丹後の戦い、大江山の鬼退治・其の四
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:10月26日〜10月31日
リプレイ公開日:2008年11月02日
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●オープニング
丹後南部――。
大江山連峰が広がるこの土地は、人喰鬼を始めとする鬼達が鬼の王国を築き上げている土地だ。またこの地には丹後の侍衆京極家が進出しており、鬼達としのぎを削っている土地でもあった。
先の戦いで鬼達の猛攻を何とかしのぎ切った京極家は、南部の防衛を立て直そうと各地の砦を再建していた。
そんなある日、京極高知のもとに数十名の武装した侍たちがやってきた。
「京極家の主はおられるか、我らは藤豊家の家臣団である」
侍たちのリーダーがそう言ったので、高知は彼らを迎え入れた。
「高知は私ですが、藤豊家の方々が何用ですかな」
「話は聞き及んでいよう。峰山藩の救援に関白秀吉公が援軍を送られた件だ」
「それは聞き及んでおりますが」
「死人との戦いが長期化した場合に備えて、京極家に協力を求めたい。丹後南部は安定しているとは言い難い。いまだに鬼達が徘徊しておる。丹後での戦いが長期化した場合、藤豊軍の輜重はここ丹後南部を通過することになる。後方の安定を図るためにも、京極家の協力を仰ぎたい」
「それは‥‥協力することにやぶさかではありませんが。最近も鬼達の侵攻があったばかりで、今は再建の途上です。どこまでお役に立てるか分かりませんが」
「京極家の総力を挙げてこの地域の安定を図ってもらいたい。必要であれば京都から足軽を百人ほど派遣させよう」
藤豊家の侍達は提案するが、高知はその件には即答しかねた。藤豊軍の通過に協力するのは家臣たちも納得するだろうが、藤豊家の軍勢を迎え入れるとなると話は簡単にはいかない。藤豊家の力を借りると言うことは京極家が秀吉に臣従することを意味する。
聞き及ぶところでは、最近丹後の大名たちは畿内の大藩との同盟を水面下で進めているという。すでに峰山藩は秀吉の傘下に入った。峰山を守りきれるかどうかは死人との戦い次第であろうが。
大藩の力を借りることが出来れば丹後の平定を有利に進めることが出来るだろう。賢明な選択と言えるが、どうしたものか。高知の心は揺れた。とりあえずその件は後日回答するとして、高知は南部の再建に全力を尽くすと約束した。藤豊軍が通過する際には協力するとも。
再建の途上ではあるが、先の戦いで退けられた人喰鬼たちは時折姿を見せて砦や防備の復興を邪魔していた。そのため中々作業は進んでいなかった。
今回襲い掛かってきたのは山鬼や熊鬼、小鬼や茶鬼といった小物たち、侍達は何とかしのぎ切ったが、復興作業に従事していた民衆に被害が出た。死人は出なかったが、多くが鬼に襲われて怪我をした。
鬼達はいったん引き上げたが、再び襲ってくる気配である。
「もしここに人喰鬼が加わってくればただでは済まないが‥‥ひとまずこの鬼達を退ける必要がある」
高知は鬼の殲滅に都の冒険者の力も借りることにした。
「京極家に縁のある者は秀吉公への対応についても協議したいので、提案がある者はぜひ我が家の未来に関わる話し合いに参加して欲しい」
高知はそう付け加えてギルドに依頼を出したのであった。
●リプレイ本文
アラン・ハリファックス(ea4295)は長崎藩邸を訪ねていた。主君である藤豊秀吉に謁見するためである。秀吉は多忙を極め、アランは一日待たされる。
ようやく謁見がかなってアランは秀吉のもとに通された。
「待たせたのうアラン、わしに用件があるそうじゃな」
「はい‥‥」
恐れ入るアラン。
現在丹後には平織家も進出しつつあり、また稲荷神を名乗る妖怪が現れたりして状況は複雑化している。アランは京極家との同盟を確実なものにするため、丹後に発つ前に秀吉の意を確かめておきたかった。
アランの進言のポイントは以下の通り――
一、都の北部が人外魔境と化すのを食い止めている京極家の功績は大。
二、今後京極の大江山制圧に増援できる戦力は如何程か。
三、今回京極を傘下に入れれば、丹後進出中の平織とぶつかる可能性有。その為、この話は平織と強調しつついずれ丹後を平定する覚悟が必要であること(丹後の大国主や盗賊対策も視野に)。
