二丁目伝記 −こころのおかん−
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:5人
サポート参加人数:5人
冒険期間:11月15日〜11月20日
リプレイ公開日:2005年11月26日
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●オープニング
「いやぁ困りましたよ」
一見和風美人の彼女の名は『虎夢』。
彼女とは言うなれど生物学上の性別はれっきとした男性だ。
もちろん中身も男性だ。そんじょそこらの男性達より男前(紳士的)にも関わらず、なんでジャパンの女物衣装を着ているかというと、実は彼が仲間と共に経営する居酒屋の一風変わった趣向によるもので、断じて変態のたぐいではない。
ジャパン生まれの虎夢さんが経営するジャパン風味の居酒屋、その名も『NICYO―ME』。
ジャパン表記『二丁目』という酒場で、店員の男性達が女装をはじめとして異国の衣装をまとい、男女問わず店に訪れたお客を楽しませつつ紳士的にもてなすというような役割を果たしている。まあ要するに物珍しい酒場と言うことで一部のお客さんに人気なのだ。
と、その一部で人気の酒場『二丁目』。
実は従業員が何者かに付け狙われるという事態が続出していた。店を経営している虎夢さんを始めとした店主的な役割にある人間は合計五人、それぞれ『ママ』という愛称でお客さん達に親しまれているが、皆さん趣味で店を経営しているため多忙も多忙。そんな迷惑野郎につきあってはいられない。
「災難だねぇ。まぁおぢさんも身に覚えがあるけど」
すたたたたたたんっ!
台所からリズミカルな包丁捌きの音が聞こえてくる。まさしく達人というべき料理長は、女装はしていないながら『板長ママ』と呼ばれている。
「それで、その付け狙った男はどうしたんですか?」
虎夢ママに尋ねたのは色白で細身の男性だった。これでもかってくらい腰が細かった。彼の名前は『蘇芳ママ』。女性客にも男性客にも人気の華国出身青年であり『二丁目』主運営に携わる一人である。今は普通の男性服だが、商売服の華国服(やっぱり女物)を着ると虎夢ママと共に店を切り盛りする凄腕ママに変身する!
とこれまたさておいて。
「ああ、ノシました」
けろっと答えた。
「ノシたんですか」
あぁやっぱり、って顔をした。
皆さん、見た目に騙されてはいけない。
彼らは仕事で女装しているだけであって、歴とした男性であることを。
何を間違ったのか彼らに恋する人々の中に、時折男性が混じっている。夜な夜な彼らの後をつけていくため、しびれをきらしたママさん達は『自らの究極奥義』をもって襲い来る悪漢をねじ伏せていた!
「なんで女性じゃなくて我々なんでしょうね」
何が悲しくて男から身を守らねばならないのだろう。
ふかーい溜息。
「世の中には奇特な人たちが居るんですよ」
とお部屋の掃除をしていた二丁目運営の一人である魅夜ママと有樹ママが顔を出した。
「我々は身を守れるとしても、若い子は大変ですね」
「最近また増えてますよね。『ママ、あんたこそ俺の心のおかんだ』とか叫びながら襲いかかってくるそうですから始末に負えませんね」
「うーん、おぢさんが思うに教育したほうがええんちゃう?」
「一人二人ならいいんですが、数が多いですし。どうしましょう。一気に掃除しますか?」
「そうしましょう。雛徒・藻亜威ちゃんはどこですかね」
「はーいここでーす」
にょっと顔を出したのは二丁目のアルバイト、ヒナト・モアイ。
受付というか雑務係の世に言うまともな乙女だ。
嘘つけ、という妥当なつっこみは胸の内に秘めておくと吉である。
「従業員の後を付ける不審な人物のお掃除をギルドにお願いしてきてください」
「らじゃりましたー、従業員兼用心棒でいいですよね? 方法はギルドの人にまかせるってことで〜」
●リプレイ本文
