丹後の戦い、丹後の導師
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:10人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月02日〜08月07日
リプレイ公開日:2008年08月13日
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●オープニング
丹後西方、峰山藩――。
アンデッド王国丹後において、死人憑きの群れを見るのは決して珍しいことではない。
だが、これは数が違った。四、五体や十体くらいの集団ではない。百体を越える亡者の大群が蠢いている。
藩内を哨戒中の侍達はその光景に目を奪われた。亡者の大軍が藩の中で次々と増殖している。地面から次々と死人憑きや怪骨兵たちが起き上がって来るのだ。
ウオオオオオオ‥‥
ウオオオオオオオ‥‥
「あれは‥‥何だ? 何が起こっているのだ」
「次々と死人たちが大地から蘇えっている‥‥これは、何かの異状現象か?」
侍たちが見ている間にも亡者の大軍は増加し、周辺の村に向かい始める。
「いかん‥‥あれほどの大軍、とても今の我らでは止め切れんぞ‥‥!」
「とにかく村に急げ!」
村に到達する頃には大パニックになっていた。亡者の大群がすぐ近くで次々と起き上がっているという話に村は恐怖に包まれた。
「みなの者、急げ! 亡者がやってくる前にここを離れるぞ!」
と、その時だ――。
「おい、何だあれは?」
侍が指差した先、みるみる草木が枯れ果てていくではないか。侍たちが注視していると、その森の中からローブに身を包んだ男が現れた。男が歩き出すのに合わせて、大地の草木は枯れ果てていく。
「こんな時、化生の類か」
だが今はそれ所ではない。
すると、男は立ち止まり、高らかに笑声を発した。
「丹後の民よ、残された時間はない、滅亡までの間に我が声を刻みつけよ! 我こそは丹後の導師! 我こそは丹後に最後の時をもたらす者だ! 丹後は我が手中にあり、我が怒りの前に滅びの時を向かえるだろう!」
何を言ってるんだ? 侍達は呆然とした。
導師はさっと手を上げる。すると、地面が盛り上がって次々と亡者の群れが起き上がる。
「何!」
「あやつが‥‥亡者の元凶か?」
導師は笑声を発すると、亡者の群れを村に向かって解き放った。
「いかん‥‥逃げろ!」
導師の笑声を背後に人々は逃げだす、その後を亡者の群れが追ってくる。
「誰一人として逃がさん!」
導師は手を掲げた。そこには鈍い光を放つ宝珠があった。導師は聞いたことも無い言葉を唱える。すると、導師の周りに大量の水が沸き起こり、水流は濁流となって村に襲い掛かった。
ザシュウウウウウウ‥‥!
人々の怒号と悲鳴が交錯する中、村は濁流に押し流される。
「何と言うことだ‥‥」
逃げ延びた人々は呆然として押し流された村を見つめる。
と、濁流の中から一人の男が現れた。若い、精悍な顔つきをした長身の青年だ。青年は子供を抱きかかえている。
「みんな、早く逃げろ、ここはもう駄目だ」
青年はそう言うと、子供を母親に預けた。青年は、名を京極高広と言った。
峰山藩主の中川克明は大国主との会合を終えて帰還したばかりであった。
西方からはイザナミが率いる亡者の軍勢が押し寄せており、丹後もその脅威に晒されている。大国主だけに注意を払っている場合ではなかった。
西方からやってくるとすれば最初に黄泉の軍勢が通過するのは峰山だ。どこまで警戒してもし過ぎるということは無い。現に一度黄泉人が現れた。
そんな折、峰山西方で壊滅的被害を受けた村々から続々と避難民がやって来た。
――導師と名乗る謎の死人使いが出現し、峰山西方を死人の領域に変えていると言う。
泥まみれの京極高広は峰山藩邸で克明に状況を説明していた。
「大丈夫かお主ら。生き延びた者がいて何よりだが」
「家臣の皆さんは残念でした‥‥あの時は多くが濁流に飲み込まれてしまいました。逃げるので精一杯だったのです」
「導師‥‥一体何者なのだ」
克明は家臣団を召集し、この事態に備えるべく京都にも援軍を求めた。
謎の死人使い導師、峰山西方を凄まじい勢いで亡者の軍勢で埋め尽くさんとしている。峰山の小戦力でどこまで立ち向かえるのか。
そして峰山藩の命運は‥‥。
●リプレイ本文
チサト・ミョウオウイン(eb3601)は京都を発つ前に陰陽寮に足を運んだ。
導師が持っていたという宝珠を伝説のアーティファクト“潮盈珠”と睨んだチサトは、かつての経験を生かして情報収集に当たった。チサトは丹後で潮乾珠を見たことがある。ならば対をなす潮盈珠とあって不思議は無い。
潮盈珠と潮乾珠は古事記や日本書紀に出てくる山幸彦と海幸彦の神話に登場する。山の神と海の神が対立して大洪水が起きると言う説話である。神話では山幸彦が潮盈珠を使って海幸彦を溺れさせている。これが実話だとすると‥‥。
チサトは半日調べたが、陰陽寮にある資料では導師が持つ宝珠が潮盈珠という確証は得られなかった。彼女の知識やジャパン語のレベルは高く無いので、調べ方が拙いのか。それとも、もっと別な切り口で調べる必要があるのだろうか。
