ギルドの中心で愛を叫ぶ?

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月13日〜09月18日

リプレイ公開日:2004年09月17日

●オープニング

「おっちゃん、おっちゃん」
「なんだよ。また楽して経験を、とか言ったらぶっ飛ばすぞ」
「いや、そーじゃなくて。強い奴と戦ってみたいなぁと」
 冒険者ギルドの受付で、とある冒険者がおっちゃんとそんなことを話していた。雑魚には飽きたという類の冒険者は多いものである。そこそこ倒し外のある奴の所へ紹介してもらえないだろうかと話しかけていた。おっちゃんは溜め息一つ吐くと、ぺらりと一枚の依頼書を見せた。
「どーなってもしらねぇぞ」
「骨だけ拾ってくれりゃあいいさ」
 ふふんと鼻をならす冒険者。おっちゃんは呆れながら答えた。
「‥‥それ、やられたら骨も残らんぞ」
 皆さんはクレイジェルというものをご存知だろうか。そう大地を這い回る迷惑ゼリーモンスターであるが、これがまた半端でなく強い。例で言うならレイス並に反則なモンスターだった。注意深く見ないと判別できない上、捕まったら最後酸で溶かされ食われてしまう。一応は虫の類だという。
 キャメロット周辺の村でクレイジェルが一体現れたらしいという報告があった。クレイジェルは家畜を食い荒らし、今にも人間を食いかねない勢いだという。
 いまさらながら『強い奴』を要求した冒険者は青くなった。
「そいつをやるときは注意しな。あと人数がいるな、できるだけ多い方がいい」
「なあおっちゃん」
「なんだ?」
「――――仲介書の返品不可?」
「バッキャロ―――――っっ! お前は冒険者だろうが、ああん?!」
「だってだって、こんなバカ強そうな奴よこすなよおおっっ! 愛が無いぃぃぃ!」
「依頼に愛があるかぁぁぁぁっっ!」

 はてさて。無事に退治できるのやら?

●今回の参加者

 ea0904 御蔵 忠司(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0933 狭堂 宵夜(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea1049 カーク・ウィリアム(31歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea2080 文月 進(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2810 アンジェラ・シルバースノー(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3073 アルアルア・マイセン(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4449 ロイ・シュナイダー(31歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6015 ライカ・アルトリア(27歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea6033 緲 殺(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6697 アゼル・ゲーティア(28歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

「愛ってまさかあのドロドロを好きになれってことじゃないわよね?」
 不穏な一言がアンジェラ・シルバースノー(ea2810)の唇からこぼれた。何人かがブルブルと身震いしている。
「全員で無事に帰還しましょう。相手が相手ですから注意しないとこちらが危険ですからね」
 見つかりにくい上、酸の攻撃。あまり気を抜いてよい相手ではない。ライカ・アルトリア(ea6015)は皆にそう発言し、気を抜くまいと考えていた。切っても切れない、切れてなーい。そんな迷惑モンスター。普通の動物と違って手ごたえが見られないから大変だ。
「‥‥どこにいやがる、泥んこ野郎」
 狭堂宵夜(ea0933)が忌々しげに呟く。ギルドから派遣されてきた冒険者総勢十一人。村について早々、十一人はクレイジェルを探した。
「さって、クレイジェルちゃん‥‥どんなかわいい姿なんだろうねぇ」
 ステインエアーワードを駆使してクレイジェルの足取りを探すカーク・ウィリアム(ea1049)が捜し歩きながらこんなことを呟いていた。
 皆がボヤク中、発見しにくいはずのクレイジェルはいともあっさり見つかった。牛や野兎、いざとなれば人間をと準備万全だったのだが、囮に引っかかった訳ではなかった。
 理由、隣の家畜が食われる。
 ゲル状モンスター‥‥食欲だけは旺盛らしい。人が襲われなかっただけ良かったかもしれないが。
 遠めには泥を被った家畜、にしかみえない。
 だが泥は明らかに意志を持って動いていた。巨大な家畜を覆うように足元から這い上がり、ジワジワと獲物を脱出不可能な泥の網の中へ追い詰めていく。酸で体を溶かされ出したのか、家畜は断末魔にも似た咆哮をあげた。
「ひどいな‥‥あんまり歓迎したい相手じゃないよね」
 グロテスクな光景を眺め、緲殺(ea6033)が眉をしかめた。全身を覆われた家畜を救い出すのはもう無理だろう。考えも無く突っ込むのは危険すぎる。
 アルアルア・マイセン(ea3073)が音も無く剣を抜く。
 傍らにいたロイ・シュナイダー(ea4449)が周辺の屋根を見回した。ラシェル・シベール(ea6374)が屋根からクレイジェルを探していたはずだった。視線を彷徨わせた先に人影を確認する。
「――ラシェルも気づいたな。今の隙に取り囲もうか」
「被害が出ないように注意しなくては」
 御蔵忠司(ea0904)の言葉に、ヲーク・シン(ea5984)がふぅむと唸った。
「暴れたとき建物に燃え移らないように、もう少し離れた場所に誘導した方がいい。言ってた通り俺が生餌になろう。アンジェラさ〜〜ん、取り込まれた時はアイスコフィンで」
「ちょっと危険だけどね」
「私はヲークさんとクレイジェルの注意をひきます。衝撃波でクレイジェルも気づくでしょう。行きましょうか」
 文月進(ea2080)が確認を取る。こうしてクレイジェルの駆除は始まった。

