丹後の平定、大国主の針の岩城・二
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■ショートシナリオ
担当:安原太一
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:9 G 4 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月29日〜11月03日
リプレイ公開日:2008年11月04日
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●オープニング
京都、冒険者ギルド――。
先日、丹後諸藩からの依頼によって、丹後南東地域を平定した大国主の居城の存在が明らかになった。地元住民が針の岩城と呼ぶその岩山には、内部に広大な迷宮が広がっていたのだ。しかもその迷宮は人の手によって作られたものであったことが冒険者の調査によって明らかとなった。それだけの迷宮が丹後にあったことは今まで知られていなかった。その規模からしても、相当の歳月をかけて作られた迷宮であると思われる。一体誰が、何の目的で作ったのであろうか。
今、その針の岩城の主となった丹後の国津神大国主は、丹後全域に配下の亡霊たちを遣わしては、丹後の民にメッセージを送り続けていた。人々は亡霊を恐れたが、毎日のように姿を現す大国主の使いに感覚が麻痺してきたようである。亡霊たちは国津神の眷属で大国主に仕える八十神の王と名乗り、各地で活動していた。
「‥‥丹後の民よ、我らは大王大国主様に仕える八十神の王である。陛下が丹後の平定を進めていることは知っておろう。今日も多くの者たちが陛下に従い、丹後南東にやってきた。陛下は丹後南東に王道楽土建国の足がかりを築かれた。陛下は民を集め、かつての王国を復活させ、我らをとこしえの国に導いてくださるだろう。丹後の民よ、陛下に忠誠を示せ。我らが陛下のもとへと案内しよう‥‥さあ付いて来い」
こんな調子である。大国主は丹後南東へ民を集めるべく亡霊たちを解き放っていたのだが、今残っている人々は丹後の大名や都の救援を頼りとする者がほとんどで、亡霊の言葉に従う者は余りいなかった。実際これほどの亡霊が出現していれば京都周辺なら退治依頼になるところだが、亡霊軍隊は丹後の民にはお馴染みの存在でもあった。
大国主の亡霊軍隊と言えば丹後では知らぬ者のいない恐るべき軍隊だ。最近丹後西方に現れた死人の大軍と戦えばどちらが勝つか、そんなことを噂する者もいた。
「‥‥だってよお、大国主様は丹後の平定を進めておられるんだ。丹後の民を集めて王国を築くと謳っている方にとっちゃ、西に現れた亡者の大軍は邪魔だろ?」
「けどなあ‥‥大国主様も亡霊を使役する死人使いには変わりねえからなあ」
「だけどあの亡霊たちは南東地域の盗賊や死人を撃退したって言うぞ。大国主様が手綱を握っている限り、大丈夫だろ」
「ま、俺は西の亡者も大国主様の亡霊軍隊もごめんだね。都から援軍がきたって言うし、死人を何とかしてくれるんじゃ‥‥」
民の期待はともかく、大国主は針の岩城に居を構えて動かず、丹後南東地域を完全に掌握している。
針の岩城内部‥‥。
噂の迷宮の存在を聞きつけて、挑むパーティがあった。だが、彼らの前に埴輪の大軍が立ちはだかる。狛犬、埴輪戦士、騎馬埴輪、さらには土偶型の埴輪戦士らがパーティの行く手を遮る。
「埴輪が出たって噂は聞いていたが、何なんだこの大軍は?」
松明に照らされて動き回る無数の埴輪兵士たち。パーティは諦めて別のルートを探るが‥‥。
「こっちも埴輪かよ」
「話では少しだけ埴輪がいたってことだけど、これ半端な数じゃないわよ」
「うお! こっちに襲い掛かってくるぞ!」
‥‥迷宮各所で埴輪が冒険者たちの行く手を遮っていた。一体この巨大な迷宮は何なのか。謎は深まるばかりである。
――そうして、張り出された依頼に新たな冒険者たちが挑むことになる。丹後藩からの依頼である。謎に満ちた迷宮、丹後南東にある大国主の針の岩城を攻略せよというものである。
現状丹後の大名たちには打つ手が無い。針の岩城は天然の要害であり難攻不落。少数精鋭を送り込んで状況を動かしたいところだが、さて‥‥。
●リプレイ本文
「‥‥まあ何だ、行くか?」
バーク・ダンロック(ea7871)は仲間達の顔を振り返った。一応予定は立てたつもりだが、何分この巨城に関する情報は少ない。
「やるしかないでしょう、状況は選べませんが‥‥」
ベアータ・レジーネス(eb1422)はそう言って肩をすくめる。
