丹後の盗賊、白虎団【其の三】
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月11日〜10月16日
リプレイ公開日:2008年10月14日
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●オープニング
丹後、舞鶴――。
舞鶴港に一隻の大型船が入ってきた。船に乗っている者たちが誰であるか、人々には想像がついた。今時の丹後に商船が入ってくるはずも無い。やってくるのは海賊か丹後の盗賊と相場が決まっている。
船から下りてきたのは丹後最大の武装勢力である盗賊集団“白虎団”の賊たちであった。
恐れおののく人々をよそ目に、盗賊たちは舞鶴城に向かう。そうして舞鶴の城下町に入った盗賊たちはその足で舞鶴城の門を叩いた。
驚いたことに盗賊たちは舞鶴城に招き入れられた。舞鶴藩主相川宏尚は盗賊たちとあい見える。
「一体何用だ」
宏尚はぶっきらぼうに言った。
「舞鶴藩主よ、我々との同盟はどうなった。最近は魔物や諸藩の大名たちと手を結んでいると聞くが」
盗賊たちはそう言って宏尚に鋭い視線を向ける。確かに、宏尚は以前から盗賊たちとの同盟を進めていた。
「丹後の状況は変わりつつある。わしは勝ち易きに付くつもりだ。峰山に現れた亡者の軍勢に京都が動くと言う噂があるし、宮津は平織との同盟を進めているという噂だ。舞鶴は遅れを取ったが、今お前たちと手を結んでわしが得るものは無い」
元々宏尚は遠大な丹後征服の野望を抱いていたが、ことここに至ってそのような冒険は不可能だと悟っていた。京都の秀吉や平織の影響力が現れてくるとなれば、今後の丹後の平定に向けて誰に付くかは舞鶴藩にとって重大な決断であった。盗賊を相手にしている場合ではない。
こうして舞鶴藩と決別した盗賊たちであったが、その勢力は今のところ丹後の小藩を大きく上回っている。盗賊王国丹後において、その影響力は依然として民を脅かす存在だ。
舞鶴藩の小村に盗賊たちがやってきたのはかれこれ一週間近く前のことだ。白虎団を名乗る盗賊たちは村を占拠し、欲しいままに略奪を行っていた。
相次いで起こる盗賊たちの略奪に、舞鶴藩はこれまで大した策も打ってこなかった。藩主の宏尚が盗賊たちを放置していたからだ。宏尚が盗賊の横行に手を打つようになったのは最近のことだ。各地に侍たちを派遣し、治安に当たらせている。もっとも侍たちの数は限られているので、手が回らないのが現状だ。
舞鶴藩の状況はともかく、最近は盗賊も用心深くなっている。丹後南東地域で国津神大国主の亡霊軍隊に盗賊たちが撃破されたのは記憶に新しいところである。また日に日に勢力を拡大する黄泉の軍勢が盗賊たちをも追いやっていた。そして京都から討伐隊が派遣されると言う噂が盗賊たちを脅かしていた。
「亡者どもはとんでもない勢いで増えつつあるし、大国主が南東地域を牛耳っているし、おまけに京都からも関白が討伐隊を派遣するって噂だぜ」
「ちっ、だんだん俺たちが住みにくい世界になってきたな」
盗賊たちは村人から奪った酒を飲み交わしながら最近の丹後の状況を嘆いていた。
「だが、仮に討伐隊が攻め込んできても、丹後半島の防備はそう簡単には破られないだろう」
丹後半島は盗賊たちの本拠地である。
「篭城戦になればこっちに分がある。もっとも、本格的な戦は俺たちも望むところじゃねえんだがなあ」
「全くだ、今は盗賊稼業が盛んな丹後だが、俺たちには命張ってまでここに居座る理由もないからな」
盗賊たちの生き様も様々である。本音を言えば彼らも命は惜しい。最近の丹後の状況に盗賊たちも身の振り方を考えねばならなかった‥‥。
●リプレイ本文
「あれが依頼の村か‥‥」
天岳虎叫(ec4516)は抑え切れない闘争心を何とかコントロールしようと刀剣の柄を握り締める。
