江戸近郊〜丘の野戦陣地

■ショートシナリオ


担当:安原太一

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:12月17日〜12月22日

リプレイ公開日:2006年12月20日

●オープニング

 江戸近郊。ひとたび大都会を離れれば、何が待ち受けているか分かったものではない。この世は乱世。諸侯の反乱に乗じて悪事を働く者ども、人々に襲い掛かるモンスター‥‥冒険者ギルドには今日も近隣の村々から依頼が持ち込まれている。

 受付の青年は依頼用紙を取り出すと、冒険者たちの前に広げた。
 野盗に連れ去られた人質を取り戻せ、との文字が躍っている。
 受付の青年は咳払いすると説明を始めた。
「江戸近郊に住まう村長からの依頼です。ここ最近になって村の近隣の丘に野盗勢力がアジトを構えるようになったとのことです。その野盗たちに連れ去られた人質を取り戻して欲しいとのことです。野盗たちは多額の身代金を要求しており、村人たちはこれまで幾度かその要求に応じてきたそうです。ですがそれも限界。とうとう江戸の冒険者ギルドに事態の解決を求めてきた次第です」
 青年は机の上で手を組み合わせる。
「村人の話によれば、野盗たちは足軽風の格好をしているとのことです。疾風のようにやってきて、村の外で遊んでいた子供たちをさらって行ったとのことです‥‥とにかく、肝心要の情報に移りましょう」
 青年は一呼吸置いて説明を始める。
 野盗のアジトは丘の上に築かれた野戦陣地。北側を沼地に囲まれ、東側は岩山によって守られている。南には川が広がっており、唯一の入り口となる西の林道を足軽たちが守っている。仮に西の足軽を突破したとしても、丘に近付くまでには距離があるため、明るいうちは発見されることは間違いない。また、丘の周囲には防御用の柵が張り巡らされていて、内側から足軽たちが外の様子を見張っているため、まず正面から突破するのは不可能である。しかしそこを突破しなければ丘の上の陣地には辿りつけない。何らかの方法でこの柵を突破しなければならない。だがさらに、この柵を突破しても、丘の上に辿り着くまでには柵で仕切られた通路を通り抜けなくてはいけない。足軽との戦闘は避けられないだろう。そして、野戦陣地で待ち構えているのは、四人の侍、落ち武者である。彼らと直接会った村人の話では、源徳軍との戦いで敗れた者たちであるという。失うものがない者たちであるだけに、村人たちは最悪の事態を恐れている‥‥。
 そこで青年は吐息した。
「と、まあ、一刻を争う状況です。足軽たちは少なく見積もっても二十人はいるそうです。まともに攻め込むのは得策ではないでしょう。村人たちは人質の救出を望んでいます。最後に一つ、情報があります、足軽の一人が村人たちに漏らしています。自分たちは四人の侍たちに従っているだけで、この状況から抜け出せるものならいつでも人質を返すと。足軽たち全体がそう考えているのかどうかは分かりませんが‥‥」
 青年は咳払いすると、改めて口を開く。
「落ち武者となった侍はともかく、足軽たちの処分は江戸城が決めること。次の身代金の期限が迫っています。村人たちは一日も早い解決を望んでいます。食料と、戦闘準備を整え次第、急ぎ村に向かって下さい。健闘を祈ります」
 冒険者たちは依頼用紙を頂くと、目的の村へと向かうのであった。

●今回の参加者

 eb7054 白 流雲(32歳・♂・僧侶・シフール・華仙教大国)
 eb8739 レイ・カナン(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb8856 桜乃屋 周(25歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb9543 ラファエル・シンフィニア(22歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9690 ロイド・リーゲス(31歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb9708 十六夜 りく(28歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb9796 天津 甘栗(19歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb9797 宮国 籐小(35歳・♀・志士・パラ・ジャパン)

●サポート参加者

レミリア・レミル(eb9798

●リプレイ本文

●道中から村にて
「雨よ〜降れ〜」
 ぶつぶつと呟くロイド・リーゲス(eb9690)。落雷の魔法を使うには雨雲が必要である。
「本当に降りそうだからなあ、この雲行き」
 曇り空を振り仰ぐラファエル・シンフィニア(eb9543)。
 レイ・カナン(eb8739)と桜乃屋周(eb8856)も上空の雲を振り仰ぎながら、本当に降るかなあ‥‥と囁き合っている。
 シフールの白流雲(eb7054)は面白そうに上空の雲を見つめている。
「雨よ! 降れ!」
 十六夜りく(eb9708)は上空に向かって叫ぶ。
「降れー! 降れー! 雨! 雨!」
 十六夜は真剣に空に向かって連呼する。
 ロイドもその声を受けて空に向かって連呼する。
「私も一つやってみるか‥‥降れー! 降れー! 雨! 雨!」
 雨、雨、降れ降れの掛け声とともに道を行く冒険者たち。

