【道敷大神】丹後の戦い、丹後の導師
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:15人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月18日〜10月23日
リプレイ公開日:2008年10月24日
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●オープニング
八月に丹後西方峰山藩に現れた謎の死人使い“丹後の導師”はその時を待っていた。
ローブを身にまとった男――導師は同じく周囲のローブ姿の人物たちに向かって言った。
「‥‥わしを陥れた者共は既にない。だがわしは忘れぬ。あのときの悲しみを、苦痛を。生きながら地の底に追いやられたこの恨みを。‥‥だが時は来た、都に復讐する時が!」
「導師様、我らが悲願を成就するのもそう遠く無いでしょう。都の軍は、イザナミ様の前に敗退を重ねるばありとか」
「うむ、イザナミ様は都へ軍を進めつつある‥‥‥わしはイザナミ様の側面を守る盾として、この丹後に滅びを与えよう。都の民は絶望するが良い。だが城下の盟など誓わせぬ、一人残らずイザナミ様への生贄としてくれるわ」
「はい、間もなくです導師様、イザナミ様はあなた様の下に、亡者の大部隊を派遣されるとか」
「おお、何と心強い事よ。黄泉の軍勢‥‥それに、わしの手には秘宝潮盈珠がある! 神皇の民の苦しみは我が喜びだ、間もなく‥‥時は近い‥‥! さればまず、峰山を一飲みに滅ぼさん」
導師が見据える先、西方から亡者の大群が接近してくる。その数‥‥数千! 上空を怪鳥アンデッド以津真天や怨霊が飛び交い、おぞましい死人憑きや怪骨が大地を埋め尽くしている。軍勢の大半は、生きていた頃は出雲と周辺に暮らす人間であり、或いは突然現れた黄泉の軍勢と戦い、戦死した武士だった。また一際目立つ骸骨巨人兵士――丹波でも見られた小型がしゃ髑髏も巨体を揺らして鉄球がついた鎖を引いている。
イザナミ軍数千――黄泉の大軍がついに丹後に到着せんとしている。
丹後峰山藩主、中川克明はこの非常事態を前にして、全ての民に告げた。
「導師が率いると思われる亡者の軍勢はかつて無い規模だ。峰山藩は終わりを告げるかも知れぬ。逃げる者は止めはせぬ。急いでこの地を離れるがよい。残る者は兵士と見なす。老若男女を問わず武器を持って黄泉の軍勢と相対することになろう。非情なようだが死者どもは相手を問わぬ。残る者は覚悟を決めよ」
この通達に峰山藩は混乱した。パニックに陥る者、残って志願する者、そして逃げ出す者、いずれにしてもかつて無い規模の死者の軍勢が峰山に押し寄せんとしている。
だが克明もただ死者の大軍を待ち受けるだけではなかった。京都の関白に勅使を立て、救援を問うたのである。
曰く――峰山に西方よりかつて無い規模の亡者の進軍あり。このままでは藩は壊滅。救援を願いたく。峰山藩は関白に臣従し、藤豊家に忠誠を誓いましょう、何卒我らをお助け下さい、と‥‥。
克明は娘の春香姫を人質に差し出して関白に臣従を誓う。
果たして――京都は動いた。関白秀吉は平野長泰に千人規模の軍団をつけて、丹後に援軍を送り出したのである。
長泰は冒険者ギルドのつわものたちにも呼びかけた。
「丹後の導師――死人の首領が率いる亡者の大軍に秀吉公が援軍を出されました。峰山にて導師率いる数千の亡者の大軍を迎え撃つべく、関白は千人規模の派兵を決定。平野長泰殿を大将とする救援部隊を派遣されました。つきましては、この戦いに冒険者たちの助力を請うと、長泰殿からお声が掛かりました。我こそと思わん方はどうぞ名乗りを上げて下さい。峰山は壊滅の危機に瀕しています‥‥」
ギルドの手代は集まった冒険者たちを前に、峰山における戦いを告げた。
丹後において始まった導師の侵攻、それはイザナミ軍到来の前触れだったのか。風雲急を告げるこの戦い、果たして年内に終結するのか、いや、峰山の、丹後の命運はどこへ向かって行くのだろうか。
●リプレイ本文
「そうですか‥‥姫は行かれましたか」