「ここまで来てはみたものの、正直私たちだけ解決出来るでしょうか」
妙道院孔宣(ec5511)の危惧はもっともだ。
今回の依頼で集まったのは三人、だがそのうちの一人は姿を見せず、村に到着したのは天岳と妙道院の二人である。
「相手が何人だろうと関係ない。ここまで来た以上、俺はこの身と引き換えてでも盗賊たちを討つ!」
「まあまあ落ち着いてください天岳さん。二人で多数の相手に打ちかかっても自殺行為です」
「何か策があるというのか」
「いや、正直逃げた方がいいかなと思うのですが‥‥そう思いませんか? だって二人ですよ? 幾らなんでも無謀ですよ。天下無双の豪傑も多数相手に囲まれれば逃げることから考えると言いますし」
「駄目だ! ここまで来て! 逃げるなど! 村人たちを見捨てるわけにはいかん! 欲しいままに略奪を繰り返す丹後の盗賊たち、その末端だけでも懲らしめてやらねば気がすまん!」
燃える天岳に対して冷静な妙道院。
「何としても行かれますか」
「もちろんだ。俺はたとえ一人になっても行くぞ」
「あなた一人を行かせはしませんよ。ですが、無理はしないで下さい。この戦い、基本的に我が身を守ることが最優先ですよ」
「盗賊たちの頭がいるはずだ。頭を潰せば他の連中も逃げ出すんじゃないか」
「そこまで持ち込めるかどうか‥‥何しろ多勢に無勢ですから。天岳さん、お願いですから無茶な真似はしないで下さい」
「戦いに犠牲はつきものだ。頭相手に刺し違えてでも、村を救う‥‥!」
天岳は拳を握りしめる。その決意は固かった。妙道院は何としてもこの無鉄砲な男を窮地から守らねばならないと心ひそかに誓っていた。
村に忍び込んだ二人。村のど真ん中で盗賊たちが酒を酌み交わしている風景に出くわした。
「‥‥さーてと、また村の連中から食いもんかっぱらってくるか」
「ついでに美人も連れて来い! 酒の席だってーのに何て華もねえ!」
「へっへっへっ、良い国だよなあ丹後は。盗み、強盗、人攫いにかっぱらい、何でもありとくらあ!」
盗賊たちの様子を見て、天岳の瞳が燃え上がる。
「おのれあいつら‥‥」
「待って天岳さん、雑魚は私が引き付けるから、あなたは頭を」
「妙道院殿‥‥」
「あいつらは多分下っ端。どこかに頭がいるはずです。下っ端相手なら私一人で支えきれますから‥‥多分」
「大丈夫か。多勢に無勢では逃げることから考えるのではなかったのか」
「仕方ありません、出来る限りのことはしましょう。それでも危なくなったら、その時は‥‥逃げましょう。いいですね、天岳さん」
「貸しが一つ出来たな妙道院殿。何としても頭を打って、賊どもを追い散らそう」
天岳はそう言うと、頭を探しに行った。
妙道院は天岳を見送ると、目の前の賊たちに目を向ける。
「相手は‥‥十人か‥‥」
妙道院は薙刀を構えると賊たち向かって踏み出していった。
近付いてくる妙道院に気付いた盗賊たち。
「何だ? 坊さんだぞ?」
「武器を構えて何のつもりだ」
盗賊たちはじろじろと妙道院を見やる。
「丹後の盗賊たちよ、私は舞鶴藩の依頼を受けて都からやって来た冒険者だ」
「冒険者ぁ?」
「おう、噂には聞いてるぜ。俺たちと何度かいさかいを起こしてるそうじゃねえか」
「最近じゃ丹後の藩主たちに接近して魔物と関わったりしているそうだぜ」
「その冒険者様がこんなところで何用でい」
「舞鶴藩の依頼を受けてきたと言って分からぬのか」
妙道院は薙刀を突き出した。
「何でえ、まさか俺たちを退治しに来たって言うんじゃねえだろうな。たった一人で」
「その通りだ」
「本気か坊主。痛い目に会いたくなかったらおとなしく帰った方が身のためだぜ」
「痛い目を見るのはそっちだ」
「へっへっへっ、言ってくれるね。何なら試してみるか」
盗賊たちは武器を抜くと、妙道院にじりじりと迫ってくる。
「来い!」
「ふざけるなよ坊主!」
盗賊は打ちかかって来るが――!
