集え! チャームな男たち! ―爺編―

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:フリーlv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 85 C

参加人数:7人

サポート参加人数:8人

冒険期間:09月07日〜09月13日

リプレイ公開日:2004年09月10日

●オープニング

「こんのバカ孫があぁぁぁぁ!」
「煩いわ、この色ボケ爺いぃ!」
 ナイフが飛ぶ。フォークも飛ぶ。あぁ花瓶が割れた、高いのに。
 その日、エレネシア家の食卓は阿鼻叫喚の地獄図と化していた。というのもつい先日帰ってきたボンクラ孫のデルタ君。なーんにも成長が見られない、って事で祖父のヴァルナルド氏にこってり絞られていた。貴族出のボンボンのくせして冒険者に憧れ、幼少時に幼馴染連れ出してみたものの、そううまく人生はできてない。いつのまにか貧乏性になり、貴族としての嗜みやらが消えうせ、今では『へっぽこ騎士』と呼ばれ始めている。
 父親は母親と駆け落ちしてしまったこの家。家を維持してるのは祖父ヴァルナルド氏と夫人の二人といっても過言ではない。(爺はカマ疑惑があるので信じたくないが)
「あぁやあねぇ、折角の料理があるのにぃ〜」
 孫デルタ君の姉プシュケは物陰で呆れながら祖父と弟の仁義無き攻防戦を眺めているが、右手に大皿、左手にフォーク。自分の料理はちゃっかり確保済みな所を見ると、姉弟の血は争えないと思えてしまう。
「全くですよ。この前の蜘蛛退治で少しは成長したのに、ヴァルナルド様には分かってもらえないし。いやまあ些細な変化ですが」
 いつのまにか横に幼馴染の苦労性クレリックのレモンドが座っていた。
「あら、レモンドくん。ミード? 一口ちょうだいな」
「どーぞ。あ、野菜ください」
「おっけおっけ、はいあーん」
 ――――平和だ。
 目の前は阿鼻叫喚で金属に皿に食べ物に、と宙を飛び交っているにもかかわらず。プシュケとレモンドの周辺は平和だった。毎日こうだと反応するのも莫迦らしいようだ。馴れとは怖い。やがて騒動が納まると、爺と孫はにらみ合った。
「そこまで言うなら、その根性試させてもらおうではないか!」
「望むところだ色ボケ爺!」
「色ボケゆーなっ! 燃える大人の恋というもんがわからんのか、スカポンタン!」
「大人の恋も何もバーさんほったらかして若い男つけ狙う時点で色ボケだろ!」
 いや、色ボケとかいう問題じゃない。
「いつになったら終わるのかしらねぇ」
「暴れたら静まるでしょう」
 こうしてエレネシア家の平和な朝は過ぎてゆく。


「で、其々いい男を見つけてきて『男らしさ』を競う大会を開くことになったと?」
「そーゆーこと」
 プシュケは冒険者ギルドに来ていた。
 なーんとあの後、爺と孫の諍いはヒートアップ。男らしさを証明する為、なんと『いい男を見つけてきて男らしさを証明する大会』とやらを開催することになってしまった。貴族とは暇である。ヴァルナルドチーム総勢三十人、デルタチーム総勢三十人、いい男を集めて競わせるそうで、その内の数名をギルドから募集するという。
「自分達が競わないで他人に競わせるってのは、いかにもアンタん家らしいが‥‥」
「参加者には申し訳ないけど。おじぃ様と弟の喧嘩に付き合ってもらうわ、言い出したら聞かないし、まあ依頼料でるし、賞品出すし、部屋用意するし」
「あっそ。で、何で男らしさを競うんだ? それにヴァーナさん(ヴァルナルド氏)の事だから男たちは危険じゃないか?」
 そうである。そしてヴァーナさんといえば若い男を狙うことで有名だ。
「何でもあり。ステージ上で『男らしい。いい男』と審査員に思わせればいいの。アクロバットとか演技とか。ただし流血沙汰は禁止。ふふふ、心配ご無用。色ボケ爺様は個室に監禁したあとよん」
 ――――なんだそれ。
「ごめんねぇ、巻き込んで。張り出しておいて頂戴な」
「アンタはどーするんだ?」
「私? お・う・え・ん・だ・ん。おじい様チームのね。ジプシーの格好する予定」
 ダイナマイトボディのお姉さまが、ジプシーの格好で応援団。
 いいなぁ、見に行こうかなぁ、とか思ってしまう辺り、受付の青年はまだ青かった。

