闇蟠る迷宮‥‥かもしれない?

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月01日〜09月06日

リプレイ公開日:2004年09月02日

●オープニング

「村長、どうするんですか」
「いや、どうするもこうするも」
「迷ってる暇ないんですよ!?」
「んー。じゃあ冒険者ギルドに頼もう」
 緊張感の無い会話である。とある村の村人と村長は、のーんびりそんなことを言った。

某日、冒険者ギルド。
「おっちゃーん、新しい依頼書きたぞー?」
 と冒険者ギルドに最近勤め始めた受付係が、古株のおっちゃんに新しい依頼書をみせた。依頼書によれば、キャメロットから一日ほど掛かる村で失踪者が出たと言う。近くに曰くつきの洞窟があり、村の若者が出来心で洞窟へ行って以来、一晩たっても帰ってこないので、心配になった村人が、遭難者救助にと冒険者を頼みに来たそうだ。洞窟は複雑に入り組んでおり、入り口も四つあるとの事で、村人は恐れて入らないらしい。
「んー? あれ?」
「おっちゃん、どうしたんですか?」
 依頼書の住所を見ていたおっちゃんが、まじまじと詳細を読みかえす。
「いやー、ここの洞窟って確か、かなり前に山賊あたりがねぐらにしてた、とかなんとか聞いたことがあるような」
「えぇ! それ危ないじゃないですか!」
「いや、それがその山賊、ズゥンビになったっていう報告が」
 顔色が青くなる受付ボーイ。
「誰も近づかなくなった、って風の噂にはきいたんだがなぁ」
「曰くつきってそのことですか?」
「どうだか。きなくせぇが、ま、救助は早急にってとこだな」
 さっさか張り出して来い。と見習い受付君に依頼書を渡したのだった。

●今回の参加者

 ea0640 グラディ・アトール(28歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea0643 一文字 羅猛(29歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea0655 シェリス・ファルナーヤ(20歳・♀・ジプシー・エルフ・イスパニア王国)
 ea2686 シエル・ジェスハ(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4665 レジーナ・オーウェン(29歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5555 ハギオ・ヤン(30歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea5800 ルーティクス・レイン(19歳・♂・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 ea5883 神宮司 朱雀(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6082 天草 乱馬(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6154 王 零幻(39歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

 この依頼には数点の問題がある。準備万端でのアタックなら動死体も怖くは無いだろうが、重量関係で軽装備というのはなかなかつらい。ひねくれた依頼といえばひねくれた依頼だ。そんな遭難者救助に手を上げた奇特な(げふげふゴホッ)果敢な冒険者総勢十二名。まず寂しがりな一匹狼忍者の天草乱馬(ea6082)の行動を探ってみたい。
 右から四つ目の入り口へ入ってから、ひたすら中心を進む彼は一人悶々と考えた。
 なんとかズゥンビに見つからない方法を考えねば。野蛮なゾンビの仲間通しが互いに喰いあわないのはなぜか? 彼等に仲間意識があるとは思わない。考える脳は腐ってる筈・そう人とゾンビで違うもの。生きている事だ。生きていれば体温がある。魂やオーラもあるがそんなのが見える程高級な怪物には見えん。体温を消せれば‥‥、と泥だらけになってみた乱馬。しかしそんな小細工が通用するはずがない。
 ォオォォオォ‥‥
「ズゥンビとやらか、此処は一つ穏便に――‥‥ぅわあぁぁぁっ!」
 その数五体。彼はものの見事にズゥンビに出くわした――――しかも逃げた。

