江戸近郊〜豚鬼の山岳要塞

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月12日〜12月17日

リプレイ公開日:2006年12月19日

●オープニング

 江戸近郊。ひとたび大都会を離れれば、何が待ち受けているか分かったものではない。この世は乱世。諸侯の反乱に乗じて悪事を働く者ども、人々に襲い掛かるモンスター‥‥冒険者ギルドには今日も近隣の村々から依頼が持ち込まれている。

 受付の青年は依頼用紙を取り出すと、冒険者たちの前に広げた。
 山岳部に住まう豚鬼を退治せよ、との文字が躍っている。
 受付の青年は咳払いすると説明を始めた。
「江戸近郊に住まう村長からの依頼です。ここ最近になって山岳部に出没するようになった豚鬼を退治して欲しいとのことです。豚鬼たちは山岳部中腹に拠点を作っており、いつ人里に下りてくるやも知れません。先行した忍からの報告ですが‥‥」
 青年はさらに説明を続ける。
 先行した忍からの報告によれば、山岳部には東と西から進入する道があるとのこと。東は湖の脇を通過する沼地、西は岸壁の間を抜ける一本道。いずれかの道を抜けると、大きな湿地帯に囲まれた森の中に出くわす。湿地帯を抜けると山の上へと続く草原が見えてくる。草原は豚鬼たちにとって襲撃しやすい場所でもあるが、周囲の森を通るなどして迂回することが出来るとのこと。
 また、草原には狩人が住む小屋があったそうだが、小屋は破壊され狩人は行方不明。そして草原の向こうは起伏の激しい山道が続く。山道を越えると、ようやく山腹へと達する。山腹の周りには塹壕が張り巡らされており、即席の要塞と化している。豚鬼たちはそこに立てこもり、厳重な警戒を敷いているのだ‥‥。
 青年は咳払いすると、改めて口を開く。
「報告をギルドの方でも検討しました。とりあえず、塹壕を突破するか、豚鬼を草原までおびき出して叩くか、二つの指針が出ましたが、他にも良い方法があるかも知れません。豚鬼の数は明確ではありませんが、十体前後はいる模様です。村人たちは一日も早い解決を望んでいます。戦闘準備を整え次第、急ぎ、村に向かって下さい。健闘を祈ります」
 冒険者たちは依頼用紙を頂くと、目的の村へと向かうのであった。

●今回の参加者

 eb1533 ロニー・ステュアート(30歳・♂・ファイター・シフール・イギリス王国)
 eb3984 ヴェスル・アドミル(29歳・♂・ウィザード・シフール・ノルマン王国)
 eb4721 セシリア・ティレット(26歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb7311 剣 真(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb9694 黄 咲華(32歳・♀・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb9708 十六夜 りく(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ゼファー・ハノーヴァー(ea0664)/ キース・レイヴン(ea9633)/ ヘヴィ・ヴァレン(eb3511

●リプレイ本文

●山中
 野営地の選定に当たるのはシフールのヴェスル・アドミル(eb3984)。地面が落ち込んでいる場所でもないか探してみる。風の通りが悪い場所なら寒さをしのげる。野営地の選定が済むと、交代での見張りも必要ということで順番を決める冒険者たち。
 焚き火を囲みながら冒険者たちは食事を取り始める。
 食事と言えば‥‥何と道中で食糧を買い忘れていたことに気付いたシフールの黄咲華(eb9694)。慌てて近くの町で保存食を購入。お値段は越後屋の二割増しだった。
「ロニーさんは遅いなあ‥‥どこまで行ったんだろう」
 剣真(eb7311)がそう言うと、セシリア・ティレット(eb4721)と十六夜りく(eb9708)が「心配ないでしょう」と応じる。
 道中は険しい故、ペットは棲家に置いてきたヴェスル。万が一に備えてバックパックには回復薬。
 剣のバックパックの中には少し強くなった妙な輝きが。
 黄は旅についていけないペットの幼いダッケルをギルドに預けている。
「豚鬼たちはきっと、拠点を作って、山里へと冬篭りの準備をするために略奪しようと備えているね」
 黄がそう言うと、みな口々に最悪の事態の回避に向けてベストを尽くそうと再確認。
「さてと‥‥」
 ヴェスルは防寒具や寝具を持ち込む余裕が無い為、普段畳んで使用しているマントを毛布代わりにして横になる。
 見張りに立つ十六夜。
 そこへシフールのロニー・ステュアート(eb1533)が帰ってきた。ペットのコリー犬チャーリーと風の妖精ピーターを連れている。
「敵の様子はどうですか?」
「この辺りにはいないようですよ。要塞へ撤退したのかも」
「そうですか、ご苦労様、冷えたでしょう。野営地はあそこです」
「ありがとう」
 ロニーは火のもとへ飛んで行った。
「ロニーさんお帰りなさい」
 セシリアが声をかけるとロニーは仲間たちに報告を済ませる。
 ロニーの後を付いてここまでやって来た剣。ここまでのことを回想する‥‥。