男の瞳は遠くを見ていた。
「心の悪寒がするぜ」
ああなるほど。此処は秘境、秘密の花園。
一歩踏み入れたら二度と出ては来られない魅惑の空間。田原右之助(ea6144)はぼんやりと出入り口で眺めていた。自分は此処で働くのだと、理解しながら精神ショックはきっちりついていっていないらしい。
初日、つきそいのアデリーナにズルズル引きずられながら、皆とともに怪しい空間に足を踏み入れてゆく。しかし頭が受け入れないのは一人ではない。エルネスト・ナルセス(ea6004)はオフホワイトのロングドレスに身を包みながら我が身を見下ろした。
「‥‥家族と老後のため、か‥‥。私は随分所帯じみてきたのだろうか」
蝶に化けてイロハニホヘト。
こういう仕事というのは、ようはやってしまえばいいのである。一度でも骨を埋めれば耐性はつく。嬉しくないが慣れがある。仕事、これは仕事なのだとエステラに女装(女性の服の着方とか)を手伝って貰いながら魂が抜けていた。
李麟(eb3143)がそんな仲間達を眺めて腰に手を当て、はあぁぁ、と溜息を零す。
「なっさけないのぅ。しゃきっとせんか、しゃきっと。うまーく男心をくすぐって犯人を特定するのが仕事じゃろう。気合いじゃ、気合い」
男達は考えた。
なよなよしい自分が、自分より細い男あるいはでっかい男にしなだれかかって甘える図。
結論、かなり見たくない。
「何考えとるんじゃ、白くなったり、青くなったり、面白い顔をして。あっちの二人を見習わんか」
びしっと麟が指をさした方向を右之助とエルネストがつられるままに眺めやる。
すると其処には対照的な人物が二人いた。
一人はおどおどした子兎のような印象を受ける。華国装束の少年イメージをアピールするらしいエレンママこと橘瑛蓮(ea5657)。
過去に二丁目で働いていた彼は姿がびしっと決まっている。雰囲気にとけ込んだ完全なる『ママ』であるが、その衣装でも隠せぬ筋肉質が、男の鍛え上げられた肉体を誇示していた。しかもかつては「なんとかじゃん、なんとかだぜ」という言葉遣いが、二丁目勤務以降「ですます」に変わっているらしい。
それははたして礼儀を鍛え込まれたからなのか、それとも染まったのか他人に知る由はない。
「‥‥ママ、相変わらずおきれいですね。前にお世話になったエ、エレンです。よろしくおねがいしまぁす」
なんだろう、この言葉に表せない不思議な感覚は。
二人目はとっととフリフリの衣装に着替えたログナード・バランスキン(ea3067)である。黒と白の衣装は胸元でリボンに止め、袖は姫袖のように大きく揺れて風に広がる。ログナートは部屋にあった花を一輪つかみとり。
「俺の名前はヴィオーラと名乗ろうか、紫という意味だ。紫‥‥魅惑的な響きだろう?」
悦が、悦が入っている。思いっきりママになる気は満々だ。
私の方が魅惑的よー、などとお店勤務の新人が言おうものなら、いいや俺に叶う者はない、と負けず嫌いな一面が露呈する。
泥沼だ、おもいっきり泥沼だ。
仕事になれるのは案外早いのかも知れないが、その分だと染まる可能性も高いのではないかと思ってしまう。知らぬが花、ここで栄華を極めて貰ってもかまわないらしいが。
エルネストと右之助は眺めていた。暫く眺めていた。そして項垂れた。
「ムキムキマッチョの剽軽ママの座は誰かに譲りたい‥‥俺はミギノジョウ(右之丞)にしようかな。芸名がいるんだったよな」
何の座を狙っているのだろう。
そしてエルネストはといえば。
「私はミシェーラと名乗るかな。ああそうだ、いいものがあった。フレイムエリベイションを使えば少しは気が楽になるかも知れないな。素晴らしいぞ、スクロール万歳だ」
果たして精神が壊れる、あるいは何かを極める前に仕事を完遂できるのか。
変態を我が身を犠牲にとっつかまえる事が出来るのか。
「おぉ、やるきになったか。さて、ヒナトさん。どこへいけばいいのかのぅ?」