――峰山。冒険者たちは峰山の侍たちと合流を果たす。
「まったくもって退屈しないな、この国は。それでこそ、時々冒険しに戻ってくる甲斐があると言うものだ」
デュラン・ハイアット(ea0042)はそう言って遠くの死人の大軍を見つめる。溢れんばかりの死人の行列が峰山西方を行く。
侍達は冒険者たちの合流に勇気付けられたが、死人の規模は計り知れない大きさになっている。すでに藩主は武器を持てる者には老若男女を問わず戦の用意をするように伝えていると言う。
「京極殿、ご無沙汰しとります」
白翼寺涼哉(ea9502)は京極高広に話しかける。
「ん、どこかで会ったか?」
「父君の高知殿とは面識がありましてな。鬼退治の件で」
「鬼退治‥‥あの時の冒険者か。迂闊にも俺は留守にしていたな」
昔話はまた別の機会にと高広は行きかける。今回の参陣に、若武者らしい気負いが見える。
「京極家客将の木下茜です。以後お見知りおきを」
木下茜(eb5817)はそう言って丁寧に挨拶をした。
「おお‥‥」
立て続けに御家に所縁の者と会い、高広は感銘を受けた様子だ。
「丹後は今四五に分裂している。その中でも京極家は大きいとは言えぬが、そなたらのような者達が居る。俺は必ずそなた達の期待に報いるぞ」
「京極家の方の依頼となれば駆けつけない訳には参りません」
「うむ、今でこそ南の流浪王などと呼ばれているが、京極家には夢がある。丹後南部の鬼を退治し、かの地を平定すると言うな。汝の力を我が家に貸せ」
「はいっ」
木下は深々とお辞儀する。
早速防衛線の構築に取り掛かるのはバル・メナクス(eb5988)と木下。
バルは防護柵に銀メッキを施そうと考えていたが、メッキと言っても半端な銀量ではすまない。バルが用意した銀塊では足りず、また峰山藩にもそれだけの銀の用意は無かった。
そんなわけで普通に防衛線の強化に当たる二人。峰山の侍達も柵を築いている途中だった。
バルと木下で馬防柵と落とし穴、導師の洪水対策として筏等の作成の指導に当たる。二人が指導に当たると急ピッチで作業が進んでいく。二人ともこの手の作業は専門分野なのだ。
メグレズ・ファウンテン(eb5451)も直接作業に加わっていた。メグレズは空き樽にロープを縛り付け、即席の浮き筏を作っている。これも導師の洪水対策だ。黙々と作業に打ち込むメグレズ。それらを流されないように防護柵にくくりつけていく。 浮き筏の様子をミラ・ダイモス(eb2064)が見にやって来た。ロープの具合を確かめるミラ。
「実際に濁流が来たら‥‥大丈夫でしょうか」
「分かりません、今は出来ることをやるしか」
「死人の群れが近付いています。導師もそこにいるかも知れません。この浮き筏が早速役に立つかも知れませんが‥‥」
ミラは戻っていくと侍たちの作業を手伝った。尋常ではない腕力を備えているミラは杭打ちや材木運びを手伝っていた。
高広から水没した村のことを聞いた白翼寺。村まで案内してもらい、被害状況を見ておく。
ほとんど水は引いていたが救出作業は続いていた。
ペットの亀を水に放す白翼寺。救出作業を手伝わせようと言うのだが。亀は水に入ったきり帰ってこない‥‥。
まあ仕方ない、亀に人間みたいなことが出来るわけも無い。
それから白翼寺は一通り救出された人々を診察して回った。
「怪我なら治してやれる。怪我しとる連中は並んでくれ」
白翼寺はそう言って、貴重な時間を割いて村人たちの治療に当たった。
死人軍団が近付いてくる。
「それでは、私たちは合図があるまで隠れていますので」
ルーラス・エルミナス(ea0282)はグリフォンに白翼寺を乗せて飛び立つ。
「大国主の奴、性懲りも無くアンデッド軍団をよこしやがって。だが、もう死体を何千そろえようが関係ねぇ。ひとっ飛びで導師とやらを叩きのめすまでよ」
バーク・ダンロック(ea7871)もそう言って後退する。
導師を討つ! そのために冒険者たちは作戦を立てた。陽動で死人の群れを引きはがし、その隙に導師の懐に飛び込み決着をつけようと言うのだ。
「何とか今回の導師を退けても、まだまだ危機を抱えている。これをどうにかしないとな。峰山だけの問題ではない。丹後の問題、ひいてはジャパンの問題だ」
ハイアットには導師との戦いなど通過点にしか過ぎないようだ。ストリュームフィールドを展開して堂々と死人の群れに向かって歩いていく。死人たちの攻撃をかわしながら罠の方へ引き付けていく。
ミラは侍たちの指揮を任された。侍達はミラの指揮のもと、後退すると見せかけて死人たちを罠の方へと誘っていた。
「氷吹雪!」
チサトはアイスブリザードを放って死人たちとの距離を保つ。
「でやああああ! 妙刃、水月! 破軍!」
メグレズはコンバットオプションを繰り出して死人の群れを吹っ飛ばす。鉄壁の守備力で縦横無尽に暴れるメグレズ。後衛の仲間たちの周囲をデティクトアンデッドで探査することも忘れない。
そして木下が落とし穴の前で引魂旛を振ってみせる。
グオオオオオ!
