必殺、依頼人? ―それでも奴らは集う―
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:7人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月03日〜10月08日
リプレイ公開日:2004年10月08日
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●オープニング
「どうするんですか! お父様!」
全身黒づくめのお嬢さんは、同じく全身黒づくめのおやっさんにガミガミ文句を言っていた。というのも問題は彼女の手にしている『今月の営業成績』とやらである。ズラリと並べられた個人名の下には、ほとんど、『ゼロ』の表示。
「んもー! こんな村なんかやめましょうよって言ってるのに!」
びゅおん、とナイフが飛ぶ。
怒りに任せて反射的に投げたらしい。
黒づくめのおっさんは涼しい顔でナイフをかわす。
「娘よ。耐える事こそ我ら闇に生きる者の試練」
「試練どうこう言う前に! 生きてけないでしょぉぉぉ!」
びゅんびゅん飛ぶナイフをひょいひょい避けるアクロバティックな光景はここ数日延々と続いていた。
彼らは俗に言う暗殺者、つまり『その道のプロ』である。彼らは表向き『暗く陰湿で静かな村』に住んでいた。しかし問題はその村の住人、全員『その道のプロ』だという事にある。
闇の依頼を受け闇に生きる者達、というとカッコイイのだが、その実、そんなに暗殺依頼は入ってこないらしい。仕方がないので出稼ぎに行ってアルバイトしたり、どっか事務やったりという生活を送っていた。暗殺者としての腕前はあっても暗殺の仕事に赴いた経験者指折り数えるほどしかない。足洗ってるのと一緒だ。
「私はもう我慢なりません! このままじゃあ村が寂れる!」
「はっはっは、何を今更」
「開き直るんじゃありません!」
今度はジャパン産の刀が飛んだ。この娘、母親の必死の行動によりつい最近までジャパンで暮らして外の世界を学んできたばかりだった。つまり一般常識を兼ね備えた彼女には、実家がどーしようもない村だというのは耐えられない。
村人皆、本業が『その道のプロ』である所為か、村を構築して閉鎖された空間であるからか、日常面でもかなりの弊害が出ていた。
訪れる旅人に無愛想・無口のオンパレード。しかも折角だから鍛えてあげようという有難迷惑な行動の結果、素人の食事に麻痺毒を盛る、夜に奇襲をかける、トラップに落とす。
つまり村人全体が一般常識に欠けていた。
噂が噂を呼び、寂れに寂れているというわけだ。
「村おこしを提案します。祭りを開き人を呼び、コンテストを開いて娯楽を広めましょう」
「反対はしないが。いっとくが金はないぞ?」
日々の生活が困窮してるんだから、金はない。
娘の眉間に皺ができた。
「私が賞金用意します。家賃二か月分ならなんとかなりますから。あと、お父様にはクレイモアを賞品にだしていただきますよ」
「何!? ワシの愛刀を! いやじゃいやじゃぁ〜〜〜」
「やかましいですわ! 男らしくなさいませ!」
さてその後、苦労性の娘さんは王都にて村をアピール。勿論、暗殺者村なんて言ったら誰も来ないどころか討伐対象になるので、最近できた観光地として祭りがあるのだと広めまくった。普通のお祭りを開けば何かしら収益もあるかもしれない、ということで。
さらに村でコンテストなるものを開くことになり、参加者として出てくれる者をギルドで募集。もちろん募集内容は『村おこしの為にコンテスト出場者となってほしい』。何人かが寂れた村を明るくしてやろうと手を上げた。
尚、参加者にだけ昔暗殺者の村であったが、今は足を洗っていることを娘は伝えた。
そして某日。
舞台は円状の特設会場。観客席と舞台の間には、どっから連れてきたのかヘビの山と鰐の山が溝の中でうごめいていた。常人の感覚ならかなりデンジャーな舞台であるはずだが、『その道のプロ』である村の人には大した物ではないらしい。
『レディィッスあーんどジェントルメン! よくぞ集まった猛者達よ! 勝者には2Gとクレイモアを進呈しよう! はははは、素直に高額よこせとはいわないでくれたまえ! 貧乏ゆえに現物支給しかできない村の事情なのだ! 勝者には王都で売り飛ばす権限は勿論与えよう!』
なんだか切なくなる説明は聞き流すのが吉とみた。
司会の村長は不敵に笑う。
『では始めようか諸君! 第一回村おこし不幸自慢&我慢大会を!』
この時、娘は自分の父親に競争種目を考えさせた事を後悔した。
呆然とする祭りを聞きつけてやってきた観客達。
‥‥‥‥『村おこしにならないと思う』に一票。
●リプレイ本文
果たして不幸を自慢することに一体何の利益があるのか全く持って不明だが、この際後にはひけないというもんである。その場に集まった犠牲者は七名。やとわれの冒険者達は見世物になるであろう自分の明日を思って涙もぬぐった。もはや、逃げられない。
ウェルカーム怪しいコンテストへ。君達は砕け散る為に来たのだ!
