丹後の盗賊、白虎団【其の四】

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月26日〜10月31日

リプレイ公開日:2008年10月28日

●オープニング

 丹後、宮津藩郊外――。
 村の近くで小さな戦いが起きていた。盗賊たちと死人憑きが交戦していたのだ。盗賊たちは十人ほど、死人憑きも十体ほどであった。
「ちいっ! 死人憑きがなめんなよ! 俺たちには亡者狩りのレミエラがあるんでい!」
 盗賊の一人が果敢に死人憑きに切りかかる。ザシュッ! と死人憑きの腕が飛んだ。
 丹後の盗賊――殊に最大の武装集団である白虎団はなぜか潤沢なレミエラを有しており、盗賊たちはアンデッドスレイヤーのレミエラを装備していた。
「でやあっ! あの世に帰れ死人があ!」
「おりゃああっ!」
 盗賊たちは次々と死人憑きを葬り去っていく。アンデッドスレイヤーのレミエラは圧倒的な攻撃力であった。
 瞬く間に死人憑きは大地に還る骸となって崩れ落ちる。
「ふう‥‥終わったか」
「へっ、死人憑きが俺たちにかなうわけねえや」
「だが、聞けば西に現れた亡者の軍勢はとんでもない大軍だそうだ」
「ああ、峰山藩での戦いだな。都からも援軍が来てどでかい戦いが始まったようだ」
「お頭、丹後はどうなっちまうんですかねえ‥‥」
 お頭と呼ばれた男は刀を鞘に収めると、思案気に言った。
「都からも援軍が来たというし、亡者の件は連中が食い止めることに期待しようではないか」
「でも、亡者だけなら良いけど、都の軍隊が俺たちに向かってきたらどうします?」
「さてな‥‥まだ藩主たちがどうするつもりなのかは読めないな。俺たちを追い出すつもりなら、死人をどうにかした後で丹後半島に攻め込んでくるだろうが」
「俺たち大名たちと戦うことになるんですかねえ?」
「大名たちもそれどころではないと思うがな。自分たちの戦で忙しいと聞く。盗賊に構っている暇はないだろう。いずれにしても、西からやってくる亡者たちを先にどうにかしないことには、俺たちに構っている暇も無いだろうがな」
「しかし、亡者もいい加減これ以上増えてくると、厄介ですぜ」
「うむ、だから、峰山で食い止めてくれることを期待するわけだがな」
「どうなりますかねえ‥‥」
「まあ白虎団の方針は永川様が決めてくださるだろうから、俺たちがどうこう言ったところで始まらん。それより、ここ宮津は油断のならない土地だ。最近では藩主が宮津城を取り戻したと聞くし、天津神やら物の怪までが人に味方していると言う話もある。丹後の土侍とやらもいるようだしな。どちらかと言えば盗賊には住みにくい地域ではないかな。そう感じるが」
「‥‥まあ、と言って実際全ての村人を守るだけの力はまだ藩主にはないでしょう」
「そう思いたいところだがな‥‥どうかな。まあいい、行くぞお前たち」
「へい。よし行くぞお前ら! 稼ぎ時だ! かっぱらえ! 逆らう奴には白虎団の名前を思い出させてやれ!」
 そうして、今日も盗賊たちは村に略奪に向かうのであった。

 村に盗賊が現れたことを発見したのは、土侍と共に丹後を旅する源細ガラシャであった。
「まだ盗賊たちを止めるには力が足りないのですね‥‥」
「どうしますかガラシャ様、宮津の侍たちを呼びますか」
「お侍様も何かと手一杯でしょう。ここは京都の冒険者に頼みましょう。村からの依頼として出せば引き受け手がいるでしょう」
「そうですな。全く、死人も厄介ですが、盗賊も何とかなりませんかね‥‥」
 土侍の言葉に応える術を持たず、ガラシャは都へ足を運ぶのであった‥‥。

●今回の参加者

 ea0282 ルーラス・エルミナス(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8553 九紋竜 桃化(41歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ec3138 マロース・フィリオネル(34歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec4516 天岳 虎叫(38歳・♂・侍・ジャイアント・ジャパン)
 ec4801 リーマ・アベツ(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)

●リプレイ本文

 ‥‥村。
「おらあ! 村人ども! 食いもん持ってこい!」
「酒だ酒! それから女も連れて来い!」
「いやあ、全く、何から何までこうまでうまくいくと丹後の盗賊はやめられねえなあ!」
「全くだ! 大名も死人の討伐に忙しいし、大国主は南東地域に引きこもっちまったし、俺たちを止める奴は誰もいねえとくらあ!」
「死人も適当に暴れてくれると頼もしいねえ。まあ丹後の住人全部食い殺されたら俺たちも商売上がったりだが」
「まあ悪化する前に都が何とかするだろ。俺たちは見てるだけだがなあ」
「おう、都の軍団には頑張ってもらわねえとな。適当で良いけどよ」
「峰山で連中が適当に暴れている間に、宮津、舞鶴は俺たちが頂くぜ‥‥」
 すっかり酔いも回って出来上がった盗賊たちはやんやの喝采を上げて宴会を行っている‥‥。
「こらあ! 村人! のろのろすんな! 食いもんはどうしたあ!」
「遅えぞ酒と女、早くしろってんだ!」
 恐れおののきつつ村人たちは盗賊たちの略奪を受け入れるしかない。
「ガラシャ様は無事に都へ行かれただろうか‥‥冒険者を呼んで下さると言って旅立たれたが」
「うむ‥‥そろそろ到着しても良いころじゃが」
 ひそひそと囁く村人たちの所へ盗賊たちがやってくる。
「おいそこ! 何こそこそ言ってやがる! さっさと食いもん持ってこねえか!」
「はい‥‥はい‥‥今すぐに‥‥」