「飢虎!」
その瞬間妙道院のコンバットオプションが盗賊の刀を打ち砕く。
「ぐ、何! 武器破壊か!」
「野郎! 一斉に打ちかかれ!」
盗賊たちは一斉に攻撃してきた。瞬く間に防戦に追い込まれる妙道院、何とか守備力でしのぐが、それが精一杯。
天岳は村人たちと接触を図っていた。
「‥‥盗賊らの退治は我らが受け持とう‥‥されど、この人数では全ての村人を守る事まで出来るとは明言できぬ。戦いの折、盗賊と戦えなどとは決して言わぬ。だが、村人を集め、その元に近づけぬ為の護衛に‥‥と言う者が居るのであれば、この刀を貸そう」
村の若い衆が天岳から武器を受け取るが。
「せっかく来てくれたは良いが、無茶だ、たった二人であいつらと戦うなんて」
「そうよ、おとなしくしていればそのうちいなくなるから、放っておけばいいのよ」
「都の方よ、丹後で盗賊たちに戦いを挑むのは、水を切るようなもんじゃ‥‥たとえ鋭利な武器をもってしても水には通じぬように、丹後の盗賊たちにまともにぶつかっていくのは無駄なことじゃ‥‥あやつらは死人の次にこの地を支配しておる連中じゃ、たった二人来たところで、無駄なことじゃ」
さしもの天岳も村人たちの反応に肩を落とした。村人たちは諦めている。仮にこの盗賊たちを討っても丹後の盗賊たちが消えることは無い。水を切るようなものとはよく言ったものである。
「だが‥‥舞鶴藩も盗賊の取り締まりに乗り出したというではないか。少しは望みが出てきたのではないか」
「藩主様はこれまで盗賊を野放しにしておった方じゃ‥‥少しくらい良い顔をしても信じられんのう。またすぐ元に戻るんじゃないかのう」
「まあ都の冒険者様がせっかく来てくれたんだ。愚痴ばかり言っても仕方ねえ。俺たちも少しは協力しようぜ」
ようやく前向きなことを言ったのはまた別の若い衆であった。
「俺たちは避難してるからよ、あんたは賊の頭をやるつもりなんだろ」
「ああ」
「ならそこまで案内するよ。付いて来な」
若者は天岳を伴って外に出ると、辺りをうかがいながら歩いていく。
「あそこだ」
若者は一軒の家屋を指差して顔を引っ込めた。
「見張りがいるぜ。あんた腕に自信はあるのか」
「一対一ならな‥‥」
「どうする、引き返すか?」
「いや‥‥」
天岳はオーラエリベイションを発動させると歩き出した。一か八か、盗賊に一騎打ちを申し込むつもりである。妙道院が聞けば無謀と言ったであろう。だが天岳も他に良い方法が思いつかなかった。自分は侍だ、忍者のような真似が出来るわけでもない。
近付いてくる天岳をじろりと賊が睨みつける。
「盗賊の頭はいるか」
「何だお前は?」
「舞鶴藩の依頼で都から貴様らを討伐しに来た、冒険者だ」
「てめえ、頭がいかれてるのか? たった一人で何抜かしてやがる」
さすがの盗賊たちが呆れた。
「俺は本気だ、頭領を出せ、一騎打ちで勝負をつけよう」
天岳は月桂樹の木剣を構える。
「ふざけたこと抜かしてると本当につまみ出すぞ。木剣でやるってのか」
天岳は木剣を振り上げると、気合いと共に振り下ろした。スマッシュEX+ソードボンバー!
「おっと!」
「何しやがるこの!」
盗賊たちはとっさによけた。
「何事だ」
そこで奥から盗賊の頭が姿を見せた。いかにもと言った感じの体格のいい男である。
「お頭‥‥実はこいつが‥‥」
賊の説明に頭領の目がきらりと光った。
「ほう‥‥盗賊退治か、ご苦労なことだな」
「舞鶴藩からの依頼だ。お前たちを討つ」
「どうやってやる? たった一人で何が出来る」
「一騎打ちでけりをつけよう。お前を倒し、村を解放する!」
天岳は勇んだが頭領はまともに取り合うような人物ではなかった。
「お前たち、少し遊んでやれ。軽く痛めつけて帰らせろ」
「へい」
盗賊たちは改めて天岳に向かってくる。
「おりゃあ!」
盗賊たちの連続攻撃を天岳は何とかかわし、うけとめた。
「ちっ、一対一なら何とかなるのに、やっぱり駄目か」
今時一騎打ちなど武士の間でも聞かない話しだ。まして盗賊相手にそんな理屈が通じるはずも無い。
天岳は何とか盗賊二人に互角の戦いを見せるが――。
そこで盗賊たちに追われた妙道院がやってきた。
「天岳さん!」
「妙道院殿!」
二人は盗賊たちに囲まれた。
「お頭、こいつらまともじゃありませんぜ。たった二人で乗り込んできて、村を解放するだの抜かしやがるんですよ」
「律儀なことだな。もう一人いたのか」頭領は天岳と妙道院らをみやる。「呆れた連中だ。これでは戦いにならんのは明白だ。俺は冒険者は好かんが、傍若無人に殺傷するほど貴様らを憎んでいるわけでもない。命は取らん、おとなしく都へ帰れ。あくまで抵抗するというなら腕の一本折って放り出してやる」
冒険者二人がなすすべなく立ち尽くす。盗賊に情けをかけられるとは‥‥。
盗賊たちの輪が解けて、無言の圧力をかけてくる。
「この借りは返す」
冒険者たちはそう言い残して村を後にすることになる。完敗であった。