 ‥‥それはさておき、食糧を買い忘れていたことに気付いた、ラファエルとロイド。途中町によって食糧を買い求める。町の食料は越後屋の二割増しだった。

 そして村に入る冒険者たち。十六夜、レイ、桜乃屋、ラファエルらは積極的に村人たちの話を聞く。人質の数と名前を確認する。
 村を去る前に、村長に歩み寄る白とロイド。白が口を開く。
「村長‥‥この事件、よもや裏があるなどと言うことはあるまいな」
「裏って何ですか?」
「いや‥‥詮無いことを聞いた。忘れてくれ」
 目をぱちくりさせる村長。
 ロイドが村長の肩をぽんと叩く。
「白殿は義理人情に厚い故、この事件を許しがたく思っているのですよ」
 ああ成る程、と頷く村長。
 ロイドさーん行きますよー、と仲間たちがロイドを呼ぶ。
 
●岩山を越えてアジトへ
 敵のアジトへ向かう途上で野宿する冒険者たち。
 愛馬の風音から荷物を下ろす桜乃屋。テントを広げる。
 食事が済む頃には日も落ちる。冒険者たちはそれぞれ寝る支度をする。
 桜乃屋のテントに入れてもらうレイ。
 テントの天井を見つめながらレイは捕らわれた子供たちを思う。
「一日も早く子供たちを家族の元に返してあげたいわ。かよわい子供を攫うなんて、最低ね」
「うーん‥‥何と言うか‥‥言葉が出ないな‥‥」
 野盗を許せぬ気持ちは桜乃屋とて同じ。テントの天井を見つめ、目を閉じる。やがて、桜乃屋は静かに眠りに付いた。

 夜明けとともに再び出発する冒険者たち。岩山の麓に到着する。
 十六夜は斥候として他の仲間より先に、敵がいないかどうか確認しながら進む。岩山の道を軽々と登っていく十六夜。最初の岩棚に到着したところで上を確認し、下の仲間たちに合図を送る。
「よし、行こう」
 ラファエルが最初に行く。レイは迷子にならないように付いていく。その後ろから桜乃屋、ロイドが続く。白は飛んでみなの後を付いていく。
 岩棚に到着して眼下に目をやる桜乃屋。
「高いところは好きだけど‥‥これはちょっと高すぎだわね‥‥」

 岩山を乗り越える冒険者たち。
 丘のパノラマが目前に広がる。圧倒的な力感で迫ってくる丘の野戦陣地。丘を取り巻く防護柵、隊列を組んで行き交う足軽たち。所々に狼煙が上がっている。
「堅牢だな‥‥明るいうちは付け入る隙もないぞ」
 呟く桜乃屋。
「さすがに侍、その辺の野盗のアジトとはわけが違うか‥‥」
 同じく呟くのはラファエル。
「夜になれば隙も生まれるでしょう。まさか私たちが岩山を越えて侵入してくるとは思っていないでしょうから」
 十六夜が丘の様子を見つめながら桜乃屋とラファエルの表情を伺う。
 桜乃屋は丘の様子を見て陣地の大体の作りを把握しておく。人質のいそうな場所と、野盗が集まっている場所、見張りの位置などを見て仲間にも伝える。
 ラファエルも頭に陣地の地図を描く。要するに丘の砦を攻めると思えばよいのだ。西洋でも似たような状況はいくらでもある。
 と、ラファエルは岩山の上から身を乗り出すと、両手を口にあてがった。そして――。
「おい野盗ども! 今からそこへ行って、お前たちを残らずぶちのめしてやるからな!」
 その大声は丘に響き渡った。
 しーん‥‥反応なし。陣地の中では、侍、足軽ともに呆気に取られていた。‥‥何だ今のは?
 白とロイドがラファエルを落ち着かせる。
「心理作戦だよ。追い詰められているのはお前たちだと知らせてやるのさ。侍と足軽の間で内部分裂でも起こしてくれればもっけの幸いさ」
 ラファエルはそう言って肩をすくめるのであった。

●救出作戦
 暗くなるのを待って動き出す冒険者たち。
 周囲に注意を配りながら物音を立てないようにして防御用の柵に近付く十六夜。懐から適当に使い慣れた鉄の棒を取り出す。棒を錠前に差し込む十六夜。十六夜が鍵を開けると、冒険者たちは敵陣の中に踏み込む。
 白は防御用の柵を飛んで越える。
 スピード命。人質救出班と野盗退治班の二手に分かれる冒険者たち。