『それでは一番にいってみよう! かなたの国からチョットミイラを作りにね? 師匠の愛に振り回されっぱなしの不幸な乙女! ロソギヌス・ジブリーノレ(ea0258)!』
会場に躍り出たのは褐色の肌をした黒髪の乙女だった。身の上話をすればお金がもらえると思い込んでいる彼女は、半分ウキウキしていた。激しく何かを勘違いしていたが咳払いすると遠い天をふりあおぐ。
「私には師匠がいるんです。未熟な私にミイラ作りを一から教えてくださった数少ない一流の女性のミイラ作り職人。ただ、とても厳しい方で、私が間抜けな失敗をすると『こぉの馬鹿弟子がぁ!』という怒号とともに鉄拳制裁を食らう毎日でした」
取り敢えずミイラってなんだろう、と審査員の頭に疑問符が飛んだ。まさか『人間の体の腐りやすいところだけとって干し肉にするんですよ、えへ』なんて事を知る由も無い審査員と観客はただ話に耳を傾ける。
どうやらロソギヌスの女師匠はグローバルな精神を持っていたらしい。其の日のうちにイギリス行きが決定し、腕を挙げるまで帰ってくるなという。
言葉は分からないし金もないし、しかも犬に追っかけられて。
「イギリスはミイラを作る風習がないので、仕事がなくて腕は落ちる一方で‥‥おめおめ帰るわけにもいかないですし」
その時会場に突如黒い人々が出現した! つらつらと人生の苦労を語るロソギヌス全く気づかず! 危うし薄幸の乙女!
「明日が見えない毎日でぐはぁっ」
回避能力皆無のロソギヌス。一発で攻撃を受けた。しかも懐に入れていた火打ち石により勝手に炎が上がる。先天性自滅症候群は健在ー‥とか言ってる場合じゃなかった。
「あああ! ロソ子!」
ヒラヒラの服でロソギヌスの応援に来ていたシーンは慌てて火達磨でゴロゴロ転がっているロソギヌスに向かってアイスコフィンを唱えた。会場隅で氷の彫像と化したロソギヌスはそのまま重さにつられて蛇と鰐の溝に落下。 ――――氷が溶けた時が恐ろしい。
『ははは、それでは二番手にいこうか! ワシは無罪じゃ、心は乙女。人妻っていうのは危険な薫りさ男のロマン! 狂闇沙耶(ea0734)』
司会の奇妙な紹介センスはともかく、沙耶は何処か疲れたような顔をしていた。しかしこれも仕事の一環。そして溜まっていた鬱憤をはらすべく、きっと視線を向けた!
「これは何週間も前の話なんじゃが‥‥しあらー殿から百合と言われ、おかげでわしは夫に一週間も真実を説明せねばならなくて。しかも街中を歩けば百合が来たと言われ、冷たい視線を毎日のように受けねばならなくなった!」
不憫である。ジーザス教では同性愛は御法度、死罪。下手したら捕まっててもおかしくない。沙耶の目の色は語るにつれて徐々に怒りに染まっていく。
「さらに他の者からは急所蹴りの達人と言う嫌な称号を授けられ、殿方達から敬遠されておるんじゃ!」
その時再び黒い人々(=その道のプロ)が攻撃を仕掛けてきた! 危うし人妻!
