紅蓮の星を守りぬけ

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月05日〜09月12日

リプレイ公開日:2004年09月13日

●オープニング

 世の中礼儀正しい泥棒もいたものだ。

『○日深夜、我らブラックローゼン現れり。汝が所有するブラッディローズ戴きに参る』

 黒く染めた羊皮紙には、その一文だけが赤いインクで書きつけてあった。早朝、ひと気の少ない時刻に現れた依頼人の紳士は窓から投げ込まれたという予告状を携えて冒険者ギルドに現れた。紳士に気迫るといった様子が見られる。
 盗みの予告状に記された品は宝石としてはソコソコの価値を有するものである。しかし別方面においては本来の価値を遥かに凌ぐ品だった。その宝石の為に数百人の命が奪われた、という逸話の一言で十二分に思い知ることが出来る。それはまさしく呪われた宝石。ブラッディローズと呼称されるに相応しく、血溜りの中で一際光を放って輝く悪魔が愛した紅蓮の星。
 この貴族は宝石の収集癖があり、曰くつきの宝石を集めては喜んでいたのだが‥‥どうやら怪しいものに手を出してしまったようだ。
 ブラックローゼン名乗る盗賊団は雇われの暗殺集団として名を轟かせていた。恨みは無くとも仕事は仕事。相手方は全力で攻めてくるに違いない。
「知略に長けた連中を集めておこう。けど、失敗しても恨むなよ」
「わかった。盗まれた場合は文句は言わんよ」
 貴族は軽く笑った。

 その日、冒険者ギルドで一枚の依頼書が張り出された。怪盗に狙われた宝石を守ってくださいと言った、淡白な内容の依頼書。ただしその募集には一言条件があった。機転が利く知略に長けた策士を求む、と。
 集められた冒険者達は早急に貴族の屋敷に連れて行かれた。大自然の庭を内包する広大な敷地。その奥にT字型の屋敷が見える。二階建ての屋敷は大小含めて二階に三十二部屋、一階に三十部屋。全ての部屋に窓と暖炉があり、入り口は正門と調理場の裏口一つだけ。冒険者達は入って早々、とある一室に連れて行かれた。なんと屋敷には通路のど真ん中に部屋があった。外部からは分からない。左右の棟と本棟の交差する場所に、まるで通路を遮るように伸びる四角柱。そこに人目には分からない入り口があった。中は狭い個室となっており、二つの宝石が安置してある。
「見えるかね、あれが今回守ってほしい品だ」
 燦然と輝くスタールビーの一対。惹きこまれそうな深い赤。呪われた宝石。
 一度宝石と対面させられた後、冒険者は其々個室と居間を与えられた。敵が押し寄せてくるまでの猶予は五日間。それまでに警備の配置などを決めておかねばならない。紳士は敵の大まかなデータを持っていた。自分で調べたらしい、かなりの執着心だ。手渡された情報をもとに話を進めていく。
 挑戦状のように叩きつけられた予告状。

 唯の自己顕示欲が強い連中の集まりか。
 それとも宣言しても奪えるという自信のあらわれか。
「さて、取るか取られるか、化かしあい合戦といきますか」

 ――――Game Start ?


●今回の参加者

 ea0007 クレハ・ミズハ(36歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0048 卍 叉那(37歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea0396 レイナ・フォルスター(32歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea0934 アルフェリア・スノー(21歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)
 ea1865 スプリット・シャトー(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea2545 ソラム・ビッテンフェルト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2804 アルヴィス・スヴィバル(21歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea3073 アルアルア・マイセン(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4714 ジェンド・レヴィノヴァ(32歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5021 サーシャ・クライン(29歳・♀・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5956 レオン・ストライフ(29歳・♂・ファイター・ジャイアント・イギリス王国)
 ea6033 緲 殺(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

「何故、盗まれた場合に文句は言わないのかな?」
 アルヴィス・スヴィバル(ea2804)は警備に当たる前に、依頼人にそう問うた。依頼人はギルドにおいて依頼を出す時に、盗まれた場合は文句を言わんよ、などと答えていたと言う。これに首をかしげていた者は少なくなかったようで、卍叉那(ea0048)もまた疑問を指摘している。
 早朝、ひと気の少ない時刻にギルドに現れたのは何故か?
 盗まれても文句は言わないと言っているのは何故か?
 敵が暗殺集団ではなく怪盗として依頼書を出したのは何故か?
 依頼人は笑って答えた。
「立場というものがわからんのかね? 君達が知る必要はない」と。楽しげに。

