丹後の戦い、金剛童子山
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:5 G 84 C
参加人数:9人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月24日〜07月29日
リプレイ公開日:2008年07月31日
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●オープニング
丹後半島――
盗賊王国丹後にして最大の盗賊団「白虎団」が本拠地を構える伊根には白虎団が頭領、破戒僧の永川龍斎がいた。龍斎は細面の美貌の青年である。こんな若者が本当に白虎団の頭領だと疑ってしまいたくなるだろう。
龍斎はきらきらと光るレミエラを手にとって見つめていた。丹後の大名が欲してやまない貴重なレミエラを、龍斎は数多く所有している。その最たるものがアンデッドスレイヤーのレミエラであろう。主だった盗賊たちはみなこのレミエラを装備し、丹後のアンデッドに対抗する戦力を有しているのだ。
と、龍斎のもとに盗賊の首領がやってくる。
「永川様――金剛童子山の周囲で戦闘です。謎の武装集団と部下たちが戦闘に入ったと」
「金剛童子山? 守護神の鬼がいると言う噂の山か。武装集団とは何だ」
「よく分かりませんが、丹後の民のようです」
「民が戦を? まあ良い、広川、お前が行ってその者たちを鎮めて来い。最近は天津神だの国津神だのと丹後もせわしない。丹後の天下を誰が握っているか思い知らせてやれ」
「ははっ」
広川は龍斎に一礼すると、部隊を率いて金剛童子山に向かった。
金剛童子山――
「皆さん、よく帰って来てくれました」
源細ガラシャはそう言って武器をもった男たちに声をかける。彼らは元々丹後の民だが故あって戦闘もこなす土侍であった。
「ガラシャ様、丹後の守り手である金剛童子様は動かれんのでしょうか」
この山には金剛童子と呼ばれる守護神の鬼がいて、周辺の民から畏敬の念を集めていた。ガラシャは通説では金剛童子の妻とも呼ばれていた。
「夫は今出来ることは限られていると申しております。ですが、みなの帰還を喜んでおります」
「あっしらが戻ったところで丹後の窮状は変わりないと思いますが‥‥死人に盗賊、丹後の天下は連中の欲しいままでさあ」
「ですが、みなが帰ってきたことは嬉しく思います」
と、再会の時間はそこまでだった。
「白虎団の盗賊どもが攻め込んできたぞ! 山を包囲しておるぞ!」
「かあーっ! 早速攻め込んできたか。魔物とは訳が違うぞ! 砦を築け! 盗賊どもを一歩たりとも山に入れるな!」
おーっ!
土侍たちは早速陣地の構築に取り掛かり始めた。
京都、冒険者ギルド――
ガラシャは数人の土侍を伴ってギルドを訪れた。手代はガラシャを見つめて驚きを隠せない。
「あなたは‥‥確か仏御前では」
「今は源細ガラシャと呼んで下さい。丹後の混乱期を経て、私を取り巻く環境も変わりました」
「そうですか‥‥」手代はいまだにガラシャの存在を信じることが出来ないようであったが。「で、このたびはどういったご用件で?」
「盗賊たちです。私たちが暮らす金剛童子山に攻め込んできたのです。幸い土侍の皆さんが食い止めて下さいますが、状況は劣勢です。金剛童子山を守るためにも、冒険者のみなさんのお力を貸して頂きたく」
「盗賊退治というわけですか。連中は丹後の天下を欲しいままにしているそうですが」
「そうです。あの盗賊たちは丹後の支配者。私たちの反抗はささやかなものですが、村人を襲う盗賊たちからせめて守りたいのです」
源細ガラシャのもとに帰ってきた丹後の民、土侍。村を襲っていた盗賊たちとのいさかいから土侍との戦闘になった。
はたして、ガラシャの願いは聞き届けられるのか。
●リプレイ本文
丹後の上空をペガサスに乗った二人が行く。マミ・キスリング(ea7468)とチサト・ミョウオウイン(eb3601)だ。
「あそこです! 金剛童子山!」
チサトが指差した先、マミは手綱をさばくと速度を落とし、金剛童子山に近付いた。
「あそこ!」
チサトの声にマミは視線を動かした。戦闘が行われていた。
その上空を通過すると、マミは金剛童子山中に降り立つ。
「気をつけてね」
「お姉ちゃんこそ、無理しないで下さい」
マミはチサトの言葉に笑みを浮かべると、手綱をさばいて飛び立った。
