パ○ットマペ‥‥じゃなく

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 24 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:12月06日〜12月12日

リプレイ公開日:2005年12月17日

●オープニング

 空を真紅に染める夕暮れ時。
『ねぇ馬君、僕のご主人様がまた新しい奴をつれてきたんだ』
『ああ、猫君。あのぎょろぎょろした目のやつだろう? 大きいよねぇ』
『そうそう。その前は鷹君で、その前も鷹君で、その前はジャパン産の犬君だったし、その前は』
『ご主人様は動物が好きなんだよ』
『そうらしいんだけどさー、イギリス産の犬君が、俺は愛されてないんだー! とか叫んででていっちゃったんだよ。さっき』
『持病なんだよ』
「なに一人でブツブツしゃべってんのよぉおぉぉぉ!」
 すぱーん。
 革の靴が飛んできた。布製の馬と猫の人形を使って腹話術で一人遊びをしていた、禿頭のおっちゃんは、靴の跡が残る後頭部を押さえながら、投げた相手を潤んだ瞳で見つめやる。乙女じみた眼差しは非常に気持ちが悪い。しかも部屋の隅からしゃがんで眺めているもんだから、弱い者いじめをしているようないたたまれなさを感じてしまう。
「わかった、分かったわよ、私が悪かった。それでいい?」
「張り紙してもう二日だぞ。もしかしたら腹を空かせて動けなくなって」
「わかった、ギルドにいってくるから。絶対見つけてくれるわよ」
 娘は父親を宥めた。
 しかしおっさんは再び布製の馬と猫の人形を手に取ると、部屋の片隅でブツブツと会話を始める。娘さんの額には青筋が浮かび上がった。
「んもう! ボーダーコリー1匹見つからないぐらいで、引き籠もらないでよ!」

 さてこの親子、ちょっと名のしれているペット専門の商人である。
 犬や猫に関しては、大きな敷地を構えて、販売用の犬を育てているほどだ。最近ペットブームが到来しているらしく親子共々忙しかった。商売が上手く行くのはいいことなのだが、代わりに家で飼っている動物たちに殆どかまってやれていない。
 動物も苛々をため込んでいた。ハウスやそこら辺の草も含めて色々と壊滅的な状態になっていたし、中には体調を崩していたものもいた。
 そこで、ちょっと町中へ連れ出した。しかし娘さん、街に買い物があった為、店の近くにロープを結びつけて買い物から帰ったときには‥‥連れ出した者達全員が行方不明に。
 賢明に探して多くは見つかった。
 しかしそのうちの一匹、とくに父親が溺愛しているボーダーコリーのシルク君(オス・三歳)が未だ見つかっていないのだ。

 そんなわけで愛犬探しの仕事がぺったりと張り出された。
 報酬は低金額であるが、早くに見つけてくれれば家で持てなしてくれるという。
 動物好きには持ってこいの仕事かも知れない。

●今回の参加者

 ea0258 ロソギヌス・ジブリーノレ(32歳・♀・レンジャー・人間・エジプト)
 ea0980 リオーレ・アズィーズ(38歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea2593 リン・ティニア(27歳・♂・バード・人間・イスパニア王国)
 ea7222 ティアラ・フォーリスト(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2093 フォーレ・ネーヴ(25歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb3310 藤村 凪(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

セラフィン・ブリュンヒルデ(ea4152)/ ユーウィン・アグライア(ea5603)/ アリーン・アグラム(ea8086

●リプレイ本文

 まってよハニー!
 うふふふふ、つかまえてごらんなさぁい!
 これは正しく金色の畑のなんとやら。逃げる乙女は人ならぬボーダーコリー三歳、オス。
「まつんやぁーっ!」
 藤村凪(eb3310)の叫び声。たった今発見したボーダーコリーは依頼主の話していた通りの特徴をしていた。とは言っても七色のリボンは薄汚れてしまっている。朝に霜もおりる寒いイギリスで凍えているかと思いきや、フォーレ・ネーヴ(eb2093)の予想に反してシルクは華麗なる足取りで爛々と目を光らせていた。風を切りながら疾走している。
「く、なんてすばしっこいんだろ! うぅぅ、ナイフ投げたら一発なのに!」
 もしもし其処のお姉さん。屈強な男ならいざ知らず、犬は天のお国へ行きますよ。
「はうぅぅ、ふあーん、待ってくださーい」
 さて実際に牧羊犬というのは意外と速い。エスナ・ウォルター(eb0752)を前に、標的はかなりやる気満々である。瞳は興奮で光り輝き『遊んでくれるの? 遊んでくれるの?』と完全に遊んでもらっているものと考えているようで、追いかければ逃げ、捉えようとすれば身をかわし、オス犬を嗾ければ対抗心を露わにしていた。お気に入りのオモチャはよりにもよって木製の球体で、持ち出せば投げて投げてと尻尾をフリフリ遊びをねだる。実はかなり厄介である。しかも。
「盗み食いなんかしよったさかい、行く先々で代金しぼりとられるし、もーあとで依頼人さんから立て替えた分は絞りとらなあかんわ!」
 シルク君が意外と元気なその理由。それは盗み食い犬と化していた事だ。実は逞しい。