「冒険者という定職に就くまで路地裏でぼろ布で作った住居に住み、腐り掛けた食べ物を恵んでもらったり!」
しかしなんと沙耶は攻撃をもろともせずヒョイヒョイよけて話を続けるではないか!
「藁の中で寝て過ごしたり、風呂も一週間に一度、しかもいい年して湖で‥‥その時のわしの気持ちが御主等に分かるか――っ!」
怒りの矛先は真っ黒い人たちに向かった。ギラン、と鋭い眼光で真っ黒い人たちを睨みつけ、その辺にいた蛇の尻尾をつかむと、ブンブン振り回してブーメランの如く投げ放った。『ばち――んっ』と痛そうな音を立てて蛇ブーメランは黒い人の顔面に激突。
『お、恐るべし人妻』
おぉぉぉぉぉぉっ! と本気で沸き上がった会場を後目に、沙耶はぷりぷり怒って帰っていく。
『さて次は『クレイモア、頂きます☆』貧乏暮らしは此処でおさらば! 僕の容姿は女性を凌ぐ!? チャーミングなミスターレデぃ、ユエリー・ラウ(ea1916)!』
でん、と舞台袖から現れたのは頭上に煌めく水晶のティアラに華国風の衣装を纏ったユエリーだった。言うべくもなく女装である。しかもスネークチャームで手馴づけたニョロニョロ大蛇を体に巻き付けていた。――ちょっと表情に悦が入っている。
「俺の身近な不幸ネタは弟子に家出された事です。人間の子供だったんですが我が子のように可愛がっていたのに『もう、ついていけない』と一言残して出て行きました」
しょげるユエリー。大切にしていた子供や弟子に冷たくされるのは親心として切ない部分がある。巣立っていくのは寂しいものだ。だが、だがしかし!
微妙にその弟子の気持ちはわからんでもない。
「俺、ついていけなくなる程、変ですか?」
凄いインパクトある格好で出てきて何を言う。と、其処へ黒ずくめな方々登場。
もはや攻撃パターンは決まっていた。「男は歯ぁくいしばれ!」と言わんばかりに攻撃しかけてくるが、目のいいユエリーには其れはまさしく絵のように。
「英国紳士なら人の話は黙って最後まで聞きなさい!」
説教かまして「見切った!」と刃の回避を試みたのだが、体はついていかなかった。
目は良くてもプロ相手の回避能力はすんごい低かった。
見極める男ユエリー、そのまま退場。
『四番手は誰か私の叫びを聞いて! 私は村の中心で哀を叫んでみせる! 闇に生きる身でも乙女だからこそ願うことだってあるのです、プリティガール双海涼(ea0850)!』
とんでもなく恥ずかしい紹介文とともに黒髪の女忍者が現れた。
「有名な絵師さんでマレア・ラスカさんという方がおられるのですが、その方は時折冒険者ギルドへモデル依頼をされるんです。モデル! 乙女の夢ですよね。で、私もそれに応募しようとしたのですが、生憎都合が悪く申し込めず」
なにやら幻想画家の名前が飛び出した。
「ところがですね、その依頼に兄が出かけて行って‥‥しかも兄がモデルになった絵が、コンテストで優勝まで。うっうっうっ、私には立つ瀬も浮かぶ瀬もありません」
以前アナイン・シーのコンテストでマレア・ラスカ作の黒髪の珍しい絵画が優勝したときく。要は自分がやりたかったモデルの役を兄に奪われ、兄は栄光を手にして帰ってきたと。兄への嫉妬といったところか。
顔を覆って泣き崩れる様は、観客をトキメかせた。こんな絵に描いた乙女は今時いない。毎回襲っていた黒ずくめの皆様も手を止めた――ところが。
「いつか、‥‥いつか兄を抉らないと、この気持ちは収まりそうもないです」
ハラハラと頬を伝っていた真珠の涙は一体何処へ?
不穏な発言と共に眼光を鋭くした涼は観客席を睨んだ。何故か涼の応援に来たらしいリッカと紫辰が涼の兄の似顔絵を描いた藁人形を支えている。
「ちなみにどれくらい本気かと言うと」
ドスドスドスドスっ。
鈍い音と共にわら人形の心臓に穴が!
