問答無用教育論 ―俺色に染まれ!―

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月17日〜08月22日

リプレイ公開日:2004年08月19日

●オープニング

 ギルドの門を叩いたのは勿論冒険者。
 太陽も真上に上がる頃、受付嬢の所へ二人組みの冒険者が訪れた。片方は藍色の法衣を纏ったクレリック、もう片方は騎士のようだ。二人組みの男の内、クレリックは焦げ茶色の髪を風になびかせながら、優雅な足取りで受付嬢の正面へ近づいていく。思わずぽぉっと見とれる受付嬢。
「依頼を頼みたいのだが」
「な、なんでございましょうか」
 微妙に言葉がおかしいが、そこは男フェロモンの威力と思っていただきたい。
「とりあえず見ててくれ」
 と、言い残したクレリック。柔和な表情を奥に顰め、連れの騎士と対面したかと思うとギンっと真っ向からにらみつけた。
「勝負だ! デルタ!」
「ふっ、望むところだ! レモンド!」
 真っ昼間から決闘もどきを開始した。騎士はばさりとマントを振り払い、クレリックは杖を構える。精悍な顔立ちの両者が睨みあい、辺りは騒然となりながらも緊迫した空気を生み始めていた。
 息苦しくも激しい気迫はさながらヘビとマングース! オークとオーガ!
(注意:オーガの方が強い)
「やめてください! 館内での争いは禁止ですぅ!」
 顔色を真っ青にした受付嬢。クレリックに惚れてる場合ではない。慌ててやめさせようとしたが二人は対峙したまま全く持って聞く耳無し! 耳無しホーイチもびっくりだ。(其れはジャパン人しかわからない)
 レモンドと呼ばれたクレリック。
 左手に杖を構え、右手をふところにいれて抜き出し、天に向かって大きくかざす!
 指の間に燦然と輝く一枚の金貨!
 金貨をぺいん、と近くへ投げた刹那。
「とうっ!」
 ダッシュで金貨を目指して走り出す騎士。

「ばかもんがあああぁぁぁぁあぁぁっっ!」

 ――――めきょっ。

 クレリックの足が騎士デルタの顔面にめり込む。
 ぼーぜんとその光景を眺める受付、役員、冒険者。クレリックのレモンドは騎士の首根っこ掴むと「お騒がせいたしました」と一言謝り、受付嬢の所へ戻っていく。
「というわけでして」
「‥‥ドンナ訳デスカ」
 トキメキもぶっとんだ受付嬢は、片言で問い返す。相棒を殴り(蹴り)倒したクレリックは、ふうっと深い深い、それこそ悩み悩んだような顔をして。
「ご覧の通り、相棒のデルタは騎士としての誇りにかけ、敵を前にしては意気揚々と口上をあげながら怯えて逃げ出し、金品には目がないと言う困った奴でして、ほとほと困り果てているんです」
「――はぁ‥‥」
「いえね、何度か鍛えようとしたんです。私は性根が優しいのでいつも甘やかしてしまって」
 まるで教育ママの悩み事相談だ。
「‥‥あ、甘やかしてるんデスか」
「ご覧になったでしょう。愛の鞭とやらです。しかし冒険者には苦難の旅がつきもの、いつまでも甘やかしたりフォローもしてられません。騎士として誇りを、冒険者としての心構え、戦う者としての能力を身につけさせてやって欲しいんです。私の変わりに」

 つまり『自分の代わりに一人前の冒険者にしてやってくれないか』ということだ。
 キャメロットに来る前にグラウンドスパイダに襲われて困っていた村があると言う。代理で依頼書を持ってきたらしく、ついでに相棒のデルタを連れて行ってやって欲しいと言う。村のグラウンドスパイダ駆除とは別に、デルタが立派になってくれたらその分の教育費も個人的に支払わせてもらう、とクレリックのレモンドは言った。