●今回の参加者

 ea0127 ルカ・レッドロウ(36歳・♂・レンジャー・人間・フランク王国)
 ea0403 風霧 健武(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea0447 クウェル・グッドウェザー(30歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2856 ジョーイ・ジョルディーノ(34歳・♂・レンジャー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea3664 ガンド・グランザム(57歳・♂・ジプシー・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

ライラック・ラウドラーク(ea0123)/ クレアス・ブラフォード(ea0369)/ 水野 伊堵(ea0370)/ オルテンシア・ロペス(ea0729)/ 狂闇 沙耶(ea0734)/ ライカ・カザミ(ea1168)/ アリシア・シャーウッド(ea2194)/ ニック・ウォルフ(ea2767

●リプレイ本文

『皆様! 予選を勝ち抜いた熱き男たちの入場です! 皆様拍手でお迎えください!』
 入場した『いい男』達が、ギルドで雇った参加者ばかり勝ち抜いている事実はお約束。
『本戦はトーナメント形式を維持、各戦対戦相手は勝ち抜き後シャッフルとなります。同点者は両者脱落の緊迫戦だぁーっ! みんな、男に悶えろ―――っ!!』
 審査員は真面目な紳士二名、変わった紳士二名、素敵な奥様四名で構成されている。
 かくして大会は開始された。以後は各チームの様子を追ってみたい。

