仄暗い森の底から
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜4lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 32 C
参加人数:10人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月27日〜10月03日
リプレイ公開日:2004年10月04日
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●オープニング
最近冒険者が森で消えるらしい。
そんな噂がふらふらと出ていた。
実際調査に行った人も行方不明になっているというから大変だ。
ただ同行していたもう一人の調査の人はこういったという。
霧に包まれて、消えてしまったと。
「山の麓、か。クラウドジェルじゃないのか?」
「あーやっぱそう思ったか。おれもそんなんじゃないかと思ってたんだ」
専門家を呼んで現場を吟味したところ、モンスターの名前があがった。本来は高い空で浮遊し、鳥などを捕食しているモンスターだ。なんで森の中に浮遊してるのかはしらないが、山の麓の森と入ってもそれなりの高度がある。低い雲なら到達できる高さだ。
しかもいつも霧深いとなれば絶好の狩場となるだろう。
おかげで冒険者や登山者が食われているようだが。
「数はどうだろうな、お前さん分かるか」
「そうだなぁ、統計からとって一体だろう」
「おっけ。おーい、そこのお前さんたち」
何か良い依頼はないものかと、探し回っている冒険者に向かって、ギルドのおっちゃんは声をかけた。
「こーんなの倒してみないか?」
仄暗い森の底から待ち受けてる迷子(?)のクラウドジェル一匹。
袋叩きはいかがですか?
●リプレイ本文
「おぉそうだ」
おっちゃんは思い出したように出発寸前の冒険者達に言った。
「ペット持ち込むと食われる可能性が高いからな。大事なら森に入る前に置いとけよ」
おっちゃんなりの親切心だったようだ。
さて紛失したら泣きそうな荷物の類を森の前の山小屋に隠した一行は、最低限の荷物を持って霧深い森の中へと消えていく。やがて――ナベの匂いがしたりする。
「保存食はお鍋に出来るのでしょうか、ドキドキですね」
何やら楽しげな双海涼(ea0850)は、一部がカンパした保存食数人分を鍋に叩き込んで目を輝かせていた。ジャパンの調味料が欲しい、とブツブツ文句も言ったりしているが。ソラム・ビッテンフェルト(ea2545)が拾ってきた木で焚き火を轟々と燃やし、ユージ・シギスマンド(ea0765)がニコニコしながら涼とソラムの傍に近づく。
「あ、お鍋手伝いますよ」
「料理できないだろうが、俺がやる」
弟のスタール・シギスマンド(ea0778)だった。調理技術の無い姉に手伝わせたら、唯でさえ保存食の怪しい鍋が益々危険なものになりそうだと判断したのかもしれない。ソラムと涼の中に混じって調理を始めた‥‥が、実はかろうじて調理技術を持ってるのは三人の中でスタールだけだったりする。
オー、ウェルカム闇鍋。この鍋は誰にも止められない。
さて着実に怪しい鍋の完成が近づく中で、ロア・パープルストーム(ea4460)が何かに気づいたように鍋を囲む一行を見回した。
「ねぇ、二人ほど足りなくない?」
先ほどまでの移動で右列先頭にいたフェシス・ラズィエリ(ea0702)と左列二番目にいたリュウガ・ダグラス(ea2578)の姿が無い。一瞬空気がひやりと変わったが、レイヴァート・ルーヴァイス(ea2231)が「あぁ」と声をあげた。
どうも二人は染料について相談にいったらしい。最初リュウガは植物を採取して染料を精製するつもりだったようだが、気がついてみれば植物は見分けられても自分に染料精製技術は無い。
「リュウガさんはホーリーフィールドも使えるようですから大丈夫でしょう」
むしろ男なら自分で何とかしろという考えのレイヴァート。女性は身を盾にしてでも守るが、男のカバーはしないと決めている。そうこう話しているうちにクリオ・スパリュダース(ea5678)が人影を見つけた。
「噂をすれば、だね。おーい、こっちこっち」
霧の向こうから現れたのは噂の二人。皆が二人の方を向く。クリオが手を振って呼ぶのに対し、ようやく顔が判別できたかと思えば、リュウガとフェシスの表情が凍りついた。リュウガが呪文を唱えだし、フェシスが舌打ち一つして走り出す。
向かう先はクリオとシルフィード・インドゥアイ(ea5287)の二人の方向、そのまま二人を押し倒そうと手を伸ばす。其れを見たロアが両手で顔を覆って騒いだ。
「キャーなになに!? 何か熱烈なアプローチ!?」