 かくして依頼は張り出される。
 グラウンドスパイダ推定二体の駆除(騎士一名の教育込み)と。
 冒険者の皆さん。
 いざ『俺色に染めて』やれ。

●今回の参加者

 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3111 ウィリアム・ファオ(22歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea4484 オルトルード・ルンメニゲ(31歳・♀・神聖騎士・人間・フランク王国)
 ea4665 レジーナ・オーウェン(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5307 メイトヒース・グリズウッド(43歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea5648 セシリア・カーライル(21歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

 荷馬車はゆれるよ、どこまでも。(牛にあらず)
 レモンドが用意した馬車の中。一行は只今、デルタ君を縛り蜘蛛退治に向かっている真っ最中である。縄で縛って逃げ出せないようにはしてあるのだが、これがまたやかましい。
「ぎいやあぁぁぁぁ! レモンドおぉぉ! ひえぇぇぇん」
 いざグランドスパイダ退治だというのに根性決めないデルタ君。そーれポチいってこーい、とばかりに蜘蛛退治を引き受けた冒険者六名に、根性無し騎士デルタを預けたクレリックのレモンドは、そりゃぁもう眩しくも涼しい顔をしていたという。
「や、やかましい」
 耳を押さえるオルトルード・ルンメニゲ(ea4484)だが、彼女は今回、デルタ君を口説き落とさねばならんという崇高な使命があった。とはいえ、無能弱虫かつ面倒見のクレリックにべったりという事を考えると無事口説き落とせるか些か不安も不安。
「――我慢ならん」
 セシリア・カーライル(ea5648)が立ち上がると、その辺にあった布で猿轡をかませて転がした。しなっと覇気が無くなるデルタ君。意識が何処か遠くへ飛び去っていく。ウィリアム・ファオ(ea3111)が溜め息をはいた。
「騎士らしくない男アルな。まあ、これも報酬のためだから頑張るネ」
 メイトヒース・グリズウッド(ea5307)が苦笑いする。
「いっそ毒草から作った惚れ薬なんてどうでしょうか。わたくし特製の」
 と、メイトヒースがずいっと差し出した。色が見るからに怪しい。
 一瞬、数人がたじろいだ。
 今の時代、どちらかというと魔法に頼る技術が多い。その為、薬の類はエチゴヤなどでも売っているが解毒剤などにも見るように非常に高値で取引されている。ただの薬が、である。それを考慮してもそう簡単に惚れ薬を作り出せるものではなく、俗に言う催淫性の類は専門家ですら生成が難しい。故に闇市場に出回っているのは大抵偽物だ。
「‥‥それ。飲んだ瞬間、ぽっくりとかいかないよな?」
 ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)が恐る恐る訊ねる。なまじ泥棒なんて生業をしているため、裏事情には詳しいほうだ。
「失礼な。私の薬に間違いがあるとでも思っているのですか」
「いや、だって。惚れ薬なんて‥‥なぁ」
 ぽりぽり頭をかきながら他の人間に助けを求める。ウィリアムが、助けを求めるジョーイにかわってメイトヒースに問うた。
「あなた、毒草知識はいくつアルか?」
「基本なら習得済みです」
 沈黙。
「――おかしくださいませ」
 レジーナ・オーウェン(ea4665)がメイトヒースの薬を奪い取ると、どっから用意したのか鼠一匹を取り出して『特製惚れ薬』なる物を、鼠の口へ流し込む。
「あぁ! なんてもったいないことを!」
 完全無視。
 しばらくすると鼠は千鳥足で床を這い回り。
 げっ、げっ、げっ。
 奇妙な笑い声を発しながら泡を吹いて倒れた。
 ――――さらに沈黙。
「‥‥オルトルード、普通にナンパしといてやってくれ。毒殺したら報酬がオジャンだ」
「‥‥ああ、そうしよう」
「‥‥わたくしもそうした方が良いかと。オルトルードさんがデルタ様を色仕掛けで腑抜けにして下さるようですから、そこに色々吹き込みましょう」
「‥‥私もナンパを仕向けるアルネ」
 極めて冷静を装う四人。ジョーイ、オルトルード、レジーナ、ウィリアムの視線は泡吹いて倒れた鼠に注がれている。何事も知識に加えて腕がないと成り立たないもんである。
 危うしデルタ! 蜘蛛退治以前に命の危機だ!
「そ、そんな。研究は確かに、材料はあってたはず」
「もーちょっと、腕磨いた方がいいらしいな」
 がっくり項垂れるメイトヒース。肩を叩くセシリアは転がされたままのデルタを一瞥し。
「どうにもこういう不徳心者は好かんが。私も教師の端くれとして、追加報酬をがっぽり頂くため‥‥コホン。いや、ジ・アースの明日を担う若者の為に力を尽くそう」
 というわけで。
 デルタ君が意識の無いすきに、ひそひそと蜘蛛退治に続き『オルトルード嬢に惚れさせてしまえ計画』は練りに練られていったという。

