私と一緒に遊ばない?

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月24日〜08月29日

リプレイ公開日:2004年08月27日

●オープニング

 さて冒険者と言うものは基本的に『金が無い』。
 というのも酒場で大量出荷されている『気の抜けたエール』等をあげてもよくわかるように、もしもあれが1Cでも売り出されていたのならば莫大な富になってるんじゃないかってくらい需要が高い。なんてったって美人のネェちゃんが「金はいらねぇ」(語弊アリ)ときたもんだ。
 冒険者達よ、まさか気の抜けたエールがこの世の美味、なんぞとはぬかすまい。
 かといって金額つけたところで誰も飲むわけも無く、気の抜けたエールを商品化したら酒場の経済的に良いんじゃないか、とか言う商人魂じみた議論はさておいて。
 ギルドのおっちゃんに「いーい稼ぎ口があるんだが」と紹介状を貰った先は、なんと酒場であった。冒険者達は「何故酒場?」とか思った冒険者達は、水商売でもやっていそうなお姉さまを発見した。俗に言うとダイナマイトボディだ。
「あのぉー」
「ん?」
「儲け話があるって紹介されたんですが、あなたは仲介者ですか?」
「ああ、仲介だけど。依頼人と思ってくれて良いわよ。私はプシュー」
 傍で彼女に酒を奢っていたらしいダンディおじさまを追い払い、冒険者達はプシュ―と名乗る女性と儲け話なるものの詳細を伺った。
「とある御家の方がね、我が子の成人祝いに上等の酒を遠方から取り寄せたそうなのだけど。馬車からの連絡が無いの。山を越えた辺りから消息不明でね。私達の仕事は馬車の御者達の安否の確認と、可能な限り馬車が運んでいた酒を取り戻して持ってくることよ」
「酒優先なんですか」
「お偉い方々なんてのはそういうものよ。あとお酒の試飲させてくれるらしいわ」
 プシューがまた後日ね、と言って去っていく。ふんふん、なるほど。護衛、そこそこの収入、酒の試飲もできるとなれば確かに悪い話ではない。ホクホク顔の冒険者達に、酒場のバーテンダーが近づいた。
「君達、彼女と仕事するの?」
「ええそうですけど」
「そっか、気の毒なことにならないよう注意しときなよ。彼女みさかい無いから」
 バーテンダーの言葉に固まる冒険者一同。
「どういう意味でしょうか」
「襲われるよって事さ。名はプシュケ・エレネシア。前は旦那さんもいたんだけどね、事故にあったとかで。今じゃ男も女も食い物にしてるそうだから。あとこれは大きな声で言えないんだけどね」
 そう言いながらバーテンダーは冒険者の耳に囁いた。
「彼女に狙われた子、大体一週間以内に衰弱して死んでるらしいよ」