「おのれあいつら‥‥性懲りも無く‥‥! 前回は力が足りなかったが今回は違うぞ」
 今回の依頼を前回のリベンジと位置づける天岳虎叫(ec4516)。先の戦いでは白虎団に手痛いしっぺ返しを食ったからなお更だ。
 村に入り込んだ冒険者たちは盗賊たちの様子を探っていた。
「盗賊王国とはよく言ったものですね‥‥適当に死人が暴れてくれたら良い? 何という奴らだ‥‥あれで本当に私と同じ人間ですか」
 ルーラス・エルミナス(ea0282)は盗賊たちの傍若無人さに怒りを通り越して己の無力さすら感じる。
「宮津では復興が始まったと聞きましたが、その前に荒稼ぎとは‥‥」九紋竜桃化(ea8553)も盗賊たちの傍若無人に空恐ろしいものを覚えたようだ。「峰山では死人との戦いが始まったと言うのに、何と言うことでしょう‥‥この盗賊たちは‥‥」
 獣同然と言いかけて、言葉を飲み込んだ桃化。
「村人たちの身に危害が及んでいないのはせめてもの救いですか‥‥」
 マロース・フィリオネル(ec3138)は胸に十字架を描くと、盗賊たちに天誅を下すことを誓う。
 リーマ・アベツ(ec4801)はバイブレーションセンサーを唱える。人間が歩いていると思われる振動を捉えて仲間たちに告げる。
「近くにいるのは目の前の盗賊たちと、村人たちだけのようですね‥‥」
 ルーラス以外は簡単なゲルマン語は理解できる。ルーラスだけは通訳が必要であったのでリーマの魔法探査の結果を告げる。
「村人に我々の到着を伝えてこよう。盗賊から引き離して、あ奴らは生け捕りに」
 天岳はそう言うと、村の中に入って行った。

 天岳は村人と接触すると、ガラシャの依頼でやって来たと伝える。
「おお‥‥そうですか‥‥ガラシャ様は無事に到着されましたか」
 天岳の報告を聞いて嬉しそうに頷く村長。
「集まったのは腕利きの冒険者ばかりだ。少々手荒いことにはなると思うので、村人たちを避難させておいて欲しい」
「分かりました、賊に気付かれぬよう、私たちは隠れておりますので‥‥頼みましたぞ」
 天岳は村長の肩に手を置くと、必ず賊たちを退けると約束し、一つ頷いてその場を後にする。