「おっけーい。ヴィオーラママ、エレンママ、ミシェーラママ、ミギノジョウママ、ぜんいんきりーつ! それではお店にごあんなーい!」
ついにママの称号を与えられた、若き勇者達は戦場(店)へと繰り出した。
こうして始まった二丁目勤務。
初日から追跡する男を発見してとっちめるくらい多かった。というかネズミ並である。
そして、さらにお客さんは当たりはずれが激しかったりする。
何しろこの二丁目。男性客もいるが、女性客の方が圧倒的に多い。
颯爽と現れた四人の新人ママに、店、熱狂。
あっちへ、こっちへと話し相手に呼ばれる始末。
「きゃー、エレンママだぁ。かーわーいいー、またしばらくお仕事で居るの? 毎晩きちゃおっかなぁ。あ、ネイちゃん呼んでこよう、新入りママがいたとき呼ばないと怒るし」
「ありがとうございます、俺は今回は短期です。ですから今晩はたのしんでってくださいね。お飲物とってきましょうか?」
すると扇をはためかせながらやってくるママがいた。ミギノジョウだ。板長ママとともに本日は調理場のお手伝いに入っているらしい。
「俺の包丁が嵐を呼ぶぜ! というわけで、ご注文の魚のたたきだ」
「ミギノジョウママかぁっこいい〜〜〜っ!」
「ありがとう。それじゃ、俺はまだ料理つくらなきゃいけないんで」
さっさと逃げていく。
表よりも裏方が良いという人間は多い。
手慣れたエレンママを眩しいものでも見るような顔をしながら、ミギノジョウママも売り込みは抜群。自らの肉体の利点を踏まえつつ、「いらっしゃいませーっ!」ごっついママですが「よろしくぅ!」という感じで剽軽に振る舞っている。心ならずも剽軽ママの座を獲得しつつあるようだ。
ムキムキだけど。
やはり人間は慣れなのかも知れない。
そして時に営業時間中であろうとも『愛すべきママさんにはおさわり厳禁』なのにに、酔っぱらって抱きつく輩には。
「お障り厳禁あたーっくっ!」
「心の母、と言うのなら心に秘めてこそ。崇高な想いであれば‥‥何故邪な行動を起こすのでしょう」
「ママから離れなさい!」
「ふ、堪忍袋の切れる前に帰った方が良かったと言う思いを、そのみに刻んでやろう。アイスコフィン!」
「二丁目のママさん達が魅力的なのは良く分かった、けどよぉ、襲ったら駄目だろ? く、どうして理解してくれねぇんだ‥‥返り打ちに遭いてぇーってんなら江戸っ子右之助、遠慮はしねぇぜ!」
何処からともなく、誰かがお仕置きに向かっていた。
さて。
よろよろしているミシェーラママは、麟とともに監視役を務めている受付のヒナトのところへやってきた。麟が疲労の色が濃いミシェーラママことエルネストを心配そうに覗き込む。
「おぬし大丈夫か? まぁ疲れると話しておったしのぅ」
「不審者は複数との事ですが、今日は店に来ているので?」
「どうやら店内で度を超して襲う者と、帰り際につけねらうものといるな。わしはさっき一人発見して鳥爪撃くらわしたがのぅ」
「そこにもきてるよー、虎夢ママの隣の新人ママの黒い人とか」
すでにヴィオーラママが内一名の対処に向かっていた。
まずはお店の従業員から自分へと興味を向けさせるためなのだろう。濡れた瞳を輝かせ、相手の手を取り自分の両手で包み込んで、悲しそうに下唇噛み、可愛く小首傾げていた。高等技を炸裂させている。『‥‥神様助けて!』などと羊の皮被った顔の裏で考えていたかは知らないが。
仲間の見当ぶりに感動(呆気?)させられつつもミシェーラママは、ああ、自分もああするしかないのかなぁと考えながら。
「‥‥分かりました。それと私からのお願いになりますが、二丁目のママの心得をご教授願えますか? 何分、接客業は不得手なもので」
「屈託のない笑顔と、偽りの愛よ」
答えは明確だった。
その後、捨て身の勤務により、変質者達は次々裁かれていった。
しかしながらそ素晴らしい働きの裏には、冒険者達の苦労があった。
何人燃え尽きたのかは神のみぞ知る。