「ま、大国主の良いように状況を左右されてるのは癪だがな。神皇様に敵対すると言っておきながら民の心を掴みやがった‥‥あの野郎‥‥」
白翼寺涼哉(ea9502)は罰当たりな罵り言葉で大国主をなじった。相当頭にきていたようだが、ふーっと吐息する。
「気持ちは分かるが、相手は神話に名を残す大王‥‥らしいからな、これまでの行動を見ていても一筋縄では行かぬ相手のようだ。戦うと言っても大国主は亡霊軍隊を有するし、まあこの岩城を突破して一気に大国主を討つ‥‥そんな機会でもあれば良いが」
メグレズ・ファウンテン(eb5451)の言葉にまた吐息する白翼寺。
「ああ‥‥お前さんは正鵠を突いたな。これまでの行動を見ている限り、大国主はこちらとまともにやり合うつもりもないらしい」
ベアータは頬をぽりぽりと掻いた。
「丹後の将来を憂える方なら、私達の味方になって頂くことは出来ないものでしょうか」
「おいおい冗談か?」
さすがの白翼寺が突っ込みを入れる。
「いえ‥‥少なくとも対イザナミで協力できるなら、大国主様のお力を借りるのも策の一つではないでしょうか」
まあベアータのようなことを言い出す者は冒険者の中でも稀ではあるが、現に冒険者達はこれまで大国主と対話さえしてきた。
「だがなあ‥‥神皇様が亡霊軍隊を操るあいつを快く迎え入れるわけもないぞ。イザナミと同類と見なされるだろう」
白翼寺の言葉にベアータもうなった。
「まあ、あるとしても話し合いはまた別の機会だな」
バークは肩をすくめる。
「今はやれるだけのことをするまでだ。大国主のことはとりあえず置いておこう」
冒険者達は提灯に灯りを灯すと、迷宮の闇に踏み込んでいく。
白翼寺は帰り道が分かるように、糸を入り口に結び付けておき、それを床に垂らして進む。
バークは念のためオーラボディをかけてから進む。
マッピングの記入例:
『↑』矢印が指す方向は北
『(数字+単位)』入り口からの距離
『×』壁破壊箇所
‥‥というわけで、「↑、百五十間」と白翼寺はスクロールに記入する。
煙草の紫煙は右に左に流れている。
「どこからともなく風が吹きこんどるようだ」
「バイブレーションセンサーを使います」
ベアータはスクロールを広げる。
「数十体の反応あり、この先です。大きさは四尺くらいですかね」
「埴輪かな。突破してみるか?」
「迂回できませんか」
「どうだ?」
「この先は一本道ですが‥‥さっき迂回したところがもしかしたらこの壁の向こうかも」
「では、試しに掘ってみますか」
メグレズはデュランダル+2オールスレイヤーを抜き放つと、しっかと構える。
「牙刃、剽狼!」
バーストアタック+スマッシュで壁を攻撃。
「まあ地道にやるしかないか。白翼寺、どうだ?」
ドワーフのつるはしを取り出すバーク。
「いや、肉体労働は遠慮しとく」
「そうか。ベアータは、言うまでもないな」
肩をすくめるベアータ。
「やれやれ‥‥」
メグレズの攻撃と平行して、バークもつるはしで壁を掘る。
ベアータもクエイクのスクロールで迷宮にダメージを与えようと試みるが。
「おいおい、その魔法大丈夫なのか。上が崩れてきたら俺たち埋まっちまうぞ」
「そうですね‥‥やめときましょうか」
しばらく壁を攻撃して掘っていると、遂に壁に穴が開いた。
「おお、やったぞ。一気にぶっ壊せメグレズ」
「承知」
メグレズは穴の端を次から次へと粉微塵にしていく。ようやく人が通れる穴が開いた。
「よし」
白翼寺はスクロールに×印を付ける。
穴を通り抜けた一行、通路は西に延びている。なだらかな坂になっていて、上に向かって伸びている。
‥‥「←、三百間」と記入して、白翼寺は後ろを振り返る。
「なんちゅうでかさだ、予想はしてたが本当に馬鹿でかいな、全然終わりそうにないぞ」
手元の糸は早くも終わりそうである。
「この先、また動くものがあります」
「今度は‥‥駄目か?」
「そうですね。今度は行くしかなさそうです」
「数はどれくらいだ」
「十数体でしょうか。大きさはさっきと同じくらい」
冒険者達は進んだ。やがて部屋に到着する。
灯りで室内を照らすと、埴輪戦士たちが規則正しく動き回っている。
バークはハンマーを持ち出す。
「うっしゃ、俺が盾になるから、その間に埴輪どもを頼むぜえ!」
バークはハンマーを構えて突進、思い切り埴輪に叩きつける。ガツン! とハンマーが埴輪の腕を砕いた。
メグレズも突進する。
「妙刃、水月!」
普通なら大ダメージになるメグレズの必殺技が埴輪には通じない。
「ならば‥‥妙刃、破軍!」
これも同じである。
埴輪はパンチで反撃してくるがバークとメグレズの守備力にはほとんど無意味だ。
白翼寺はホーリーフィールドを展開。その中からベアータはストームを唱える。吹っ飛ぶ埴輪たち。