チサトはマミを見送ると、山中を歩いた。程なくして土侍たちと遭遇する。チサトは身分を明かし、ガラシャの要請を受けてきたのだと告げる。
「そうかあ、ガラシャ様は無事にお着きになすったか」
「天樹さんはどこですか?」
「天樹?」
「金剛童子のことです」
「山神様は俺たちの前には姿を見せねえよ。多分、お隠れになってるんじゃないかなあ」
チサトは後で仲間たちが合流することを伝えると、一人山奥深くに入っていく。
「天樹さーん! どこですかー!」
チサトの声は蜃気楼のように響き渡った。
と、木々ががさりとうごめいた。チサトが見ていると、金剛童子と呼ばれる巨大な鬼――天樹が姿を見せた。
チサトは一人経緯を話して聞かせる。天樹は「オオオン」と鳴くと、チサトの小さな頭に手を乗せた。
それから状況を説明する。
「まだ‥‥皆の前に姿を見せることが出来ないなら、防衛線の構築に必要な資材を夜の内にそっと届けるとか、手の廻らない場所の防衛線を作ったりしてはどうですか?」
天樹はフウウウ‥‥と吐息する。
「難しいですか?」
その問いに天樹は頷いてみせる。
「盗賊たちは何とかしますから‥‥またみんなが会いに来ると思います。天樹さん、元気を出して下さいね」
金剛童子は哀しげな笑みを口もとに浮かべるのだった、
土侍たちは盗賊たちと対峙するように防護柵を築いている。
チサトは土侍たちと協力して、防御の薄い箇所をフォレストラビリンスのスクロールで迷宮化していく。
数の不利を悟ったマミは単騎で突撃するのはさすがに無謀だと考え、土侍たちとともに正面からやってくる盗賊の撃退に務める。
オーラ全開でペガサスを駆って突撃。盗賊たちの間を突破して混乱を誘う。
「くそ! あの邪魔な騎士を狙い打て!」
集中攻撃を受けるマミだが、ダメージを回復しながらも盗賊たちの侵入を防いだ。
そうして冒険者たちが到着する。盗賊たちは包囲の輪を崩さず、いつでも攻勢に転じる構えであった。
「てめぇら俺様の事覚えてっか?」
ケント・ローレル(eb3501)は出会った土侍たちの頭をぐしゃぐしゃとかき回しながら昔話をした。
「ああ、あの時の‥‥」
と、昔を思い出す者もいて、懐かしい再会にしばし話が弾んだ。
「土侍か‥‥」
天城烈閃(ea0629)は感嘆した様子であった。
「まだ民の中にも勇敢な者達が残っていたのだな‥‥。この地が都から見捨てられた土地などではないこと‥‥神皇様に代わって、志士である俺が皆に見せよう」
そんなことを言われると土侍たちの期待はいやが上にも高まってしまいそうだ。
明王院未楡(eb2404)とメグレズ・ファウンテン(eb5451)はガラシャの案内で天樹のもとを訪れていた。
「あなた‥‥みなさんが会いにこられましたよ」
金剛童子はゆったりと姿を見せる。ガラシャが無事に帰ってきて嬉しそうだ。
未喩とメグレズは天樹に贈り物を手渡した。角隠しのサンタクロースハットを被ってみせる天樹。
「天樹さんにとっては枝打ちの鉈の様に立つかどうか位かもしれませんね‥‥」
未喩は天樹の姿に笑みをこぼした。天樹も「オオン」と笑っている。
戦場の様子を確認する月詠葵(ea0020)と南雲紫(eb2483)。
地面に盗賊たちの陣地とこちらの展開場所を書いてみせる。
小細工は無い。盗賊たちは正面から攻めて来るつもりだ。数では盗賊たちの方が圧倒しているのだから当然だろう。
夜になったところで雀尾嵐淡(ec0843)はミミクリーで大梟に変身して盗賊たちの偵察に出かける。上空を飛びながら雀尾はよく観察してみる。
隊列を組んで行進する姿があったり、盗賊たちの栄養状態も良さそうだ。充実した装備など、その辺の野盗とは思えない。
一回りしてから雀尾は戻っていく。
翌日、角笛の合図で盗賊たちの攻撃が始まった。
「かかれえ!」
「うおおおおお!」
盗賊たちは一斉攻撃を開始する。一挙に土侍たちを叩き潰そうと言うのだろう。
「させるか!」
冒険者たちは土侍たちとともに突撃する。激突する二つの集団。冒険者たちには策があり、土侍たちもその点は周知している。
ザシュウ! 月詠の鋭い一撃が盗賊の腕を切り落した。飛び散る鮮血。
「何!」驚く盗賊。
月詠の真紅の左目が冷たい光を放つ。すうっと刀を持ち上げる月詠。
「ダチと民を傷つけやがって! 無傷で帰さねェからな!」
突撃するケント。
「神の刃を喰らえ!」
「おのれ! ふざけるな!」
盗賊の反撃をカウンターで返すケント。自らも一撃を受けたが相手はそれ以上のダメージだ。
「矢を放てえ!」