 村に着いた六人プラス一名の根性無し。
 調査によると、どうやらグランドスパイダは二体だけらしい。目ぼしい穴は三つあった。卵や子蜘蛛の可能性も否定できなかった為、手順としてはデルタに調査をさせ、発見後は火で炙り出し、皆で叩いた後(デルタ君除く)にトドメ、というプランが組まれた。同時に現れた場合を考慮し、遠方に身を潜めたウィリアムがアイスコフィンで援護する仕組みだ。デルタ君は邪魔者なので戦闘中はウィリアムの傍にいることになっている。
 ちなみにオルトルードとデルタ君の『なんちゃって恋愛ゴッコ』といえば。
「オルトルードさぁ〜ん、まってくださいよぅ」
 道中に骨抜きにされていた。さすがナンパのプロである。ともあれさっさと蜘蛛退治開始である。皆、メイトヒースとオルトルードの用意したロープで互いを繋ぎ、穴の前に来る。なんとレジーナが一番体力あったため「不本意ながら」とロープを引っ張る役目を負った。女性に引っ張らせるとは、男たちの面目丸つぶれである。
 さて、調査を命じられたデルタ君は入らない。すかさずジョーイが。
「この種類の蜘蛛はな、巣穴に金品を溜め込む習性があるんだぜ」
 嘘八百である。目を輝かせたデルタ君は巣穴の前までくるが、何故か身を伏せて暗い縦穴を覗き込む。ぼくちん、できましぇん、みたいな眼差しで六人の方を向く。ついに。
「こんの根性なしがああああ!」
 ぶっち切れたセシリアは背中を蹴り飛ばして巣穴に落とした。女性は強し。すると。
『ぎゃああああああ! くわれるぅぅぅぅぅ!』
「――ビンゴ、だな。俺は穴にトラウマがあるんでな、いやはや」
「引き上げますよ。皆さん。一応はコレも依頼ですからね」
 レジーナのかけ声にあわせて、地中に落ちたデルタ君を引き上げる。顔面真っ白のデルタ君は恨めしそうな顔を向けたのだが、さしむけたジョーイは。
「カネは大切だ。とはいえ、カネなんて興味ねぇぜって態度の方がクールなんだ」
 蜘蛛の巣に金目のものがあるぜ、と送り込んだ人間の言葉ではない。涼しげな顔のジョーイだが、そうもゆっくりしていられない。点火された油で穴の中は熱され、グランドスパイダが這い出してきた。とっとこウィリアムの方へ逃げるデルタ君。
「口上もあげずに逃げてきたアルか」
 一方メイトヒースとセシリアが手分けしてジョーイ、オルト、レジーナの武器にバーニングソードをかけ、ファイヤーボムで支援する。レジーナがなんとかオフシフトで牙と足を回避し、ジョーイが連続攻撃を狙う。途中、なかなか危険な綱渡り部分もあったが、蜘蛛は確実に弱っていった。そろそろと、レジーナが後方に向かって叫ぶ。
「デルタ様には武器で蜘蛛の足を薙ぎ払うぐらいの仕事はして頂きたいのですが」
 しかし動かない。そこでレジーナが何かを閃き、傍らのオルトルードに耳打ちした。なにやら頷きあう二人。そこでオルトルードはナンパの乙女モードで一芝居打った。
「お願いデルタ! 真の貴方になって! 襤褸雑巾みたいなボコボコの死にかけ大蜘蛛くらい一人で倒せるでしょう?! 私の為に剣を振るって! 始終他人の顔色を伺って大口叩きながら敵前逃亡する惨めな貴方も愛してるけど!」
 応援内容はともかく、豚もおだてりゃ木に登る。猛然と走ってきた。
「オルトルードさんのためえええぇぇぇ!」
 ――ぷすっ。
 こうして事切れ寸前だった蜘蛛は、愛する根性無し騎士のなまっちょろい剣で幕を閉じた。いやはや愛の力とは面白‥‥頼もしいもんである。
 こうして残りの一体も無事駆除できたことを記しておく。巣穴はデストロイを打ち込み、皆で必死に埋めていた。倒すより埋める方が大変な依頼であった。