四、丹後の稲荷神の眷属にして化け狐達の主、白狐については同盟や歩み寄りを行う等をし、丁重な扱いを求める。
秀吉は黙って最後まで聞いた後に云った。
「京極家の功績が大きいことはわしも認める。大江山で民を守るのはあの者たちしかおらん。よって大江山制圧には一千までの兵を考えておるよ。峰山にも同じくらい割いておるからのう‥‥だが、あまり大きな借りを作っては立場もあるまい。京極家には頑張ってもらいたいところじゃ」
そこで一度言葉を切り。
「はっきり言い聞かせるが、わしは平織と、お市の方と揉める気は無い。黄泉との戦い、共に手を合わせねば人の未来は無いのじゃ。丹後で争うはずがないぞ、アランよ。それと‥‥何であったかな?」
「は‥‥丹後の妖怪、稲荷神の白狐の件でございますが‥‥」
「ああ、物の怪、それであったかよ」
秀吉はこつんと扇子で頭を打った。
「丹後の民が物の怪を祀ろうが同盟を結ぼうがわしゃ気にせんぞ。その狐に官位や神位を寄こせという話になっておるのか? それならばちと面倒じゃな」
「いえ、仮にも神の眷属を名乗るものならば、都として何か手を打たれたが宜しいかと思いまして‥」
「アラン、わしはな、神仏とは距離を置きたい。都におれば嫌でも関わらざるを得ぬが、進んで交わろうとは思わぬよ。白狐のことは丹後の問題じゃよ」
「は‥‥殿下から明快な回答を頂ければ、丹後の民も安心し、京極家も我らが傘下に加わるかと」
忠義者のアランは秀吉の満額回答に額をついて頭を下げる。
「吉報を期待しておるぞ」
そうして、アランが丹後に到着する頃には復興作業が再開されていた‥‥。
「遅れてすまない。何としても秀吉公から回答が欲しかったのでな」
「他の皆さんは警戒に当たっています。私もそろそろ発とうかと思っていたところです」
復興作業を手伝っていた雀尾嵐淡(ec0843)はそう言うと、上着を脱いでミミクリーで大梟に化けて飛んでいった。
雀尾を見送って、アランも仲間達と合流し、柴犬を連れて砦の警戒に当たる。
大梟になって大江山を旋回する雀尾。梟並みの視力で大江山の様子を探る。
大江山各所で鬼の姿を目撃した雀尾。大江山の奥地は倒木などを積み上げた壁が連なって防壁となっている。地上から攻めるには厄介そうだ。そして何と言っても人喰鬼が無数に徘徊している。この大江山、果たして歴戦のつわものでも生きて出られるであろうか‥‥。
ミラ・ダイモス(eb2064)は空中でグリフォン騎乗で索敵、明王院未楡(eb2404)と陽小娘(eb2975)は二人で組んで警戒に当たる。張真(eb5246)も砦の周囲を歩いて回っていた。
木下茜(eb5817)は小鬼等の接近を防ぐ馬防柵を侍達と協力して砦を強化していた。
ロッド・エルメロイ(eb9943)もグリフォン騎乗で空中から索敵を行う。超越魔法で鬼の本拠地を爆撃しようと考えていたロッドだが、ここで致命的なミスが明らかに。何とAPが足りずに魔法が使えないことが分かった。
「しまった‥‥! 俺としたことが‥‥!」
これではどうしようもない。今回は索敵中心に専念することにする。
高所に上っていた小娘は遠くからやってくる影に気付いた。
「ん、来たかな‥‥? おーい! みんなー! 鬼が出たみたいだよー!」
「来ましたか‥‥」
未楡は帯のレミエラを発動させる。
小娘は砦中に触れ回り、警戒を告げる。木下も素早く砦を駆け回り、警戒を告げる。
「侍衆は人々を中へー! 民は中へー! 民は中へ急げえーっ!」
冒険者達も民に避難を呼びかける。侍衆たちは砦の防備に回り、民衆を避難させる。
ばらばらと現れたのは山鬼、熊鬼に率いられた茶鬼、小鬼たち。
アランはひょいと槍を持ち上げると、突進してくる小鬼に向かって投げつけた。槍がうなりを上げて小鬼の胴体に命中する。ひっくり返る小鬼。すぐにアランは槍を引き抜くと前線に立つ。
小娘はみなにオーラパワーを付与して周り、月桂樹の木剣を構えて戦いに参加する。
「でやあああっ!」
裂ぱくの気合いとともにミラの豪腕から繰り出された一撃は小鬼を一撃で粉砕した。続けざまに振るう一撃は茶鬼の首を一撃で吹っ飛ばした。
鬼達がざわめく‥‥ミラの豪力に恐怖したか。
ミラは次々と小鬼たちを葬り去っていく。業を煮やした熊鬼と山鬼が出てくるがミラの敵ではない。
その傍らで、未楡は熊鬼、山鬼の攻撃をかわしつつシュライクで鬼達を切っていく。鮮血が舞い、鬼達は悲鳴を上げる。