死人の群れが咆哮を上げて突進してくる。
「退けー! 退けー!」
ミラの号令で侍達は一斉に引き上げる。
適度に戦っていたバルも慌てて馬防柵の奥に引き上げる。
木下はぎりぎりまで引魂旛を振っていた。
死人たちはなだれ込むように落とし穴に突入する。と、返しの板から次々と岩が落ちて死人たちを押し潰す。
これで十分だと確認したハイアットは合図のライトニングサンダーボルトを空に放った。
「合図です」
ルーラスはライトニングサンダーボルトを確認する。
「行くか」
白翼寺の言葉を受けて、彼を乗せたルーラスはグリフォンに鞭を入れる。
「行くぜえ!」
バークも意気盛んに死人の群れに突っ込んでいく。
ルーラスと白翼寺は上空から、バークは正面から死人たちの群れを突破して導師のもとへ向かう。
先に到着したルーラスらがそれらしき一団を発見する。ローブをまとった男たちだ。
「何だ、人間がいるぞ? あれが導師か?」
白翼寺は上空から観察する。男たちは死人たちに命令している。
「一体どういうことでしょうか、導師の他にも死人使いが?」
そうこうする間に薄くなった敵陣を突破したバークが到着する。
「あそこだバーク!」
「おう!」
白翼寺の呼びかけにバークは突撃してオーラアルファーを放った。死人たちをなぎ払う。
「行くぞ! ルーラス!」
「はい!」
ルーラスも突撃する。
ローブを着た男たちは冒険者の突撃に気付き、稲妻の魔法や暴風の魔法で迎撃する。
バークは魔法をものともせずに突進する。が、ルーラスと白翼寺を乗せるグリフォンはバランスを崩して吹っ飛んだ。
「うおおおお!」
バークは敵中に突撃する。
「過去にどんな経緯があったか知らんが、不浄なアンデッドで世を乱す外道を阿修羅神はお許しにならん! 観念しやがれ!」
「おのれ!」
男の手から暴風が放たれる、がバークはびくともしない。
体勢を整えたルーラスはチャージングで敵中に突進する。
「導師はどこだ? どいつが導師なんだ」
白翼寺は術をかけるタイミングを図りながらローブの一団を見やる。
「相手が分からなけりゃ全員切り捨てるまでよ!」
バークはローブを着た一団に襲い掛かる。ルーラスと白翼寺も続く。ローブの一団は後退しながら死人たちを呼び寄せる。
「出でよ者ども!」
ローブ男の一人が手をかざすと、地面が盛り上がって次々と死人憑きが湧き上がってくる。
「うおっ、何だ、あいつが導師か!」
ぼこぼこと沸いてあっという間に増殖する死人憑きと怪骨の群れ。数で圧倒して冒険者たちの壁になる。ローブ男たちの姿は見えなくなった。
「くっそー、駄目だこりゃ! 死人なんざ大したことねえが数が違いすぎるし誰が導師かも分からねえ!」
「仕方ありません、今回は防衛線の維持に回りましょう!」
「討ち損じたな、洪水が来るかも知れん、後ろの連中に知らせんと」
舌打ちしながら白翼寺はピュアリファイで死人憑きを足止めする。
三人は死人の群れをいなしながら撤収する。
「何だ? 連中が戻ってくるぞ」
ハイアットは空中に浮かびながら戻ってくる仲間たちを見やる。
「駄目だ! 討ち損じた! 洪水が来るかも知れんぞ!」
侍たちと冒険者たちに緊張が走る。情報では導師は洪水を起こす宝珠を使うと言われている。
混戦状態で洪水が起きれば逃れる術は無い。だが情報は情報として、この死人たちを食い止めない訳にもいかなかった。
帰ってきたバークらを加えて、死人たちの猛攻を食い止める峰山藩士たちと冒険者。
洪水は起きず、やがて死人の群れは潮が引くように後退を始めた。峰山西方に向かって退いていく。
「敵が引いていきます‥‥」
チサトは遠ざかる死人の群れを見つめて吐息した。どうにか防衛線は持ちこたえたようだ。追撃の余力は、残念ながら無い。
「導師の宝珠は確認できましたか」
「いや、術士と思われる連中が複数いて、誰が導師なのか分からなくてな。宝珠も確認できなかった」
「実物を見る事が出来ればと思っていたのですが‥‥」
宝珠を潮溢珠と予想するチサトは最前線に出たかったが、足手まといになるかもしれないと遠慮した。
冒険者達は空から突入して導師を抑える作戦を立てていたが、欠員が出てまとまった人数が揃わなかったので攻め手に欠けた。