丹後の戦い、宮津城への道・突破

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月23日〜08月28日

リプレイ公開日:2008年08月31日

●オープニング

 丹後、宮津――。
 アンデッド王国丹後において、宮津城下は半分死人の勢力下にあった。人々は防壁を築いて死人たちの侵入を防いでいる。
 先の冒険者たちが参加した戦いにおいて、宮津の侍達は死人たちが占領している一部の城下町を開放することに成功した。
 これまで幾たびか繰り返されてきた宮津城奪還作戦。そのたびに宮津勢の前に立ち塞がったのが、宮津城に居を置く死人使い“朱曜”である。先の戦いでもちらりと姿を見せた。変幻自在の死人使いであると言うが。
 前回の戦いで構築された橋頭堡、そこを拠点に、あれからも宮津の侍たちは地道な戦いを繰り広げていた。
 無尽蔵の回復力を有する死人たちを相手に、何とか前進に望みをつなぐ宮津の侍たち。城までの道のりはまだ遠い。

 宮津城‥‥。その奥深くに死人使い朱曜の姿があった。朱曜は美しい女の姿をしている。その瞳は退屈そうに周囲の餓鬼に向けられていた。
「お前たち、外へ行って餌を食べておいで。人間たちがこちらへ来ているだろう」
 餓鬼の群れは朱曜の声に反応して外へ出て行った。餓鬼を送り出した朱曜はぽつぽつと言葉をつむいだ。
「無駄なことに力を費やすものだな‥‥幾ら来ようとこの城は落ちぬ。分からぬ連中だ」
 朱曜はそう言って最奥の闇に姿を消した。

 宮津城奪還作戦――。
 前回の戦いで宮津城下の開放を進めた宮津勢は、相変わらず死人憑きや怪骨たちを向こうに回して開放作業を進めていた。
 宮津の侍達は更なる前進を目指して戦いを続けていたが、倒しても倒しても数を減らさない死人たちを前に苦戦を強いられていた。死人たちはどこからともなく宮津城下になだれ込んでおり、情勢に改善の兆しはなかった。
「やはり宮津城の朱曜を倒さぬ限りこの地の安泰はないのではないか」
「うむ、朱曜が死人どもを操る元凶であることは百も承知、死人たちを呼び寄せていても不思議は無いが」
「死人たちの中に餓鬼が見られるようになった。恐らく朱曜が城から解き放ったのであろう」
 侍達はうなった。朱曜を倒す、そのためには城までの道をつなぐ必要があった。
「先の開放戦では橋頭堡の構築に成功した。そこから更に城までの道をつなぎ、朱曜を直接叩くしかない」
 そして新たな作戦が立てられた。先の戦いで成功した囮部隊を使った作戦だ。囮部隊で死人を引きつけ、その間に別の一隊をもって城までの道を構築するのだ。
 こちらの依頼では主力部隊に参加する冒険者が募られた。囮部隊が死人たちを引き付けるので、その間に宮津城までの道をつなぐのがその役目だ。死人の侵入を阻むことが出来る防壁を宮津城までつないで道とする。前回の戦いで行った橋頭堡の構築に似ている。一発逆転を狙う宮津勢は城までの道が完成すれば総力を挙げて宮津城の朱曜に突撃するつもりだ。宮津城奪還に向けた次なる一手、この作戦を成功させ、朱曜との戦いに進むことが出来るのか。京都の冒険者たちの尽力が期待されるところである。

●今回の参加者

 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea7871 バーク・ダンロック(51歳・♂・パラディン・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2975 陽 小娘(37歳・♀・武道家・パラ・華仙教大国)
 ec3981 琉 瑞香(31歳・♀・僧兵・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 宮津――。
「先の橋頭堡に続き、此度こそ宮津城までの道筋を成さんと思うが、それには皆の力が必要だ。皆、力を貸してくれぬか」
 明王院浄炎(eb2373)の言葉に宮津の民が「おーっ」と沸いた。
 やがて続々と運び込まれてくる木杭、角材、補強用の板材、扉部等、防壁作りのための資材が山と積まれていく。宮津の民も侍衆もみんな総出で資材を用意した。
 わっと沸いた宮津勢であったが、侍たちの顔には緊迫した面持ちがあった。これまでにも宮津城奪還の戦いはあったが、宮津城にいると言う死人使い朱曜の反撃の前にことごとくそれらの動きは頓挫してきたのだ。
 今度こそ、宮津城への道を築いて朱曜を叩く。侍たちは今回の戦いに望みをつないでいる。
「では行くかみなの衆」
「やるしかないでしょう、状況は選べませんが」
 浄炎の言葉にベアータ・レジーネス(eb1422)の瞳は燃え上がっていた。何としても朱曜を叩くと言う気概がみなぎっている。ベアータはこの戦いで一気に朱曜のもとへ辿り着くつもりでいたのだ。さて、そううまくことが運ぶだろうか。
「朱曜が出てくりゃ当然ぶった切るまでだがなあ」
 一見呑気そうな声で平然と言ってのけたのは鉄壁パラディンのバーク・ダンロック(ea7871)。
 それはそうと今回は囮部隊に勢いが無い。前回の戦いでは囮部隊が死人たちを引き付けるのに成功している。その援護が期待できない今回、どこまで防壁を築き上げることが出来るのか。果たして城までの道をつなぐことは出来るのか。宮津城奪還へ向けた中盤戦が始まる。