 時は少々舞い戻る。
 疾走ワンコ捜索隊となった冒険者達は、どうやって探して誘き寄せるか捕まえるかと試行錯誤していた。地道に探したり捕まえることぐらいしかできなそうだという現実を悟ると、大きくわけで三種類に分かたれた。
 その一、地元の皆様に聞き込み型。これを実施した凪とフォーレ、ロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)とリオーレ・アズィーズ(ea0980)の四人は行く先々でシルク君の情報を得ることは出来るのだが、代わりに損失代金を払わされた。中にはご飯を自発的にあげている者もいるようだが、連日元気なだけあって盗み食いを重ねていた。
「ううう、シルク君。これは私に対する愛の試練ですか? 試練なんですね? 分かってますよ、やはり人の友達は犬‥‥まっていてください、シルク君!」
 顔に猫の爪痕残るロソギヌス。愛猫ネコイラズの愛か哀だか分からぬ仕打ちを受けてしまい、気持ちがブルーな所為か、犬の悪行で持ち金が飛んでいくのに、まだ見ぬワンコに対する幻想を抱いたまま聞き込みを続けていた。夢のハートが砕け散るのは遅いか早いか。
「ろ、ロソギヌス様。‥‥とりあえず今は平気ですね」
 リオーレはロソギヌスの抱く夢を砕くのを止めた。
 優しいけれど非情である。
「このままだとご主人様が倒れそうですものねぇ、確実にシルク君はこの界隈を遊んでいるようですし、しっかり捕獲して連れ帰らないといけません」
 シルク君のお食事代も返して貰わないといけません、とは心の中の言葉だった。
 その二、はエスナのように愛犬と探すタイプだ。
 犬は基本的に嗅覚が優れている。シルクの匂いを覚えさせて、一緒に探すことも出来た。エスナ他、ティアラ・フォーリスト(ea7222)も犬がいる。焦る必要もないかとのんびり散歩している者もいたし、不安を募らせて挙動不審な者もいた。犬との関係が良好な者はなかなか協力してもらえていたようだが、急に興味を失ったようにふっと顔を背けたり、強烈な匂いで臭いの痕跡が消えてしまうなどはよくあった。
「シュガー、シルク君はそっちなのー? お気に入りのおやつはもってるのに」
 ふうっと息を吐くティアラ。
 実はお菓子やオモチャ大作戦は他の何人かがためているのだが、ことごとく失敗していた。とくに籠で敵対を捕獲してみせると意気込んでいたが、シルク君の出没地域に籠を設置してから、待てど暮らせどワンコは来ない。しまいには余計なモンスター出現と散々だった。
 そして最後の一つは‥‥リン・ティニア(ea2593)のテレパシー。
『いぬさん、いぬさん、このへんでリボンを巻いたシルク君をしらない?』
『ああ、さっき人間が追い回していたよ』
『ありがとう。おうちの人が心配してるんだぁ』
 と、こんな具合だ。別に隠れているわけではないので、探すのは大変ではない。さほど大変ではないのだが、足が素早すぎて捕まえるのに一苦労していた。
 凪とフォーレとエレナが走っていく。反対側からロソギヌスとリオーレが走ってくるのが分かる。シルクを発見した途端、三人の顔は「挟み撃ちに出来る!」と喜色を浮かべ、リオーレの表情はきりりとひきしまり、ロソギヌスは恋人を見つけたような眼差しで「シルクくぅ〜ん!」と涙が輝いた。さらにその後ろから来たのは、乙女なワンコをつれたティアラの姿が!
 ぎら、とシルク君の顔つきが変わった。三人と一匹に退路はふさがれていたし、正面からは門を守る衛兵のように向かい来るロソギヌスとリオーレが! その時シルク君は犬の反射神経の美しさを見せつけて足の隙間を走り抜けた。
 一瞬の早業と、温かく迎えてくれなかったシルク君に対してひねくれるロソギヌス。
「‥‥嫌われました」
「其れは違うと思いますよロソギヌス様」
 愛猫に爪を立てられ、犬に振り向かれることなく、心は微妙な乙女心。
「ティアラ君〜、その子つかまえていや〜」
「その子捕まえて! 食い逃げ常習犯よ! このままじゃ最終手段にでちゃいそう!」
「ふぁぁ、つかまえてくださぁい」
 どんな手段だ。という暇もなく、ティアラは捕まえようと腕を伸ばした。シルクはシュガーに興味を示したが、か細い腕をすり抜けてしまう。
 するとふっ、と影が掛かった。影はそのまま大きくなり‥‥
「つかまえた!」
 フライングブルームで高いところから急降下してきたリンは、地面にぶつからんばかりの勢いでシルクの胴を掴みゴロゴロと転がってゆく。

「いやあ、ほんとに、ホントに助かりました。これお礼とその分のお金です」
 ご存じの通り食い逃げ犬のシルク君。
 各方面に迷惑をかけまくっていたわけだが、手分けして捜索している最中に被害の金を立て替えた者にそのぶんの金も返していく。
 たかが二日、されど二日だ。
 立て替えしてなかったら一斉に文句が依頼人にきていたわけかもしれなかったりする。
「腹話術を教えていただきたいのですが」
 出発前にリンが慰めていたおじさんも、一人遊びをやめて、リオーレに腹話術を教え込んでいる。果たしてそれはいいのだろうかと視線を逸らして動物を見ようとすれば、友情の愛と哀を求めて犬の群に押し潰されるロソギヌスが目に入る。
「ひーぃいええええええ!」
 平和なのは愛犬と戯れているティアラやエスナ、草むしりに励んだり、普通に楽しんでいたのは凪やフォーレ、リンくらいなのだった。
「シュガー、あそぼー?」
「ラティ‥‥吠えちゃ‥‥だめ」
「ええなぁ、一部大変そうやけど。のんびりしてて」
「私も動物はそんなに嫌いじゃないかな? ちょっとハウスの修繕にいってくる」
「ねえねえ、むこうにね、ロアの仲間がたくさんいたんだ〜」
 そんなこんなで犬捕獲。
 なんとかとっつかまえはしたのだが、依頼人の財布は軽くなり、動物に対する観点が変わった気のする人も混ざっているのだとか。まあ平和な一日であったようだ。