「父さん、妖気を感じます」
「ハギオとうちゃ‥‥さっきから何も無い道ばっかり」
 別の事に突っ込まれて思わず唸るハギオ・ヤン(ea5555)十九歳。カツラ疑惑深まる今日この頃。
「絶対こっちの方がいいって! 俺のアホ毛センサーが妖気に反応してんだよッ!」
「妖気というのは危険なのでは?」
 さてこちら子連れチーム。お父さん役のハギオに、お母さん役のレジーナ・オーウェン(ea4665)、子連れチームにちなんで二人を父母と呼ぶルーティクス・レイン(ea5800)。レジーナがランタン片手に道を照らし、ハギオとルーティクスが問答を繰り返しながら突き進む。迷宮は入り組んでおり、坂が多く、非常に天井が高いうえに頭上にもいくつか道がある。天井が高いという事は熱気が天井に向かう為、下は寒い。声が異様なほど響き、足音と共に水音が響く。地下迷宮の気味悪さにレジーナが好奇心を秘めた目を向ける。
「迷宮‥‥何が出るか非常に楽しみですね」
「ズゥンビは勘弁してくれ」
「えー、お父さんとお母さんがいるから大丈夫でしょ?」
「ルー君みたいな可愛い子供だったら大歓迎ですよ」
「‥‥コブつき、この若さでコブつき」
 ほんわか親子演出中の二人に対し、何故かぶつぶつ呟くハギオ。と、それまで騒いでいたハギオとルーティクスが急に真顔に戻り、間合いを取った。神経を張り巡らせて感じ取った殺気に集中する。突然顔色を変えた二人に、レジーナも警戒の色を露にした。
「――どちらです?」
「しっ」
 と、そこへ。
『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁっ!』
 尾を引くような絶叫が頭上で炸裂。見上げれば頭上の道の一つに、泥だらけで走りゆく忍者の姿が。しかもその背後にかなり遅れて数体のズゥンビが群れを成してついていく。忍者とズゥンビはハギオ達に気づくことなく奥へと姿を消していった。しばし沈黙。
「‥‥出遭ったんだ」
「‥‥出遭ったんだな」
「‥‥災難ですわね」
 見た所ズゥンビは足が遅いみたいだしすぐに振り切れるだろう、と結論を出した。
 気をつけよう、と尊い犠牲を心に刻み、三人はそのまま奥へと進んでいった。

「あら、なにか叫び声しなかった?」
「風の音ではないか?」
 さて一方此方はチーム『姫と騎士班』。宝箱なんぞ知ったこっちゃないと無視して歩いている。まさか仲間の一人がズゥンビ集団とイタチゴッコしているとは露ほども知らない彼らは、只今『迷って』いた。正確に言えば迷っているわけではないのだが、此処は迷宮と言われるだけあって複雑。一向に奥へ進まない。
「む、この宝箱先ほどのものと同じだな」
 筆記用具片手に地図を作図していた王零幻(ea6154)が宝箱につけた印を眺め地図と見比べて溜め息を吐く。もはや宝箱に説教する気力も起きない。彼は数時間前まで元気よく。
『腐って動き回らぬ宝箱などに興味ないわ! 開けて欲しくば死霊となるよう、精進する事だな!』
 とか言っていた。いや、無機物に腐ったズゥンビ化しろって言う事自体無理がある。もしそんな事が起こったら零幻の関心を惹きつける前に神の奇跡だ。永久保存もので研究所送りになるに違いない。
 そんなアホな理論はさておいて。
 早朝から迷宮に入った彼ら、そろそろ足もクタクタだ。ランタン手にした照明係のシェリス・ファルナーヤ(ea0655)の足元はよろよろとおぼつかない。一文字羅猛(ea0643)がシェリスを気遣う。危険が無いかグラディ・アトール(ea0640)が周囲を見回す。
「大丈夫か? シェリス」
「ええ、少し休めば、なんとか。――ごめんなさい」
 こう見えて彼ら恋人同士だ。モデルの仕事以来、曰く「あとは祝言だけ」とかいう関係であるらしい。熱烈な様子に男子二人蚊帳の外。べっとりハートマークが飛んでくる光景を尻目に、グラディと零幻は迷宮について話し合う。果たして救出対象は無事なのか。
「ズゥンビとは戦いたくないし。大体なんでこんな所に人が入ったんだ? 面倒くさいけど、依頼だから仕方ないか‥‥」
「肩を落とすなグラディ。自分も『生者になど興味はない!』と普段なら言う所だが、これも菩薩の教えに従う者の努め、連れて帰るさ。――ズゥンビは死霊研究の足しになるし」
「‥‥絶対に、助けなくちゃ、な」
 ボソっと本音を零した零幻はともかく、グラディは表面上のやる気の無さとは裏腹に性根は優しい性格だった。救出対象第一の考えを持つ彼ら。気を取り直して奥へと進む。

