丹後の戦い、決戦宮津城・VS死人使い朱曜

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 4 C

参加人数:11人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月25日〜09月30日

リプレイ公開日:2008年09月30日

●オープニング

 丹後、宮津城の闇に、一人の美女が鎮座していた。朱曜と名乗る死人使いである。その周りには餓鬼の群れが戯れている。
 くたびれた表情で朱曜は中空を見つめていた。と、そこに人影が進入してきた。朱曜の漆黒の瞳がすっと動いた。
 視線の先に、七人の人影があった。影が動いて、朱曜の方に進んできた。
「揃ってお出ましか、珍しいこともあるものじゃ」
「様子を見に来た。宮津が落ちそうなのでな」
 影の一人が言った。
「ここが落ちたところで丹後の状況は変わるまい。この地は我らが手中にある」
「今はな。だが油断は出来ん」
 別の影が言った。
「目下の敵を退けることに専念しろ。宮津を堅守するのだ」
「わしに命令するな」
 朱曜の静かな声が影を圧倒したように見えたが。
「まあせいぜい頑張ってよ、僕たちは応援してるからさ」
「宮津はあんたで持ってるも同然、あんたが消えたらどうする?」
 影の問いかけに朱曜は苛立たしげな表情を浮かべる。
「お前たちの出る幕は無い。万に一つもわしが倒れるようなことがあれば別だがな」
 朱曜はそう言って立ち上がる。
「者ども、出陣じゃ、宮津勢を生きては返さん」
 朱曜を見送る謎の七人――。一人、また一人、暗闇の中に姿を消した‥‥。

 丹後、宮津城下――。
 広大な丹後からすれば小さな点にしか過ぎない宮津の中心都市であるが、そこで今、戦いの狼煙が上がっていた。
 死人に占領された宮津で、開放に向けた戦いがこれまで進んできた。冒険者の活躍もあって何とかこれまでの戦いを無難に進めてきた。残るは宮津城の攻略であった。宮津城の死人使い朱曜を討って、宮津を死人の手から救う、一発逆転にかける宮津の侍たちの最後の戦いが始まっていた。
 宮津城奪還に向けて、侍たちは一気呵成に攻めかかった。宮津城は目の前。死人憑き、怪骨、餓鬼らの抵抗を排して、宮津城に突入したその時、ついに朱曜がその姿を見せた。
「宮津の侍たちよ! わしはここだ! 宮津の朱曜はここにいるぞ!」
 朱曜は一見無防備に姿を見せた。が、次の瞬間――。
「かつてここまで来た者はいなかった。だからお前たちには相応しい代償をくれてやろう! 出でよ者ども!」
 朱曜の声が高らかにこだました途端、城のそこかしこから黒い影が飛び出してきた。
 無数の死人憑き? いや、死人憑きにしては動きが俊敏だ。あり得ない跳躍力で侍たちに迫るそれは死食鬼の群れであった。
 おぞましい叫び声を上げて死食鬼の群れは侍たちに襲い掛かる。侍達は反撃したが、死食鬼は恐るべき相手である、死人憑きとは訳が違う。
 熟練の侍でも死食鬼とはようやく互角。それ以上の戦いが出来る者は数少ない。死食鬼の牙が侍たちを追い詰め、遂には侍達は逃げ出した。
 追撃してくる死食鬼の群れを振り切って、侍達は橋頭堡まで逃げ込んだ。だが全員が逃げ切れたわけではない。
 橋頭堡の扉を閉ざそうとする七衛門を三郎が止めた。
「まだ残っている者がいる! 見殺しにする気か!」
「このまま扉を開けていれば町に奴らの侵入を許す、そうなってからでは遅い!」
「俺は仲間を見捨てはしない! みんな、仲間が帰ってくるまで戦うぞ!」
 三郎に賛成する者もいれば七衛門に味方する者もいた‥‥。

