丹後の戦い、大江山の鬼退治・其の三
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:7 G 23 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月17日〜08月22日
リプレイ公開日:2008年08月25日
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●オープニング
丹後南部、大江山連峰――
丹後南部は鬼が徘徊する厄介な土地である。死人や盗賊たちも姿を見せないこの地を支配しているのは大江山に住み着いた人喰鬼たちである。人喰鬼たちを始めとする鬼軍団が丹後南部を勢力下においており、鬼の小国を築き上げていた。鉄の御所を真似て大江山は要塞化されており、小比叡山の様相を呈していた。無論あの酒呑童子が放つ風格にかなう鬼はいない。だが統制されていない分、鬼本来の本性に従って鬼達は暴れ回っており、人々を脅かしていた。
元々大江山の奥地に封じ込められていた鬼達が活発に動き始めたのはここ最近のことである。盗賊やアンデッドの脅威で治安が悪化し、人の勢力が後退した分鬼たちが出張ってきているというわけである。ことに比叡山から流れ込んできた人喰鬼たちは厄介である。人の勢力が後退したのを良いことに、人喰鬼たちは互いに競って人里を襲って勢力を伸ばしていた‥‥。
そんな丹後南部にとある侍集団がいた。京極高知を中心とする侍衆、京極家である。高知は有力氏族がいないこの丹後南部に進出し、雌伏の時を過ごしていた。
大江山連峰には数々の峠があり、高知はそこを要塞化して城砦を築き上げていた。いつでも鬼の攻勢に耐えられるように、高知率いる侍たちは準備を進めているのである。
そして、その準備が試される時が遂に来た。鬼達の侵攻が始まったのである。先の戦いで冒険者たちが人喰鬼の一団を全滅させてから、鬼達の間に不穏の気配があった。人喰鬼が頻繁に出没し、しばしば鬼を率いて砦に接近していたのである。それが遂に本格的な攻撃に変わったのだ。鬼の軍団は一気呵成に押し寄せ、防備の劣る砦は次々と陥落していった。要衝となる砦は何とか持ちこたえたが、人喰鬼が配下の鬼を率いて包囲していた。
その砦の一つに、茨城峠の砦があった。丹後南部戦線を支える京極家の戦略上の要である。ここが落ちれば防衛線は崩壊する可能性をはらんでいた。と言っても鬼達が人間のように作戦を立てるわけもなく、各地に点在している砦を攻撃しているだけなのだが、京極家は茨城峠の攻防に重点を置いていた。
「こちらが戦力を集中させれば鬼達の攻撃も増すだろう。少数精鋭で人喰鬼を叩くべきだ」
「もっともだ、第一、大規模な援軍を送ることが出来る余裕も我々にはないしな」
「やはり鬼軍団の要は人喰鬼だ、茨城峠に姿を見せたのは少なくとも十体以上の人喰鬼か‥‥」
「山鬼や熊鬼、配下の小鬼らは人喰鬼を頼みにしているだろう、頭を失えば後は烏合の衆、どうとでもなろう」
そこ京極高知が口を開いた。
「京都に援軍を要請しろ。我が家に縁のある者であろうとなかろうと、鬼相手ならば冒険者たちは存分に力を発揮できよう。わしも立つ」
高知はそう言って、オーガスレイヤーのレミエラが付与された愛刀をつかんだ――が、そこにたくましい偉丈夫が姿を見せる。精悍な顔つきの若武者だ。高知の息子、京極高広である。
「父上、随分と大事になってきましたな、これほどの鬼の侵攻、我が家がここに居を構えて以来の出来事。とは言えこれは始まりに過ぎんでしょう。父上には後方から戦況を見据えて頂くとして、最前線には俺が立ちましょう」
「放蕩息子が帰ってきたかと思えば父に代わって家臣たちを率いると言うか」
高知はそう言ったが、胸の内では息子の帰還を嬉しく思っていた。家臣たちも同様である。
「殿、ここは若君が申される通り、戦に立つのは我らにお任せ下さい、殿に万が一のことがあってはなりません」
「ふむ‥‥では、茨城峠はお前たちに任せる。わしは他の場所を回ろう」
「殿、ご無理をなさっては‥‥前回のこともありますし」
「この危機にわしが動かずどうするか。京極家存亡の危機ぞ。――高広、腕の立つ者を連れて行け。あとから冒険者たちが追いつく」
「承知した」
「ではみなの者、ここが踏ん張りどころだ。これ以上鬼の侵攻を許すわけにはいかぬぞ!」
ははっ!