 こちらヴァルナルドチーム。
 まず第一回戦一番手、リ・ル(ea3888)。武道家だ。
 蒼天二刀流の演武を披露しつつ脚色した魔獣コカトリスとの戦いを再現し、正統派の戦士をアピール。対戦相手は顔見知りのようだったが、審査員は正統派を好み準決勝進出。
 二番手はガンド・グランザム(ea3664)。自称、愛の伝道師。
 ガンドは舞台にあがるなり、マントを脱ぎ捨て仁王立ちで背を見せた!
 背中の巨大かつ無骨な『愛』一文字。
「わしの魂のメッセージは何番手だろうと衰えるもんではないわい! さあ司会、愛イコールLoveの説明じゃ!」
 ジャパン語を知らぬ観客に説明する司会。
 男は背中で語れとばかりに動かぬガンド。
 しかし審査員には文字の意味は理解できても書道の心は分からなかった。線画にしか見えないようだ。対戦相手は水瓶ボディビルを披露し、惜しくもガンドは此処で敗退。
 三番手は風霧健武(ea0403)。忍者である。
 床体操、助走、側転、バク転、宙返りを行い身軽さを披露。『バサァッ!』っと面頬・外套を外し、甘いマスクで微笑み投げキッスしながら颯爽と立ち去った。
 奥様方のハート鷲掴み、演技で真面目な紳士の点もゲットし準決勝進出。
 四番手はクウェル・グッドウェザー(ea0447)だが、彼には赤毛の可愛いメイドが一人、女性応援団として応援に駆けつけていた。どうやらクウェルの想い人らしい。
「クウェルがんばったら夜にご褒美‥‥げふんげふん‥‥まあ、頑張れー」
 動きまくり、跳ねまくりで下着がちらちら見えそうで見えない。
 クウェルは入場口ではなくその上にいた。五メートルほどあるだろうか。普段の服装に白いマスカレードをつけて顔を隠し、皆が気づき始めた頃、タンッ! と地を蹴った。
 白いマントが宙を舞う。
 物語の騎士の如く、地面へと着地した。体力に自信があると言うだけあって綺麗に決まる。ワッと会場が沸いた。ミステリアスな雰囲気を仮面で表現し、女性達を目で殺す!
 前座かと思いきや、――何故かそのまま戻っていった。
 この後、対戦相手は正統派ファイターをアピール。皆の目の前で瓦を叩き割るなどし、クウェルは無念の敗退。ただし二人とも高得点の為、判定に時間がかかったという。
 五番手はキャメロットに名高き葉っぱ男、レイジュ・カザミ(ea0448)。
「混沌に溢れたこの時代〜、人々が求めるのはH・I・R・O! 我こそ英雄レイジュ! 葉っぱ一枚携えて〜、悪を倒し、人々を守る者!」
 弟の応援に来たという姉が、竪琴片手に顔を真っ赤にして歌う。
 隣では胸を強調したミニスカートの美人が、近寄る男の股間を蹴り上げつつもレイジュに応援を続け、情熱の踊りと投げキッスで鼓舞・応援しているミステリアスな美女までも。
 女性応援団を三人も引き連れ、何故か会場で密かに行われているトトカルチョの有望株。
 しかし股間以外は全裸だ。剣は持ってるけど星型の葉っぱ一枚だ。芸が細かい。
 当然、猥褻行為として警備の強面マッシブが取り押さえようとしたが‥‥
「ストップ。まあみててよ!」
 なんと抜き身の剣でジャグリングを始めたではないか! クネクネダンスつきの新バージョン! 裸ゆえに下手すれば大怪我間違いなし。大事な葉っぱ部分も危険!
 おおぉぉぉっ! とドヨメク会場。
 会場のウケと奥様達のウケは良かったが、生真面目な紳士の点数はシビアだった。対戦相手は真面目な武道アピールだった為、惜しくもトトカルチョ有望株の葉っぱ男敗退。
「誰より素敵な葉っぱの勇者様だった」
 退場時、ミステリアス美人が頬にキスを贈った。人に愛される男である。
 六番は紅月旅団の団長ルカ・レッドロウ(ea0127)。
 登場するなり、彼は徹夜で作ったあるトラップを用意。トラップを踏んだ刹那、鉄製のハンマーが彼の大事な『ゴールデン』を打ち抜いた! 痛い! これは見てる方も痛い! 思わず股間を押さえた観客は何人いただろうか。ルカは絶望的な痛みに耐えた!
 共感した紳士達が全員号泣。満点を打ち出し、ルカは準決勝へ進出を決めた。
 七番はアクロバットで観客を魅了していたジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)。突如ステージから姿を消した。なんと依頼人代理の前に颯爽と姿を現す。
「お久しぶりです。泥棒ジョーイ・ジョルディーノ、あなたをいただきにあがりました」
 観客の目が点になる。プシュケと顔見知りらしい。
「イロモノに染まりきった屋敷から綺麗な女性を連れ出してあげるのも、泥棒の仕事なのです。どうか、この俺に盗まれてやってください!」
「んー面白そうね。はい泥棒さん」
「皆、頑張ってくれ。俺は愛の逃避行だ!」
 ぽん、と差し出された手をリードし、姫抱きにして会場から逃走した。
 七番ジョーイ・ジョルディーノ、初戦敗退。理由、試合放棄及び女性応援団長を誘拐。
 ちなみに二人はこの後、夕方まで帰ってこなかった。
 そして午後到来。
『みんな、がんばって! 僕は此処で葉っぱの良さをアピールするよ!』
 何故か司会席で観客に投げキッスを飛ばす葉っぱ男の姿が。隣に敵一番手の男まで。司会席を占拠したらしい。背後に女性応援団三人がいるので少々羨ましい光景だ。レイジュは決戦披露予定だったオリーブの葉を身につけて舞っている! 花ならぬ葉言葉は平和。
 レイジュ含め二人が司会となり準決勝開戦。
「がんばるのじゃ! 愛をこめるんじゃぞ!」
「皆さん、がんばってくださいね!」
 ガンドが叫び、クウェルが生業を生かして観客に飴細工を披露していた。
 準決勝に進んだリルは全身に布を纏って登場。
 刹那、「キレてるー!」という声と共に女性応援団からソニックブームを受け、その布がちぎれ飛ぶ。下からメッシュの黒いピチピチタンクトップと純白の褌が出現!
「見よ! 俺の肉体を!」
 キレてるポージングをとった。全身に力を入れ、筋肉の膨張でタンクトップを引き裂き、弾ける筋肉をアピール。しかし彼の対戦相手も筋肉アピール。不運だ。
 邪笑倶楽部主宰リル、対戦相手と系統が同じ事で同点になり敗退、決勝進出ならず。
 二番手の健武は上半身素肌の上に鎖帷子を着て登場。
 薔薇を持ち会場の女性達に歩み寄り、歯の浮くような台詞を言いながら渡していく。これは乙女の夢かつ紳士の基本だ! ‥‥多分。
「決勝の場では貴方達を、更なる甘露の世界に招待しましょう」
 と言って退場。奥様の票で決勝に進んだ。帰りたいという本人の意思とは裏腹に。
 三番手のルカは帽子を深くかぶって登場。
 自分の順番になると服をバッと脱ぎ褌一丁の姿に。退場者の二の舞かと思いきや、帽子を取ると――仲間の手によって坊主頭になったルカが!
 女性も紳士達も号泣した。若いのに、まだ若いのに。なんと不憫な! と決勝進出はよいのだが、ルカは再び同情票ならぬ共感票で高得点をゲット。作戦といえばそれまでだが、必死さに見る側も切ないものがある。丸刈りの根性が凄い。
 ともあれ『いい男大会』が『奇人変人ショー』と化してきているが、決勝進出者を決め、この日は閉会となった。尚、深夜ヴァーナさんの脱出騒ぎがあったが健武が即捕縛した為おいしい光景は見られなかった。残念である。

