純愛可憐
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:1〜3lv
難易度:易しい
成功報酬:0 G 52 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月26日〜07月31日
リプレイ公開日:2004年07月30日
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●オープニング
告白されて早数日。一ヵ月後には結婚式を控えたマーガレットは、この世の幸せを独占しきったような表情で毎日を楽しんでいた。
長年夢見たバージンロード、レースに飾られた白いドレスを纏い、結婚した暁には毎日旦那様を甘いキスで起こして、朝晩手料理を作ってあげるのだ、と頬を染めて友人達にのたまう。
あーはいはいご馳走様。
マリッジブルーなど無縁とばかりのマーガレットを眺め、すでに友人達はお腹いっぱいだ。好きにしろ、と言いたいところだが、幸せそうに妄想を語りつつ一人で騒ぐ相手に皮肉も言えない。
「もうじき式だね」
甘く微笑む恋人に。
「そうよ。そうよ。式なのよね! バージンロードを歩く花嫁になれるのよ! うふふふふふふ、蜜月になったら、あーんなことやこーんなこ・と・も」
自分の世界にひたりまくるマーガレット。
恋人おいてけぼりの現状に、友人達は隠れてマーガレットの恋人を不憫に思ったが、恋人も恋人で平和ボケしているのか天然なのか、妄想爆発のマーガレットを「可愛いじゃないか」の一言で片付けるあたりつわものだ。
そんな馬に蹴られそうな恋人達を、急速に現実へ引き戻す事件が起こった。
某日昼、冒険者ギルド。
「不憫な話だなぁ。つーか男の昔の女とかの嫌がらせじゃないのか? こんな生々しい嫌がらせするのはよ」
詳細を聞いた冒険者の一人がポツリとこぼす。結婚を控えたマーガレットの家の玄関や窓に毎日深夜から早朝、あるいは昼頃に、死んだ家畜や魚、木の枝や草、どっかの家から盗まれた品などが置かれていたり、投げ入れられていると言う。おかげでその処理に追われ、あらぬ疑いをかけられて散々な目にあっているというのだった。
結婚を控えた恋人達を不憫に思った冒険者達が、自分がなんとかしてやろうと手を上げる。ギルドの人間から報酬や状況などを聞いた者達がふと眉をひそめた。
なげいれられた品物の一例。小型や大型の死んだ家畜や、その臓物。木々の束、生の魚、ばらまかれた木の実、盗まれた宝石や貴重品、―――『束ねられた野の花』。
●リプレイ本文
水面に光り輝く写し月。星も煌びやかな夜といえば草木も眠り、動物達も息を潜める。光の世界を生きる命が寝静まる頃になると、すっと動き出す陰がある。小さな子供の影だった。こげ茶の短髪で、年の頃は五歳にもならないといったところ。子供は男の願いである『贈り物が出来たらなあ』という言葉を『ある意味で』実行し続けていた。小さな口をあけて咆哮をあげる。
「ギギィ――――‥‥」
子供の咽喉から漏れ出でる、人の声ではない異質な音。
鉄を引っかくような異質な音は、細く高く空へと溶けていく。
「貴方達が冒険者?」
依頼を受けた冒険者を出迎えたのは、花を腕に抱えたマーガレットだった。
問いかけに六人が首を縦に振る。邪険にされるかと思いきや、彼女は冒険者を招きいれ、室内に入ったかと思うとずるずる床に座り込む。
「びっくりした〜〜〜、あぁもう、驚かさないでちょうだい」
「失礼かもしれませんけど、どう意味でしょう?」
戸口で腰を抜かしたマーガレットに近づいた李彩鳳(ea4965)は、すっと膝を折って漆黒の瞳をマーガレットに向けた。どこか疲れきった表情の依頼人はふっと溜め息を零すと「用件はきいてるのかしら?」と確認するように問う。
「これのことですか?」
カレン・ロスト(ea4358)が、右手で依頼書を取り出した。宙を飛んでいたシフールのマルティナ・ジェルジンスク(ea1303)がカレンの身を気遣い、代わりに依頼書を開く。
「えっと、変な物が投げ込まれるって、――あってますよね?」
