僕のポエマー
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月08日〜08月13日
リプレイ公開日:2004年08月12日
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●オープニング
毎日忙しそうに冒険者達へ仕事を斡旋する受付のおっちゃんは、今日も若い受付の男女に混じって仕事をこなしていた。一般市民から御貴族様、遠方の依頼だって舞い込んで来るというもの。
ふっと手元に影が落りた。見あげた先には屈強な戦士が立っている。体に大きな傷を持った修羅場でも潜り抜けてきたような威圧感を感じずにはいられない。お、こいつも冒険者か、と頼もしいような微笑ましいような顔で「どんな依頼を希望かな?」と声をかけた。
おっちゃんはこうして長年、冒険者達の成長をカウンター越しに見守ってきたのだ。
「よんでくれ」
とだけ言って男は一枚の羊皮紙を差し出した。依頼を受けにきたのではなくて、何か困ったことでもあるのかと、やや真剣な顔つきで羊皮紙を受け取るおっちゃん。ギルドにおいて斡旋のプロとして、事件には早期対処が望ましい。
おっちゃんは文面に目を通す。
『恋人よ、あなたは美しい。あなたは美しく、その目はまるで鳩のよう』
時が止まった。
だらだら頭のてっぺんから嫌な汗が噴出してくる。おっちゃんはどうして良いのか真剣に悩み始めた。どうしよう、こいつは新手の変態か? なんて猛烈に悩みながら文面の続きを読んだ。いや、読むな、とか本能は告げたのだが受付の人間の性だろう。文面の続きを目で追ってしまう。
『愛しい人よ、恋人よ。さあ立って出ておいで。ごらん、雲はさり雨はやんだ。光が僕を取り囲み、君の傍で鳥が歌う。あぁ君の笑顔が僕には眩しい』
ポエムだ。
目一杯ポエムだ。
正真正銘ポエムだった。しかもまだ続く。
『夜ごと、ふしどに恋い慕う人を求めても、求めても、求めても、みつかりません。起きだして街を巡り、通りや広場を巡って、恋い慕う人を見つけ出そう。あぁ僕の胸は小鳩のようにいつか弾けてしまいそう』
すごく嫌な予感がした。
おっちゃんは恐る恐る男を見上げる。仮面を被っていた男の頬が、見上げた途端『ぽっ』と頬の色が変わったのは断じて嘘だと願いたい。人間とは究極の恐怖を味わうと、いざというときは声すら咽喉から出てこないというものだ。おっちゃんは今まさに究極の恐怖を味わっていた。
「ふっふっふ、そういう目がたまらない」
男はひょい、とおっちゃんを担ぎ上げて出て行った。たった十秒で。
『ひぎゃ―――――――――っっっ!』
白昼堂々の嵐のような事態にギルドにいた人間達も皆唖然。おっちゃんは翌日、広場で見つかったが自宅に引きこもってしまった。十日ぐらいは出てこないだろう。
そんなわけで此処最近、無差別に人がさらわれる。共通しているのは被害者は知的かつ無防備な状態で、というところだろうか。どうやら文面を読んだりしていると危険らしい。詩の読み上げは問答無用。
命の危険はないようだが精神が危ないようだ。街でも何件か被害があり、ギルドの古株(おっちゃん)も被害にあったため、早期退治の依頼が出た。季節の変わり目に妙な人達が出てくるなんて間違いだ。世の中変態は年中どこかで生息している。
働きましょう、食う為に。
●リプレイ本文
●リプレイ
世の中平和なのか危険なのか。全くわけがわからん今日この頃。
「最近ポエマーが世を騒がせているが、それとはまた別に流行のポエマーがいるらしい」
なんて事を酒場で口走るのは、今回ポエマー退治を依頼されたアリオス・エルスリード(ea0439)その人だ。人様かっさらって精神ダメージ重症に追い込む手口は見事である‥‥とか褒めてるわけではない。彼は今撒き餌をしている真っ最中。
所変わって此方は広場。
『青空はどこまであるの? いつもいつも考えていた。綺麗な衣装、美味しい食事。何の不満もないはずなのに』
――嫌味かお前。