 三つ巴の決勝戦当日。
「健武、絶対に勝て! 勝たなかったらどうなるかわからんぞ、いいな!」
「勝って何かしら持って帰ってくるんだからね? 敗退したらしょーちしないんだから!」
 応援というより半分脅しだ。銀髪と金髪の女性応援団が叫ぶ。
 酒場の仲間によって強制出場させられたらしい切ない男、風霧健武二十歳。風の噂によると賞品は仲間に強制分配されそうだとか。――非常に不憫である。しかし依頼は依頼。
「最後は、日本古来より伝わる伝統芸能を披露しよう」
 心新たに勝負しようとしたが、いきなり帯が切れて褌姿を晒すハプニングが!
 その時、健武の中で何かが切れた。自暴自棄になりつつ表情は自信満々に。
「此れがジャパニーズ・褌・スタイル!」
 通常時の冷静な彼とは思えぬ行動に出た。そのままステージで神楽舞を踊り、イギリスの観客に間違った常識を植えつける。神楽舞の後、早々に裏に引っ込み「生き恥を晒すくらいなら、死んだ方がマシだ!」と叫びながら切腹しようとして警備員に止められた。
 切ない。非常に切ない。
「ルカさん、がんばって!」
 切ない男がまた一人。ルカの散髪と応援に駆けつけた彼は、すでに羞恥も消え去り女性応援団の格好で踊っていた。女装が微妙に可愛いと思うのは危険な兆候か。
 と、その時会場がざわめく。
 なんとヴァーナさん(ヴァルナルド氏)が現れたのだ!
 実は早朝、『ククク‥‥さあ、私に地獄を見せろ!』と、某最凶プリンセスの手により爺部屋の扉が大破。即、カマ疑惑爺の捕縛命令が出たが、ルカが止めて会場へ招いたのだ。
 尚、最凶プリンセスは『美少年を囲む会』の協力により捕縛済みだ。
「いい男ってのは真の優しさを知っている。そしてこれが、俺の優しさだ!」
 股間も打った。頭も剃った。
 覚悟を決めたルカはヴァルナルド氏の胸倉を掴む。そして!
 (ぶっ)――しばらくお待ちください――(チュウうぅぅぅ!)
 数分後。
 ルカは灰のように‥‥散った。命と人生を天秤にかけた行動だった。
 白目むいて倒れ、マッシブ救急班に運ばれていく。
「‥‥ルカ、真人間の道を捨てたな」
「酒場で言い放った『本気でいかせていただきます』とはこの事か?」
 ジョーイとリルが呟く。知り合いの面々は運ばれて行く、ある種の勇者を見送った。

 さてさて。結局優勝者はヴァルナルドチームからは出なかった。インパクトと派手さ、意外性を求めるあまり、ダンディ加減のアピールに欠けていた様だ。二位に健武が、三位にルカが。爺孫勝負もひと段落つき、その夜は両チームで酒盛りをしたらしい。
 かくして大会は幕を閉じた。
 ん? 素敵な男を紹介して? いい男の定義を聞きたい?
 そんな事は気にしてはいけない。そう、全ては貴族の道楽。時の悪戯。骨休めのお遊びコンテストも終わった。明日から再び、彼らは忙しい冒険の毎日へ戻ってゆくのだから。

●ピンナップ

リ・ル(ea3888


PCグループピンナップ(3人用)
Illusted by 石垣五郎