丹後の平定、大国主の針の岩城
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月01日〜10月06日
リプレイ公開日:2008年10月08日
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●オープニング
丹後――。
七月末、宮津で行われた会合にて、丹後諸藩の大名と天津神、冒険者、そして大国主の間で会合が持たれた。
大国主の最後通告に冒険者たち始め、丹後サイドは平和裏のうちに戦いを解決するべく幾つか提案が出された。結果として会合は決裂。大国主は丹後を切り取ると言い残し、宮津を後にしたのである。
それから二ヶ月が過ぎていた。
諸藩の大名と決裂した後、大国主は自身の言葉を丹後の民に投げかける。
曰く、
「死人と盗賊が横行するこの魔界丹後を平定するのは余の他にあらず。黄泉の勢いは日に日に強まる。それは西に災いが復活したからだ。もはや藩主どもに民を守る力はない、民の平穏を約束するのは余のみである」と。
大国主は大名たちの無力を説いた。魔物と言われる大国主が、民の支持を得ようと論と理で自らを喧伝するのは意外な事に思われた。しかし、彼の語る所は重要である。
かつて大和を襲った黄泉の軍勢が、今度は西国に現れて近くまで来ている事は人々の噂になっていた。混沌とした丹後に、噂のイザナミまで現れては人間の住む場所はどこにも無くなるだろう。
人々は恐れおののき、幾つかの村が大国王の庇護を求めてくると、彼は実力行使に出た。丹後の中でも特に不安定だった丹後南東地域に踏み込んだのである。大国主は亡霊軍隊の力でこの地域の死人と盗賊の脅威を一掃し、解放された村々は大国主に従った。
「これは丹後平定の第一歩である。黄泉と戦う者、また王の庇護を求める者はこの地に来るが良い。余はここに王道楽土への足がかりを築いた。丹後の民の望みは余とともにある」
この噂はあっという間に丹後全域に広まった。
何より慌てたのは、丹後諸藩の藩主達である。彼らは亡者や盗賊に加えてイザナミの脅威に忙殺されていたが、まさかその間に国のおよそ三分の一を大国主に切り取られるとは夢にも思わなかった。
大国主と云えば神話に名高い大神であり、恐ろしげな軍隊を使役して藩主達が手を焼いていた死人と盗賊を駆逐した事は民の評判を呼んだ。大国主の領域の村々が苦しめられている噂も無かった事から、少なくない人数が丹後南東部に移動した。
丹後南東は山に囲まれた低地である。その一角にその岩山はあった。険しい峰が連なる岩山の中に広い洞窟がある事はそれまで極一部の者しか知らなかった。大国主が脅威を掃った事で岩山の洞窟に隠れていた人々が村に戻ると、大国主はその存在に興味を持ち、案内をさせた。
「ほう‥‥気に入った、ここを余の城といたそう」
大国主が調べると、洞窟は岩山の隅々に繋がる広大な空間と分かる。言葉通り大国主はその日から洞窟を居城とし、人々は岩山を“針の岩城”と呼んだ。
針の岩城には、かつて舞鶴藩主の奥方であった桔水御前の姿もあるらしい。彼女は大国主を主人として恭しく仕え、また側近か女王のように振舞っているという。
大国主は彼の領域に死人や盗賊を寄せ付けず、そのために丹後南東はにわかに活気付いていた。
宮津――。
集まった丹後の大名たちと天津神は大国主への対応を協議していた。
「岩山を城とし、亡霊を操る魔物に民を奪われるとは‥‥」
「それだけ丹後の民の苦しみが深いというじゃな」