と言うわけでポエマー生け捕り作戦、囮役その一のセレスティ・アークライト(ea5695)は自らが考えたポエムを声高らかに歌っている。何故か。ポエム歌ってると先方があっさり現れるらしいという情報を入手したからだ。だがしかし。
『時折疑問が頭を掠めた。穏やかな時間、優しい空間。何の不安もない筈なのに』
育ちが良いのか天然なのか。汗水流して日々を働く一般庶民が、羨ましがるような事をポエムにするのでポエマー探す前に視線が痛い。針のムシロだ。さらにその脇で。
『夏草や〜〜兵どもが〜〜夢のあと〜〜』
ジャパン特有の程よい音程が眠りを誘う。
とゆーか、それポエムじゃないって誰か突っ込め。
何を思ったか俳句を延々と披露する囮役その二、笠原直人(ea3938)。冒険者やるより琵琶でも携えた方がマッチするんじゃないかと思わせる美しい声音の――『俳句』。近くのベンチには囮役なのに歌わないエリンティア・フューゲル(ea3868)がいた。
やる気はあるのか。
「‥‥本当に来るのか」
詩人を装う囮役からだいぶ離れた場所に囮監視役の夜枝月奏(ea4319)が心配そうな顔で眺めていた。なんだか通りすがりの方々は「え! 新手の変態ポエマー?」という顔でそそくさを去っていく。囮役に対して‥‥いたたまれない気持ちになるのは無理も無い。
「きたか?」
酒場で噂をばら撒いていたアリオスが戻ってきた。奏が頭を左右に振る。
「今回の相手は・・・・変態か。しかし、これだとこっちが悲しくなってくるから『連続誘拐犯』としておこう。――? 他の監視はどこに」
「あそこ」
奏が指を指す方向に流れるように視線を動かしたアリオスが固まった。
燃えていた。木陰が燃えていた。これでもかって位空気が違った。
囮監視は全部で四人いる。奏の他の後三人。榎本司(ea5420)とガンド・グランザム(ea3664)、ヴァーニィ・ハザード(ea3248)がそう遠くない場所で監視をしていたが、彼らの目の光は異様だった。ち、近寄りがたい。
まず司は鼻息も荒く、食い入るようなギラついた視線で囮を見つめていた。なんだか危ない人と混同されそうな感じでブツブツ呟いている。その手にある赤い筆。
「どうしたんだ彼は」
「ポエマーの詩を添削するらしいです」
司は迷惑ポエマーを捕まえてやろうという意気込みで参加したわけではない。ポエマーを捕らえ、ポエマーの詩を読み、さらには添削をするという崇高なる使命のためだ! と考えている辺り、ポエマーより先にふんじばった方がいいんじゃないかと漠然と考えた者がいたのは秘密だ。断じて秘密だ。
「元気なドワーフの爺さんは?」
「反対側の物陰で愛を語ってやるとハッスルしてました」
自称、愛の伝道師! ジプシーのガンド。その手腕が疼くのか依頼当初から「ここはきっかり本物の愛の精神っちゅうもんを骨の髄まで教えてやらねばの。それこそが愛の伝道師たるわしの役目じゃて」と陽気に笑っていた。
それだけなら良いのだが、踊りで鍛えた身のこなしを用いてポエマーを組み敷き、ホールド状態で愛の伝道タイムじゃ、なんて言うもんだから若い連中が嫌なものを想像したのは無理も無い。危ないポエマー、愛を語るドワーフ爺さん。
立場が違うが‥‥良い勝負だ。
「‥‥。ヴァーニィは?」
「物陰で必死に下手くそなポエム考案中です」
捕まえた暁には「自分が考え出した下手くそなポエムを延々と聞かせてやる」と目を輝かせていた先日ノルマンから移住してきたナイト殿。なんだか熱意が別のものに向かっていた。
――――本当に大丈夫なんだろうか。
アリオスと奏は猛烈な不安に襲われていた。
と、そんなとき。二人が憂鬱な気分で広場の囮を眺めていると、自分達に巨大な影が掛かる。ジャイアントか何かの人影か、とアリオスが見上げた先に――奴がいた。
獣の皮かぶったでっかい男だった。体に負った無数の傷。手に握り締められた羊皮紙。説明にあった犯人特徴は一致していた。思わず固まる奏とアリオス。
――――え? コイツぽえまー? てゆーかなんで横に!
――――ぽえまー? ぽえまー? 普通は囮にひっかかるもんじゃないのか!?