 一階では複数の者達が警備の為に巡回していた。個室の中にはダミーが置かれ、本物は緲殺(ea6033)が隠し持っている。莫迦正直に本物を放置したまま守っていたのでは埒が明かないのだろう。レオン・ストライフ(ea5956)が自分の胃の中で保管すると発言もしたのだが、依頼人が激怒したため却下となった。
 お気に入りの品だ、怒りもするだろう。
「相手はプロ。どこから侵入してきてもおかしくはない。それに対応するため、少しでも警備の的を絞るためにも、罠の設置や窓・ドア・暖炉の封鎖を行いたいのだがどうだろう? せめてこちらの動きを把握されにくいようにカーテンは全て閉めさせて欲しい」
「ああ、かまわんよ。大きな損害とならないのならね」
 スプリット・シャトー(ea1865)の提案に依頼主は頷いた。
 偽の宝石が置かれた個室周辺にはレオンを始め、アルアルア・マイセン(ea3073)とクレハ・ミズハ(ea0007)が警備に配置され、殺が少し離れた場所で警戒している。
 屋敷の中の使用人たちは特別休暇を得ている為、不在。
 依頼人は個室に居座っており、卍叉那(ea0048)とスプリットが護衛また敵と摩り替わらないよう監視も兼ね、常に依頼人の傍に付き添っていた。
 ロープで封鎖された部屋、締め切られた窓。
 最低限の部屋を残し、屋敷は外からも中からも様子が伺えない状態となっていた。封鎖されていない部屋の暖炉にソラム・ビッテンフェルト(ea2545)が全て火をくべたが、これが一種の諸刃の剣。
 煙突を煙で満たし侵入を困難にする代わりに、閉鎖された館内の気温は上昇し、逃げ場のない熱気は館内に充満する。こと二階は熱気が上に向かう為、真夏にも似た状態を生み出していた。仲間達の体力と気力を奪う。
 外部から孤立した建物で嫌な沈黙が常時続く。昼か夜かも分からない状態で皆はブラックローゼンを待っていた。

「暑い‥‥本当に守りきれるのか?」
「ぼやかないの。これもビジネス、そうでしょう?」
 愚痴を零すジェンド・レヴィノヴァ(ea4714)をアルフェリア・スノー(ea0934)が宥めているが、二人とも動きに覇気がない。身軽な二人ですらこうなのだから、全身を鎧で覆う騎士達はある種死ぬ思いだろう。とくに熱気がこもっているであろう二階は地獄の釜に近い。体力のないアルヴィスや甲冑を纏うレイナ・フォルスター(ea0396)の身が心配だ。暑さ故に苛立ちが募る。と、その時、二階で連続して爆音が響いた。