そうして、侍たちは各地の戦場に散って行った。
●リプレイ本文
‥‥茨城峠、鬼の咆哮が風に乗って鳴り響いている。
「放てえ!」
砦に押し寄せる鬼達に向かって京極家の侍たちが矢を放つ。
びゅんびゅんと飛んでいく矢の先には鬼の一群が。鬼を率いる人喰鬼は突き刺さった矢をものともせずに突っ込んでくる。その後から山鬼に熊鬼、茶鬼に小鬼が続く。
砦を囲む堀の外で、鬼達と戦いを続けるのは京極高広ら、京極家の侍たちである。
「やはり駄目か‥‥」
高広は人喰鬼の攻撃を跳ね返しながら戦場を見渡した。鬼の包囲を突破できない。見れば人喰鬼率いる一隊が堀を埋めようと岩を次々と放り込んでいる。それくらいで埋まってしまうような堀ではないが。
高広は目の前の人喰鬼から逃げ出すと、他の家臣のもとへ駆けつける。もっとも一人で出来ることは限られているが。
乾坤一擲。一度森まで後退し、人喰鬼を打ち倒すために再び突入の機会をうかがう京極家の侍たち。
と、その時だ。彼らの背後から姿を見せる者がいた。音もなく現れたのは京極家客将の忍者木下茜(eb5817)だった。
「若様」
木下の呼びかけに高広は振り向いた。驚いた風もなく高広は精悍な顔に笑みを浮かべた。
「木下ではないか、遅かったな、待ちわびたぞ」
「申し訳ありません、もっと早く駆けつけたかったのですが‥‥」
「他の者たちは?」
「もう一人、歩みをともにしてきた者がいるのですが」
と、木々の間から姿を見せたのは同じく客将のマミ・キスリング(ea7468)。愛馬のペガサスと戦闘馬を連れている。
「ふう、ようやく到着ですわ」
マミはそう言ってにっこり笑った。木下が高広との仲立ちをする。
「お初にお目にかかりますわ若君、先の鬼との戦いで高知様にお迎え頂きましたマミ・キスリングと申します」
「二人だけなのか?」
「いえ、別の方向から仲間たちが駆けつけているはず。あと、徒歩の二人が強行軍でこちらに向かっております」
「それを聞いて安心した。早速働いてもらうぞ。何とか持ちこたえているが、見ての通り鬼は大群でな」
「ご安心を、鬼は一匹たりとも逃しませぬ。砦と連携を図って戦線を立て直しましょう」
「砦は完全に包囲されているが‥‥」
「その点は私の足を信じて下さい。忍びの術には少々心得がありますので。包囲をやり過ごして砦の中の皆さんと連絡を取ってみましょう」
木下は自信をのぞかせて言った。
「私は空から鬼達を追い込みます、若様、決してご無理をなさらぬよう」
マミはペガサスに乗ると上空に舞い上がった。
「では木下、俺たちは少し待機させてもらおう。砦と連携が取れるようであれば頃合を見て突入する」
「はい、お任せ下さい」
木下はお辞儀すると、風のように戦場に駆けていった。
「みなさんのいる場所から西側の包囲網が最も薄い場所になります」
偵察に出ていたベアータ・レジーネス(eb1422)がヴェントリラキュイで仲間たちに戦場の様子を知らせてきた。
「西側か‥‥砦の真後ろだな。さすがに鬼達も真後ろまでは手が回らないと見えるが、あるいは正面から砦を落とすしか能がないか」
伊東登志樹(ea4301)は明王院浄炎(eb2373)に問うた。
「恐らくは正面から攻める方法しか知らぬのであろう。所詮は鬼だ‥‥と言っても数は侮れぬが」
