問答無用教育論―彼がドレスに着替えたら―
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 20 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月20日〜09月27日
リプレイ公開日:2004年09月27日
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●オープニング
「ねぇレモンド君。君の器量と容姿を見込んでお願いがあるんだけど」
「なんでしょうか、プシュケさん」
ひそひそひそ――――ニヤリ。
とある貴族――エレネシア家の長女プシュケと、その弟デルタの幼馴染である苦労性クレリックのレモンド。ある日唐突にプシュケに呼び出されたレモンドは、ちょっとした悪巧みに付き合うことにしたのだった。そう、すべては根性無し子息のデルタ教育の為に。
「結婚しよう。デルタ。教会の予約はしてあるぞ」
悪巧みの方向性は、大地が回転するくらい間違っていた。
「‥‥‥‥ど、どうしたんだ」
さすがにかける言葉が見つからない。
さもあらん。純白のドレスに身を包み、ロングベールをティアラで止め、装飾品で身を飾り、片手に百合のウェディングブーケを手にした幼馴染(注意:男性)が突然部屋に押し入ってきた。どーみても花嫁姿だった。
何をトチ狂ったのか『結婚しよう』と爆弾発言をかました幼馴染は切々と語りだす。
「いや、私は気づいたんだ。お前のだめっぷりは貴婦人達の手に負えない。本音と建前が交錯する貴族社会で、ボンクラ子息のお前が家を継げるはずが無い。きっとお前が家を継いだら子もできず、人にだまされ、エレネシア家は潰れてしまうに違いない!」
本人目の前に、そこまでゆーなよ。
「そこで私は解決策を打ち出した!」
聞いちゃいけないと本能的に感じつつ、聞いてしまうのが人の良さのあらわれだ。
「――どんな?」
「頭脳明晰、才色兼備。長年お前の駄目っぷりに耐え抜いてきた強靭な精神力を持った私こそ、お前の面倒をしょっても耐えられる! というわけで観念してついて来い」
がしっと首根っこ掴まれる。
右手に掴んでるのは指輪だろうか。
「あほかぁぁぁ! お前が女ならともかく男同士で結婚できるか!」
「何を言う。だから恥を忍んでこの格好をしてきたんじゃないか、ほら」
「余計なチラリズムはせんでいい! 格好の問題じゃない! 子孫だって無理だろ! お前は俺の家を潰す気か!」
「ノンノンノン、結婚後に俺が外で女に孕ませるかすれば万事オーケー。お前には薬を盛ってやろう。苦しまずに逝けるぞ」
「後釜狙いかぁぁぁっ! 俺には立派になって迎えに行くと決めた心の恋人がいるんだぁぁぁ!」
というわけで幼馴染の「さあ結婚しろ」攻撃から逃げる為、デルタ君は旅道具一式もって家から逃げ出した。その後姿を、雇われ用心棒が追跡しに行く。姿が見えなくなると同時に、レモンドの傍らにプシュケが現れた。
「第一段階クリアーです、プシュケさん」
「おっけー、じゃあ第二段階いきますか。ごめんね、そんな格好させて」
「かまいませんよ。かわりに報酬も弾んでくださいね。ゴールド二桁」
黒い、とかいう言葉を髣髴とさせる光景が広がっていた。
さてあけて翌日。なんとエレネシア家に一通の手紙が投げ込まれた。
手紙の内容はごく単純『花嫁は頂いた。返して欲しければ500G用意して下記の場所に来られたし』というもの。れっきとした誘拐事件である。これを用心棒経由で知らされたデルタ君、さすがにへっぽこでも正義の味方、腐っても根性だけは男前、誘拐された幼馴染が心配になり冒険者ギルドに自分と共に誘拐犯退治をしてくれる者を求めた。
いざ『花嫁』奪還。
実はこれ、デルタ君の性格を知り尽くしたお姉さまの策略である。前にもレモンドが教育にチャレンジしたが、金貨拾わなくなって敵に一撃食らわせるだけで走り去る。
早い話が根性なしは解消してなかった。