●今回の参加者

 ea0110 フローラ・エリクセン(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3497 レーリ・レインフィールド(25歳・♀・ファイター・エルフ・イギリス王国)
 ea3911 オーム・ローカーハ(39歳・♂・ファイター・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea5555 ハギオ・ヤン(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5800 ルーティクス・レイン(19歳・♂・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 ea6120 イリア・イガルーク(17歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「あの、お酒を運ぶ為に馬車を貸して貰いたいんですけど。それと、もしよろしければ同行して頂けませんか?」
 何事も言ってみるものだ。フローラ・エリクセン(ea0110)の願いに従い、十人乗りの荷馬車が用意された。また仲介人のプシュケは同行願いに頷いてきた。
「お酒はともかく御者さんたち大丈夫かな。僕は出来るなら従者含めて皆で帰りたいな、見殺しとかは絶対嫌。傷の回復とかは出来ないけど、運ぶのと薬草探すのは出来るし」
 荒れた山道を走る馬車。ゆれる空の荷台の中で、行方不明の御者と従者の身を案じるイリア・イガルーク(ea6120)。イリアの言葉に仲介人兼依頼人の女は軽く笑う。
「優しいのね。にしてもモンスターいたら、どうしようかしら」
「大丈夫。今回の旅の間は、俺があなたを守りますよ」
 と、一応敬語に礼儀。名目上のボディーガードを買って出たジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)が黒い噂がつきまとうプシュケを監視していた。例のバーテンダーを始めとして出発前にプシュケについて調べた者がいたが、決定的な証拠は出なかったという。噂が噂を呼び、という事も考えられるが、警戒するに越したことは無い。
 茶化しつつも仕事の会話を進める者達もいれば、
「異国の下着だぁ? どれ、見せてみろ」
「また!? ズボンひっぱんないで、ちょ、やめてったら」
 とまあ逆に緊張感が無い。依頼を受けるのが初めてらしいハギオ・ヤン(ea5555)とルーティクス・レイン(ea5800)は普段から酒場でたむろしてるだけあって仲が良―‥
「やめ‥‥止めろって言ってんのがわかんねえのか、ああん?! 神に変わってお仕置きだこらぁ!」
「ギャア! 俺の髪がぁ―‥あんま暴れんなッ! 少しは俺の毛根に気を使えッ!」
 ‥‥いいんだか、悪いんだか。その辺は記録係には分からない。
「楽しそうだな。ゲルマン語はしらねぇから会話の内容が分からんが」
「簡単なゲルマン語でよろしければ翻訳しますよ」
 オーム・ローカーハ(ea3911)の言葉にフローラが微笑む。楽しげな荷台とは対照的に、御者台にいたレーリ・レインフィールド(ea3497)が一足先に愛馬で道を進んでいたクウェル・グッドウェザー(ea0447)を見つけ御者に馬車を止めるよう指示した。ひょいと飛び降りる。道端にあった車輪。
「ありましたよ、馬車」
 クウェルの言葉に促され、レーリが下を眺めやる。壊れた馬車。緩やかな斜面で、湿りがひどく枯葉や苔で滑りやすい。大方荒れた山道で車輪が外れ、そのまま転落したのだろう。クウェルも馬をおり、周辺を警戒しつつレーリと先行して降りてゆく。皆も続いた。
「フローラはか弱いんだから無理しねえでな」
「あ、はい。お気遣い、なく」
 オームがフローラをエスコート。本日の男性陣、なかなかに紳士な顔ぶれだ。フローラがブレスセンサーを行ったところ、生き物の息遣いが二体。
 横倒しの馬車の陰に横たわる人の足。レーリ達は祈るような気持ちで覗き込む。
「まだ、息があります」
 レーリがやせ細った御者と従者を抱き起こす。この森深い中、モンスターや猛獣に遭遇しなかったのは奇跡的といえた。――傷がひどい。
「しっかりして下さい!」
 クウェルがリカバーや応急処置などを施す。遅れて着いた内、ルーティクスもまたリカバーや応急処置を行った。イリアがすぐ傍に小さな川を見つける。清水のようだ。
「僕、水汲んでくる」
「リカバー使える奴がいるのか。さて、それじゃあ俺達は酒の回収といくか」
 近くにごろごろ転がる酒樽五つ。ハギオ達、手の空いた者は酒の回収に当たった。

――その夜。
「埃塗れになってしまいましたし、よかったら一緒に水浴びでもしませんか?」
 百合園の扉を叩く乙女、ことフローラ・エリクセン。ツワモノだ。
 月も見事な真夜中、野宿をやむなくされた一行。食事も終えた頃、フローラはプシュケをはじめ女性達を水浴びに誘った。イリアも賛成とばかりに手を上げたが、レーリに至っては「結構です」と一言。かくして。
「イリアちゃんもフローラちゃんも、お肌す・べ、す・べ」
「ぼ、僕そ、そんなことないもん、わ! 冷たい!」
「プシュケさん、胸のところ‥‥薔薇の刺青ですか?」
「やあねぇ、何見てるのよ〜〜」
 男性陣にはつらい声が響く。
「いいよなぁー」
「見たら刺しますよ」
 オームの呟きに『一応』監視役のレーリがダガー片手に釘を刺す。男性の皆さんは一列になって背を向けさせられていた。美味しいと言えば美味しい光景だ。ジョーイもオームも唸り気味。ハギオは顔が赤く、ルーティクスは別として、唯一クウェルは涼しい顔。
「ハギオにいちゃん顔赤いよ〜?」
「なッ何だよ、うるさいな」
「クウェル、おぬしよく平気だな」
「僕には想い人がいます。その想いにかけて、動揺するわけにはいきません」
 言っていることは一途で立派。
 はしゃぐ声は聞こえるが川辺の女性達から大分離れている。ジョーイがひそひそと話し始めた。
「そっちの気有る無しはともかく、襲われるってほどではなさそうだな。特に妙な行動してるわけでもないし」
「あのバーテンダー、本当に唯単に噂だけだったんでしょうか」
 クウェルが首をかしげる。
「あんたサキュバスですか、て聞く前に、考えてみたらサキュバスが普通に生活して貴族様と繋がりがあるってのも変な話だしな。でも人が死んでるんだろ?」
「どうだろな。死んでるらしい、とか家に連れてかれて再起不能とかは聞いたが」
 溜め息を吐きつつ水浴びの時間は何事もなく過ぎた。
 ちなみに彼らは翌日、その意味を別の形でうんと思い知ることになる。

