丹後の戦い、宮津城下奪還・突破
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■ショートシナリオ担当：安原太一 対応レベル：6〜10ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：4 G 50 C 参加人数：8人 サポート参加人数：2人 冒険期間：07月12日〜07月17日 リプレイ公開日：2008年07月18日 |
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●オープニング
丹後宮津藩、宮津城下――。アンデッド王国丹後において、宮津城下は半分死人の勢力下にあった。城下町の人々は防壁を築いてアンデッドの侵入を防いでいる。城は死人たちに奪われ、現在は機能していない。藩邸も城下町の一角に置かれていた。
そんな中、宮津の若き藩主である立花鉄州斎は家臣たちと会合の最中にあった。
「ここ数ヶ月で京都とのパイプは回復した。京都に援軍要請を行い、反転攻勢に転じる時が来たのでは」
「そうだ！ いまいましい死人を駆逐し、我らの城を取り戻す時が来たのだ！」
侍たちは口々に宮津城への突進を唱えていた。
「防壁の向こう側を徘徊するのはほとんどが死人憑きです。中には怪骨も混じっているようですが。何しろ数が多い」
「城までの道のりを築き上げるだけでもかなりの難事となりましょう」
「まずは防壁の向こう側に攻め込むための橋頭堡が必要になるでしょう。今後も継続して向こう側に攻撃を仕掛けるためにも」
「その作業の間、一時的に死人の群れを遠ざける必要がありますな」
「死人は生者の気配を察知して動き出す。囮部隊で陽動を仕掛ける」
「死人の群れが動いたところで一部隊をもって突破し、橋頭堡の構築に取り掛かりましょう」
そこまでの話を聞いていた鉄州斎は扇をぱちんと折り畳むと、口を開いた。
「城を取り戻すは我らが悲願。死人どもを残らず駆逐し、この宮津に平穏を取り戻したいものだ」
それは丹後の中では小さな一歩かもしれない。しかしアンデッド王国と化したこの地で生き残るために、宮津藩の戦いが始まった。
――宮津城奪還作戦。
まずは宮津城下の半分をアンデッドの占領から開放することから始まる。宮津城下は防壁によって分断されており、半分は死人の勢力化にある。その死人たちを撃退し、宮津城を奪還するまでの戦いの火蓋が切って落とされた。
防壁の向こう側には死人憑きや怪骨の群れが徘徊しており、ひとたび足を踏み入れればすぐに戦闘が始まるだろう。
この戦いに参加する冒険者たちには宮津の侍たちとともに主力部隊として死人の群れを切り開き、今後の戦いに向けた橋頭堡を構築する役割が与えられた。橋頭堡の確保が今後の攻撃継続に必要なためだ。無論その間にも死人の群れは襲い掛かってくるだろう。最終目的は城下に巣食う死人の殲滅だが、城までの道のりを確保することも重要だ。無論少しでも多くの死人を撃退できればそれに越したことは無い。冒険者たちの尽力が期待される。
●今回の参加者
ea8616 百目鬼 女華姫（30歳・♀・忍者・人間・ジャパン）eb1422 ベアータ・レジーネス（30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国）
eb2064 ミラ・ダイモス（30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国）
eb2373 明王院 浄炎（39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国）
eb2975 陽 小娘（37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国）
eb3619 日向 陽照（51歳・♂・僧侶・人間・ジャパン）
eb9090 ブレイズ・アドミラル（34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国）
eb9091 ボルカノ・アドミラル（34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国）
●サポート参加者
木下 茜（eb5817）／ 雀尾 嵐淡（ec0843）●リプレイ本文
夏の日差しが宮津城下に降り注いでいた。「よっこらせ！ どっこらせ！」
「よっしゃあ！ そっち持てえ！」
「気をつけろ！ 慎重に運ぶんだ！」
「おい何やってる！ 気をつけろつっただろうが！」