レモンドにべったりの弟を見かね、ならばいっそ人質役になってもらい、それなりに根性もつける為、救出者としてお膳立てをしてやろうと考えた。勿論誘拐犯も雇った、はずだったのだが‥‥
「なんですってえ!? 横槍にあって攫われたぁ!?」
「す、すいません。例の空き家に山賊が巣食ってて、べらぼー強くて、ご、ごめんなさい」
どうやら本物の山賊とやらに花嫁に扮したレモンド氏は攫われてしまったようだ。
「ど、どうしよう。容姿がいいから本当に間違われたんだわ。レモンド君は体力無いのに。ギ、ギルドに頼んだみたいだし大丈夫よね」
とりあえず急ぎプシュケはデルタに同行する冒険者達に連絡を取り、事の流れを一から十まで説明。尚、デルタにこの事を知らせず、彼を教育しつつ、レモンド氏を無事救出してほしいとデルタとは別に依頼した。
――――はた迷惑な依頼である。
一方、その頃。
某山賊と攫われたレモンドは王都から二日ほどの深い森の奥にいた。化け物でも棲んでいそうな老朽化した建物から賑やかな声が聞こえてくる。一階を過ぎ、二階の全三部屋あるうち右小部屋に、どっかの誰かさんはいた。
「けっけっけ、ヨォ花嫁さん。昨晩はよく眠れたかい?」
花嫁が男だと気づかない山賊。攫われたレモンドはといえば寝台の鉄格子に両腕を縛り付けられ、自由を奪われていた。彼は唇をかみ締めて昨夜の出来事を思い出す。
『――ふ、身代金もらって殺すにゃ惜しいな。たっぷり可愛がってやるぜ、花嫁さんよ』
「くぅっ!」
しかし。
「嘘をつくなぁぁぁ! 俺は女が大嫌いなんだよ! 誰が女なんぞ襲うか!」
山賊が抗議の叫びを上げた。逆にレモンドは――
「リードシンキングで人の妄想を読むんじゃなくてよ!」
ノリノリだった。
●リプレイ本文
「一応人質救出‥‥になるのか?」
クレアス・ブラフォード(ea0369)は依頼人の顔をみてふぅむと唸った。またわけの分からない依頼に入ってしまったものだ、とぼんやり考える。
「解り、辛いけれど‥‥要約、すれば、山賊退治‥‥よね? ぶん殴れば、いいだけでしょう‥‥? 解りやすくて、いい、依頼ね」
淑やかな女神の微笑とは裏腹にトンデモ発言する麗蒼月(ea1137)。噂に名高き『Gクラッシャー』の腕前をすぐにでも拝みたい方は彼女相手に「一家に一台欲しい方ですね」とかド失礼発言すれば十分だ。
勿論、記録係は発言後の生死については保障できない。
一方山賊の情報を聞いた香夜詩音(ea0636)は、娘がいると聞いて「にやー」と口元を緩ませていた。ジプシーを禁断の愛の世界に目覚めさせてみようかな、と脳裏でシュミレートしてる辺り危険極まりないが、ジャパン語には素敵な言葉がある。
『触らぬ神にタタリなし』
「ふむ、手伝いか? ちゃんと‥‥戦えるんだろな? ‥‥足手まといに‥‥なると‥‥サポート‥‥疲れるんだが? う〜ん、嫌な感じがする。誰か、悲惨なことになりそうな」
思いっきり本音零しながら赤い扇で扇ぐシスイ・レイヤード(ea1314)。その傍らではフレイア・ヴォルフ(ea6557)が、まあまあとブツクサ文句を零すシスイを宥めながらデルタ君に手を差し出す。
「初めましてだね。あたしは紅月旅団、十三夜のフレイアって言うんだ。宜しくな」
「さて、挨拶はほどほどにしてだ」
キース・レッド(ea3475)が皆を見回す。
「小屋の表から、奇襲班が派手に騒いでもらう。その間、僕とジョーイ君、フレイア君の潜入班が裏から忍び込み、二階に囚われている例の花嫁君の身柄を確保する。で、いいね? ふっ、殺しはしないよ?」
「それでは僕は奇襲班の方に回りましょうか」
ユエリー・ラウ(ea1916)も教育にウキウキしている節が見られるのは気のせいか。
さてデルタ君が冒険者達と挨拶を交わす中、唯一ひっじょーに挙動不審な男がいた。ジョーイ・ジョルディーノ(ea2856)である。しきりにきょろきょろ見回し。
「あーデルタ君。お姉さんは?」
「現在来客中です。女性のクレリックみたいですが」
「何!? 折角『ミゴトな夜は』とか冗談囁いてみようと思ったのに!」