 宮津藩邸――。
 宮津藩主、立花鉄州斎は凶報を聞かされてさすがに腰を浮かせた。
「死食鬼の大群だと?」
 七衛門と血にまみれた三郎は主君にありのままを告げた。宮津城における敗退、死食鬼の大群‥‥。
「朱曜はそんな切り札を持っていたか‥‥峰山には導師が死人の大軍を持って現れ、大国主は亡霊軍隊を有し‥‥」
 鉄州斎の言葉は宙に浮いた。が、自失の時間は無かった。
「諦めるのは早い、朱曜を討つ機会は必ずあるはずだ」
 鉄州斎はそう言って、室内の片隅にいる美貌の客人に目を向けた。丹後で知らぬ者はいない、かつてガラシャと呼ばれた丹後の舞師――源細ガラシャもまた厳しい表情を浮かべていた。今は丹後の土侍たちを伴って宮津藩の客人としてここにいた。
「あなたには不本意でしょうが、土侍たちの力を貸しては頂けませぬか」
 鉄州斎はガラシャに呼びかけてみる。藩主である鉄州斎は流浪人であるガラシャを客人としてもてなした。丹後の民に今も慕われる人物に鉄州斎も敬意を払ったのだ。
「私の一存では決められません‥‥多くは地元に帰っていますし」
「‥‥ですが、出来ることなら力を貸して頂きたい。この宮津の民のためにも」
「戦うのは彼ら、彼らが良しと思えば武器を取るでしょう‥‥。私から話はしてみましょう」
 ガラシャの言葉に鉄州斎は頷くのだった。そして‥‥。

 京都冒険者ギルドに宮津藩から依頼が舞い込んだ。
 宮津藩主、立花鉄州斎は宮津城奪還に向けた最後の一戦に冒険者たちの参戦を呼びかけた。これまでの戦いで開放は順調に進み、残すは宮津城の奪還のみ。死食鬼の軍団を操る死人使い朱曜との一戦、宮津城奪還を巡る最後の戦いが始まる。

●今回の参加者

 ea8384 井伊 貴政(30歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2373 明王院 浄炎(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2404 明王院 未楡(35歳・♀・ファイター・人間・華仙教大国)
 eb5249 磯城弥 魁厳(32歳・♂・忍者・河童・ジャパン)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb9091 ボルカノ・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9112 グレン・アドミラル(34歳・♂・侍・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb9276 張 源信(39歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ec0843 雀尾 嵐淡(39歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ec1565 井伊 文霞(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

メルシア・フィーエル(eb2276)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

 宮津まで急いだ明王院未楡(eb2404)はガラシャを訪れ、彼女から宮津近くの土侍、国人衆の所在を聞いた。
「確かにガラシャさんはいきとし生ける物が争うを好まず、血の流れる事を嫌いますが‥‥此度の戦は死者を死者として送る為の鎮魂の戦‥‥皆様の力を貸しては頂けませんか?」
 ガラシャは未楡のために土侍への手紙を渡していた。宮津の家臣でない土侍に頼むのは虫のいい話とガラシャは思っていたが、未楡の言葉にガラシャは心動かされた。文を預かった未楡は短期間で回れるだけの土侍のもとを訪れる。
「あなた方の守護神、金剛童子・天樹さんは、丹後全ての民人を慈しむ方であると、娘達‥‥そして彼の方の親友からも伺っております。天樹さんならきっと宮津の人々のために戦うでしょう。彼の方の代わりに立っては下さりませんか?」
 なかなかくすぐったいところを突いてくる。土侍たちは未楡の説得に苦笑する。
「仕方ねえなあ、宮津の藩主様に義理などねえがな」
「やるか?」
「おう、宮津の死人使いとやらに一泡吹かせてやろうぜ」
 そんなこんなで宮津近郊の土侍を集めた未楡。
「みなさん‥‥ありがとう」
「いいってことよ、まあ、この国はすっかり変わっちまったがな。変わらないものもある」
 土侍の言葉に未楡の顔はほころんだ。

 明王院浄炎(eb2373)は侍たちを前に士気を鼓舞していた。
「一度退けられた程度で何だ! 皆、良く考えてみよ。敵の首魁を引きずり出し、隠し玉まで引出したのであろう? 宮津の侍勢を誇れども何をしょげる必要がある」
「ここまで来たら相手にとって不足なしだ!」
 再戦にかける侍たちから力強い言葉が飛び交う。死食鬼の大群に打ちのめされた侍達は今度こそやってやるぞと言う思いが強い。
「敵も後がないのだ。我ら冒険者に加え、土侍からも増援が見込めるこの機を逃す道理はなかろう」
 すでに丹後各地からも要請に応えた土侍たちが宮津に到着していた。宮津勢に加わった彼らは藩主に謁見し、すでにこの一戦に向けて心を決めていた。
「久しぶりの魔物狩りに昔の土蜘蛛退治を思い出すなあ」
 土侍たちがわいわい言っていると、藩主の立花鉄州斎が現れた。甲冑を身にまとっている。今回は自ら戦場に赴くつもりだ。
 鉄州斎はいざ出陣の号令をかける。
 おーっ! 冒険者と土侍たちも歓呼の雄叫びを上げる。
 見送る人々から歓声が上がる。その傍らで祈りを捧げる者もいる。人々は今度こそと宮津勢の凱旋を信じていた。