「よし行けえ！」
宮津城下の男たちが総出で橋頭堡の土台となる木材を次々と運び込んでいく。
これまで幾たびか行われた宮津城下の開放。だがそのたびにアンデッドが立ち塞がり、侍達は進むことが出来なかった。
明王院浄炎（eb2373）は男たちに混じって材木を愛馬に積み込んでいた。今回町の男衆らが集まったのも、ひとえに浄炎が呼びかけたからだった。
「可能な限り広い範囲を開放し、防壁をなそうと思っているのでな、皆も協力して貰えぬか？」
この呼びかけに町全体が動いた。また初めて冒険者たちが集まったと言う点も町の人々に希望を与えた。数年前に冒険者が丹後で繰り広げた戦いは過去のものとなってしまっているが、最近の彼らの活躍は昔年の活躍を髣髴とさせる。人々の心にはかすかに希望の光が灯されていた。
ジャイアントのミラ・ダイモス（eb2064）とブレイズ・アドミラル（eb9090）、ボルカノ・アドミラル（eb9091）のアドミラル兄弟も作業を手助けしていた。村の男衆が四、五人がかりで運んでいる木材を軽々と運んでみせる。
「さすが巨人族の兄ちゃん、助かるわ」
「丹後の窮状は目を覆うばかりですが、何とか開放への道筋をつけたいものですね」
「ああ‥‥だといいがなあ」
「信じてくれ、必ず勝利して見せるからな」
「源細様が藩主だった時代、冒険者は伝説を作ったよ。もうすっかり語り草になっちまったがな。あれから丹後も変わった‥‥」
ブレイズは男の肩を叩いた。
「俺もここ最近の丹後を見てきたが、容易ならざる事態だ。だが、俺も諦めていない。ここに集まったみんなも」
ブレイズの言葉に男はかすかに笑った。
その横を悠然とミラが通っていく。何とそれぞれ片手に木材を持って運んでいく。
「すげえなあ‥‥姉さんどんだけ怪力なんだ」
唖然と見上げる男たち。
「ふふ‥‥」ミラはにっこり微笑んだ。「額に汗する皆さんを放ってはおけません。私も戦うだけが仕事ではありませんから」
これで才色兼備のナイトである。無論男たちはそんなことなど知る由も無いが。
「よし！ 別嬪さんに負けていられねえ！ みんな、力出せ！」
おー！
そうして続々と集められていく材木。
百目鬼女華姫（ea8616）は適当な足場に立って防壁の向こう側を見つめていた。一体どれだけの死人が徘徊しているのだろうか‥‥。
ふと目を向ければ、日向陽照（eb3619）が何やらぶつぶつ独り言を言っている。
「フフ‥‥死人たちめ目にもの見せてやるぞ‥‥再び冥府に送り返してやる‥‥冥府にな‥‥」
「な、何か恐いわねえ‥‥いつもと違う」
女華姫は日向の様子に恐怖を感じた。と、ベアータ・レジーネス（eb1422）がグリフォンに乗ってやってくる。一通り宮津城下を飛んできたらしい。
「やはり死人たちで一杯ですね、正確な数の程までは把握していませんが」
「死人憑き？」
ベアータは頷いてみせる。
「死人の町ですよ。ちなみに宮津城には一度入ったことがあります。その時は死食鬼の大軍に出くわしたのですが」
「へえ、死食鬼ねえ‥‥」女華姫は城の方に目を向ける。
陽小娘（eb2975）は町の女たちから炊き出しの食材を預かっていた。
「頑張って下さいね」
「お気をつけて」
小娘は女たちと握手をかわす。
「少しでも多くのアンデッドから宮津を開放できればいいね。何とかしたいよね」
「お願いします」
みなの平穏を少しでも取り戻すことが出来れば‥‥。思いはあまりにも重く、小娘は頭を下げる町の人々を前に言葉が出なかった。
と、その時だ――上空を舞う影があった。巨大な鳥である。いや、体は鳥だが、顔は人間の女だ。
「朱曜‥‥」
「朱曜だ‥‥」
「またあの妖術師が‥‥」
人々は上空を舞う魔物――朱曜を見つめて呟いた。朱曜は上空を旋回すると、高らかな笑声を残して宮津城の方へ飛んでいった。
「朱曜とは何なのですか」
「城に住んでいる妖術師でさあ。変幻自在の姿で時折やってくるんです。恐ろしい死人使いです」
ベアータの問いに町の男は答える。
「死人使いですか‥‥」
謎の魔物の登場があったが、冒険者は侍たちとともに防壁の向こうに入り込んだ。
ベアータはバイブレーションセンサーのスクロールを使う。
「あちらは味方ですね‥‥その他には、死人でしょうか、約十体」
ベアータは仲間たちに告げる。
ミラを中心にブレイズとボルカノが両脇を固め、前進する。その背後から日向とベアータが続く。
「死人たちは囮部隊の方へ向かったようですね」
「よし、我々は前進あるのみだ」
宮津藩の主力とともに前進する冒険者たち。
浄炎、女華姫、小娘は後方で荷物を搭載した馬を押さえながらゆっくりと進んでいた。
侍達はぴりぴりしている。