「姉さん死んだ旦那に一途ですから遊ばれるだけですよ。‥‥言い寄ってきた男を顎で使ってるのは見た事ありますが」
「莫迦な、散々夕方まで買い物に付き合わされたオチがコレなのか?!」
「姉さんジジィの血が濃いので愉快犯まっしぐらです。それより救出手伝ってください」
しがない男の妄想砕けること数秒後。
愛のハンティングを夢見た泥棒は、幼馴染を助けに行かんとする珍しく凛々しいデルタ君に引き摺られて行ったのであった。仲間は溜め息をついていたそうだが。
山小屋について早々、クレアスは言った。
「デルタ、真の漢というのは、どんな苦境にあってもニヤリと笑って切り抜けろ! それができれば貴様の花嫁も無事にかえってくるし、人間としても立派な成長を遂げることができるだろう。そういうわけだから行ってこい!」
げしっ、と唐突に背を蹴った。派手にぶっ壊れる扉。
となると一人だけ敵の中に放り込まれたわけで、顔を上げた先は強面のおにーちゃん。
「なんじゃ貴様ぁ!」
「いぎゃああああああああっっ!」
クレアス・ブラフォード、実は容赦が無かった。脱兎の如く逃げ出すデルタ君、彼を追い掛け出す山賊たち。外で待ち構えていた冒険者達と対峙した。
「幼馴染の救出も満足に出来ないようじゃ、人としてダメですね。彼は貴方の花嫁でしょう! 花嫁を守れないようじゃ男としてもダメですよ!!」
雑魚と戦いながら言うユエリー。しかし救出対象は花嫁に扮した『男』。分かってて言ってる辺りデルタ君が不憫に思えるのはさておいて。いきなりディストロイ放ってきた親分だが、蒼月の方に向かって放ったにもかかわらず、的は山小屋だった。
「ノー――っ! 僕のパピィっ!」
何言ってるのか不明だがオタオタしてる間にスタンアタックで沈黙。
強いはずなのに――メッチャ弱ぇ。
「縛るの‥‥面倒、ね‥‥よろしく、シスイ」
と蒼月が振り向くと。――変態に当たったらしいシスイがキレかけていた。
「あ〜暑苦しい‥‥ポージングでアピール‥‥するな‥‥近付くんじゃない」
真紅の扇をひとなぎすると、爆風が数人を吹っ飛ばす。――星になった人、合掌。
その頃、二階から見下ろしていたジョーイはジプシーがボーっとしてるのを眺め、キラリと瞳を光らせると任務を放棄して二階から駆け下りた! そのまま妹さんの所へ走り。
「君はこんな所にいちゃいけないんだ!」
呆然とするジプシー。お決まりの台詞を吐いて有無言わさず妹を姫抱きにし逃亡を図る泥棒――と、毎回上手くいくほど世の中は甘くなかった。
「おぉっと手が滑ったぁ!」
ゴンっ。
交戦中だったはずの詩音の投げた拳大の石がジョーイの後頭部にヒットした!
ジョーイは「ジーザス」などと言いながらカッコよく崩れ落ちる。詩音もジプシーを狙っていた口だ。逃亡はフェアじゃない。――少々反則技かもしれないが。
「大丈夫かい?」
「は、はぁ有難うゴザイマス」
「可愛いね、さぁこっちにおいで」
むふふふ、と怪しい笑顔を浮かべてジプシーを奥の部屋へ引きずっていく詩音。
「え、あ、ちょ、き、きゃあぁぁぁ! 助けてオネー様!」
「戦うと‥‥お腹、空くのよ‥‥ね‥‥。何か、食べるもの」
一番近くの助けてくれそうな女の人は空腹で周りが見えていなかった。蒼月は山小屋を捜索しはじめ、乙女の叫び虚しく戸は閉まる。尚、泥棒ジョーイは山賊も倒すことなく仲間の手により気絶、早くも戦闘不能決定。
キースはとりあえず一階を見て見ぬフリをした。レモンドを発見して縄を解きつつ。
「君は救出された花嫁、とやらになってもらうから覚えておいてくれたまえ」
「あの人の考えそうな事だな、まあ金かかってるし任せてくれ」
「ちなみに下らない思いつきで行動すればこうなるんだ、覚えておくと良いさ」
「ハハハ莫迦いっちゃいけない。あの家についていくにはコレくらい朝飯前だね」
‥‥何言っても駄目っぽい。
さて、キースがレモンドを助けに行っている間、フレイアは『謎のペット』がいる部屋をこっそり覗きに行った。すると扉の向こうにいたのは動物ではなくスライムでもなくドラゴンパピィ。希少価値は非常に高いが――なんでこんな山小屋に?