「大国主の力、われらの比ではないのは事実だ。このうえ、イザナミが丹後まで押し寄せてきたら、大国主の云うように我らではひとたまりも無い」
気落ちする藩主達に、丹後を守る天津神が一柱天御影命が一喝する。
「大国主の国作りは断じて認められぬ! お主達は神皇家の臣だと言って彼奴に大見得を切ったのでは無かったか? 大国主と戦い、民と領土を奪い返せ!」
「頭を冷やせ、天御影。大国主は民を悩ませていた魔物と賊を一掃した。今、あやつを討てば民の反感を買うのは藩主達だ」
天鈿女命がそう言っても、天御影命は収まらぬ様子で顔を背ける。
「ホアカリ、何か妙案はないものか」
天火明命は腕組したまま不動の姿勢を保った。
「天御影の言う通り―――我らは今生でも、大国主と道を違えた。ならば戦いは避けて通れぬが、亡霊軍隊だけでなく要害に籠られては、勝てるものではない」
もっともな話だが、つまりは打つ手が無い。焦れるように、宮津藩主立花鉄州斎は京都への依頼案を持ち出した。
「困った時の冒険者頼みか」
「いや彼らこそは天津神の戦士なのでしょう。実際、何度も大国主を撃退したのは冒険者のおかげ」
さすがに今すぐ丹後南東部に攻め込む事は出来ない。少数精鋭の冒険者を雇い、大国主の領土と化した丹後南東地域、そして針の岩城の偵察を頼む事になる。
●リプレイ本文
丹後南東を訪れた冒険者たち――。彼らの目に飛び込んできたのは活況を呈する丹後の民の姿であった。
「確かに‥‥噂は本当だったようだな」
白翼寺涼哉(ea9502)は苦虫を噛み潰したような表情で村の方を見やった。
村では建設ラッシュが続いている様子であった。一体どれだけの民が移り住んだのだろうか。
「有言実行とはこの事か? 確かに奴は先の会合で丹後を切り取ると言い残していたが‥‥あやかしにさらされた地を武で平定し、丹後の平定に乗り出すとはな。大国主め‥‥侮れん奴だ‥‥」
「大国主にしてみれば正当な権利なのでしょう。権利と言うか彼はかつてジャパンの王だったと言いますから」
ベアータ・レジーネス(eb1422)の言葉に白翼寺はうなった。
「誰が救ったか等、民にはどうでもいい‥‥か。残念だがソレが現実だ。だがな、死せる神――神皇家に抗う者に民を任せるのは、俺の矜持が許さない。生ける神の国の誇りを持ち、民に近い立場で民を救う事を俺は選んだ。大国主の平定、今はよくても長い目で見ると拙い」
「まあ、大国主様には穏やかに崇拝を受ける神として、引き下がって頂きたいのですが‥‥」
復活した大国主は神皇家とは相容れないと明言したが、すぐさま全面戦争を引き起こすつもりも無いと言った。
「今回の騒動を見ても、大国主は一筋縄ではいかぬ相手だ‥‥。丹後の民心を掴まれてはな‥‥」
明王院浄炎(eb2373)は複雑な表情を浮かべる。
「今は領民らの安寧が確保されて居るならば‥‥今の所は良かろう。例え、それが後の治る者の資格を問う争いの火種となるとしても‥‥」
だが、と浄炎は危惧を抱く。それは杞憂では済まないだろう。神皇家と相容れないと明言した以上、戦いは避けては通れぬ道だ。
ところで今京都周辺は火中にある。イザナミ率いる黄泉の軍勢が押し寄せているのだ。丹後にも死人の首魁がいて亡者を率いて押し寄せたが、人々が大国主などを頼りとするのも、つまるところは周辺地域の政情不安が原因とも言える。
「まあ、今後のことは置くとして、今は調査に専念するか‥‥大国主の針の岩城とやらも気になるところだ」
本題に帰った冒険者たちは手始めに手近な村に入った。
「助けて下さい‥‥!」
村に着くなりよろめきながら倒れこむ白翼寺。わざと泥んこになって迫真の演技を見せる‥‥。