小鬼と茶鬼はミラを恐れて近付かず、小柄な小娘や張に向かってくる。
「おっとっと‥‥せいやあ!」
囲まれるのを避けつつ、小娘はトリッピングで小鬼を転倒させ、木剣を叩き込んだ。
張は突進してくる茶鬼にストライクEXを叩き込む。
「グ、オオオォォォ‥‥」
強烈な正拳突きに茶鬼の膝が落ちる。
ストライクEXを連発して雑魚鬼の群れを叩き潰す張。
「京極家を脅かす大江山の鬼達‥‥許しません」
木下は味方の援護射撃を兼ねて弓を引き絞る。京極家客将の木下にとって大江山の鬼達は言わば宿敵だ。
雀尾はホーリーフィールドで砦の入り口を塞いでいたが、強力な冒険者達を前に鬼達は次々と討ち取られていく。
熊鬼、山鬼を全滅させると、残った小鬼たちは後ずさりし始める。
その背後から京極家の侍達が襲いかかる。
「お前達を逃がすと思うのか」
返り血を浴びて真っ赤に染まったミラは鬼神のような形相で仁王立ちであった。
小鬼たちは武器を放り出して何やらわめいているが、ミラは容赦なくその首をはねた。
「どうやら勝ったが‥‥」
上空から戦況を見つめていたロッド、今回は痛恨のミスでなすところがなかっただけに残念そうである。
そうして、冒険者達は襲ってきた鬼達を全滅させた。
「私は人喰鬼を討つ。今後のことも考えれば、一体でも人喰鬼を倒しておきたい」
「ミラさん待って下さい」
雀尾が止める。
「この大江山、小比叡山と言われるだけあって、奥地にはとんでもない数の人喰鬼がうようよしています。いかにミラさんでも、単騎で乗り込むのは不可能です」
雀尾は不可能だと言い切った。
「そうですか‥‥それほどの鬼が‥‥ふむ、仕方ありません、噂の鬼の王国を打倒するのは今後の課題ですね」
ミラはそう言って人喰鬼たちがいるであろう山の奥に目を向けた。
鬼の討伐が済んだ後、冒険者達は京極家の主、京極高知のもとを訪問する。
冒険者達は色々高知に提言した。
アランは秀吉の言葉を伝え、国難に立ち向かう藤豊の元に集って欲しいと願った。援軍など具体的な援助も藤豊こそ可能と強調し、藤豊の傘下で功を立てれば都への一歩になると説明する。
未楡は早急に結論付ける必要は無いと考えていた。今は、藤豊に輜重路確保の恩を売るなど‥‥いずれにしても冷静に政治的な動向を伺う事を提案する。
「各藩が己が思惑だけで同盟を結べば、折角の協調関係すら崩れ、元の木阿弥に陥る可能性も捨て切れません。この様な状況下で上手く立ち回れる政治手腕を持った方がいる事は、丹後統一の上で重要かと‥‥」
「だがな未楡殿、ことはすでに丹後で収まる話ではない。宮津藩は平織との同盟に動き、峰山藩は秀吉公の傘下に入った。秀吉公に従えば流浪人の我らも一躍大藩の一翼ぞ」
そう言ったのは京極高広であった。
「待って欲しいアル」張は平織家の武将であった。「平織からも軍勢を出すアル。藤豊・平織二国を持って、丹後の平定に協力できるよう約束するアル。京極家には何とか平織家について欲しいアルね‥‥」
平織という選択肢は意外であったが。
ロッドも思うことはあったが、状況は彼の予測を越えて動きつつある。
「宮津藩は、全ては平織からの返答次第と言っていますね」
フライングブルームで宮津まで飛んで帰ってきた雀尾はそう言った。
京極家客将の木下は、藤豊家の申し出に対し、本腰を入れて傘下に入る事を願い出る。秀吉は平織と揉める気はないと言う。アランがもたらした秀吉の回答は大きい。木下の懸念をほとんど払拭したと言って良い。大江山を制圧し藤豊家の助力の元、イザナミの軍勢、白虎団、大国主様と戦うべきだと言った。
「‥‥京極家の未来の為には、大江山の制圧が必要不可欠です。大江山の制圧後は広大な地を管理するのは難しい為、丹後に協力的な稲荷様を大江山にお祀りすることで、他の妖怪が大江山に住み着く事を防ぎ、かつ統治の為に兵を必要とする状況を避ける事を提案したいと存じます」
「‥‥木下、わしは秀吉公に付こうと思う。秀吉公は平織との和平を約束された。無益な戦は起こるまい。何よりいち早く大江山を平定し、諸藩と肩を並べることこそ我らが悲願。そのための兵をお貸し下さる」
稲荷神の件は鬼との戦いに勝利したら考えようと高知は言った。
京極高知は、平織ではなく藤豊を選択した。この選択が京極家と丹後に何をもたらすのか、それは歴史が証明するだろう。