 橋頭堡を出たところで、死人憑きと怪骨と餓鬼の大軍が待ち受けていた。
 浄炎が持ち込んだ木材を使ってひとまず補強が行われる。雀尾嵐淡(ec0843)は死人を食い止める罠を構築しようと思ったが、攻め寄せる敵の数が多すぎて罠を仕掛ける時間は無かった。
「此処が正念場だ、此処で朱曜を討てば、宮津の城は開放される。丹後の夜明けを我等で勝ち取るのだ。皆行こう」
「我が剣は、『勝利』のルーンが刻まれた、宝剣ティワイズだ。この剣の元、戦えば必ず勝利する。我等を信じ、共に宮津の城を開放しようぞ」
 ボルカノ・アドミラル(eb9091)とグレン・アドミラル(eb9112)は侍や土侍に呼びかけると、メグレズ・ファウンテン(eb5451)とともに先陣を切って飛び出した。みなも彼らの後に続いて死人の群れに突撃した。

 宮津城‥‥。
 怪骨の群れがばらばらと朱曜のもとへなだれ込んでくる。激しい身振りで城の外を指差す怪骨たち。
「何? 宮津勢が来たというのか」
 怪骨たちは頷いてカタカタと口を鳴らす。
「なめおって‥‥いや、何か策があるのか。わしがこの目で確かめる必要がありそうじゃな」
 そう呟くと、朱曜は死食鬼の群れを伴って城を出る。

「やあ!」
 死人を切り伏せる井伊貴政(ea8384)。朱曜撃破を目指す冒険者たちだが、待ち受ける死人の数は尋常なものではない。これでも丹後の災厄のほんの欠片に過ぎないのだが。
「貴政! 危ない!」
 井伊文霞(ec1565)は弟の貴政に迫る死人に切りつけた。死人は攻撃を受けても何も感じない様子で牙をむき出して文霞に遅い来る。文霞は間一髪かわした。速い、死食鬼だ。
 死食鬼を切り伏せた井伊姉弟は正面の死人の群れが割れるのを見た。そこに死食鬼の群れを従えた朱曜がいた。朱曜はずかずかと死食鬼を従えてやってくる。
 周りからも続々と死食鬼が集まってきて、冒険者たちの間に緊迫が走る。
「御大自らお出ましとは意外な展開じゃのう」
 磯城弥魁厳(eb5249)が朱曜の様子を観察する。
「あの真ん中にいる女、様子からしてあやつが死人使いじゃろう」
 朱曜は周りを怪骨兵士や死食鬼に守らせながらこちらにやってくる。これではインビジビリティリングで透明化しても秘策である樒流絶招伍式名山内の壱「椿」は使えない。
「ここは機会を待つか‥‥」

 朱曜が出たという磯城弥の知らせに宮津勢は虚を突かれた。まさか打って出てくるとは思わなかったのだ。
 そうこうする間に死食鬼との戦いが始まる。雑魚の数は確実に減ってはいるが、死食鬼の参戦で戦闘はにわかに激しさを増した。
 浄炎は死食鬼の攻撃を跳ね返しながら未楡がレミエラを発動させるのを待った。
「もう大丈夫です‥‥」
 未楡は立ち上がった。周りを見渡せば死食鬼の猛攻に傷つき後退する侍や土侍たちがいる。
 後退する者たちを後方で支えるのは張源信(eb9276)と雀尾の僧兵二人だ。事前に早めの回復を促しておいた。張はリカバーで、雀尾はテスラの宝玉で回復に努める。
 結城弾正(ec2502)もレミエラを発動させながら死食鬼と対峙する。死食鬼の一撃を受けつつも切り返す結城。
「くっ、やるなっ」
「こっちは一人じゃない!」
 救援に駆けつけるメグレズ。挟撃してくる死食鬼相手に「十握剣」アンデッドスレイヤーを振るう。
「妙刃、水月! ‥‥並びに、妙刃、破軍!」
 ソードボンバーが炸裂。
「結城殿、大丈夫か!」
「かたじけない。いったん後退させてもらう」
「ああ任せろ!」
 ボルカノは侍たちに呼びかける。
「死食鬼の群れは、任せろ。宮津の方は、それ以外の相手をお願い致す」
 そうは言っても数が多いので、熟練侍達も死食鬼の抑えに回る。
 激しい戦い。浄炎は未楡の援護を受けてオーラをかけ直す。傷はポーションで回復した。
「未楡、大丈夫か、無理はするなよ」
「大丈夫です‥‥」
 グレンは装甲にものを言わせて死食鬼の攻撃を跳ね返し、傍若無人に動き回る相手を叩き切った。
「世を騒がし、人々の嘆きを響かせる亡者共め、貴様らの悪行もこれまでだ。勝利のルーンの元、灰燼に帰すべし」