「そう。それなら話が早いわ。もうじき結婚式だってのに、迷惑な奴のおかげでこの様よ。同じ村の人間に嫌味な事散々言われるし、薄気味悪い目にあうし。毎日散々よ。貴方達、冒険者なのよね? 依頼をうけてきたのよね? ならさっさと仕事して頂戴!」
すでにこの時。
依頼を受けた事を後悔した者多数。
目の前にいた彩鳳とマルティナは目が点になり、後ろにいたカレンは溜め息をつき、同メンバーの沖田庵乃雲(ea0906)とアイオーン・エクレーシア(ea0964)は唖然と依頼主を見つめ、基本的に気障でフェミニストのはずのキース・レッド(ea3475)までもが言葉を無くした。
いくらストレスで精神的にやられているとはいえども世の中様々な人間がいる。
自分中心に世界が回っているタイプの人間らしい。マーガレットは現状をどうにかしろとだけ言い、話を聞かず、室内外の警備と冒険者に任せきりにして恋人の家に泊めてもらうと言い放って騒いだ。精神的にこたえているとは言っても彼女がいなければ話にならない。冒険者達はマーガレットを宥めて家に拘束するのに二時間かかった。前途多難である。
「飛び入りだったし、依頼人もあんなで自己紹介が遅れて申し訳ない。キース・レッドです。どうぞよろしくっ!」
「これは失礼した。アイオーン・エクレーシアだ。ナイトをしていて‥‥」
移動途中で急遽合流の形をとっていたキース含む数名の為に仲間達が挨拶していく。アイオーンの礼儀正しい自己紹介に皆が続いた為、妙に硬い空気になった。一瞬キースは噴出すと、チッチッチと指を振りながらウインク一つ。フェミニストは健在だ。
「お互い、野暮は無しですよ」
「さて、挨拶もこれくらいにしておこうぜぃ。拙者は屋根に上がり、夜目を活かして張り込むつもりだ。いいかぃ?」
「屋根の上なら僕も上がれます。寝ずの番はお供しますよ。複数犯の場合も否定できませんし。ただその前に家周辺に単純な罠でもかけておこうと思います」
庵乃雲の提案にキースが続く。なかなか良いコンビかもしれない。二人ともクライミングや徹夜等の技能を兼ね備えていた。夜の計画について役目をかって出る頼もしい男性陣に続き、女性達も自ら進んで役目を決めてゆく。アイオーンが手を上げた。
「私はマーガレット殿と婚約者殿の担当になろう。過去の交友関係から、些細な出来事まで洗いざらい喋ってもらうつもりだ。さすがに、他の者には彼女の相手は辛かろう」
忍耐強く貴族万能を身に着けているアイオーンが一番適任といえた。あ、という顔をしたシフールのマルティナが、ふよんと飛んでアイオーンの傍らに並ぶ。
「私も一緒にいます。あんまり問い詰めちゃうのも駄目だと思うし、結婚式のお手伝いしてあげたいな」
四人も家に冒険者が張り込むなら警備としては十分だ。カレンが苦笑する。
「さすがに皆が家に篭るわけには行きませんから、私は近所の方を尋ねてみますわ」
「一応、私も依頼主の話を伺いたいです。アイオーン様には及ばないとは思いますが‥‥その後はカレン様と同じく近辺の聞き込みを」
順調に計画を立てていく。依頼拝見時に様々な可能性を考慮していた為、六人の動きは無駄が無い。ものの数分で事件解決の計画を練り上げた。庵乃雲は見張りを早速開始し、キースは罠の設置がすんだら聞き込みを手伝うといった。夕方に集合、と時を定め、冒険者達は村の中へ散っていく。そんな彼らの様子を窺う視線が間近にあることも気づかず。
夕方、村の聞き込み班はげっそりとした顔でマーガレットの家に戻ってきた。
「容疑者がこうも多いんじゃ話にならねぇな」
「えぇ、まさかこんな事になるなんて露ほども」
「私も正直驚きました」
六人そろった個室での作戦会議。庵乃雲のあきれた声にカレンと彩鳳が重苦しい声で手元の羊皮紙に視線を落とした。アイオーンやマルティナの根気の入った取調べによると当の本人達に心当たりはまるで無いらしかったが、それも彼らの性格からしての発言で、現実は違った。カレンや彩鳳、キースが調べた結果、彼らの特殊な性格の為「憎みたいけど憎めない」なんて人間が膨大にいることが分かった。
「投げ込み物の中で異質だった花束の件だが、婚約者が犯人だったぞ」