「家が‥‥盗賊に襲われました。これから先‥‥何を頼りに生きていけばいいのでしょう? 行く当てもなく‥‥亡者に食われるか行き倒れになるか‥‥お願いです‥‥助けて下さい」
村人たちは白翼寺を取り囲んで心配そうに見やる。
「大丈夫かお前さん」
「心配すんな。ここは大国主様が王道楽土を築かれると約束した土地。ここまで来りゃ何の心配もいらねえ」
「大国主様?」
白翼寺ははっと問い返す。
「あの方の名は存じております。恐れながら‥‥あの方は‥‥どの様にして‥‥村を救ったのですか?」
「おうよ、あの方こそ紛れもなく丹後に平穏をもたらし下さる方よ」
「見も恐ろしい亡霊の大群を操って、盗賊や死人たちを一掃された」
「そうそう、あっという間の出来事だったわ。大国主様が号令すると、もの凄い数の亡霊の兵士たちが襲い掛かっていって‥‥」
「ああ、まさに数で圧倒された。あの方にかなう敵はいねえ」
「この一ヶ月でこの地域から盗賊や死人は完全にいなくなった。大国主様の亡霊軍隊の力はそりゃ凄い」
「そんな‥‥短い間に?」
「そういうわけだ。お前さんも安心してここで暮らしていくといい。大国主様が守って下さる。死人や盗賊に怯える必要は無いんだ」
村人の言葉に白翼寺は怪しまれないよう笑顔を見せる。
「ここが噂の大国主様が平定されたという南東地域ですか」
ベアータは村人に尋ねる。
「おお、お前さんも逃げてきたのか」
「ええ、まあ‥‥噂では恐ろしい亡霊軍隊を統率されているようですが、安全なのですか」
「確かにあの亡霊兵士たちは恐ろしいがね、大国主様は民の平穏を約束なさった」
「大国主様の言葉に偽りはねえ。亡霊の兵士たちは死人の群れを全く寄せ付けねえ。安全に狩りも出来るしな、盗賊に怯える心配も無い」
「それを聞いて安心しました。亡霊軍隊の主と聞いて、私は心配していたのですが‥‥」
ベアータはそこで話を切り替える。
「ところで、大国主様は岩山を居城とされたと聞きますが、どこから参拝できるのですか」
「おう、あそこに岩山が見えるだろう」
村人が指差した先、雲がかかった高い岩山が見える。麓に入り口があって、桔水御前が貢物を受け取っているらしい。
「ありがとうございます。これから行ってみようと思います」
ベアータはそう言って、村人に別れを告げる。
村での聞き込みを終えた冒険者たちは、大国主が住まうと言う針の岩城に向かった。
白翼寺はフライングブルームで上空からの偵察を行う。舞い上がった白翼寺、山の周りを回りながら岩山に近付いていく。
山々が連なっている中、突然むき出しの岩肌が現れ、高々とそびえ立っている。険しい岩の鋭鋒が蒼空を貫いている。
「こいつが針の岩城か、意外とデカイな」
まさに天然の要害だ。旋回する白翼寺。
「あれは‥‥亡霊か」
岩城の周辺を亡霊が飛び交っている。どうやら上空は亡霊が周回しているようだ。
「空からは入り込めそうにないな‥‥もっと上に上がるとどうかな」
白翼寺はさらに上昇した。すると、岩山の頂上は噴火口のような穴が開いており、そこからまた亡霊が出入りしていた。
地上からはベアータと浄炎が侵入を試みていた。村人たちから聞いた正面の入り口には亡霊の兵士が警戒しており、侵入は困難であった。
浄炎はベアータを伴って他の方向に入り口がないか探る。すると、入り口は一つではなかった。地上から中に通じる空洞を幾つか発見した。
「ふむ、洞窟か、どうだベアータ、反応はあるか」
浄炎は洞窟の中を覗きながらベアータの探査を待った。