「‥‥あやつらは何だ。宮津の侍ではないな」
 朱曜はおよそ恐怖とは無縁の魔物だ。死食鬼が打ち倒される姿を見ても退くことなど考えない。
 冒険者たちに接近し、その姿を視認して、最前線に踏み出してきた。

「来おったぞ! 朱曜じゃ!」
 磯城弥はそこかしこの屋根に飛び移って叫んだ。
 手当てを受けていた結城は立ち上がる。
「お気をつけて」
「さらに過酷な戦いになりそうだ、張、雀尾、お主らも忙しくなりそうだな」
 その通り、戦いは朱曜が前線に現れて、死食鬼の大群が押し寄せ、厳しさを増す。
 続々と後方に下がってくる負傷者を張と雀尾は回復し続ける。彼らがいなければ宮津勢は恐らく崩壊していただろう。

 いったん朱曜に譲り渡した戦いのアドバンテージを冒険者たちが取り戻すのには時間がかかった。
 朱曜に先手を取られ、集団戦に持ち込まれてしまったため、個々の戦闘能力で状況を打開する機会を逸したのだ。
 崩れた体勢を立て直し、宮津勢とともに死食鬼を確実に葬り去っていく。ようやく死食鬼が衰えを見せたところで反撃の機会がやってきた。
 冒険者の一行は宮津勢に一声かけて、朱曜に突撃した。宮津の侍と土侍たちが周囲の敵を引き付ける。
 朱曜は向かってくる冒険者たちに護衛の死食鬼と周囲の怪骨兵士を叩きつけた。メグレズ、ボルカノ、グレン、浄炎、未楡、結城らがそれらを受け持って叩き潰した。
 無防備になった朱曜。磯城弥は予定通りインビジビリティリングで透明になると、秘策の樒流絶招伍式名山内の壱「椿」を使った。微塵隠れの術で瞬間移動して朱曜の懐に飛び込んだ磯城弥、透明のままスタッキングPAを朱曜に叩き込む。朱曜は振り返った。瞬間瞬きした朱曜だが、透明化した磯城弥を見破るとビカムワースを唱えた。
 磯城弥は痛撃を被ったがこれも計算のうち。仲間が突撃する猶予を与えた。
 貴政と文霞が朱曜の背後から襲い掛かる。二人のスマッシュEXが朱曜を捕らえたが――。
 朱曜はまだ立っている。朱曜は貴政に向かってディストロイを唱える。
 激痛に顔をしかめながら、貴政は朱曜にスマッシュEXを叩き込む。文霞も弟に続く。
 文霞の一撃でついに朱曜の動きが止まる。みるみるうちに白骨化していく朱曜、そしてぼろぼろに崩れ落ちた。
 朱曜は倒されたが、死人たちが後退することは無い。だが、リーダーを失った死食鬼や怪骨の攻撃はばらばらで勢いを失った。
 宮津勢と冒険者たちは死人たちを各個撃破していく。少なくとも城は取り戻し、そしてほとんどの死食鬼を倒したところで帰還する。

 このまま死人たちが増えることがなければ宮津の解放は時間の問題であろう。
 さて、戦いの後にボルカノがとある提案を出した。
 宮津藩が望むなら今後平織家の救援を願うかと言ったものである。それは平織との同盟を意味した。丹後の平定に平織の兵を借りると言うことは、宮津藩が平織家の傘下に入ることを意味する。ボルカノは平織家の武将であったからその提案は重大な意味を持った。
 そうして、鉄州斎は家臣たちと協議の上決断する。平織との同盟を進める方向で話を進めて欲しいとボルカノに頼んだのである。