 前回構築した橋頭堡を越えて、宮津城へと近付く一行。
 バイブレーションセンサーのスクロールを使うベアータ。
「振動が二十以上、恐らく死人でしょう。やはり死人の数はかなりのものであるようです」
「んじゃあ浄炎、こっちは任せろ、と言いたい所だが、まあ実際どこまで死人を止められるか分からん。数が相当多いみたいだからな。やれるだけやってみる」
「頼む」
 浄炎はバーク、ベアータ、山本建一(ea3891)、そして去り行く侍たちを見送った。
「ここからは未踏の領域だな‥‥」
 残った侍の一人が険しい顔つきで先を見つめる。
「ここから先は朱曜の領域、死人の反撃もこれまで以上にやってこよう」
「どこまで食い込めるか‥‥この一戦、負けられぬ」
「朱曜かあ、全く面倒くさいのはとっとと片付けたいよねえ」
 陽小娘(eb2975)も厳しい表情で先を見つめる。
「では作業を始めよう」
 冒険者と侍達は荷物の紐を解いた。
「よっし! 行け行けえ!」
 早速辻々に杭を打ち込んでいく。
 浄炎も杭打ちを開始する。
 作業は流れるように進む。城下の家屋を外壁として利用、辻々に死人の侵入を防ぐ防壁を構築することで作業時間の短縮を図る。
 小娘は支柱の杭に渡された角材をロープで縛っていく。これも流れ作業。と、そこで――
「む、死人だ、はぐれものだろう、一匹だけ」
 早速と言うべきか、死人憑きが一匹近付いてくる。
 進み出たのは琉瑞香(ec3981)。
「ホーリーライト!」
 突き出された聖なる光に死人憑きが悲鳴のような鳴き声を上げる。よろめく死人憑きに侍達は撃ちかかってこれを撃退する。
「一匹くらいなら良いがな‥‥」
 侍たちはいそいそと作業に戻る。
 今回は時間との勝負。流れ作業で防壁を築いていく冒険者と侍たち。

 その頃‥‥。
 押し寄せる死人の群れにベアータのストームが炸裂。ぽっかり開いた空間に飛び込んだバークはオーラアルファーを炸裂させた。
「よし! かかれ!」
 侍たちは死人たちに攻撃を開始する。
 死人の群れには餓鬼がいた。邪悪な笑みを浮かべて接近してくる餓鬼を、山本が切り伏せる。
「闇の世界に生きる黄泉人よ、冥府に帰るがいい」
 山本が振るうアンデッドスレイヤーの曲刀が餓鬼をずたずたに切り裂いた。
 さらに接近してくる死人たち。
「ちい、何て数だ。こりゃ押さえ切れねえぞ。オーラアルファーもオーラソードも連発してたら魔力が足りん」
 バークは予想外の敵の多さに舌打ちした。鉄壁パラディンも武器がなければ対抗しようが無い。用意していたソルフの実もこの様子では使い果たすだろう。
「とは言え‥‥引き下がるわけにもいかんしな。仕方ねえ‥‥何とか耐えしのぐか」
 突撃するバーク。
「バークさん‥‥何とか援護しますよ」
 山本も突撃する。
 それでも死人たちの数は圧倒的だ。侍たちも死人に撃ちかかるが、全体で見れば死人の猛攻に対して冒険者と侍の抵抗は“点”だ。
 その結果が防壁の構築にも影響を与えることになる。

「死人の数がまた増えてきたぞ!」
 防壁を構築していた侍と冒険者たちは予想以上の攻撃にあっていた。
「せい!」
 浄炎の拳が死人憑きを叩き伏せる。
 瑞香のレジストデビルで防御力を高めた侍たちが死人たちを何とか叩き潰す。
「くっそー! 邪魔しないでよね! せっかくこさえたんだからさ!」
 小娘は足払いで怪骨を転倒させた。オーラパワーを付与した月桂樹の木剣で怪骨を打ち砕く。
「急げ急げ! 死人が来る前に先へ進むのだ! 一刻の猶予も無いぞ!」