 ‥‥村に馬を預けた冒険者たちは、東の沼地を通って山岳部へと進入する。西の岸壁は敵に地の利あり、なるべく避けたいところ。豚鬼たちが弓を持っていたり岩を投げてきたら不利である。
 先頭を飛んでいくロニー。その後に剣。続いてセシリア、十六夜、飛んでいくヴェスルと黄。黄は足場の悪いところを徒歩のメンバーに知らせる。セシリア、剣、十六夜は周囲に目を向けながら沼地を一歩一歩進んでいく。カワウソの親子たちが冒険者たちの前を泳いでいった。
 不思議な静寂。閑散とした木立が立ち込める沼地。野鳥の鳴き声がこだましている。
 と、静寂を豚鬼の咆哮が突き破る。ばしゃばしゃと水を弾きながら、二体の豚鬼がやってくる。武器を振り回している。
 豚鬼を包囲するべく冒険者たちは散開する。巨体を揺らしてやってくる豚鬼。
 正面からぶつかれば豚鬼から強烈な一撃を食らってもおかしくない状況だが、沼地が幸いした。接近する前にロニーの矢が豚鬼の眼や口などに打撃を与える。剣やシフールたちで一体を引き付ける一方、豚鬼の大振りをかわしながら、もう一体を十六夜のサポートを受けたセシリアが魔法によってその動きを封じ込む。剣とセシリアが残った豚鬼を二対一で迎え撃ち、ようやくかたをつけることが出来た。動きを封じ込まれた豚鬼には剣とセシリアが止めをさしたが、残る一体は逃げ出した。ロニーは可能な限りの矢を回収する。
「まず二体か」
 剣は刀身の血を振り払うと、刀を鞘に収めた。
 セシリアと十六夜も刀の血を払って武器を鞘に収める。
 冒険者たちは沼地を無事に抜け、草原を迂回、山腹へと続く山道に至るのであった。

 ‥‥翌朝、野営地を引き払って出発する冒険者たち。目指すは山腹の要塞である。

●山腹
 塹壕の入り口の前に展開する剣とセシリア。
「よくここまで壕を掘りましたわねー、感心しますわ」
「モンスターにしては上出来だな。相手はここで冬を越すつもりか‥‥長期戦の構えだな」
「そうはさせませんわ」
 セシリアはロープを取り出す。
「さ、手伝って下さい剣さん」
「はい」
 二人は入り口の前にしゃがみこんでロープを張る。ああでもないこうでもないと言いながら仕事を進める二人。
「最初に入口から出てきた相手に使うぐらいだと思いますが、入口の横からこうやってロープを張っておけば‥‥これなら簡単に仕掛けられるので、攻め戦の今回には有効そうですよね。普通は子供の頃にこういう悪戯をするみたいなのですが、私は一度もやったことがないんですよね‥‥あら、ちょっと楽しいかも」
「うーん、うまくいくかなー」
「大丈夫ですよ、以外に頑丈そうですよ、このロープ」
「でも、自分たちには工作の教養なんてないし。本当なら、こんな要塞投石器でも持ってきて一ひねりしたいところだよね」
「ああそうですね、投石器があれば、まあこんな要塞一ひねりですけど」
「ま、今回は無理だけど」
「仕方ありませんよね」
 セシリアは肩をすくめる。
 そこへやって来た十六夜。他の入り口にはまきびしを撒いてきた。
「あのー、よかったら私手伝いましょうか? 一応私、忍だし」
「そいつは助かるな。十六夜さんがやってくれた方が確実だよ」
 剣がそう言うと、セシリアも相槌を打つ。
 十六夜は二人が作った罠をいったん解除すると、鼻歌を歌いながら作業を進め出した。