ルーラス・エルミナス(ea0282)は克明の言葉を聞いて頷いた。前回導師を討てなかったこと、別れ際に春香姫に一言詫びを入れたかった‥‥。
「此度もお世話になります――」
そう言ったのは白翼寺涼哉(ea9502)。彼も前回導師に肉迫したのだが‥‥。
「あの導師が‥‥動くとは厄介な事になりましたな」
「娘を差し出してまで藤豊の援軍を受け入れたのだ‥‥何としても不死軍を退けたいがな‥‥」
克明は半ば覚悟を決めているようだった。落ち着いて見えるのはそのせいかも知れない。
白翼寺は藤豊軍の武将若き平野長泰に向き直る。
「京都の医師・白翼寺でございます。以後、お見知りおきを」
「おお、つわものが駆けつけたようだな」
「此度の救援、秀吉公の迅速な対応に感謝致します」
「今京都に、いやジャパンに迫る危機に立ち向かうために、殿下は軍を派遣されたのだ。丹後、丹波で食い止めねばもはや我らに後は無い」
「すると‥‥やはりこの不死軍は例のイザナミと関係があると?」
「西方から現れた不死軍、もはやイザナミの軍勢と見て間違いあるまい。導師とやらが何であれ、イザナミと無関係では無かろうよ」
「敵の規模から鑑みて丹波を蹂躙したイザナミ軍の一部がこちらに来た可能性があります」
ベアータ・レジーネス(eb1422)はそう言って先の丹波での戦いに触れる。イザナミは自身の兵を捨石にして丹波軍を落とした。その可能性に触れたのだ。侍達はベアータの言葉に耳を傾けていた。
「克明様‥‥」
「うむ?」
明王院未楡(eb2404)とチサト・ミョウオウイン(eb3601)は克明に幾つか提案する。
実質戦力外の女子供は後方支援に回らせる、開戦前に可能な限り陣地など防衛線を構築する、レミエラの提供など‥‥。克明は吐息する。
「未楡殿、気持ちは分かるがこの戦いに限って言えば長期戦はないと見ている。死人に突破されるか、しのぎ切るかのどちらかだと。女子供に先陣を切って戦えとは言わぬが、わしは彼らにも武器を持たせるつもりだ。ここに残った以上はな。だが彼らが武器を取る局面とは、峰山の終わりを意味するが‥‥。防衛線の構築に異存はないが、やれるだけのことをしよう」
未楡は改めて克明の決意の固さを知ることになる。克明は全員に武器を取らせ、後が無いのだと見せることで背水の陣を敷いたのだ。レミエラは時間も無いので断られた。
「せめてみなの士気を鼓舞したいと思いますが‥‥」
「頼む、残ると決めた民の心が挫けぬよう、未楡殿から言ってやってくれ」
未楡は克明の言葉を受けて民の方へ歩き出した。
防御陣地の構築に奔走するロッド・エルメロイ(eb9943)――あとでベアータも加わった――導師の洪水対策に浮き筏を作ろうと呼びかけるメグレズ・ファウンテン(eb5451)やグレン・アドミラル(eb9112)、応急手当の心得のある者を集めて救護所を設ける雀尾嵐淡(ec0843)らの姿が目に入った。
民は粛々と慣れない手つきで武器を振っていた。未楡は見ていられなかった。確かに、彼らが戦う時は、峰山の終わりを意味するだろう。未楡は民の方へ歩いていくと、心を鬼にして彼らの戦闘指導を行った。
そうして、いよいよ不死軍が動き出した、という知らせがロッドによって藤豊、峰山連合軍にもたらされる。
「黄泉人はこちらの五倍から六倍と推定されます。まるで津波のようにこちらを押し潰すつもりでしょう。圧倒的な大軍で向かってきます」
「数だけは揃えたものだな」
長泰は動じる気配も無い。ロッドは続ける。
「小型のがしゃ髑髏‥‥? 骸骨の巨人多数、上空には怨霊や怪鳥アンデッド以津真天、あとは死人憑きや怪骨兵士たち、中には死霊侍や死食鬼がちらほらと。確かに、噂に違わぬイザナミの軍勢です」
「最終的には防御線で黄泉人の足を止める。それまでに敵勢を出来るだけ削る。骸骨兵士や死人憑きに遅れを取るなよ。では予定通りにことを始めよう」
「ははっ!」
藤豊軍の侍たちは各方面へ散っていく。
戦闘が各所で始まる。前線で峰山軍の指揮を執る南雲紫(eb2483)は刀を振り上げる。目の前には亡者の大軍が押し寄せてくる‥‥!
