集え! チャームな男たち! ―孫編―
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 85 C
参加人数:7人
サポート参加人数:2人
冒険期間:09月07日〜09月13日
リプレイ公開日:2004年09月10日
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●オープニング
「うえぇぇぇ、レモンドどうしよおぉぉぉぉ」
おーい、おいおい、おーいおい(号泣)。
「分かった。分かったから。どうにかしてやるからローブで鼻水をぬぐうな」
幼馴染は苦労性。
相棒のへっぽこ騎士デルタ君が起こした家庭騒動に巻き込まれた彼、クレリックのレモンド。つかれきった顔で空を振り仰ぐ。先日里帰りということで実家に顔を出したデルタに付き添い、エレネシア家に数日間滞在していたが、なんと阿呆な相棒は祖父と大喧嘩。話の流れで決定してしまった大会の準備に追われていた。
というのも、このボンクラ騎士のデルタ君。なーんにも成長が見られない、って事で祖父のヴァルナルド氏にこってり絞られてしまったのだ。貴族出のボンボンのくせして冒険者に憧れ、幼少時に幼馴染連れ出してみたものの、そううまく人生はできてない。いつのまにか貧乏性になり、貴族としての嗜みやらが消えうせ、今では『へっぽこ騎士』と呼ばれ始めている。
彼の父親は母親と駆け落ちしてしまった。デルタ君の生家を維持してるのは祖父ヴァルナルド氏と夫人の二人といっても過言ではない。(爺はカマ疑惑がある)
それはともあれ、決定した大会というのは『いい男を選手として選び、双方三十人のメンバー構成。ステージ上で男らしさを審査員にアピールする』いわばナイスメン選手権だという。競技などの種目に決定事項は無く、ステージ上で『男らしさ』を表現するだけでいい。ただし流血沙汰は厳禁、即退場。
とはいえ三十人もそうそう見つけられるはずが無い。
レモンドは諦めて、デルタを引きずりながら冒険者ギルドへ向かった。
「美青年・美少年、年齢は問わない。男気に溢れ、男らしさを表現できる才能に溢れた美丈夫の冒険者を集めてもらえないか」
その一言で半径十メートルから人影が消えた。受付嬢も固まっている。そこで慌ててレモンドは事情を説明しなおした。最近世の中ぶっそうなので、変な疑いをかけられては困るというものだ。なんとかお家の権力も駆使して依頼を頼んだ帰り道。
「なあレモンド。爺の方は姉ちゃんが応援リーダーになるからいいとして、こっちはどうするんだ?」
「安心しろ。もし応援団に女性がいなかったら、私がジプシー姿で応援してやる」
精悍な顔したクレリックがジプシー姿(女物)で応援団。
このとき初めて、デルタはそれまで生真面目だと思っていた付き合いの長い幼馴染のクレリックに、そこはかとない不安を覚えたとか何とか。
●リプレイ本文
『皆様! 予選を勝ち抜いた熱き男たちの入場です! 皆様拍手でお迎えください!』
入場した『いい男』達が、ギルドで雇った参加者ばかり勝ち抜いている事実はお約束。
『本戦はトーナメント形式を維持、各戦対戦相手は勝ち抜きとなります。同点者は両者脱落の緊迫戦だぁーっ! みんな、男に悶えろ―――っ!!』
審査員は真面目な紳士三名、変わった紳士三名、素敵な奥様四名で構成されている。
かくして大会は開始された。以後は各チームの様子を追ってみたい。
こちらデルタチームは、司会挨拶直後にひと並びになりレイヴァント・シロウ(ea2207)が仲間たちに向かって言い放った。
「野郎ども! 俺たちの特技は何だ!」
「チャーム! チャーム! チャーム!」
ほぼ全員合唱。さらに右腕を勢いよく突き上げて一文字羅猛(ea0643)が叫ぶ。
「この戦いの目的は何だ!」
「チャーム! チャーム! チャーム!」
なんだかヤングなチームは意気込みが熱い!
さらに銀白古立(ea5189)が雄叫びを上げた!