 後日、ギルドにて。
「いやはやお疲れ様でした、それでは」
 さっそくレモンドは懐に手を入れて抜き出し、天に向かって大きくかざす!
 その手に輝く黄金の金貨。ぺいん、と床に投げた。

 ちゃり――――ん。

 何も起こらない。なんと何も起こらない!
「ふっ、どうだろうか、この教育成果!」
 セシリアがずぃと胸を張って力説する。帰りの道中も金貨ばら撒いてはデルタ君をシバキ倒していただけはある。さすがスパルタ教師。生業は伊達じゃない!
 レモンドは無言で間合いを取ると杖を片手に構えてびしっと突き出す。
「勝負だ! デルタ!」
「ふっ、望むところだ! レモンド!」
 真っ昼間から決闘もどきを開始した。騎士はばさりとマントを振り払い、クレリックは杖を構える。――って、なんだか以前にも見た光景だ。冒険者達はハラハラしている。
「ハァァ!」
 走り出すレモンドに。
「とぉうっ!」
 なんと根性無し騎士デルタ君、剣を構えて走り出した!
 鋼のぶつかる音がする。レモンドの杖の打撃を、デルタ君はきっちし剣で捕らえていた。両者ひゅんっと後方に飛び退いて間合いをとる。デルタ君はくるんと後ろを見ると。
「オルトルードさぁーん。みてくれましたー?」
「莫迦! 戦闘中に敵に背を向けてはいけません!」
 デルタの桃色声に向かってレジーナが叱咤する。彼女の危惧通り‥‥

 ――――めきょしっ。

 デルタ君は体力においては極力劣るはずのクレリックに殴り倒されたのであった。
「あぁぁ、わ、私の追加報酬が」
 セシリアが空気が抜けたように、ふらぁん倒れる。
 夢のがっぽり作戦が、などとうわ言を呟いていた。メイトヒースが溜め息を吐きながらセシリアの看護にあたる。そこへ。
「素晴らしい! あの莫迦が私に向かってきたことなんて無かったんです!」
「だろうな。道中、あんたの苦労が身にしみて分かったよ」
 ジョーイの手を掴んでぶんぶん振り回しながら号泣している。どうやら金貨拾わなかった所と逃げずに立ち向かった時点で合格だったらしい。涙をふきふき今までの苦労を語りだす。レモンドは懐から財布を取り出した。
「ほんの気持ちですが」
 と言いながら、なんと金貨一枚を一人一人に配りだす。依頼より多いってどうゆう事だろうとか思った人間もいたが、とりあえずは追加報酬ゲットである。実は金づる? もっと教育できていたら追加報酬も高かった? なんて邪念を抱いてはいけない。
 かくしてセシリアは復活。蜘蛛退治と俺色に染めてやろう計画は幕を閉じた。
「情けない奴は好かん」
 オルトルードがつっぷしたままのデルタ君の頭を足で突く。
「立派な騎士になって迎えに来い」
「‥‥ハィ」
 この後、レモンドはデルタ君に惚気と我が儘などに付き合わされることになる。
 はてさて、偽りの恋の行方は何処へ行く?