「オーラアルファー!」
 何度目のオーラアルファーか、バークはすでに数えていない。武器を持たないバークはひたすら守勢に耐えて死人の猛攻をしのいでいた。鉄壁パラディンのバークに死人憑きや怪骨の攻撃は全く通じないが、バークは今回武器を持っていない。と言ってMPを使うオーラソードでは時間に限りがあった。
「こんにゃろ!」
 それでもバークは諦めることなく死人を盾で押し返した。
 山本は出来るだけ死人を止めようと走り回っていた。侍たちの援護に回り、死人の群れに単身切りかかった。これ以上先へは進ませない! その思いでひたすら刀を振るった。
 ベアータはヴェントリラキュイで仲間たちの間の情報伝達に回っていた。どうにか死人たちの猛攻を押し返そうというのだが、力及ばず。

 瑞香のもとには負傷した侍たちが戻ってきていた。リカバーで回復に当たる瑞香。
 防壁の構築はどうにかこうにか進んでいるが、スピードは上がってこない。
 死人たちの攻撃を廃しつつ、浄炎はハンマーを振るう。杭を打ち込んだらすぐさま次の場所に移動する。
 小娘は角材をロープで縛りながら額の汗を拭った。死人の攻勢で思うように作業が進まないので焦りがつのる。

 そうこうする間に夜になった。いったん引き上げる冒険者と侍たち。

「あの数の多さはどうにかならんのか‥‥」
 バークは食事を頬張りながら呟いたが、対策は浮かんでこない。
 数で勝る死人に対抗するにはこちらもそれなりの戦力が必要だが、その意味では今回囮部隊に勢いが無いのは痛い。
「仕方ねえ、こいつを使うか‥‥」
 バークは盾の代わりにシャクティを持つことを決断する。オーラアルファーだけでは死人の群れを押さえ切れない。少しでも死人の足を止めるには、バークも武器を持つしかないだろう。
 とは言え死人の数の多さにこれと言った対策を打てないまま、冒険者と侍達は朝を迎える。



「よおし! 今日は死人どもを切りまくるぜえ!」
 バークはシャクティの刃を開放する。
 昨日出来た防壁のところまで進んだところで、ベアータはサンワードのスクロールを使った。
「不死者を操る朱曜を名乗る者」
 ベアータは朱曜の居場所を特定しようとしたのだが、答えは「分からない」であった。朱曜は宮津城の中にいると思われるが、太陽の光が届かない場所ではサンワードで居場所を確認することは出来ない。この戦いで一発逆転を狙ったベアータの目論みは外れた。もっとも城に攻め込むことは可能だ。ベアータもバークも空を飛ぶことが出来る。が、さすがに二人で攻め込むのは無謀と思われた。
「仕方ありませんね‥‥戦力も揃っていない今回はひとまず見送りますか。無念ではありますが」
 ベアータはそう言って肩をすくめた。
「そうそう肩を落としたものでもありませんぞベアータ殿、苦戦はしましたが、意外に距離を稼いでいるようです。もう一踏ん張りすれば防壁も完成するでしょう」
 侍の一人が遠目に宮津城の方角を見やった。侍たちは意気上がった。このペースなら数日あれば防壁は完成するだろう。
「よし! 行こう!」
 一同ここが正念場と宮津城に向かって踏み出した。

 死人たちの攻撃は相変わらずだが、城に近付くにつれ、餓鬼の群れが目に入るようになってきた。
 シャクティを振るうバークはすでに宮津城をその視界に捉えていた。城の門から餓鬼が出てくるのが見える。
 目の前の死人たちにオーラアルファーを叩きつけ、シャクティで切りかかるバーク。

 山本とベアータは特に防壁を作っている作業周辺の援護に回った。城との距離が迫ってきたためだ。
 ストーム連発で死人たちを吹っ飛ばすベアータ。そのベアータを山本が護衛する形だ。

 防壁構築の作業は追い込みに入る。
 浄炎、小娘は侍たちとともにひたすら作業に打ち込む。
 時折死人の群れがやってくるが、それらを廃しつつ、作業は進んだ。
 瑞香はこれまで同様回復作業に追われる。侍たちの手当てだ。熟練の冒険者たちは死人憑きや怪骨などものともしないが、侍達にとっては多勢に無勢の死人はそれなりの相手だ。

 さらに一日が過ぎて、防壁の構築は進む。そうして――。

「ここまで来れば十分だろう」
 みなの手が止まった。視界のすぐ先は宮津城だ。
 最後に出来上がった通路の中に死人が入り込まないように入り口を塞いでおく。
 冒険者や侍たちが戻ってくる。最後にバークが空から戻ってきた。偵察がてらに阿修羅魔法フライで飛んできた。



 町に戻った一同。
「お疲れー」
 小娘は町の奥さんたちと炊き出しを行ってみなの労を労った。
「みんなちゃんと食べてねー。まだ暑いんだからさ」
 この次が最後の一戦となるのか、宮津城奪還への希望をつないで、戦いは終わった。