「俺達はチャームを愛しているか! イイ男であることを愛しているか! 糞野郎共!」
「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」
「宜しい! 往くぞ諸君!」
中には上半身裸で胸筋をアピールしている人までも。審査員の目は釘付けに。
「俺達は惹かぬ媚びぬ顧みぬ! 見よ、この勇気ある者達を! ここにいる覚悟強き男達が、再び太陽を輝かせる! 漢の魅力の階段を一歩上へ! 更に更に上へ、そして大理不尽へ一歩! 漢の汗の光の中へ!」
雄叫びに合わせて中腰で手を上げ下げ振り、肘・膝を叩き最後に勢いよくジャンプする! こうして第一回戦は開始された。一番手はレイヴァントである。
「やあリ・ル。愛しに来たよ――いや、会いに来たの間違いだ」
礼服に身を包むジェントルメン。戦いに貴賎は無いが漢の魂に貴賎はある。対戦相手は顔見知りのようだ。彼は何故かフフフと優雅に笑いながら審査員席を振り向いた。
「根拠のある無敵など存在せんよ。私は無敵だ。――だから君達も根拠無く安心したまえ」
対戦相手が審査員になっている。何故か審査員紳士との間に火花が散った。これはこれで面白いが、一体何を競っているのか常人には理解不能。彼は初戦敗退した。無理も無い。
「この魔境王シロウ。天に還るに人の手は借りぬ――我が生涯に一辺の悔い無し!」
レイヴァントはこの後、思いつきにより別所から姿を現す。
二番手は羅猛だ。
鍛えられた肉体を最大限に活かし、観客の手拍子に合わせてポージング。しかも満ちた水瓶を両手に持って。常人には出来ない芸当だ。羅猛はこのまま準決勝進出。
三番手は古立である。彼は愛馬の曲乗りを行った。
曲乗りは、おそらく騎馬の闘いを絶え間なく続ける中で自らの身を守るための技として発達させてきたのであろう。
古立は「上手く行ったらご愛敬、失敗したら悪しからず、と言った所です」と開始前に言っていたが見事成し遂げた。どちらかというと審査員よりも観客を楽しませた彼、対戦相手が本人のみでの演技を披露し僅かな差で初戦敗退。
尚、見世物を商いとする者からスカウトが相次いだ。逃げるのに苦労したらしい。
四番手はヒックス・シアラー(ea5430)。
ヒックスは瓦割を披露。態々取り寄せた瓦を、気合と雄叫びと共に頭と拳で打ち砕いた。見入る女性観客。男らしさ、を前面に押し出したヒックスは準決勝に勝ち上がった。
五番手はハギオ・ヤン(ea5555)。対戦相手は葉っぱで有名な男。
突如応援団の方向から「誰だ、誰だ、誰だ〜ヅラの彼方に浮かぶハゲ〜」という歌声が聞こえてきた。女装したレモンドだった。
お子様の目に悪いので見てはいけない。
「え? 違ぇッ!」と一喝し「赤毛のヤン、魅せてやろう!」と、ずらりと剣を抜く。相手が裸に剣のジャグリングに対し、ハギオは正統派の流派剣技を披露。正統派剣士に弱い審査員の為、ハギオに準決勝進出権があがった。
ただし一部の人は見逃さなかった。剣の腹に『ハゲるな危険』と彫られていたことを。
六番手はアリエス・アリア(ea0210)。れっきとした男の子だ。
最近女に間違われ続けているそうで、男だと知らしめる為に出場したらしい。
闇を映した黒い衣装。袖は大きく広がる長袖で下と一体化した死神の衣装を纏ったアリエスは、右目に赤い液体で血を描いた包帯を巻いていた。アリエスの対戦相手は股間をハンマーで強打する、というウケに走っていたのだが、忍び歩いて物陰から出たアリエスに、爆笑していた会場もしぃんと静まり返る。
「――ねぇ、あれ『紅光の天使』じゃない?」
少し前に話題を呼んだ天使画の一つ。ざわめきが広がる頃、神秘的な微笑みを浮かべた。
「Qui tollis peccata mundi misrere nobit」
祈りを残して、アリエスは物陰に姿を消した。一種のアトラクションと思われたらしく此処で敗退。どうも本人は勝ち残るのが目的ではなかったようだ。
七番はルーティクス・レイン(ea5800)である。
しかし此処で問題が起きた。対戦相手は、試合を放棄し女性応援団長を誘拐! よってルーティクスは不戦勝で準決勝進出となった。世の中は分からない。
午後の準決勝戦。
『ハハハ! チャームチャームチャーム! では行こうか諸君!』
なんと初戦敗退したレイヴァントは右司会席を乗っ取っていた。傍に簀巻きの司会が転がっている。なかなか美味しい役目だ。左には葉っぱ男。準決勝戦は開始された。
『女性応援団の諸君、合唱せよ!』
司会権限を乱用中のレイヴァント。
しかし本物の女性応援団は羅猛の彼女だけで、残り二名は男である。
選手のシャッフル後の一番手は羅猛。対戦相手もポーシングで勝負してきた。
「羅猛がんばって! 男らしさアップよ!」
「うむ、ではどこかで見た覚えがある動きでしかないが」
一体何を仕込まれたのか、羅猛のポーシングは人じゃなかった。絶妙な動きでクネクネしている。鍛えぬかれた四肢が複雑にポーシングする様は言葉に出来ない。多分分かる人しか分からない世界だ。結局、両者同じポーシングという事で同点敗退となる。
二番手はハギオであるが、対戦相手は『なんとかの薔薇の人』というべきフェミニストっぷりを披露。続いてハギオは布を怪しい結びで仮の褌にし、右太腿の古い傷跡を見せ語り始める。事件で亡くした女性の話だった。思わずホロリとくる観客。
話し終え苦笑して立ちあがる――が、なんとそこで褌がほどけた!