「実は依頼人、おじい様なのよ。酒は弟のデルタのお祝い為に取り寄せたの。来週当たりには実家に帰るはずだけど‥‥あの莫迦は幼馴染振り回してそうで帰ってくるのか」
 帰り。貴族の家に向かう途中の雑談に、ジョーイが固まった。
「プシュケさん。あなたの弟って騎士だけどへっぴり腰で、金に目が無くて口が達者な割りに度胸が無くてお目付け役にレモンドっていうクレリックがいたりしないか?」
「そうそう、会った事あるの?」
 ビンゴである。この前の駄目騎士は此処の家の奴か、といつぞやの蜘蛛退治兼駄目騎士教育依頼を思い出して哀愁に浸るジョーイ。アイツは俺を師と仰ぐ、と、なにやら美化されたデルタ教育時の記憶が脳裏をよぎる。その姿は渋くてカッコいい。
 屋敷から本来の依頼人が出てくる。が、今度はオームが白い顔で固まった。
「ハギオ、ジョーィ‥‥貞操がヤバイ、逃げるぞ」
「は?」
「ん? どうした? なんていったんだ? ルーはどこだ」
 言葉が分からず慌てるハギオ。ジョーイの目が点になる。意味が分からない。
 脂汗をだらだら流しながら、オームは後退した。
「経験から言って、ルーティクスとクウェルは対象外のはずだ、俺らがヤバイ」
「経験って一体」
 ジョーイが問い詰めようとしたところ。プシュケの祖父はオーム達を見るや否や、凛々しい風体は見る影も泣く、ツーステップの『乙女走り』で向かって来たではないか!
「ほっほっほ。懐かしい顔とめんこい顔がおるわぃ、そーれこっちゃこーいっ!」
「ぎゃああああっっ!」
 猛ダッシュでオームが逃げ出した。気味悪さにジョーイとハギオが続く。
 素敵な肩書きとカマ疑惑で世間を騒がせ、夫人を怒らせ、ダンディな男はモノにする。自称『うら若き乙女』を恥ずかしげもなく公言する、おん年六十五歳男性。その名も魅惑のヴァーナさん(仮名)ことヴァルナルド・エレネシア!
 ちなみにオームは先日、彼主催のパーティで追い掛け回されたばかりであった。
 人間関係の落とし穴。世の中は広くて狭い。
「ハゲオにいちゃーん。姉ちゃん達には報告しとくね」
「俺はハゲオじゃねーっ!」
 逃げながらきっちり反論。
「プシュケさん、あなたの祖父は一体」
 引きつり顔でクウェルが被害にあってる男三人を眺めている。オームの言葉どおり、ルーティクスとクウェルは無事らしい。
「うーん、みたまんま」
「いいんですか、放っておいて」
「祖母が止めてくれるわ。きっと」
 きっとでいいのか、とクウェルは思ったが、自分の貞操は大丈夫らしいのでほっと安堵の溜め息を吐いた。恋人もいる身、女どころか爺に襲われてはメンツが丸つぶれだ。その時ふと、一羽の鳥がプシュケの肩に止まった。首から札を下げている。
「なんだろ、この鳥。首に何か下げて――黒薔薇の絵? ねぇ‥‥」
 ルーティクスの言葉が止まった。プシュケは呆然とした顔で涙を流していた。ぽたぽたと流れる涙に驚いて、フローラとイリアが近づく。
「だ、大丈夫ですか?」
「具合悪いの?」
 目にゴミが入った、などと適当に言ってプシュケは涙をぬぐうと、やや腫れた目で弧を描き、元気よく腕を振り上げると傍の五人に向かって豪快に腕を振り上げる。
「さて、飲むわよーっ!」
「あ、オレはお酒飲まないよ。お酒弱いから」
 ルーティクスがぽふっと頭に乗る。
「ミルクでも用意させるから。みんなで騒ぎましょ」
「仕方ありませんね。一応は毒味も依頼ですから、少しだけなら付き合いましょう」
 レーリが溜め息を吐きながら呟く。

 かくして行方不明の御者は生還し、酒も無事入手。
 毒味という名目で、冒険者達は散々飲んで食べてと騒いだ。ルーティクスとクウェルはエレネシア夫人とプシュケとともにのんびりミニパーティを楽しんだが、酔ったイリアがフローラやレーリに抱きつきまくるというハプニングも発生。
 ちなみにヴァーナさんに散々追い掛け回されたジョーイ、ハギオ、オームの三人はしばらくして夫人に救出された。貞操は守れたようだが、トラウマができそうだ。
 哀れ、凛々しい男達。
 美しい薔薇には棘があるが、この場合『美人にはカマ爺と駄目弟』がつくらしい。
 勿論土産は酒だった。