「反応はありません、もっとも、内部がどこまで広がっているか分かりませんので、何とも言い難いですが」
「侵入してみないことには分からないか。まあそのために来たのだし」
浄炎は入り口に裁縫セットの糸を結びつけた。帰りはこの糸を手繰り寄せて帰れば良い。
二人は洞窟に侵入する。暗闇に目が慣れるのを待ってから行動を開始する。
エックスレイビジョンで洞窟内を適時透視していたベアータはその内部の広さに驚いた。岩山の内部は広大な迷宮になっており、かなりの広さがあった。
「どうも腑に落ちないのですが‥‥」
透視していたベアータが呟く。
「どうしたのだ」
「この先に広がっている通路はどう見ても人工の空洞です。それも通路は岩山の上まで繋がっているようですし、一体誰がこんなものを作ったのでしょうか‥‥」
「人工の洞窟か‥‥長年丹後に携わってきたが、聞いた覚えは無いな」
「急に出来たわけでは無いでしょう。これほどの迷路を作るには相当な歳月が必要だったはず」
そうこうしながらも二人は進んだ。ベアータの言葉通り、奥深くまで進んだところで、洞窟の様相が一変した。天然の空洞から明らかに人の手によると思われる通路に情景が変わったのだ。
ベアータは探査魔法のスクロールを適時使用してみる。するとバイブレーションセンサーに反応があった。
「すぐ近くに何かがいます」
二人は用心しながら先へ進んだ。
と、何かの影が横切った。
「ベアータ、気をつけろ」
浄炎は声を潜めて呼びかける。ベアータも周囲を見渡す。と、それは襲い掛かってきた。
至近距離で見たそれは岩の戦士だった。埴輪である。
「埴輪?」
浄炎は埴輪のパンチを受け止めながら押し返した。
ベアータはアイスコフィンで埴輪を氷付けにすることに成功した。
しかしなぜ埴輪がいたのであろうか‥‥。埴輪は普通古代の墳墓などに見られるものだ。
二人は更に奥へ進んだ。松明の明かりが灯った部屋で再び埴輪の一団に遭遇する。普通の埴輪戦士、狛犬、騎馬、さらには土偶型の埴輪戦士らが待ち受けていた。埴輪たちは動き回って浄炎とベアータの行く手を遮った。
「ここから先は無理だな」
「最初の足がかりとしては十分でしょう。何ゆえ埴輪がいるのか分かりませんが‥‥」
「謎の迷宮か‥‥」
浄炎は後退しながら呟いた。別の通路が無いわけでもなかったが、今回は調査が目的である。二人は洞窟から脱出し、白翼寺と合流することになる。
調査を終えた三人は宮津へ立ち寄った。藩主の鉄州斎と天津神が彼らを出迎えた。
「岩城内部は迷宮だというのか」
鉄州斎は眉をしかめる。丹後にそんな迷宮があるなど聞いたことも無い。
「それもかなりの規模です。正面と上空は亡霊軍隊が守っていて、侵入は困難です。他の入り口から侵入を試みましたが、通路の先で埴輪兵士と遭遇し、撤収を余儀なくされました」
ベアータは淡々と報告を行った。その傍らで浄炎は思案げに顎をつまんだ。
「藩主よ、これからどうするつもりだ。あの岩城を攻略するのは容易ではないぞ」
「歴戦の勇士をもってしても不可能か」
「分からぬ」
浄炎はうなるように言った。分からぬとは正直大国主への対応をどうするかでもあった。民心を掴んだ今、大国主とことを構えるのは得策ではないだろう。
「ふむ、難局だな。戦うだけなら簡単だが、大国主は民心をつかんで汝らの打つ手を封じたか」
天津神の天火明命はそう言って苦笑した。
「我らは一度大国主とは道を違えました。彼の神はもはやジャパンの王にあらず。まして神皇陛下に敵対する者に民を預けるわけには参りませぬ。ただ今は、己の無力さを呪うばかりです」
白翼寺はそう言ってうなだれるばかりであった。