猛烈な勢いで脳裏に困惑が走り抜けていく。噂のポエマーらしき男はアリオスと奏には目もくれず、囮に向かって堂々と歩き出す。囮だったエリンティア、直人、セレスティが男の接近に近づき身構えた。三人の目の前で立ち止まると。
「よんでくれ」
全く同じ手段でポエマーは羊皮紙を差し出した。即攫われるものだと思っていた直人は固まり、セレスティは戸惑いながら話しかけようと勇気を振り絞る。
「よんでくださいですぅ」
なんとそれまで黙っていたエリンティアが自分の羊皮紙を差し出した!
ポエマーとエリンティアは互いに視線で何かを通じ合ったのか、不敵な笑いと共に羊皮紙を交換すると深呼吸一つ。エリンティアがポエマーのポエムを読み上げる。
『恋人よ、あなたは美しい。あなたは美しく、その目はまるで鳩のよう。
愛しい人よ、恋人よ。さあ立って出ておいで。ごらん、雲はさり雨はやんだ。光が僕を取り囲み、君の傍で鳥が歌う。あぁ君の笑顔が僕には眩しい。
夜ごと、ふしどに恋い慕う人を求めても、求めても、求めても、みつかりません。起きだして街を巡り、通りや広場を巡って、恋い慕う人を見つけ出そう。あぁ僕の胸は小鳩のようにいつか弾けてしまいそう』
するとポエマーが。
『猫さん、猫さん、可愛い猫さん、姿を見せて、その瞳を見せて。
きまぐれな、あなたの瞳は夜空にきらめく星の様に美しく、水面にきらめく陽(ひ)の光の如く。曇っていても陰り無く、雨が降っても陰り無く、どんな暗闇であったとしても、あなたの瞳は光り輝く。
その光が僕を誘い優しく包む。
どんなに会いたいと願っても、どんなに探して求めても、僕の思いに答えてくれない。
何時でもあなたのきまぐれな、瞳の様に現れて、僕の心を惑わせる。
今日も今夜も明日からも、あなたを求めて街巡り。
猫の細道、奥の猫道、巡り巡って巡り会う。
愛しいあなたと巡り会う。
ああ僕の胸は早鐘の如く鳴り続ける』
沈黙が降りた。ポエマーが頬をポッと赤らめる。
なんとエリンティアとポエマーは不敵な笑いと共に、がっちり握手した。常人には分からない感性だ。固い固い握手の末に、エリンティアは言葉を交わすことなく颯爽と町の中へ消えてゆく。大きく手を振ってそれを見送る変態ポエマー‥‥
「って、帰るなあぁぁぁっ!」
訳の分からない行動に思わず叫ぶヴァーニィ。仲間の姿はすでに無い。ヴァーニィの言葉ではっと正気に戻る変態ポエマー退治御一行。ポエマーも我に返り、直人とセレスティを担ぎ上げた。
「いかん!」
ガンドはじめヴァーニィ、アリオスと奏が飛び出した。はっと其れに気づいた直人が叫ぶ。
「いけない! 俺は大丈夫だ! セレスティさん」
「はい!」
仲間を制止した二人はポエマーの肩の上でパンを取り出すと、ちまちま千切って地面に捨ててゆく。
ちまちま、ちまちま。
道を教えているつもりらしい。だがしかし、石ころではなくてパンである。しかも其処は広場だ。くるっぽー、くるっぽー、と腹をすかした鳥達が餌を求めて集まってくるのは自然の摂理。捨てる端から消えてゆく。
まさしくヘン×ルとグ×ーテル。全く持って意味が無い。
「まってられません! いきます」
愛馬のノーマルホースに跨ったヴァーニィが、接近してオーラホールドをかける。
「とぉ! 愛のホールドじゃ!」
ガンドが動きの鈍くなったポエマーに飛び掛って動きを封じる。ポエマーから開放される直人とセレスティ。奏が相手のアキレス腱を狙い、ポエマーは地に崩れた。
「わしが、ここはきっかり本物の愛の精神っちゅうもんを骨の髄まで教えてやらねばの」
ふっふっふ、というガンドの声と共に変態を取り囲む七人(一名行方不明)の冒険者。
「のぉぉぉぉぉぉっ!」
ポエマーの悲鳴が無情に響いた。
こうして連続誘拐犯(変態ポエマー)は退治された。
奏の提案でポエマーはギルドのおっさんのところへ連れてゆかれ、散々罵倒された後、気の済んだおっちゃんから謝礼をうけとり、今度はヴァーニィの下手くそなポエム攻撃と、ガンドの愛の囁き、司のポエム添削という痛恨の一撃によって消し炭と化した事を記しておく。