盗賊の頭領広川が号令する。びゅんびゅんと矢が降りかかる。
それらを土侍をかばうように立ちはだかるメグレズ。どどどっと矢が突き刺さったが、それらをものともせずに振り払う。
「でやああああ! 妙刃、水月! 破軍!」
突撃したメグレズは盗賊たちを吹っ飛ばす。
「何なんだあいつらは? 土侍ではないな」
前線で縦横無尽に奮闘する冒険者たちを見て、広川はしかめっ面を浮かべる。
南雲は盗賊たちを撃破しながら最前線で敵を撹乱している。
マミもオーラ全開で突入、仲間たちと連携を図りつつ敵を撃破していく。
未喩は月詠とケントと死角をかばいながら多数の盗賊たちを相手にしている。
月詠は容赦なかった。手加減は一切なしで盗賊たちに血の雨を降らせていた。結果として盗賊たちの恐怖と怒りを買い、月詠の周囲は容易に盗賊たちも近づけない危険地帯と化していた。
天城は集団戦の只中にあり、盗賊たちの攻撃を次々とかわしながら矢を放っていた。
「あいつは何だ?」
広川はただならぬ動きを見せる天城にどぎもを抜かれていた。
「化け物か‥‥」
ひとしきり相手を混乱させたところで、南雲は号令を送る。
「退けー! 退けー! 山まで後退するぞ!」
逃げる土侍たち。広川はその後退を見て突撃を合図する。数では勝っているため、勝利を確信しているのだ。
山に入り込んだ盗賊たちはフォレストラビリンスの罠にかかって方向感覚を失うことになる。
残った盗賊が山になだれ込んできたが、待ち受けていた土侍たちが一斉攻撃を開始する。
「撃てえ!」
合図とともに隠れていた土侍たちが一斉射撃を行う。
冒険者たちも反転攻勢に転じる。今度こそ戦闘力全開で盗賊たちに攻撃を叩きつける。盗賊たちは痛撃を被って沈んでいく。
予想外の反撃に広川は罠であったと気付いたが、攻撃の手を緩めない。
「部下たちを呼び戻せ。一点に攻撃を集中して奴らの陣地を突破するのだ。俺も出る」
そうして盗賊たちの激しい攻撃が始まる。集中攻撃に陣地は突破され、土侍たちにも被害が出た。
後方に下がって盗賊の捕虜や負傷した土侍の回復に当たっていた雀尾は忙しくなった。
ポーションも使い果たしたし、あとはテスラの宝玉を用いて一人の死者も出さないように尽力する。
前で戦っていた冒険者たちもポーションは使い果たすほどの激闘であった。
冒険者たちが殲滅戦を仕掛けたこともあって、盗賊たちも容赦なく土侍たちを皆殺しにしてしまえと襲い掛かってきたのだ。
広川率いる一隊が前に出たこともあって、盗賊たちの士気は上がっていた。
冒険者たちはこの好機を逃さず、広川に突撃する。
「お前たちか、何者だ」
「これから冥府に旅立つ者に名乗っても仕方あるまい」
南雲はそう言って刀身を立てる。
「この地を脅かす盗賊ども、神皇陛下の御名において貴様らを討つ」
「京都の討伐隊か?」
天城の言葉に広川は眉をひそめた。そして広川は凶暴な表情をのぞかせた。
「今さら遅いわ。帰って神皇に無力を伝えるがいい」
広川は刀身を抜き放つ。配下の盗賊たちも冷たい目つきで武器を構える。
「かかれ!」
号令とともに広川自らも突撃したが、百戦錬磨の冒険者たちは盗賊相手に怖気づいたりしない。
常人ならざる戦闘能力を有する冒険者たちは瞬く間に盗賊たちを切り伏せていく。
「あの世で後悔するがいい」
最後の一撃は南雲であった。すれ違いざまに放った必殺の一撃が広川の首を切り飛ばした。鮮血が舞い、頭部を失った広川の胴体は崩れ落ちた。
「か、頭が‥‥やられた」
目撃者の盗賊が震えながら後退する。
「頭がやられたー! 逃げろー!」
そして、盗賊たちは潮が引いたように逃げ出した。
「終わりましたか‥‥」
ガラシャは戦場に姿を見せる。傷ついた土侍や盗賊たちの亡骸を見て吐息する。ガラシャは本来争いを好まないが、魔境と化した丹後で生きていくためには今や奇麗事だけでは生き抜いていけないことも承知していた。
未喩から手渡された天樹のための羽織りにその表情がかすかに緩む。
「夫が喜びます。ありがとう」
「うーっす! 久々に会ったのに元気ねェなァ!」
ケントは別れを告げる前に天樹のもとを訪れていた。
「どーだ久々に景気付けでも? 肴も持って来たぜぃ!」
「グオオオ‥‥」
「友との別れも寂しいが、私との別れも寂しいと申しております」
ガラシャの言葉に首を傾げるケント。
聞けば戦いの後ガラシャは山を下りるつもりなのだと言う。土侍を伴って、丹後の衆生を励ますのだと。その旅路に天樹は着いて行くことが出来ないのだった。