怨念こもった一撃を爽やかな微笑で説明する。
「これくらい。本番は殺傷力を高めるために手裏剣に毒塗りますが」
「‥‥涼ちゃん怖い」
「マテ。今俺の面をクナイが掠り‥‥っ否、俺が涼の勝利を信じてやれなくて誰が信じるのか! 俺の屍を越えて強くなれ!」
狂気的な夢見る乙女、双海涼。どっかのお兄さん及び乙女の敵はご注意ください。
『五番手は知る人ぞ知るチャームな男! ヒックス・シアラー(ea5430)!』
本当に知る人ぞ知る世界の話だ。
疲れ切った表情で現れたヒックスは、とりあえず語り始めた。
「ある日泥棒に入られたんですよ。そのとき僕は着替え中だったんですがぎりぎりのタイミングでそれに気づいたんです。着るものも着ずにその泥棒を追いかけたら僕が捕まったんです。猥褻物陳列罪で。結局全財産を盗まれた上にしばらく牢屋のお世話にな‥‥」
ザッと黒ずくめが現れた。親友に恋人寝取られました発言前に現れてはオチがつかない。とはいえ攻撃されたらたまらない。審査員はその道のプロ! とヒックスは語る前に攻撃を避けることにした。
「あなたはなかなかの腕をお持ちのようですね。是非一手お願いしたい」
攻撃を盾でカバーする。多少怪我はしたが、もろに攻撃を受けることはなかった。
『えー六番手の選手が逃亡したため繰り上がりまして、『荒れ狂う旋風』の刃、受けてみるかい? キザなところもあるけれど? アーウィン・ラグレス(ea0780)!』
六番手選手の応援に来ていたミスティエナはファイヤーボムの準備万端だったのだが逃走したと聞いて「逃がさないわ」と叫びながら会場を出ていった。一方アーウィンは怪しくも素敵なマスカレイドを身につけていた。
壊れるときは壊れるつもりのようだ。
「冒険者として最初に請けた依頼の話だな。村に来て恒例の水泳大会を盛り上げてくれ、って依頼だ。他の仲間も居たけど全員女性でね。重い物持たせるのも何だし荷物持ちをやったんだが、コレが間違いだった」
なんと八人分持たされっぱなしだったという。異様に重くて中身を拝見しようとしたら変態扱いされたそうだ。が、よいこのみんな、女性の荷物は覗いちゃ駄目だゾ☆
「村に着いたら今年はクラゲの大発生で危険らしく、退治と棄権者救出に小船を一艘借りたんだ。勿論俺が漕ぎ手をやったよ。ただ、船の扱いなんか出来ないから手ぇ動かしても船が進まない。案の定十数分で俺がダウンして海面を漂うだけになっちま‥‥」
アーウィンの後頭部に石が激突した。
「ば、ばかな」
殺気も十分気をつけていたはず、と此処で彼は気づいていない。攻撃してくるのは『その道のプロ』である。いくら格闘術を磨いていようと殺気感知や回避能力もそれに準じなければ効果がない。勿論これは全員共通事項であるが。
不幸自慢&我慢大会は八割がいろんな意味で『殺』られるという結果に終わった。
実はこの審査、名前の通り不幸自慢が半分、奇襲の防御が半分評価なのだ。よって。
そして2Gとクレイモアを勝ち取ったのは。
『発表します! 第一位は狂闇沙耶!』
其れを聞いたシアラーは。
「狂闇さん、分かってます? この大会で優勝するって言うことはイロ‥‥」
「言うな。みなまで言うな。‥‥まぁおめでとう?」
二位はヒックス、三位はロソギヌスになり、二人には1Gが贈られた。ロソギヌスは何とか救出されたらしい。涼には『周囲が危険で賞』で特別賞に。コンテスト終了後はほとんどの者が純粋に祭りに出かけ、中には期間限定で弟子入りを申し込んで毒の扱い方を習ったりする者もおり、提案で『不幸饅頭』や『薄幸煎餅』なんて物も売り出された。夜は宴会騒ぎだったという。それぞれ有意義に過ごしたようだ。
なおこのコンテストが村おこしになったかは不明である。