「最終日に来るんじゃないかと思ってたけど、派手すぎない?」
 忌々しげに語る。大破した扉の向こうから全身を黒い布で覆ったシフールが二体。あの煙の充満した煙突から飛び出してきた。たとえ炎を燃え上がらせていてもレジストファイヤーの前では無効化される。レイナが駆けた。片方のシフールが投げてきたアイスチャクラを避けて一閃。確実に咽喉を狙う――。
「君は魔術師かい? と、聞くまでもなかったね。魔術師殺しとして狩らせてもらうよ」
 破られた扉は二箇所。言うや否や、アルヴィスは高速詠唱でウォーターボムを大気中から作り出し、シフールに向かって発射する。詠唱を妨害し、踏み込んで首を狙った。今まさに首を掻っ切ろうとしたシフールをもう一体が庇う。いけ、と首を抉られたシフールの唇が動いた。そのまま庇われた方は一目散に階段へと飛んでいく。レイナは交戦中だ。
 手が回らない。一階にいるであろう仲間に向かって叫ぶ――‥
「ちぃっ! 水のウィザードだ! 気をつけろ!」
 その頃、一階は一階で騒ぎだった。
 アースダイブでも使ったのか、床下に回りこんでいたらしい。突如床が炸裂し、黒装束のエルフやシフールが現れた。炸裂箇所は柱の周辺二箇所、奥の館の方をサーシャ・クライン(ea5021)とソラムが敵対し、アルフェリアとジェンド、殺が入り口周辺に現れた相手と対峙する。だが、問題はそこではなかった。
 敵は個室の中にも現れていた。
 ズッと地から這い出たような二体の黒い人影に、クレハがホーリーフィールドを発動させようと試みたが、個室が狭すぎる為、出現場所が詠唱中に範囲内に敵が入ってしまう。レオンとアルアルアが、其々メタルロッドとロングソードを構えた。
「敵には容赦しねぇ!」
 レオンが吼えた。相手の頭骸骨を打ち砕かんと、危険を承知でメタルロッドを振り下ろす。集中力の低下からか、狙いは頭をそれてエルフの左肩を打ち砕いた。響く絶叫。その傍らをすり抜けてシフールがダミーを狙う。だがアルアルアが展開させたオーラソードに腕をやられ、宙へと舞い上がった。シフールの体が金の淡い光に覆われ、瞳が驚愕を彩る。
「――違う!」
 リヴィールポンテンシャルだろう。シフールは仲間のエルフを見下ろした。仲間はすでに瀕死の状態。降りて来い、と怒鳴るレオンに刺し殺さんばかりの双眸をむけたシフールは、詠唱の声がやむと同時に透明になって姿を消した。そのまま外へと脱出する―‥
「いい加減にしなさい!」
 ソラムはアイスブリザードを、サーシャはストームを駆使して諦めの悪い敵を屈服させようと躍起になっていた。無益な殺しをするなという彼女の親からの教えを守っているため。相手と自分たちとの力の差をわからせ、退却させることができればそれでいい、という考えから致命傷は与えていない。
 と、その時、宙に突然シフールが現れた。異国の言葉で仲間に向かって叫び、声を聞いた仲間は悔しそうな顔をして地中へ姿を消す。さらにそのシフールはアルフェリア達の方へと飛ぶ。退却の色が濃い。
 二階からきたシフールの生き残りは一体。アルヴィスとレイナが三体を始末した。奥の館の侵入者は二体とも退却。小部屋に現れたウィザードのエルフはすでに息絶えており、アルフェリア達が相手にしていた侵入者も引くかと思われた。
 驚いたことにシフールの指示を受けたエルフは殺に躊躇なく突進、わが身の犠牲と共に殺の懐からブラッディローズを毟り取ろうとした。宙を舞う二つの宝石。エルフは一つだけ奪うとシフールに向かって投げ、死力を尽くしてクエイクを唱えた。
「逃げるわよ!」
 止めなければと思っても、地面は揺れる。水のウィザードが扉を撃破し、外に待ち構えていた敵の馬車は生き残った者を乗せて走り去る。
 紅蓮の星の輝きは、一つだけ、殺の手の中で無慈悲に輝いていた。

「貴族と言うのは退屈なのだよ」
 片方の宝石が奪われ、もう片方は守り通した。敵の行動を考えれば、もし宝石をレオンが飲み込んでいたら彼の腹は容赦なく抉られていた可能性も否定できない。翌日になって依頼人は護衛の者達にそんな事を言った。
 殺が眉を顰める。彼女は依頼人が命がけのゲームを楽しんでいるのではないかと懸念していたのだ。ところが、問い詰めようとした殺に、依頼人は続いてこう言った。
「ありきたりの日常。そんな生活に投げ込まれた一通の予告状。調べれば泥棒どころか名うての暗殺者というじゃないか。ゾクゾクしたね、身の危険以上に、これほど面白いことはない」
「じゃあ、仕込んだと言うわけではないんだね」
「仕込む? 莫迦を言いたまえ。そんな事のために公的機関であるギルドを使えば、火傷を負うと言うものだ」
 依頼人の男は低く笑った。半分命を狙われているような状態であったにも関わらず、其れを楽しもうと言うのだから気が知れない。散々口論や疑念を生んだ依頼は幕を閉じた。
 叉那が去り際に提案した。ブラッディローズを所持している限り、再び狙われる可能性は否定できない。いっそのこと手放した方が安全だろう、と。
「手放す? こんなに面白い素材を手放すなんてとんでもないね、来るなら来ればいい」
 またギルドにでも頼むつもりなのか、貴族は言った。皆、呆れてモノが言えなかった。
 片方だけとはいえ、一応は成功をおさめた依頼。その裏は後日になって明かされた。
 時は流れる。
 風の噂に彼らは耳にする。紅蓮の星、ブラッディローズ等の呼称を持つ呪われた宝石が盗み出されたこと。かの貴族が、盗難被害のでている名のある宝石の数々を所有していたこと。例の貴族は何者かの手によって障害者同然の身にされたということ。
 ――過ぎた好奇心は、身を滅ぼすのだと言うことを。