「再現の神、大いなる父の力を持って聖なる結界をここへ! ホーリーフィールド!」
バンッ、と弾かれる音がした。
「何暢気な事を言ってるんだ! 早く離れろ!」
激しい声の一喝。その頃になってようやく皆も気づいたらしい。
クリオとシルフィードの背後に緑色の浮遊体が蠢いていた。先ほどの炸裂音は二人に迫っていたクラウドジェルをリュウガのホーリーフィールドが弾いた音だったようだ。フェシスに押し倒されたクリオとシルフィードが起き上がって敵生体を視覚に捕らえる。
「二人とも大丈夫か?」
「あっぶな‥‥、おたくのおかげか」
「不意打ちが得意、噂の通りですわね」
「今の接触でホーリーフィールドも解呪、早く位置へ」
ぶよぶよと空中を蠢く緑のクラウドジェルは、ホーリーフィールドに弾かれた衝撃からか体制を立て直さんと漂っていた。慌てて三人も離れて隊列を組みなおす。何人かは鍋に使っていた薪を松明代わりに手にした。使えるものは使うに越したことは無い。
リュウガが結界を張り直す間に移動時と同じ隊列を組みなおす。攻撃を受けると拙い者をカバーしながら前衛と後衛が臨機応変に対応できることを考えれば文句なしの配置だ。
「これでどうだ!」
フェシスが染料を投げつける。完全に実体化している最中なら判別できても、霧にまぎれて同化されては見えなくなるかもしれない。染料が散らばる。フェシスはランタンの光を確保しながら前衛の援護に回る。レイヴァートが両の剣を抜いた。
「いきます!」
鋭い呼気とともにレイヴァートの白刃が閃く。右のノーマルソードが直接クラウドジェルの胴を凪いだ。アーサリアの剣も同時に叩き込まれる。攻撃を受けて体を変形させ広がろうとするクラウドジェル。その時、クラウドジェルの断片が鍋をひっくり返した。
「あぁ――くっ! 鍋の仇!」
闇な鍋の仇もどうよ、とか突っ込んではいけないが涼が松明を手に殴りだす。一件無謀に見えなくも無いが、腕力プラス松明と言うのは効果もあったらしい。松明の炎を避けるように奇妙な動きをはじめた。
遊んでる暇は無いらしい。ロアがスタール達にバーニングソードを施す。
「見分けがつかねぇってのは‥‥やな相手だが」
文句を言いながらも、スタールの炎の切っ先は確実にクラウドジェルに食い込んでいく。彼に続いてクリオの日本刀が牙をむいた。最初の前衛が攻撃をしている間にオーラを付与したクリオの太刀は威力を増している。
「目も鼻も耳もないくせに、よくやるよ」
反則だろうと悪態をつきながら攻撃の手を緩めることなく着実に仕事をこなしていく。すでに重症に近いクラウドジェルはズッと霧の中へ逃げ場を捜した。
「させません! アイスコフィン!」
ソラムのアイスコフィンがクラウドジェルに向かうも、クラウドジェルは木陰に隠れながら進んでいる。アイスコフィンは木の幹に命中し、一本の氷の樹木が出来上がった。
「俺が行く」
リュウガが地を蹴った。動きは鈍くても相手はジェル、おまけに酸を内包している。下手にきり続ければ刃物も腐食してしまう。バーニングソードを付与した日本刀は素早さを増して逃げるクラウドジェルの中央を抉った、――まだ浅い!
「リュウガ君、伏せて!」
それはレイヴァートの声だった。反射的に右へ飛んだ刹那、シルフィードの呪文が完成する。
「ライトニングサンダーボルト!」
シルフィードの手に収束した光の渦が放たれた。直線状を駆け抜ける雷の猛獣。それまでリュウガがいた場所、中央を狙って閃光がクラウドジェルの身を焼いてゆく。決定的だったようだ。クラウドジェルは浮遊する力すら失い、びちゃりと大地へ落下した。
それでもまだ動いている。
「わ、私も戦います」
「おぃユージ!」
なんとユージが飛び出して持っていた松明で殴った。それほど危険ではなくなっているし、松明の一撃もきくだろう。しかし姉の危険は放って置けないスタール。後に続く。
松明の炎と剣の一閃。さらに涼やクリオ達もあわてて追いかけて一斉にたこ殴りしたせいだろう。クラウドジェルはやがて動かなくなって活動を停止した。
「怪我もなくてよかったですねー、不意打ちされるかと思ってましたけどフェシス様とリュウガ様のおかげで、それも防げましたし。ね、レイヴァート様」
シルフィードがニコニコしながら話している。
囲んでいるのは――やっぱり鍋だった。クラウドジェルの始末も終えた一行は、やはり腹もすいたしということで鍋を囲んでいた。今度は料理技術を持っているスタールとリュウガ作である。さすがに闇な鍋はひっくり返した後だ。
そう大事にもいたらなかった今回の仕事は、こうして幕を下ろした。ちなみに荷物は回収して帰った。帰り道は鍋の話で盛り上がった――が、内容は闇な鍋なので記さないことにしておこう。