 頭の中の地図を頼りに陣地の中を走っていくラファエル。その後に続くレイとロイド。
 ラファエルの視界に背を向けて立っている足軽が目に入る。ラファエルはレイとロイドを制すると、足軽に声をかけた。
「よお」
 足軽は振り返った。呆気に取られた様子で冒険者たちを見詰めている。
「何見てる? 敵襲だぜおっさん」
 ラファエルは剣を収めたままである。
「わ、我々は‥‥」
 足軽の言葉はしどろもどろ。
「どけよ」
 ラファエルは凄みを聞かせた声で言う。
 足軽は「敵襲! 敵襲!」と叫びながら走り去って行った。
「こっちに引き付けてる間に、十六夜さんと流雲さん、周さんの方がうまくやってくれるだろう」
 仲間たちの身を案じるラファエルは二刀を抜いた。
 と、その時だった。上空の闇がぴかっと光った。ごろごろと鳴り響く雷。そして、さあっと霧雨が降り始めた。
「おい! 来たよ! 来たじゃんか! 魔法じゃないよな! ほんとに来たよ!」
 ラファエルは笑みを浮かべると、雨を受け止めるように両手を広げる。
 ぴかっ! ごろごろ‥‥。
「良かったねロイドさん」
 レイはロイドの腕をぽんと叩く。
「ほんとに来ましたねー、雨が。いやいや驚きです」
 ロイドはいつでも詠唱できるように印を構える。
 と、足軽たちの声が近付いてくる。
 レイとロイドは待ってましたとばかりに魔法の詠唱に入る。ラファエルは魔法を使おうとしたが、フル装備が災いして詠唱が出来ない。そして――。
 十数人の足軽がラファエルらの前に現れる。レイとロイドは印を結んで魔法の力を解き放つ。
 水球を高速で発射するレイの魔法。そして上空の雨雲から稲妻を招来するロイドの魔法。
 水球は足軽の一人を直撃し、稲妻が轟音とともにもう一人を直撃する。
 叫び声を上げて後ずさりする足軽たち。
「命が惜しかったら降参するのね。そうすれば命までとらないわ」
 レイが言うと、一人の足軽が武器を放り出した。他の足軽たちは何やらこそこそと囁き合う。
「戦う気がない奴はとっとと消えろ。侍でも呼んで来い」
 ラファエルがしかめっ面を浮かべてそう言うと、足軽たちの間で意見が分裂。侍に付くか否かで揉め始める。
「いいぞー、やれやれー、もっとやれー」
 ラファエルは手を叩いて足軽たちを挑発する。
 と、足軽の一人が他の足軽を制して武器を置く。
「侍、呼んできます‥‥」
 その足軽は丘を駆け上がって行った。しかし、他の足軽たちは風のようにいなくなった。

 陣中を飛んでいく白。それに続いて、飛行の魔法で柵で仕切られた通路の上を飛んでいく桜乃屋。そして彼ら二人を追って陣地の中を駆け抜けていく十六夜。やがて三人は人質が捕らわれている場所に辿りつく。見張りの足軽がいる。
 十六夜は桜乃屋に刀を渡すと、印を結ぶ。眠りの香が発生して足軽たちを眠らせる。鍵を開けて仕切りの向こうに入る冒険者たち。一緒に眠ってしまった子供たちを揺り起こす。
「お姉ちゃんたち‥‥誰?」
 子供の一人が口を開く。
「僕たちを助けに来たのよ」
 と答える十六夜。
「十六夜、先に子供たちをここから脱出させてくれ」
「うん、分かった」
 桜乃屋の言葉に頷くと、子供たちを先導して脱出する十六夜。
「よしと‥‥わしらは野盗退治班に合流だな」
 再び舞い上がると、退治班がいるであろうところへ向かって飛んでいく白と桜乃屋。

 白と桜乃屋が合流。
 ラファエル、レイ、ロイドは、四人の侍と十人近くの足軽と相対していた。
「なんだって子供を誘拐したりした」
 ラファエルは侍たちに向かって問う。
 と、遠くで落雷の音が鳴り響き、雨脚が強まってくる。
 返答の代わりに足軽たちを怒鳴りつける侍。足軽が襲い掛かってくる。
 足軽の槍を跳ね返すラファエル。剣の柄で足軽の顔面を殴る。後退する足軽。
 素早い動きで足軽の槍をかわす白。かわしつつカウンターの一撃を加える白。自身の槍で足軽を転倒させる。転倒した足軽に向かって、白は槍を突きつける。
「命が惜しくば、去ね!!」
 足軽は立ち上がると逃げ出した。
 桜乃屋は足軽の攻撃を跳ね返しながら刀で反撃。
 足軽たちはほとんど戦う気がないようである。
「私たちに協力して一緒に侍を倒したなら、あなたたちの罪が軽くなるように口添えしてあげるわ」
 レイが足軽たちをたきつけると――。
 足軽たちは武器を放り出して、その場から逃げ出した。
「呆れたな! これがお前たちの答えか!」
 降りしきる雨の中、ラファエルは侍たちに向かって言う。
 侍たちの刀はかたかたと震えていた。平常心なら冒険者相手に引けを取ることもないだろう。
 前に踏み出す冒険者たち。
 後退する侍たち。遂に冒険者たちに向かってくることはなかった。四人の侍たちは逃げ出した。

●帰還
 村に帰還する冒険者たち。子供たちは親のもとへ帰っていく。
 大団円を見つめる冒険者たち。感動的な場面を邪魔しては悪いと思い、静かに村を去るのであった。