 こちらウハウハーレム班。彼らは只今あきらめて逃げていた。ズゥンビに遭遇したわけではない。ヲーク・シン(ea5984)が傍らの神宮司朱雀(ea5883)に向かって非常事態にもかかわらずナンパなラブコールを放っている。
「神宮司さ〜ん! 俺が死んだら膝枕してくれる〜?!」
「どこにそんな余裕があるのだ! 溶かされるのが関の山だろうに!」
 彼らの背後で泥の塊が蠢いている。それはなんとクレイジェルだった。茶色のゲル状モンスターで、地を這い、獲物を見つけては一気に酸で溶かして食ってしまう。ついでに言うと‥‥ズゥンビよりめっちゃ強い。
 先ほど欲望にかられたシエル・ジェスハ(ea2686)が「ふっふっふっ、わ・た・し・の・お・た・か・ら〜」と楽しげに宝箱を開けようとしたところ、宝箱の背後からクレイジェルによる不意打ちを受けかけた。クレイジェルに殺気感知の類は、よほどでなければ通じない。直感力に優れていようとも、敵が何所から襲って来るかまで察知できなければ襲われる。ぎりぎり襲われずに済んだが、軽傷を負わせても追って来る。
 全力疾走とまではいかないが、いつまでも走るわけにはいかない。
 ラシェル・シベール(ea6374)は走りながら壁にナイフの刃先を当てていた。道を判別する為だ。闇雲に走れば本当に迷ってしまう。ナイフの刃先はボロボロになり、このままではいつ壊れるか分からない。ぎしぎしとナイフが嫌な音をたてる。
「神宮司さん、このままだと迷います!」
「しえる殿、らしぇる殿、階段を上がって右の方へ! をーく殿と私は左へ行く! 二手に分かれるぞっ!」
「でも!」
「まって、一つ試してみるわ。撃退できると思う。その前に二人ともひきつけて」
「了解。神宮司! 俺と君にバーニングソード、前衛に廻れ!」
 冗談とは打って変わって厳しい声。ヲークと神宮司は表情を引き締めて其々ロングソードと日本刀を構え、二人は階段を駆け上がる。じわじわと迫りくるクレイジェル。
「契約の名において我汝らを喚起せん。火霊よ、疾く出でて不浄を滅する刃と成れ!」
 呼びかけに答えてヲークの剣は紅蓮の光を帯び、音をたてて燃え上がる。シエルは何やら懐を探っていた。鋭い呼気と共にヲークの剣が一閃、白刃はクレイジェルの胴を凪ぐ。神宮司もそれに続いた。二人の背後から敵に向かってシエルがモノを投げた――油である。
「ラシェルさん、お願い! 二人とも離れて!」
 いつの間にかラシェルが矢を構えていた。矢の先に括りつけた襤褸切れにもまた油が湿らせてあり、火を灯して燃えていた。矢が――飛ぶ。狙いに従い、油を被ったクレイジェルに引火。敵の体は火に包まれる。燃える、燃える、ごうごうと。金切り声を上げてクレイジェルが姿を消した。しゃがんでいたヲークが口笛を吹く。
「なるほど、バーニングソードの焔は燃え移らないからな」
 神宮司は言葉も無く安堵の溜め息をつき、チン、と日本刀を鞘にしまう。
「あぁ〜ナイフボロボロ〜」
「まぁまぁラシェルさん。それではシエルと愉快な仲間達の皆さん、張りきってお宝‥‥じゃなくて遭難者の救助に向かいましょう」
 こりない娘である。四人は休憩を取り、再び歩き出したのだった。

 さて問題の行方不明者はハギオ達子連れチームが救出とあいなった。迷宮の奥で餓死寸前だったのを発見。どうやら『根性なし』などと村で言われ『だったらみてよ、このやろう』と飛び込んだはいいが、散々モンスターに追い掛け回されて限界だったようだ。考えなしの村人は、戻ってからシェリスはじめ皆に罵倒された。愛の鞭と思っていただきたい。
 最初ズゥンビとイタチゴッコしていた乱馬、目撃者によると宝箱を未練がましそうに横目で見ていたというが暇も無く、無事に迷路を脱出した際、八つ当たりとばかりにおバカな行方不明者に根性ビンタをかましたそうだ。これも愛の鞭だと思っていただきたい。
 ウハウハーレムチームは迷宮の奥まで行って、例の山賊の塒までたどり着いたらしく価値のありそうな品だけ持って帰ってきたらしい。ナイフが折れたと騒いだ人間もいたが損失は十分補えそうだ。
 姫と騎士は一番宝箱の遭遇率が高かったのだが、何故か班内に鍵開けスキルを持つものがおらず、遭難者含めて何もゲットできなかったという。一度、一文字がラージハンマーで壊してみたが、破壊力ゆえに中身ごと壊れた。
 さらに体力のある人間は翌日迷宮に宝箱漁りに向かったそうだ。欲望に走る者アリ、命を救えた事に喜ぶ者アリ、ラブラブっぷりを周囲に振りまくカップルアリ。
 冒険者達は残りの日を有意義に過ごしたことを此処に記しておく。