丹後、宮津城下町の再建始まる
|
■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:フリーlv
難易度:易しい
成功報酬:5
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月12日〜10月17日
リプレイ公開日:2008年10月14日
|
●オープニング
丹後、宮津――。
先だっての死人使いとの激闘を制した宮津勢は残る死人の群れを掃討し、ここに宮津解放はなった。城を取り戻した宮津藩主立花鉄州斎、そして侍たちは万感の思いとともに入城を果たす。
城の中は静寂に包まれていた。つい先日まで死者の手によって支配されていた宮津城は、数年ぶりに人々を受け入れて再生の時を迎えようとしている。
「予想以上に荒れ果てておるな‥‥復興には時間が必要だが‥‥」
「復興と言えば死人に支配されていた城下町の件もある。宮津は半分死人の勢力下にあったのだからな」
「だが、死人の流入が止まったと言うことは、やはりあの死人使いが亡者たちを呼び寄せていたのか‥‥」
「かも知れんな」
城、そして町の復興はこれからだ。
城下町はお祭り騒ぎだった。死人たちがいなくなったことで人々の引越し作業が始まっていた。が、忙しさの間を縫って人々はささやかながら祝杯を上げていた。
「かあーっ、ようやっと死人どもがいなくなったわい! せいせいするなあ!」
「鉄州斎様もようやって下さったわ! 侍衆も、都の冒険者もようやってくれた! みんなに感謝じゃのう!」
「どんなに感謝しても感謝しきれないわねえ。これで安心して暮らせる‥‥」
しんみりと呟く娘の杯に男たちは酒を注いだ。
「宮津はこれからじゃあ! さあ飲め飲め! 祝い酒じゃ!」
民の間にガラシャの姿もあった。子供たちと手をつないで踊りを披露するガラシャの姿に宮津の人々の顔はほころんだ。
「見ろ、ガラシャ様も喜んでおられるぞ‥‥元気に生きておられたんじゃなあ」
「噂じゃ金剛童子山に消えたって話だったがなあ‥‥生きておられたのだなあ」
「ガラシャ様が舞っておられる‥‥もう一度あのような姿を見ることが出来るとは‥‥」
それから程なくして、京都の冒険者ギルドに宮津からの客が訪れた。丹後の土侍たちだ。みな宮津周辺に住まう地元の国人衆である。
「‥‥よお、先の戦いでは世話になったな」
ギルドの手代は宮津城下での戦いを知っていたから土侍たちを快く出迎えた。
「皆さんご無事で何よりです」
「宮津はこれからよ。まあ、正直宮津だけが救われりゃいいってもんじゃないがな。藩主の鉄州斎様はその辺りのことは心得ておられるがな」
丹後全体の脅威は何も変わっていない。大国主が南東部を切り取ったとは言え、それを除けば最大の武装勢力は盗賊団だし、死人の勢いは日に日に増している。宮津藩全体の問題も何ら変わるところはない、。
「が、まあ宮津の連中はこれからの復興に望みをつないでる。丹後がどこへ向かうにしろな」
土侍はそう言って肩をすくめる。
「まだ復興の目処がついたところでな、宮津はてんやわんやの忙しさなのよ」
つまりは復興に手を貸して欲しいということだ。まあ半分お祭り騒ぎへの招待という趣もあるだろう。
「まあそういうことだ、宮津の復興に気が向いた連中は支度してくれ。宮津までは案内するからよ。俺たちはちょっと京都見物してくらあ。じゃな」
土侍達はそう言ってギルドを後にした。
●リプレイ本文
「オゥ、タンゴは久し振りネ〜♪ ミヤヅ・リヴァイヴァル・フェスティバル盛り上がっているようネ〜♪」
サントス・ティラナ(eb0764)は再建が始まって喧騒でごった返す城下町を見渡す。
宮津城下を分断していた防壁は取り除かれ、かつて死人たちが徘徊していた方面にも引越しを行う人々で町は賑わっていた。死人使いが倒されたと言う噂は近郊に住まう住民たちにも届いたようで、近隣の住民の中にも町へ戻ってくる者があった。
「ようやく成った解放か‥‥だがこれからであろうな」
明王院浄炎(eb2373)は住民の一人に話しかける。
「俺たちは依頼を受けて都から駆けつけたのだが‥‥」
浄炎が依頼を受けてやってきた旨を話すと、住民は浄炎らを案内する。
「おい! 都から冒険者が来てくれたぞ!」
「おう、来たか!」
「今回は世話になったなあ」
住民たちの代表が次々とやってきては冒険者たちに礼を述べる。