「‥‥お前さん、何でバーストアタックを使わないんだ?」
「いや‥‥何だかこんな小さな埴輪を壊すのも可哀想な気がして」
バークの素朴な問いにメグレズは肩をすくめる。
「おいおい時間は限られてるんだぜ。手っ取り早く片付けてくれよな」
バークはハンマーを振り下ろしながらメグレズを促す。
「仕方ありません。埴輪さんたちには可哀想ですが、ここは一気に行かせて貰います」
メグレズはレミエラを発動させると、バーストアタックを連発する。
「飛刃、砕!」
次々と破壊されていく埴輪たち。
最後の一体をバークが打ち砕いた。
「よっしゃあ、先へ行こうぜ」
前進を続ける冒険者達。
「えーっと、→、っと」
白翼寺は記入するが、もはや距離は分からなくなっていた。
エックスレイビジョンのスクロールで壁を透視していたベアータ。
「あれ? 上の方に明かりが見えますよ。人もいるようですが‥‥」
「上ってどのくらいだ」
「近いですよ。まあこれまで進んできた距離に比べればほんの先でしょう」
が、前進する冒険者達の前に、再び埴輪が立ちはだかる。今度は二、三十体はいる。土偶兵士も混じっているようだ。
「くっそー、これでも食らえ!」
バークは飛び込むとオーラアルファーを爆発させる。吹っ飛ぶ埴輪たち、足や手が砕ける。オーラの衝撃波は埴輪にダメージを与えたようだ。
ベアータはストームを放った。部屋中の埴輪が舞い上がって吹っ飛んだ。
メグレズも突撃。バークと共に埴輪を打ち砕いていく。
白翼寺はホーリーフィールドを張ってベアータを援護。
埴輪たちはポコポコとパンチで応戦してくるだけ、バークとメグレズは前に立ってやってくる埴輪たちを順次破壊した。
「ふう‥‥ようやっと終わったか?」
室内には埴輪の残骸が転がっていた。
それから更にマッピングを続けながら進む冒険者達。やがて、前方に光を見出す。よもや頂上か? 淡い期待を抱いて彼らは進んだ。
が、そこは頂上ではなかった。広大な広間である。壁に大きな穴が開いていて、外が見える。
人々がいて、何やら岩を削っていた。
「何やってんだ?」
白翼寺は人々に話し掛ける。
「あんたら何ねえ?」
「俺達は京都から来たもんだ、丹後の藩主達の依頼で大国主の岩城を調べに来たんだが‥‥」
「そいつはまたややこしい話ですなあ」
「あんたらは何やってんだ、ここで」
「人形作ってんだ」
「人形?」
「ああ、大国主様のご命令でなあ、ここの岩で人形を作れとおっしゃってな。こうして洞窟の岩を切り出してるというわけよ」
「お前達は丹後の民、だよな」
バークが問うた。
「ああそうだけど」
「じゃあどこから入ってきたんだ?」
「正面の入り口からだ。あんたらこそどっから入ってきたんだ?」
「まあ、俺達は訳ありだから別の道を通ってきたが」
「え? よく抜けられたなあ」
と、そこへ一人の女が姿を見せた。何と桔水御前だ。白翼寺とメグレズは面識があった。
「何じゃ、誰かと思えば都の冒険者どもがこんなところに来ておるわ。貴様ら何をしに来た」
「丁度良いところに来たな。大国主はまだ先か?」
「この下郎‥‥陛下を呼び捨てにするとは、とっとと立ち去れ」
「お前さんこそ大した入れ込みようだな。大方大国主と組んで丹後の支配を目論んでるんだろうが」
「口を慎め下郎、わしはスセリビメなるぞ。わしと陛下でこの地に安泰をもたらして見せよう。都の力など必要ないわ」
「お前と話してても埒があかねえな‥‥」
民は恐れ入った様子であったが、冒険者は桔水御前――スセリビメを無視して民の方に尋ねてみる。
「ところで‥‥大国主はここから近いのか」
「ここはまだ中腹でさあ。大国主様はもっと上におられます」
と、そこへ次は亡霊たちが現れたではないか。
「民よ、仕事は進んでおろうな」
亡霊たちは広間の様子を見て回って飛んでいる。
「上に行けば行くほど、亡霊たちが多いんだよ。恐や恐や」
民がこっそり教えてくれた。ここから先は亡霊が徘徊しているという。
冒険者達が奥に進もうとすると呼び止められた。
「これより先は大国主様の許可なくして進むことは出来ん」
「別に許可なんて欲しくないがね」
亡霊たちは動かず、交渉は通じないようだ。と言うか冗談など理解できないのだろう。スセリビメも「長髄彦を呼べ!」と怒鳴っている。
「ま、今回はここで退くか‥‥」
そうして冒険者達は出口に向かう。メグレズはベアータからフライングブルームを借りた、ベアータは飛べるので。
冒険者達は岩城から脱出する。二回目の調査で得るものは前回より多かったが、大国主はさらに上だと言う。持ち帰った情報を整理して、彼らは次なる冒険に備えることになる。