「気づくと良いんですけど」
 進は呟くと共に、クレイジェルから三メートルほど離れた場所から衝撃波を繰り出した。
 ザン、と標的を打つ衝撃波。
 奇妙な空気の震えは悲鳴か絶叫か。
「来たぞ!」
 ヲークが吼えた。獲物を覆っていたクレイジェルはその形を崩しだす。
 どろどろと流れるように大地へ落ちると、攻撃を加えた相手に向かって進み始めた。
 残された家畜の残骸、むき出しの肉と骨。
 クレイジェルに取り込まれたが最後、ああなってしまうのだと。
「こっちだよ!」
 殺が囮を先導していく。危険回避とはいえ、あまり建物から離れすぎるわけにはいかない。屋根の上でラシェルが火矢を放てるように待機しているのだ。
 そろそろという場所で、忠司と宵夜が油を投げる。クレイジェルは投げられた油を包むようにして食らった。其れを見て、皆が次々と油を投げてゆく。
「皆さん離れてください!」
 ラシェルが火矢を放つ。
「燃えちまえ!」
 宵夜が叫んだ。大量の油に点火した炎はクレイジェルの体を燃やし始めた。だが、逃げ惑うどころかクレイジェルはヲークと進への追跡をやめない。
「さーて、楽しませてくれよ!」
 注意を分散させるべくカークがウインドスラッシュを唱え出す。
「Ein KOrper ist ein KOrper―――!」
 掌に生み出された真空の刃。
 風を切り裂きながら放たれた刃は、大地を削りながら標的にぶち当たる。
 各所からの攻撃の末、予想外の出来事が起こった。
 十一人が取り囲むようにしていたクレイジェルは、地を這いながら『皆』に向かって触手を伸ばし始めた。胴体が膜の様に伸びてゆく。
「――こいつ、俺達全員を食うつもりか!?」
 ロイが瞠目する。
 火をつけられて尚、取り込もうとする執着心。攻撃性が明らかに増していた。
「戦うしかありませんね」
 ライカの表情に厳しさが増した。剣を抜き放って構えた。
「広がっては燃やすのも一苦労になります」
 アルアルアは即座に自らの剣にオーラパワーを付与し、襲い来る触手をなぎ払う。殺もまたロッドにオーラパワーを付与した。直接は危険だが、仕方が無い。
 逃げるには後退するのが一番だが、そうすればクレイジェルは限界まで広がろうとするだろう。立ち向かうと決めた者達が触手をなぎ払って前へ進む。
 取り込まれるか取り込まれないか、ギリギリの綱渡り。
「――ヤバぃ!」
 不意をつかれたかヲークと宵夜の足に触手が絡みついた。なんと宵夜は勇敢にも自らの足に油を撒き、持っていた松明で着火した。クレイジェルの触手がひるんだすきに逃れ、ごろごろと地面に転がって火を消している。
 一方ヲークは慌てて傍にいた忠司が後退の手助けにかかったが、近くにいた別の触手まで狙いを定めてくる。
 まずいと判断したアンジェラがアイスコフィンを唱えた。
「アンジェラさ〜〜ん。貴女のその冷たい視線、背筋がゾクゾクする!」
 ぱきょーん。
 ノロケた言葉を発してアイスコフィン成功。
 ヲーク・シン、若くしてクレイジェルと凍る――という事態は避けられたようだ。
「莫迦言ってないで逃げろよ」
「いや、まあ間一髪で逃げれたし。ちょっと溶かされたけど」
 間一髪でクレイジェルから離れたようだ。ただし先ほどからめとられたときに少々酸にやられたらしい。痛む足を抱えつつヲークは宵夜の叫びに冷静に答えた。だがヲークの額に脂汗が滲んでいる。
「アイスコフィンの強度は、ほぼ最高峰だし、溶けるのを待って火炙りにかけましょう」
「アンジェラさ〜〜ん。俺の美脚、ちょっと溶けたっぽーい」
 そりゃ酸だ。触れれば溶ける。
 ヲークの悲痛に聞こえない悲痛な訴えに、ライカが進み出た。
「私がリカバー使えますから、後で治します。安心してください」
 クレイジェルは凍っていた。危険を冒した分、広がらなくてすんだらしい。
 しばらくして無事――かは分からないが、命に別状は無かったヲーク。宵夜とヲークは酸に軽く溶かされたためか、軽い凍傷に似た症状となりライカの介抱を受けていた。

 じーり、じーり、じーり。
 徐々に溶ける氷。身動きの出来ないクレイジェルを火炙りにしながらポツリと呟く。
「なぁ、これ全部燃えるまで待つのか? 日が暮れそうだが」
 火炙りは有効――とはいえ外部から焼いている為、炎のダメージも基本的には弱く、僅かなダメージを与えながらシャーベット状態のクレイジェルの生命力を削っているに過ぎない。火炙りに加えて一番有効な方法といえば‥‥
「――ボコボコにするか」
 ロイがずらりと剣を抜く。
「同感です。破壊してしまいましょう」
「クレイジェルを倒すことこそ私の役目。村人の代わりに私達が始末しましょう」
 ライカやアルアルアも続いた。
 百害あって一利ないゲル状モンスターは生かしておけない。じりっと冒険者達は思い思いの凶器を手にして炙られるクレイジェルを見下ろした。
 獲物を狩る、狩人の眼光。

「‥‥泥は泥に‥‥ってか?」

 クレイジェルはこうして十一人に容赦なく粉々に削ら‥‥否、倒された。
 村はクレイジェルが食った家畜の激減により圧倒的被害を受けたが、天災だと思って諦めることにしたらしい。退治してくれた冒険者達に向かって涙を流さんばかりに喜んだ。質素ながらも一晩彼らはもてなされ、翌日キャメロットへと帰っていった。
 厄介と言われているモンスターも、やりよう次第ではこの通り上手くいく。
 いくつもの経験を重ね、冒険者達は少しずつ。

 輝かしい英雄への道を歩いてゆく――‥‥