浄炎は腕組しつつ戦場の様子をみやった。
「マミさんが飛び立ったようです」
ベアータから報告が来た。
「いずれ正面から鬼どもを蹴散らすしか無いであろうよ、俺は正面に回るが、お前はどうする浄炎」
「俺も正面に向かおう。人喰鬼を後退させねば戦線を立て直すことも出来ぬであろうからな」
「決まったな。んじゃ、サポート頼むぜ瑞香」
伊東は琉瑞香(ec3981)にウインクしてみせる。厳しい表情で頷く瑞香。
「全力で皆さんのサポートに回ります。お気をつけて」
「うっしゃあ! 行くか!」
伊東と浄炎は戦場に飛び出した。
冒険者たちの反撃が始まった。
「はああああ!」
マミは上空からオーラ全開で人喰鬼目がけて突進していく。チャージングの一撃が人喰鬼に命中する。
予想外の一撃に驚いた人喰鬼は咆哮を上げてマミと対峙する。人喰鬼の棍棒がうなりを上げるところで再び上空に舞い上がるマミ。
伊東、浄炎も突撃してくる。目指すは人喰鬼。小鬼の類が伊東らに群がってくるが、その側面にベアータのストームが叩きつけられる。吹っ飛ぶ鬼達。ベアータはさらにスクロールで援護を試みるが、鬼の数が多すぎて迂闊には近づけない。術士のベアータは接近戦に持ち込まれたらおしまいだ。
再度上空から突撃するマミ。今度は鬼もマミを見ていた。マミの攻撃を受けたが人喰鬼は反撃する。鬼の棍棒がうなりを上げるがマミはオーラシールドで受けた。オーラの盾に阻まれて人喰鬼は苛立たしげな咆哮を上げる。人喰鬼は周囲の鬼を呼び寄せようとするが、そこでベアータの強力なサイレンスが掛かった。耳と口を塞がれた人喰鬼は混乱してきょろきょろと見渡した。
連携プレーではなかったが、混乱する人喰鬼にマミは容赦なく攻撃を加える。
と、他の人喰鬼が部下の鬼達を呼び集め、冒険者に対抗する。
人喰鬼と戦っていた伊東と浄炎も鬼たちの集中攻撃を浴びて後退を余儀なくされた。
仲間たちが注意をそらしている隙に、木下は砦の中に入り込んだ。砦の中には約三十人の侍たちがいて、矢をつがえて鬼を狙っていた。状況を説明する木下。
「高広様がおいでなのは分かっていた。だが我らとしても打って出る訳にもいかずな」
砦の防備は固い。回復薬や食糧も十分に貯えられている。長年準備してきただけのことはあった。
「こちらも戦力が整えば人喰鬼に対して遅れを取ることはありません。それまで何とか頑張りましょう」
「うむ、人喰鬼を食い止めてくれるなら、我らも他の小鬼どもを狙ってみよう」
木下も侍たちとともに砦からのサポートに回る。
砦からの援護を受けながら戦いを続ける冒険者たち。それでも今回の戦いは難事であった。
さすがのマミ、浄炎、伊東も長期にわたって前線に立つことは出来ない。数が違いすぎるし人喰鬼の数も多かった。ぎりぎりのところで京極家の侍たちが来たが、もう少しで完全に囲まれるところだった。ベアータはなりふり構わずストームで味方ごと吹っ飛ばそうかとさえ思った。
「大丈夫か!」
高広が鬼の群れを切り開きながら浄炎のもとに辿り着く。
「お前は?」
「京極高広だ。そっちは都の冒険者であろう」
「京極の若君か。危うく死ぬところだったぞ」
浄炎は掛かってくる熊鬼の攻撃を槍でいなしながら苦笑した。