「放てえ!」
振り下ろした刀とともに号令を発する南雲。峰山軍は一斉に火矢を不死軍に浴びせかける。
戦線各所から火矢が飛び、亡者の大軍に降り注ぐ。
藤豊軍の侍たちは整然と隊列を組んで亡者の群れに立ち向かう。凄まじい勢いで浴びせかけられる火矢に燃え上がる不死人たち。その最前列に、侍たちがソニックブームを叩きつける。数百発のソニックブームが死人たちをなぎ倒す。
楠木麻(ea8087)はグラビティーキャノンを連発。後退しながらキャノンを撃ちまくる。死人たちはばたばたと地面に倒れ伏していく。
「みんな行ってくれ! ボクの援護射撃はここまでだ!」
楠木の横から白翼寺、未楡、ボルカノ・アドミラル(eb9091)、グレン、井伊文霞(ec1565)が隊形を組んで駆け抜けていく。冒険者たちは地上と空から導師がいる不死軍の本陣を目指すつもりだ。
不死軍に突入した冒険者たち、死人憑きや怪骨兵士をなぎ倒しつつ突き進むが――。
未楡はレミエラを発動させつつ亡者を切り伏せていく。未楡の死角を補うように文霞は立ち回り、スマッシュEXで怪骨を打ち砕き、ポイントアタックで亡者の首を切り飛ばした。乱戦、意外な方向から飛んできた鉄球を、文霞はよけた。はっと振り返る文霞、骸骨の巨人が立っている。
「がしゃ髑髏ですわ!」
骸骨の巨人が数体、鉄球を振り回して立ちはだかっている。圧倒的な破壊力に藤豊兵が崩れる。
未楡と文霞で白翼寺を守りつつ、ボルカノとグレンが突撃した。が、鉄球の直撃を受けて二人の巨体が揺らいだ。
「何と重たい一撃だ‥‥!」
そこへ飛び込んでくる影があった。南雲だ。南雲はがしゃ髑髏の間を駆け抜け、鉄球を軽々とよける。その間にボルカノとグレンは白翼寺の回復を受ける。
周囲から迫ってくる死者の群れは尋常な数ではない。これを地上から突破するのは難事であるが、冒険者たちは諦めることなくがしゃ髑髏に立ち向かうが‥‥。
空中からはルーラスにマミ・キスリング(ea7468)、バーク・ダンロック(ea7871)、ロッドらが敵陣を目指す。ルーラスの後ろにはチサトが乗っている。
ロッドはバークとマミの援護を受けて超絶的な威力のファイヤーボムを以津真天の大軍に向けて発射する。火球が炸裂し、暴風が以津真天の群れをなぎ払う。
だが暴風をものともせずに怨霊たちが接近してくる。ルーラスとマミが相対するが、撃ち漏らして接近して来る怨霊にバークがオーラアルファーを叩きつける。ロッドはランクを落としてファイヤーボムを連発し、怨霊たちの足を止める。
マミが向かってくる以津真天を引き付けるように突撃する。
「行って下さい! ここは私が!」
バーク、ロッド、ルーラス、チサトは一気に空中を突破した。マミよ無事でいてくれ‥‥!
「チサトさん、どうですか」
「さきほどから確認しているのですが‥‥」
ルーラスがゆっくり旋回しながら安定姿勢をとる間、チサトはミラーオブトルースに目を凝らす。
「あっ、今何か光るものが‥‥そっちに」
チサトが指差す先、幸運にも不死者の中に人影を発見。ローブをまとった人物たち。
そうする間にも怨霊たちが集まってくる。ロッドは威力最大の魔法に念を込めるがここで不発が起きた。バークはオーラアルファーで怨霊を吹き飛ばし、ルーラスがチサトを守りつつ何とか怨霊を切る。チサトもアイスブリザードを放つ。
「今度こそ!」
ロッドは怨霊たちにファイヤーボムをぶつける。続けざまに地上の導師と思しき集団に超越マグナブローを打ち込む。
「行くしかねえぞ! ロッド、お前さんは逃げろ!」
バーク、チサトを乗せたルーラスは突撃した。無防備のロッドには怨霊が群がってきたので慌てて逃げる。
バークはオーラソードで、ルーラスはチサトを乗せつつも突撃した。だが彼らに地上から怨霊の大軍が襲い掛かってくる。
「何だ? いきなり沸いて出たぞ!」
バランスを崩してチサトは落下した。チサトが見たのは、淀んだ空気――瘴気と怨霊を身にまとったローブの人物である。彼が指先をひらめかせると、そこから怨霊が現れたのだ。
「導師‥‥」
「ほう‥‥わしの名を一目で言い当てるとは‥‥だが道敷大神に仕える黄泉の王に情けは無いと知れ」
チサトは身動きできなかった。導師が近付いてくる。
「チサトさん!」
ルーラスが突破して救出に来た。チサトを拾ってルーラスは舞い上がる。バークにオーラアルファーを使う余力は無かった。三人は逃げ出すので精一杯だった。
‥‥藤豊・峰山軍は防衛線まで後退していた。
「飛刃、散華!」
メグレズのソニックブームが以津真天を真っ二つに切り裂く。
藤豊軍は精強であった。侍と足軽は整然と隊伍を組んで壁となり、不死軍の盾となった。さすがにがしゃ髑髏にはてこずっていたが、長泰と克明は負けない戦いに徹して無理をしなかった。
「こちらは数では劣る‥‥いずれ突破されるのは時間の問題だが」
耐えるだけならメグレズにとって容易いことであったのだが。
「どうですベアータさん、敵の気配は」
「反応なし‥‥まあ予想が外れたのは幸いと言うべきですが」
ホーリーフィールドを張っていた雀尾の問いにベアータは安堵の息を漏らす。万が一に備えてメグレズらは本陣の警戒に当たっていたのだ。
「よし、峰山南部に撤退する」
長泰は全軍に通達した。峰山城に篭城すると言う選択肢もあったが、この大軍を相手に篭城するのは不可能に思われた。
今は退くしかない。結局幸運も手伝って導師を目撃したのはチサトだけ。道敷大神に仕えると言った黄泉の王――イザナミの不死軍を率いる導師との戦いはまだ緒戦。戦力に十分な余力を残して、冒険者たち、そして藤豊・峰山連合軍は撤退した。