「さて‥‥ここからは心を鬼にして掛からねばいけませんね」
 盗賊相手でも傍若無人に殺傷することは好まないのか、ルーラスは盗賊たちを見据えながらいかに相手を降伏に追い込むか、それを考えていた。下っ端の盗賊相手にこれだけの面子が揃えばまず負ける戦いにはならないだろう。あとは気力勝負か。
 桃化はルーラスの言葉には答えず、無言で盗賊たちを見やる。とりあえず丹後の盗賊の下っ端を片付けたところで状況が改善するわけでもない。
 村人たちが避難して、騒いでいるのは盗賊だけになった。賊たちは気付くことなく宴会に酔っている。
「では参りましょう」
 ルーラスと桃化は戦闘馬に鞭を入れると、気合いと共に盗賊たち目がけて突撃した。
「な、何だ?」
 突進してくる二人の騎兵を盗賊たちは呆然と見つめていた。まさか突っ込んでくるとは思わず、盗賊たちはルーラスと桃化に蹴散らされた。
「うわ! 何しやがる!」
 天岳、マロース、リーマも進み出る。天岳はマロースとリーマの護衛に当たった。
 マロースはホーリーフィールドを張り巡らせると、ホーリーで盗賊たちを攻撃する。ホーリーが命中した盗賊たちは白い光に包まれるが、中には効果の無い者もいるようだ。苦しむ様子が無い盗賊もいる。
 リーマはグラビティーキャノンをランクを落として連発する。盗賊たちは重力波を受けてひっくり返る。
 ひとしきり冒険者から攻撃を受けた盗賊たちはようやく体勢を整える。
「何なんだてめえらは! いきなり攻撃してきやがって!」
「ほざけ白虎団が、村人たちから欲しいままに略奪の限りを尽くす貴様らを、いつまでも放っておくとでも思うのか」
 天岳の言葉にようやく得心がいった様子の盗賊たち。
「はっはーん、俺たちを退治しに来たって訳か。どこの使いだ? 宮津藩から頼まれたか」
「ふん、丹後を憂える方なら他にもいるわ」
「おとなしく捕まってくれれば、痛い目を見ることなく藩主に引き渡すが」
「けっ! 誰が捕まるかって! 俺たちを誰だと思ってやがる! 丹後最大の盗賊団、白虎団とは俺たちのことよ!」
「言いたいことはそれだけですか、いかに寛大なセーラ神でも、あなたたちの悪行をいつまでも放ってはおかれません。セーラ神に代わって、あなた達には天罰を加えます」
「姉ちゃん言ってくれるね。まあ俺達も神様に刃向かうつもりはねえがね」
 と言って盗賊たちに捕まるつもりは毛頭無い。
 桃化は馬から下りて武器を構える。
「貴方達の盗賊家業も今日で終わりにして頂きますわ。覚悟の程はいいですか」
「よほど自信があるみてえだな‥‥そうか! 分かったぞ、噂に聞く冒険者ってやつか? そうだな?」
「だとしたらどうします。戦いますか」
「冒険者の噂は聞いているぜ。何かと首を突っ込みたがる騒動屋だろうが」
 一口に冒険者と言っても色々だ。駆け出しの頃は小さな依頼を引き受けるくらいだが、桃化クラスになると天下の趨勢に影響を及ぼすような大事件に絡んだり、強力な魔物を相手に死線を潜り抜けてきたつわものたちだ。
「あなたたち、見たところまだ腕も未熟、頭領に使われて村人を脅かし、日々の糧を得ているだけ‥‥まだ間に合います。丹後にはいくら人手があっても足りないところがあります。峰山藩に押し寄せた亡者の大軍にはどれだけの戦力があっても足りない。盗賊家業などさっさと足を洗って、峰山藩に行きなさい。志願すれば受け入れてもらえるでしょう。死人と戦えるならなおのこと」
 桃化は意外な方向から説得を試みる。盗賊に情けなど心にも無いことであったが、痛めつけるなら簡単な相手、切る気にはなれなかった。
「盗賊家業を行うなら、敗北が過酷な罰と言う事も心得ているでしょう。ならば生き続ける為に死人と戦い続けると言う罰を受けなさい」
 ルーラスの言葉に盗賊たちは一瞬気迫が揺らいだようであったが。
「口のうまい連中だな‥‥危うく説得されそうになったぜ。だがこれ以上お喋りは無用だ。こっちは十人以上、そっちは五人。俺たちが本気を出せばどちらが有利か明らかじゃねえか」
「そうだ! ぺらぺらとそんな口車に乗せられるか! 藩主は盗賊を捕まえたら首に縄だぜ!」
「そうだ! やっちまえ! 俺達の本気を見せてやれ!」
「かかれ!」
 盗賊たちは勢いを取り戻して襲い掛かってくる。
 だが今回集まった冒険者達は本当に凄腕である。音に聞こえたつわものたちの強さを盗賊たちは身をもって知ることになる。
 ルーラスは巧みな手綱さばきで馬を操りながら盗賊たちを踏み潰し、槍の横殴りスマッシュで盗賊たちを叩き伏せる。
 桃化はデッドorライブで盗賊たちの攻撃をことごとく跳ね返し、パワーチャージで盗賊たちを地面に叩きつける。
「そう容易くやられる訳には行きませんわ」
 マロースはホーリーフィールドの中で戦況を見つめている。時折近付いてくる盗賊をコアギュレイトで捕縛する。
 天岳はオーラエリベイションで気力を奮い立たせると、マロースやリーマを守るように盗賊たちの攻撃をなぎ払った。
 リーマはグラビティーキャノンで援護射撃。
 盗賊たちは瞬く間に討ち取られていく。
「な、何だ、こいつら本当に強えぞ‥‥! それも滅茶苦茶‥‥」
 数を減らした盗賊たちは慌てて後退する。そこへ遅れて現れたのが盗賊たちの頭。
「お、お頭! 冒険者が攻め込んできましたぜ! 無茶苦茶強い連中が!」
 頭は倒された部下達を見るなりわき目も振らずに逃げした!
「お頭!」
 盗賊たちの悲鳴が響く。
「逃げろ!」
 そうして盗賊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

「ぬ‥‥レミエラか?」
 天岳は生け捕りにした盗賊たちの武器にレミエラが付いているのに目を留めた。聞けばアンデッドスレイヤーのレミエラであるという。
「噂に聞く盗賊団のレミエラか‥‥何ゆえこれほどのレミエラを‥‥」
 天岳は改めて白虎団に不審を抱く。一盗賊団がこれほど高価なレミエラをなぜ? 確かに不自然な話であるが‥‥。
 戦闘は終結した。村人達が戻ってきた後で、マロースは魔法で村に食糧を提供し、村人達の心身の回復に当たる。
 リーマも被害を受けた村の復興を少しばかり手伝った。
 それらが済んだところで、冒険者達は宮津城まで盗賊たちを護送することになる。