男らしい、とかいう言葉ですまなかった。会場は阿鼻叫喚。
それまでのシリアスな空気は脆くも崩れ、ハギオは猥褻行為でマッシブ警備員に連行。ハギオの失格により、薔薇な対戦相手が決勝に上がった。
「‥‥ハゲオ兄ちゃよりは魅力的だよ、多分」
ぽそりと呟いて三番手のルーティクスはマジックを披露。黒を基調とした紳士然とした外見である被り物から花を出して客の女性達や審査員に配っていた。大量に飛び出す鳥の群れ。
尚、ルーティクスの演技はアリエスと同じくアトラクションの一部として認知され、男らしさの点が下回り敗退。会場ウケがよかった為か、古立と同じくストーキングされる。
「わ、私は通訳であって芸人ではありません!」
「お、俺食べてもおいしくないよ! うわぁぁ銀白兄ちゃ!」
古立がルーティクスを抱えて逃げ回っている。
四番のヒックスは対戦予定者が同点敗退という結果になり、戦わずして決勝へ。
なんだか凄い状況になっている。勝ち負けは時の運なれど、ハプニング続きの一般戦と準決勝は終わり、デルタチームからはヒックスだけが出場決定した。
――その夜。
隣の爺チームが宿泊している棟から野太い悲鳴とピンクな枯れた声が聞こえたが、デルタチームは我関せずを決め込む。飛び火したら大変だ。しかしそんな中レイヴァントはアリエスに。
「やらないか」
「はひ!? な、なにをですかぁ??」
「敵を知れば百戦危からず。爺が男を襲う気持ちを理解しようと思ったまで!」
ザ――っと、レイヴァントの傍から離れる男達。アリエスが固まった。
「そんな事ためさなくていいですぅ!」
「ハッハッハ、君の容姿ならば私も抵抗少なくやれる」
実は苛めて遊んでいるだけなのだが、迫力が怖い。
「わ、私は男の子なんです――――!」
叫んで逃げた。レイヴァントの視線が泳ぐ、じりっ、と交代する皆さん。
――ニタリ。
「うおぉぉぉっ! 逃げるぞルー!」
「ヴァーナじーちゃに続いて人気だね、ハギオにいちゃ」
「案ずることは無い。根拠なく安心したまえ」
飛べないルーティクスをつまみ上げ、ハギオは逃げた。レイヴァントはノリにのって一晩中仲間を追い掛け回す。冗談だと知っている者と、羅猛と女性応援団達はのんびりお茶を楽しんだらしい。
ちなみにレモンドが退屈していそうな参加者のために闇ナベを作ってきたのだが、レイヴァントのお戯れ騒ぎによってお流れになった事を書いておく。
三つ巴の決勝当日。デルタチームは肩を組んでヒックスを応援中。
当のヒックスは―――服を着ていなかった。
洋服を着ているように見せかけ、全身ボディーペイントと下着姿で決勝に望んだ。相手チームが奇妙な根性を発揮する中で、ヒックスはあくまでも清々しい笑顔で筋肉トレーニングを始めたではないか!
さらにその清々しさをアピールする女性応援団に扮した吟遊詩人。ポロロン、と竪琴から奏でられる音が爽やかさを演出していた。
地味だ。非常に地味な戦いだ。
「ハハハ。これが今イギリスで最先端を行く服装だ」
敵チームに引き続き、ヒックスも間違った知識を観客に植えつけた。もちろん締めは股間を強調したスクワット。そのまま颯爽と去ってゆく。よく異性に間違われるヒックスだが、この時ばかりは背中が男を語った!
というか一番まともな演技だった‥‥多分。
「ハギオ殿。このコンテスト、何が目的でしたっけ?」
「わからねぇ」
さてさて。なんと優勝者はヒックスだった。二位と三位はヴァルナルドチームに持っていかれたが、皆はヒックスを胴上げ。爺孫勝負もひと段落つき、その夜は両チームで酒盛りをしたらしい。
かくして大会は幕を閉じた。
ん? 素敵な男を紹介して? いい男の定義を聞きたい?
そんな事は気にしてはいけない。そう、全ては貴族の道楽。時の悪戯。骨休めのお遊びコンテストも終わった。明日から再び、彼らは忙しい冒険の毎日へ戻ってゆくのだから。