「長期戦だ、最初からそう気を張っていては持ちませんぞ」
浄炎は荷物を確認しながら侍たちに声をかける。
橋頭堡の確保は一日やそこらで出来るものではない。三日三晩で昼夜を徹して作業してどこまで囲い込めるかと言うところである。事前の打ち合わせで囲い込む範囲は決めてある。予定通りに進めば作業は問題なく進むだろう。
囮部隊がそれなりに機能しているのだろう。やってくる死人たちはまばらであるが。
ミラの豪剣が死人憑きを真っ二つに切り伏せる。
「‥‥我は放つ‥‥審判の矢‥‥」
日向はブラックホーリーを放って援護する。
死人憑きや怪骨に遅れを取る面子ではない。ミラ、ブレイズ、ボルカノらは豪腕を振るって死人たちを叩き伏せる。
超絶的な破壊力を有するミラの一撃。たったの一撃で怪骨を粉砕する。
姫切アンデッドスレイヤーを装備したブレイズ、ボルカノの一撃が死人憑きを切り裂く。
「思ったほどでは無いですね‥‥」
日向は倒れていく死人を見つめながらホーリーシンボルを下ろした。
ベアータもソルフの実をかじりながら後方に待機する。
「ではそろそろ始めるか‥‥」
浄炎は一同を制して立ち止まる。
橋頭堡の確保に回っている侍たちは材木を結んでいる紐を解いた。ばらばらと落ちる材木。
「よーし、張り切っていってみよー」
小娘はみんなにはっぱをかける。
女華姫は魔除けの風鐸を手近な杭に下げ、死人が近付かないようにする。
「こーゆー時に良い物が有るのよね〜。越後屋に感謝だわ♪」
作業が始まる。
「そーれ！」
城下の家屋を壁にして、辻に次々と杭を打ち込んでいく。侍たちとともに槌を振るう浄炎。
前進した五人は死人たちの反撃にあっていた。死人たちが波状攻撃を仕掛けてきたのだ。
ストームで死人の群れを吹っ飛ばすベアータ。
「‥‥我は望む‥‥守りの天蓋‥‥」
ホーリーフィールドで防御陣地を張る日向。
「‥‥危なくなったら‥‥ここまで撤退して下さい‥‥。念のため‥‥」
侍達はホーリーフィールドを活用しながら死人たちに向かうが、ミラ、ブレイズ、ボルカノは黙々と突進する。
三人の戦闘力は宮津の侍たちを驚かせる。十体近い死人の群れに突撃し、その反撃をものともせずに叩き伏せたのだ。
「す、凄まじいな‥‥冒険者は」
侍は呆然とその様子を見やる。
「何をぼけっとしている！ 我らも遅れを取るな！ 突撃だ！」
おおっ！
侍たちがホーリーフィールドから駆け出した。
とは言え、死人たちの攻撃はいつ来るとも知れないものだった。いったん収束したかと思えばまたやってくる。一斉攻撃は無く、ばらばらにやってくるのみである。それを地道に撃退していくことになる。
夜になった。壁には松明がかけられている。こちらも地道な作業が続いている。冒険者と侍達は防護柵を次々と構築していく。
支柱の杭を打ち込む浄炎。そこに角材を渡して縄で縛っていく小娘。
女華姫は手を動かしながら侍たちに作業を指導していた。
「そうそう、だいぶうまくなってきたわね〜」
かんかんと杭を打ち込む音が夜の闇に響き渡る。
「よーし次の柱を渡せー！」
「これが終わったら次の辻に移動だぞ！」
本来なら死人の町だが、突入した仲間たちと囮部隊が亡者たちを引き付けている。
そうこうするうちに夜も深くなってくる。そこからは交代で作業を続ける。仮眠を取りながら夜の作業が続く。
前進した者たちも交代で休みながら死人を警戒する。
「ふう、地道な作業だな‥‥死人に休みなしか」
侍たちは額の汗を拭う。さすがの冒険者たちも一日中戦い続けるわけにもいかない。
何とも地道な作業が続く。
夜が明けて再び全員での作業再開。照りつける太陽は夏本番を思わせる暑さである。
それでも侍たちの士気は高い。黙々と作業を進める手は休むことなく動いている。
浄炎も黙々と杭を打ち込む。小娘と女華姫はロープで木材を縛りながら額の汗を拭った。
「よーし、みなの衆、一息入れよう！」
真昼になったところで浄炎は声をかける。
ふうと息を吐き出す侍たち。昼食を取りながらわいわいと歓談に花が咲く。
「予定通りだな。何事もなければ順調に作業が終わるだろう」
浄炎の言葉に頷く小娘。
「それにしても城までの道のりは遠いわねえ。宮津のお侍さんたちには頭が下がるわ」
女華姫は水筒に口をつけながら侍たちを見渡した。
「さて、と。では作業再開といくか」
浄炎は立ち上がった。
そして――
予定していた作業が全て終了した。
「やっと出来たー！ みんなお疲れー！」
小娘は炊き出しを行って橋頭堡完成の労を労った。おにぎりを配る小娘。
「ちゃんと食べてね！ 先は長いんだからさ！」
そう、先はまだ長いのだ。宮津城開放の戦いはまだまだ続くのだ。