「今回は荷が重そうだな。さすがにこれだけの人喰鬼が集まると簡単にもいかんか。稀代の剣豪も多勢に無勢では逃げることから考えると言う。ここはいったん砦まで退くか」
「逃げるだけなら簡単だ。後発組には強力な布陣が控えているから、全員揃うまで砦の防備を強化して時間を稼ぐのも手だが‥‥どの道人喰鬼を撃退せねばならんが」
高広は額の汗を拭って戦場を見渡した。
「よし、一度後退して、それからもう一度全員で囲みを破って砦に入ろう」
「よかろう」
そうして、高広と浄炎はそれぞれ味方に後退を告げる。
戻ってきた仲間たちを瑞香が癒した。瑞香は全員のダメージを回復するまでリカバーを使い続けた。
状況を伝えるためにベアータはリトルフライで砦まで飛んで行き、木下と連絡を取った。
それから再突入した冒険者たちと京極家の侍たちは、砦からの援護を受けながら門に辿り着き、砦内部に入ることに成功した。
夜‥‥。
風雲寺雷音丸(eb0921)とアンリ・フィルス(eb4667)はいまだ戦場まで半日という距離にあった。これでも徒歩でほとんど眠らずに強行軍を行っていた。アンリは徹夜には強かったが、さすがの雷音丸も慣れない強行軍にふらついていた。
「これだけ睡魔と戦う経験もあまりないな‥‥」
「少し休んでいくか。貴殿は足に来ている様子だ」
「すまん、小一時間だけ眠らせてくれ。戦場では何とか踏ん張るから‥‥」
雷音丸はぐったりと眠りに落ちた。
砦周辺を取り巻く鬼の軍勢はいまだ後退せず、防備の強化は防壁の強化に限られた。
侍たちは防壁の強化を行う。冒険者たちも作業を手伝う。
京極家の侍達は高広の入城を受けて士気が上がっていた。
「とは言えこれからどうなるのだ‥‥」
侍達は不安を押し隠せなかった。人喰鬼の侵攻は予想以上のダメージである。丹後南部は恐らく壊滅的な被害を受けたはずだ。各地の状況はいまだ不明だが。
瑞香はせめてもの慰めにメンタルリカバーを侍たちにかけて回った。今後のことは置くとしても、まずは目の前の戦いに勝ち残らねば明日は無い。
「二人が来たようです」
木下は櫓からアンリと雷音丸の到着を確認する。
「ガァアアアア!! 人喰い鬼どもめ、一匹残らず叩き斬ってくれる。さあ、この鬼霧雨の餌食になりたい奴からかかってこい!」
雷音丸は睡魔をこらえながら突撃する。掛かってくる雑魚鬼の首を次々と切り飛ばしていく。
「ふん!」
アンリの超絶的な一撃。アンリが振るう石の王という名の巨大な棍棒はオーガスレイヤーの魔力を帯びている。小鬼はもちろん、山鬼、熊鬼は一撃で粉々に打ち砕かれる。そしてさらに――。
「せいやあ!」
石の王の破壊力は凄まじく、スマッシュEXを加えたその一撃は、人喰鬼ですらたった一撃で葬り去るほどの威力であった。
白兵戦に恐るべき戦闘能力を発揮する雷音丸とアンリを加え、冒険者たちは反撃に転じた。侍たちも人喰鬼が次々と打ち倒されていくのを見て打って出る。
恐れをなしたのは残る雑魚鬼ら。人喰鬼が打ち倒されてはかなうはずも無く、特に鬼神のごとき強さを発揮する雷音丸とアンリの前に次々と露と消えていく。
雑魚鬼たちはやがて次々と逃げ出した。
こうして、ひとまず茨城峠の砦は持ちこたえたのである。