「きゅ〜〜?」
「うぅ!」
つぶらな瞳で縋る様な眼差しを向けられると、乙女としてかなりのダメージだ。その時、揺れに揺れるフレイアの脳裏は異世界と繋がったようだ!
ど×する〜〜♪ ア(以下省略)〜♪
しばらくしてフレイアが戻ってきた。
「あたしは何にも見てないぞ」
爽やか過ぎる美女の笑顔、キラリと歯を光らせて走り去ろうとしたが。
「その手に持ってる奴はなんなんだい!?」
さすがのキースも驚いてフレイアの首根っこを掴んで止める。
「ドラゴン‥‥捌けば‥‥食べられる、わよね」
じり、と立ちふさがる蒼月。
希少なドラゴンまでも食おうとする根性はナカナカだ。黒いオーラが怖いけど。
「お前それでも人かーっ! 人でなし!」
蒼月にのされ、シスイ縛られた親分が喚いている。
「人攫いが‥‥うるさい」
「ごへ!」
シスイが親分を昏倒。と、自分で山賊二人を倒したデルタ君がレモンドの姿をみつけた。
「レモンド!」
「デルタじゃないか!」
しゃらららん、しゃららん、感動の再会が‥‥
「莫迦やろうオォォォ! お前のせいで悲惨なめにいィィ!」
花嫁殴り飛ばすデルタ君。クレアスに放り込まれた恐怖の矛先はコッチになったらしい。遠くに吹っ飛ばされた山賊を回収しに行っていたクレアスとユエリーが帰ってきた。詩音が上機嫌で個室から出てきた時には、シプシーは再起不能であったという。
「姉さんがいない?」
「今朝の客人が帰った後に急にね。何も言わずにだ、全く」
デルタがレモンドを救出(実際救出したのは冒険者)して帰ってくると、姉は忽然と消えていた。机に一厘、黒く変色した薔薇を残して。そのうち帰ってくるだろうと祖母は言う。デルタの表情が硬い。逆にレモンドは一瞬真顔になった後。
「んーお姉ちゃん子か、いくらなんでもシスコ‥‥」
「うおぉぉ! どやかましぃ! 誰のせいで悲惨な目にあったと思ってるんだ、この女装男があぁぁ! お前のせいでお前のせいで! デルタ百裂脚!!」
目にも留まらぬキックが繰り出された。
案外強いのかもしれない。
「ところで追加報酬はどうなるんだい?」
キースの言葉にぴたりと止まる。祖母の眉間に皺ができた。青くなったレモンドがキースに追加報酬を手渡すと、デルタ君の祖母に引っ張られて消えていった。たぶんお仕置きとやらだ。
「コレは山分けにしろ、ということかな」
「そういうことだろう。まあデルタは逞しくはなったようだし」
「逞しいんでしょうか?」
クレアスとユエリーは離れた場所にいるデルタ君を眺めて溜め息を吐く。
「何か‥‥今回、思いっきり‥‥疲れた」
シスイが精神的にボロボロになっていた。いつの間にか復活したジョーイが言った。
「そうそう、この前のコンテスト、リベンジする気満々の奴等が結構いるんだ。またやったら、儲かるぞ?」
デルタ君はくわっと目を見開いた。
「金儲けは騎士道にあらず!」
少し前まで金貨一枚を目の色変えて追っかけてた貧乏性の言葉に説得力は無い。
こうして花嫁誘拐騒ぎは幕を下ろした。迷子ドラゴンパピィはギルドに引き渡され、数日後、元の自然に無事帰れたようである。冒険者が帰った後、悶々と金儲けの手段に手を伸ばすか悩んでいた青年が居たそうだが、それは風の噂というものだろう。真偽のほどは記録係には知る由は無かった。
めでたしめでたし。