「皆さんの生活に少しでも明るい材料が出来て私も嬉しく思います」
雀尾嵐淡(ec0843)の言葉に住民たちの顔がほころんだ。
「俺たちは長いことあの死人たちに悩まされてきたが‥‥これからまた昔の生活に戻れると思うと、嬉しくてなあ」
「だが、丹後の死人どもは他にもいるぜ、ここはまだ安全な方だが‥‥」
「ええい止め止め! せっかくの復興の気分が台無しじゃあ! 辛気臭い話するな、せっかく冒険者も来てくれたってのに」
と、井伊文霞(ec1565)は苦笑を浮かべつつ住民たちに尋ねた。
「わたくしたちで出来ることは何でもするつもりで参りましたが、当面冬に向けて住居の確保が重要になってきますのね」
「ああ‥‥引越し作業はてんやわんやの大騒ぎで進んでいるが、家を建て直すのも大変な作業でしてな、まあこれから地道に復興を進めていくしかないわけですが、まあ本格的な冬が来るまでには何とか目処をつけたいところですな」
「そうですわね」
「冬本番を前に宮津の地に安寧が訪れたとなれば、避難して来る者達も居よう。その者達をも迎え入れ、皆が無事に冬を越せるようにする事こそが先決だろうな」
浄炎の言葉に住民たちは頷いてみせる。
「現に近隣の住民で逃げ出した者の中には帰ってくる者もおりましてなあ。とは言え死人が徘徊していたところは一度崩壊していますからなあ。まあどう彼らを迎え入れるか、引越しを進めながらの復興には藩主様にも先頭に立って臨んで貰いたい所ですな」
そうこうして話もそこそこに、冒険者たちは住民たちの案内を受けて、城下町の各地に散っていく。復興作業にはそれぞれ準備してきたものもあった。
「ミーはサントス・ティラナ♪ ワイフのシャオニャンがお世話になったネ〜♪」
サントスは妻が何度か来ていることを話した。町の主婦たちは宮津城下の戦いが終わるたびに冒険者や侍たちに手料理を振る舞った。それにはシャオニャンも参加していたから、サントスがその夫と聞いて主婦たちは歓迎した。
「奥さんには世話になりましたわ‥‥本当に」
「死人たちに立ち向かう勇気のある立派な奥さんですねえ」
「いやいや、全く、ミーもワイフの勇敢さには頭が下がる思いアルよ。マダムたちのためにワイフは頑張ったようネ」
話していると主婦らがサントスに差し入れの料理を持ってやって来た。
「オウ、サンクス」味噌汁を頂くサントス。「美〜味〜で〜ア〜ル〜ネ〜♪ タンゴのサムライが強いのはマダム達のおかげネ〜♪ 縁の下の力持ちには頭が上がらないネ〜♪ ムーフーフーフー」
「まあお上手ねえ」
と、そこへガラシャが姿を見せた。
「随分話が弾んでいるようですね」
「ガラシャ様、こちらの奥さんが冒険者で、随分と世話になったんですよ」
サントスを紹介する主婦たち。
「そうですか‥‥奥様が‥‥宜しくお伝え下さい、宮津の民は心から感謝していると」
「セニョール天樹は元気アルね?」
サントスの問いにガラシャは微笑んだ。
「本当のことを言えば夫は出てきたいでしょうが‥‥夫の姿を見たら民は恐れるでしょう」
「そうアルね‥‥」
サントスは味噌汁を置くと、まるごと猫かぶりをかぶり、天晴れ扇子を取り出した。
「お祭りはもう終わりアルか?」
「いえ‥‥なぜですか?」
「ミーはジプスィ〜アルよ、マダム・ガラシャとシャルウィ〜ダンスね〜♪」
「シャルウィー‥‥何ですか?」
「踊りませんか? という意味ね。せっかく猫かぶり用意してきたアルね〜」
「ああ‥‥良いですよ。ふふ‥‥面白い方ですね」
ガラシャはサントスの手を取ると、二人で舞い始めた。主婦たちが手拍子を叩き、つられてやって来た人々も喝采を送って音頭をとった。
浄炎は死人が徘徊して崩壊したエリアに回っていた。
「さすがに長年放置されていただけあって、ひどい有様だな」
浄炎は家屋を建て直す作業を手伝いながら周囲を見渡す。男衆があちこちで家を建て直している。
「浄炎さん、そっち頼む!」
「ああ」
浄炎は柱を支えながら作業を見守った。
「おう、こっちも頼むぜ! 力持ちが必要なんでな、そっち持ってくれ!」
男衆たちと復興作業に従事する浄炎。
「坊さん以外に器用だなあ」
雀尾は細かな手作業で木材を削って見せたので、住民たちが感心する。
「これくらい、素人かじりですよ」
雀尾はのみやかんなで木材を新調した。
文霞は体格のわりに力持ちで、男たちに混じって力仕事もこなしていた。
