスの登場に足軽たちは沈黙した。僧兵たちは相変わらず怒鳴り散らしている。
バリケードの前に立ち尽くすアリアス。足軽たちはおずおずと口を開いた。
「あのう‥‥何か?」
「‥‥貴様ら、尾張の兵として恥を知れ!」
アリアスはオーラパワー+シュライク+バーストアタックで足軽側のバリケードを叩き壊して一喝する。
「この馬鹿騒ぎは何だ! もともと今回の上洛は神皇様と民の安寧の為、天下布武を掲げて行った。その志と意味を理解していれば、口さがのない者が仏敵だ何だと罵ろうが気に留める必要は無いはずだ。それを虎長公と神皇様の肝煎りで、焼け出された民の平穏のために作られた仮設村で、平織の兵であるお前たちが騒ぎの片棒を担いでどうする。頭を冷やせ!」
足軽たちは稲妻に撃たれたように立ち尽くしていた。足軽たちはしばらく沈黙していた。
「い、いや、俺たちは、そのう‥‥」
二の句がつなげない足軽たち。アリアスの言葉に圧倒された様子である。
僧兵たちは訳も分からずやんやの喝采を送っていたが、その前に明王院未楡(eb2404)が立った。未喩は刀を振り上げると、スマッシュ+バーストアタックをバリケードに叩き込んだ。粉砕されるバリケード。
「な、何を‥‥」
「喧嘩両成敗です。ここは仮設村、騒乱を起こした僧兵の皆さんにも注意しておきます」
「騒乱の原因はあっちだ! 我らを悪魔と罵る平織の足軽どもが‥‥」
「ちょっと! 関係ない人巻き込まないでよー! ここが何の為にあるかわかってんの?」
そう言って立ちはだかるのは陽小娘(eb2975)。
「未喩さんの言う通り、喧嘩両成敗だからね! これ以上面倒増やさないでくれる?」
「お前たちは何だ、平織の者ではないのか」
「誰でもいいでしょ! 仮設村の行く末を憂うる者よ!」
僧兵たちはとにかくもバリケードを破壊されたので呆然としている。
炊き出しが始まった。未喩と陽が手際よく炊き出しの準備を進めていく。
「オゥ〜ケンカはダメネ〜! デリシャスなオイニ〜が漂って来るヨ〜♪ イライラしたら腹ごしらえネ♪ 特にシャオニャンのランチは激ウマヨ〜♪ ムーフーフーフー」
僧兵と足軽たちの間を回りながらサントス・ティラナ(eb0764)は双方をなだめていた。
美味しそうな料理の香りにつられて、仮設村の人々が集まってくる。
「みんな並んで並んで! 押さないでね!」
陽は差し出される茶碗に炊き出しの料理を盛り付ける。
炊き出しの効果で騒動はうやむやになり、当たり一帯は料理に舌鼓を打つ人々で賑やかになりだした。
額の汗をぬぐう陽。何だかんだで騒動は収まってくれたようだ。
とある老人に桜の盆栽を寄付するサントス。桜を見て元気を出して欲しいという願いだろうか。やがて手拍子が起こり、それに合わせてサントスはダンスを披露する。人々の顔に笑顔が浮かんだ。
「パンピー達がニコニコする様にダンスするネ〜♪ ムーフーフーフー」
料理を頬張る足軽たちにアリアスは言葉をかける。
「怪我が治ったのなら原隊復帰しろ。喧嘩出来る元気のある兵を遊ばせておく余裕は、尾張には無い。まだまだ頑張ってもらうぞ」
「あっしらをまだ使ってくださるんで?」
「何だお前たち。もはや尾張への忠誠はないと言うのか」
「とんでもない! 飯食ったらすぐにでも尾張へ飛んでいきます!」
やれやれと肩をすくめるアリアス。
「仮設村は、パンピーが避難生活送る為にアルヨ〜! ボーズもモノノフも元気になったら帰るがヨロシ!」
サントスの言葉に足軽は肩身の狭い思いをしている様子であった。
一方僧兵はと言うと、あまり懲りていない様子である。がつがつと炊き出しに食らいついて我を忘れている。そんな僧兵たちに未喩が話しかける。
「この地は、負傷者と行き場を失った民人の受け入れ先として用意された地‥‥争いに人々を巻き込まないで下さい」
「そう願うなら、我らを悪魔の使いと罵る足軽どもに釘を差しておくのだな」
実際僧兵たちは全く懲りていない様子で言ってのけた。未喩は吐息する。
「ただ傷が癒えたならこの地を去って‥‥と言っても延暦寺に戻る事は人々の不安を煽るため、許されないかもしれません。もし宜しければ、死霊らに苦しむ丹後の衆生を救済しては頂けませんか?」
「丹後?」
「噂には聞いている。死人と盗賊が蔓延し、国土は崩壊し魔界と化したと‥‥」
僧兵たちは囁き合った。
「皆様、元々仏門を志したのは何のためですか? 今この瞬間も彼の地では人々がただ生き延びる為に救いを求めております。あなた方が今すべき事は、この地で争い、救いを求める避難民の行き場を奪う事ではなく、一人一人が一人でも多くの衆生を救済する事ではないのですか?」
「丹後に興味など無い。我らはそれどころではないのだ。天台座主を失い、仏敵虎長が第六天魔王を名乗っている今こそ、比叡山の結束が試されているのだ」
――そうだそうだ! 魔王を倒すまで我らの戦いは続くのだ!
「それだけの元気があれば、少なくとも仮設村にいる必要はありませんね‥‥」
「ふん、そろそろ我々も退屈していたところだ。今回の対決はちょうど良い機会であったわ。者ども、比叡山に戻るぞ!」
その一声で、僧兵たちは立ち上がった。ぞろぞろと仮設村を出ていく僧兵たち。
サントスと陽は今後も京都の医療局は仮設村の運営に協力すると約束した。
足軽たちは尾張への旅路に着く。未喩は用意していた食糧を彼らに持たせた。
「アリアスさん、さようなら〜!」
足軽たちは手を振って仮設村を発った。
こうして騒動は一段落したが、仮設村の状況は変わっていない。物資は乏しく、まともな住居も無い。ひとまず騒乱の種は取り除かれたものの、今後の運営には手厚い保護が必要であろう。