「豚鬼は残り六体か‥‥いよいよ本番ですね」
 ロニーの言葉に頷くシフールたち。上空から要塞の様子を見下ろしている。
 豚鬼たちはばらばらになって要塞の中を歩き回っている。
「よし、始めるぞ」
 ロニーは矢をつがえると、豚鬼目がけて最初の一撃を放った。矢が豚鬼の片目を射抜く。豚鬼は上空を見上げると、怒り狂ったように武器を振り回す。
 ヴェスルも詠唱を開始。ウインドスラッシュを飛ばす。対して効果はないようだが、豚鬼は猛然と動き出す。
 黄が上空から豚鬼に突進する。豚鬼は武器を振り回しながら猛然と襲い掛かってくるが、黄は余裕の動きで豚鬼との距離をとると、入り口目がけて誘導を開始する。追いかけてくる豚鬼。意味不明の言葉をわめき散らしている。黄の挑発に乗って入り口まで誘導される豚鬼。
 他の豚鬼たちは何か異変が起きていることには気付いている模様。騒ぎ出している。
 ロニーは飛び回りながら攻撃を開始。ピンポイントで狙ってみる。豚鬼の眼に矢が突き刺さる。絶叫する豚鬼。怒り狂って武器を振り回す。

 最初に入り口に突進してきた豚鬼。ロープに足を取られてひっくり返る。剣とセシリアは豚鬼の体に刀をつき立てる。あっさり武器を放り出して「待った」の構えを見せる豚鬼。降伏しようと言うのだろうか‥‥。が、問答無用で刀を突き出す剣とセシリア。豚鬼の体に次々と突き刺さる刀。それでも豚鬼はよろよろと起き上がり、要塞の中へ逃げていく。
「さすがにしぶといな‥‥」
 剣は刀についた血を払って呟いた。

 その間にも要塞の中ではシフールたちが豚鬼を誘導、または足止めを行っている。
 ヴェスルの詠唱が完成すると、豚気を直撃する暴風が巻き起こる。倒れることはないが、その場に膝をつく豚鬼。
 豚鬼を足止めするとさっさと距離を保って逃げるヴェスル。それを追う豚鬼。

 新たに誘導されてきた豚鬼。再び剣とセシリアが応戦する。
 塹壕の上の足場に上って攻撃を試みる十六夜。豚鬼目がけて印を結ぶと手をかざす。
「火遁!」
 十六夜の手から炎が吹き出る。豚鬼はほとんど炎を意に介さずに目の前の剣とセシリアに向かう。
 が、二人の刀が次々と豚鬼を貫く。豚鬼はまたしても退却する。その懐に飛び込んできた黄。
「ロン、フェイ、シャン!(龍飛翔!)」
 豚鬼の顎元目がけて拳を突き上げる黄。拳は確かにヒットした。しかし、豚鬼は蚊でも払うようなしぐさで黄をやり過ごすと、そのまま要塞の中へ逃げ込んだ。
 残るは四体。

 また新たな一体が誘導されてやってくる。
「セシリアさーん、一対一は結構きついよー」
 剣がちょっと本気で呼びかける。
 他の入り口の様子をちょっと見て回っていたセシリアは「はいはい待ってねー」と戻ってくる。
 剣は豚鬼の戦槌を刀で受け止めながら切り込んでいる。
 十六夜が剣のサポートに回っていたのだが――。
 セシリアは魔法を詠唱しながら十字架のネックレスに祈りを込める。
 魔法が発動し、豚鬼の動きは封じ込まれた。
 止めをさす剣。
 残るは三体。

 さすがに状況を察したのか、豚鬼たちは一斉に入り口目がけて動き出す。ロニーの矢、ヴェスルの魔法を受けながら入り口目がけて突進してくる豚鬼たち。シフールの陽動につられて動きはてんでばらばらであるが――。
「来るぞ!」
 ロニーが叫ぶのと同時に、入り口が破られた。まきびしを踏み潰しながら三体の豚鬼が現れる。
 集中的に矢を放つロニー。撹乱に回るヴェスルと黄。
 十六夜は距離を保ちながら豚鬼の風上に移動すると、印を結んだ。
「春花!」
 ばたっと倒れる豚鬼。深い眠りに付いた。
 これで残るは二体となった。
 シフールたちが一体を引き付け、残る一体を剣とセシリアが引き受ける。
 冒険者たちは最初から最後まで多対一の姿勢を崩さず、優勢に戦局を進める。
 剣とセシリアと戦っていた豚鬼は深手を負うと逃げ出した。
 シフールたちを追いかけていた豚鬼は気が付くと自分一人になっていた。そして、最後の豚鬼も逃げ出していく。

●戦闘終結
「やれやれだな‥‥残りは退却したようだ」
 剣とロニー、ヴェスルは要塞の中を歩き回っていた。
 女性陣たちは戦闘が終わったので世間話に花を咲かせている。そこへ戻ってきた男性陣。
 あれこれと話し続ける女性陣と戦闘中の経過について色々と反省する男性陣。
 いつの間にか彼らの話は江戸の情勢へと移り変わっていく。
 山を降りて村を後にする冒険者たち。江戸に帰ればまた新たな依頼が待っているだろう。冒険者たちの心は、すでに次なる依頼へと飛んでいた。