「アイオーン様と婚約者の話を聞いてみたんですが、村の風習だったようです。幸せを運ぶとかなんとか‥‥詳しくは知りませんが。マーガレットさんは数年前に引っ越してきた身で知らなかったそうですわ」
「平和ボケしてるというか、はたメーワクな婚約者だなおぃ」
「あ、一応注意しておきましたよ。マーガレットさんにも言っておきました」
庵乃雲の言葉にマルティナがアイオーンの隣で手を上げる。
では、と話しかけた時。家の外から絹を裂くような悲鳴が上がった。どんっと六人が外へ飛び出すと、昼間キースが仕掛けた罠の当たりでうごめく影かある。茶髪の女性だった。みれば手に宝石を握り締め、足を抱えてぎゃあぎゃあ騒いでいる。足首に獣取り用の罠が食い込んでいた。何より先に彩鳳がキースに詰め寄った。
「獣取りなんか仕掛ける人がありますかっ!」
「いえ、あれモンスター用だったんですけど」
「お、女の人だったんですか‥‥い、痛そうです」
ぱたぱたと宙を舞うマルティナが、ひぇっと顔色を悪くした。そんなに深くない傷とはいえとめども無く溢れる血をみていると可愛そうに思えてくる。女はマーガレットと冒険者達を罵倒しながら、痛みをこらえ、虚勢を張って騒いでいた。罵倒内容からして婚約者の問題らしい。キースが罠をはずし、アイオーンが女を縛り上げる。
「では女の処置をどうす」
『きゃああああああぁぁあぁぁあぁぁああぁあぁ――――――――っ!』
時が止まった。
今、家の中は――無防備。
「マーガレットさんっ!」
カレンが家の中に飛び込んだ。「気を抜いた」と庵乃雲が舌打ちする。キースが女が逃げないよう見張り、残りの五人が家の中に入った時すでにマーガレットは部屋の中央で血みどろになっていた。ゾッと瞳を凍らせる。まさかと息を呑むが、血の臭いが異なっていた。はっと我に返る。血みどろのマーガレットはすでに恐怖で正気を失っていたが、彼女の周囲には様々な肉片があった。彼女のものではない。報告書にある『臓物』の類だろう。
「なんてひどい――っ」
マルティナが目を覆う。するとマーガレットの傍で蠢く影があった。見たことも無い五歳くらいの子供である。子供は虚ろな目をして冒険者達の前に現れた。何かに憑かれているのかと警戒すると、子供は『にたり』と歪んだ笑いを浮かべる。ゾッとするほど気味の悪い笑みだ。ぐにゃりと歪んでゴブリンに姿が変わった。庵乃雲がうろたえる。
「な、ゴっ」
「違う――アガチオン?」
子供に変化できるゴブリンなどいるわけがない。それはアガチオンだった。アガチオンは下級デビルの一種で人や獣の姿をとり、日のあるうちに現れては悪質な悪戯を繰り返す。
「逃がすかっ!」
ひらりと窓から外へ出たアガチオンをアイオーンが追った。庵乃雲と彩鳳が続く。マルティナとカレンはマーガレットに駆け寄った。
それから三十分後。三人は無傷で家に戻ってきたが、アガチオンは取り逃がしたらしい。アガチオンは人の願いを歪曲した形で叶えることでも知られている。
『婚約者が望んだことだと言っていた。不用意な発言でもしたのでは』
そんな発言が飛び交った。
その後、マーガレットの家に起こっていた投げ入れ事件は大半が女性の仕業だったということが分かり犯人はこってり説教されたらしい。アガチオンは消え、依頼は幕を閉じ、彼女の生活は平穏を取り戻す。一週間後、ギルドの計らいでマーガレットから依頼をうけた冒険者達に結婚式の招待状が渡された。添えられた羊皮紙には「ありがとう。ごめんなさい」という言葉が書かれていたらしい。村をあげてのマーガレットの結婚式は盛大に行われ、飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎになり、二人は正式な夫婦となった。
もう一つ書いておくことがある。
その村では古くから、結婚式の終わりに、絹の小袋を括りつけた花冠を参加者へ投げる風習がある。「次の幸せは貴方に」という意味だ。婚約者が投げ込んでいた花束は、この花冠の為の物だったらしい。一ヶ月も先なのに迷惑な話である。
さてまぎわらしい花冠。なんと偶然、花冠を受け取ったのはカレンだった。絹の小袋にはゴールド貨が一枚、ひょっこり顔を覗かせていたという。