「姉さんやるなあ! 大丈夫か?」
「女だからと言って遠慮は無用ですわ。これくらいしかお手伝いできませんけどね」
「おい、このお方は先の戦いで亡者たちをなぎ倒したくらい凄腕の冒険者さんだぞ、力仕事くらいお茶の子さいさいに決まってるだろうが」
「いや、でもこんな綺麗な娘さんがなあ、俺より力持ちなんて‥‥」
「人は見かけによらないものでしょう?」
文霞はそう言って木材を持ち上げる。
ひとしきり作業がすんで冒険者たちも休憩した。
町の奥さん達がお茶と握り飯を持って来てくれた。
「一通り町の方を見て回ったら、俺は城の方を当たってみようと思う」
浄炎はおにぎりを頂きながら宮津城の方を見やった。
「また何が起こっても不思議ではないからな。城の防備もおろそかには出来まい」
「ミーもセニョール浄炎を手伝うアルよ♪」
「ふむ、飲んで踊って食ってマダムたちの注目を浴びに来たのではないのか?」
「オウ、ひどい言い様ネ。ミーも宮津の復興を助けたいと思っているね〜、まあ本目的はミーの踊りでミヤヅ・リヴァイヴァル・フェスティバルを盛り上げることとは言え」
浄炎はサントスの言葉を聞いて苦笑する。
「私は家屋を借りて、住民たちを診療してみるつもりです。怪我人などはいないと思いますが‥‥」
雀尾はそう言ってお茶を飲むと、ふうと息をついた。
文霞は引き続き建築作業を手伝うつもりであったが、金属加工も得意なので簡単な刃物の研ぎや補修でも呼びかけてみようと思っていた。
作業を再開して、城に向かう浄炎とサントス。城でも復興が進んでおり、侍たちも総出で労働に従事している。
持ち込んだ木材や橋頭堡を破壊した木材で城の周囲に防護柵を築き上げることを提案する浄炎。
「備えあれば憂い無し。まだまだ何があってもおかしくはないから、自らの身は自らで守るよう心掛けねば成らぬと思うが」
「ふむ、宮津城は大して強力な防備があるわけでもないので、この機会に強化するのも良いかも知れぬな」
藩主の鉄州斎は作業の様子を見つめていたが、幾人かの侍たちを呼んだ。
「こちらの浄炎殿から城の防備を固めてはどうかという提案があった。私は良い案だと思うが、どうか」
「城の防備を強化するのは良い策であると思います。ただでさえ宮津城は防備が高いとも思えませんしな。万が一死人が攻め寄せてきた時にも耐えられるくらいの防備を固めたいものです」
「よし、人を手配して、そちらの作業にも当たらせろ」
「はい」
浄炎とサントスは侍たちとともに城の防備を固める作業を開始する。
橋頭堡は死人たちとの戦いの役割を終えて、解体されることになる。解体した木材も防備の強化に回す。
急ピッチで解体作業は進み、次々と城の周辺に木材が運ばれてくる。
城の周りには壁もあるのだが、さらにその外側に防護柵を築いていく。もっとも現状の材料で出来ることは限られているので、本格的な防備の強化は今後の城下町再建とともに平行して進められることになる。
雀尾が開いた仮設の診療所には長蛇の列が出来ていた。僧侶の診察など滅多にないことなので、老人や風邪を引いた子供などが押し寄せた。赤き愛の石を抱いて寝かせたり、気持ちだけだがメタボリズムをかけてやるなど、人々のために雀尾は出来る限りのことをやった。
それから雀尾はビーナスシザー、理美容用品一式を駆使して住民達に理美容を施した。
力仕事を一段落させた文霞は、町の職人と一緒に刃物の補修や研ぎ作業を行った。
「刀を扱う冒険者も、自分で補修したりするのかい」
「時にはですが」
職人の問いかけに文霞は肩をすくめる。
職人の仕事場を借りることができたので、文霞は穴の開いた鉄鍋を修理したりもした。
そんなこんなで宮津の人々との交流も深めた冒険者たちも、帰る時がやってきた。
「今回は世話になったなあ、いや全く」
「あんたそればっかりじゃないの」
「でも良くやってくれたじゃないか」
人々は冒険者たちにお礼の言葉を述べる。
そこへ鉄州斎とガラシャが姿を見せた。
「民の依頼で来てくれたそうだが、見ての通り慌しくてな、先の戦いの礼を言うのも忘れていた」
鉄州斎はそう言ってお辞儀する。ガラシャも軽く会釈していた。
「これからが大変だと思うが、みなの健闘を信じている。丹後の民は不屈の民だと、俺は今でも信じているのでな‥‥」
浄炎の言葉に、人々は涙を浮かべる。鉄州斎やガラシャは何ともいえない表情をしていたが。