問答無用教育論―サンプドリア家の娘―

■ショートシナリオ


担当:やよい雛徒

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2004年11月28日

●オープニング

 キャメロット在住のおん年六十五歳。
 エレネシア家現当主、ヴァルナルド・エレネシアは珍しく本気で悩んでいた。
 このエレネシア家、本来ならば世継ぎのデルタ君の父親が継いでいるはずなのだが、当主だったはずの人間は立場ほっぽりだし、自由を求めて母親と駆け落ちしちゃった為、今尚じーさんのヴァルナルド氏がセイラ夫人とともに維持していた。
 しかしいい加減ヴァルナルド氏も年である。
 恥ずかしげも無く『うら若き乙女』を自称してるけど一家の当主である。
 そんな悩めるある日、珍客が訪れようとは思ってもいなかったに違いない。

「巷の噂じゃ、随分酔狂な事をしてるそうだね。ヴァル坊や」

 その人は愛称ベスばぁ事、イギリス名門貴族サンプドリア家の元当主の妻、エリザベス・サンプドリア。 身長は歳相応。若者のように背筋を伸ばした姿は威風堂々としていて、御歳八十九歳にして未だ現役老女騎士と言わしめる風格があった。
 エリザベスの姿を発見したヴァルナルドは眉をひそめる。
「やめてくれんかね、エリザベス。私はもういい年だ」
「幾年月経とうとも、私にとっては坊やさね」
 今日はちょっとしたお茶会、のようなものである。ヴァルナルド氏は相談相手としてエリザベス・サンプドリアを招いた。庭のテラスに置かれたテーブルと机。品性を感じさせる物腰でエリザベスは腰をかけた。
「お前を見ると血が疼くね、昔は狩りを教えてやったもんだ。しかしまぁ来る途中色々な噂を聞いたが、道化を演じて見せる余裕は流石ヴァル坊やといったところかねぇ」
「何の話かね、エリザベス」
「全く、くえない坊やだよ」
 エリザベスはすぃっと双眸を細めた。
「駆け落ちした夫婦の泥を拭うべく奔走、分家に食われることのない本家、お家騒動もおきないほど隙が無く、老いても当主として劣らぬ豪腕ぶりだ。その上で酔狂な人間のフリをしてみせる‥‥末恐ろしいと思うがねぇ。最近は長女の問題もでたそうじゃないか」
「褒め言葉と受け取っていいのかね」
 薫り高い紅茶に高価な砂糖菓子。一見穏やかなティータイムに見えるが、言葉の端々にはピリピリした緊張感が漂っている。給仕の者達もおそれて遠くに控えているほどだ。
「どうとでも。男色のフリをするのはどうかと思うがね、セイラも心中穏やかじゃないんじゃないのかい」
「あれは私をよく理解している。本妻の余裕というのもあるのだよ」
「ふぅん、若い男と接吻した、と聞いたがね」
「‥‥あれは事故だ」
「事実かい。やれやれ、妙な道には目覚めないでおくれよ。それで、今日呼び出した用件は。また狩りでも」
「いや、そうではない。孫のデルタについて相談したくてな」
 ヴァルナルドの話によれば、孫息子にそろそろ家を継がせたいらしい。ところが息子は筋金入りの根性なしで女も近寄らないという情けなさ。気合を入れてやりたくても過去のいきさつ含めて対面上できない為に、エリザベスに相談を持ちかけたという。器量のよさそうな良家の娘を妻に娶り、長男デルタの根性を日々叩き直してくれるような女性の力を持って、家を継がせる前に少しは馬鹿息子をしっかりさせたいのだとか。
 エリザベス・サンプドリアは「ふぅむ」と唸った。
「ウチの孫娘、はどうだい。気立てのいい娘だよ」
「いいのかね」
「ヴァル坊やの頼みなんて珍しいからねぇ。孫娘のルフィアも同じ年頃だ、丁度良いだろうよ。あれもそろそろ嫁に出さねば行き遅れと言われかねないしねぇ」
「では近日に顔合わせでも」
「パーティにしたらどうだい? 合間に何か競技でも見せた方がいいかもしれないね。孫娘は若い頃の私に似て気が強いからねぇ。どれ、私もひとつ顔合わせの舞台でも演出してみようかね」
 ベスばぁは、紅茶を片手にからからと笑った。

 後日、ギルドに両家の名前で依頼が張り出されることになる。
 どうやら顔合わせなどの最後にパーティ会場で剣技等をデルタを交えて披露するか、強盗を装って勇者っぽく演出するか、何はともかく婚約者の前でデルタ君の株が上がるように力添えをして欲しいとの事。さて、皆さんどうする?

●今回の参加者

 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0763 天那岐 蒼司(30歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1128 チカ・ニシムラ(24歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea2220 タイタス・アローン(31歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea4471 セレス・ブリッジ(37歳・♀・ゴーレムニスト・人間・イギリス王国)
 ea8255 メイシア・ラウ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

 此処は名門サンプドリア家。
「そうやって周囲と私をじっと見ていたのかね? 特に仕事に浸っている私を。常に衆目集める私も流石に照れるねルーティ君」
「またそんなことを。ルフィアさんの方はお願いしますよ。おばあちゃんに会うのは久々です」
 仲睦まじく見える男女のエルフ。男の方をレイヴァント・シロウ(ea2207)、女性の方はルーティ・フィルファニア(ea0340)と言った。礼服に身を包み、悪巧みの許しを得にというより事前準備に出向いた。建物の奥へと消えてゆく。さて、一体どうなる事やら。

 その日、ベスばぁの用意したレースに招かれた貴族達は食い入るように華麗な手綱裁きを眺めていたという。出場者は冒険者達。本来はデルタとルフィアのお見合いなわけだが、パーティだけではつまらない。3000mの行程に障害物を設置され、それを人馬一体になって乗り越えてゆく雄々しい者達。ルフィアとデルタもまた、一角でそれを眺めていた。
 きらきらとした輝かしい瞳を向けたルフィアに対し、デルタは「ぼくちん無理です、おっかないじゃん」と言わんばかりの様子だったらしい。
 これからはじまる夜の騒ぎに向けて、不安を抱く者が多数いたことを記しておく。なにしろ今日の為に、突如何の前触れもなくクリムゾン・コスタクルス(ea3075)が教育係としてつくが、デルタ君は大事な用事があるんだと逃げるわ、へばるわ。要はあんまりスパルタ教育ができていない。武術はそれなりに嗜んでいるらしかったが、根性が雛並だ。
 なにやらよくない未来が待っていそうだが、それはそれ。
 かくして運命のパーティーは幕を上げた。

「なかなか素質はあると思うぜ。ただな、根性もう少しなんとかできないか」
 クリムゾンがデルタに説教している。ただいまパーティの真っ最中。賑わっている中でデルタ君の株は急降下中であった。どーしようもねぇ駄目息子である。と、その時建前上使用人になっていたルーティが彼らの横を通り過ぎる。
「ちょっと外に出てきますね。慣れない礼服着てるので少し体を動かしたいな〜って」
 気がつけばレイヴァントの姿も消えていた。

「気合だの根性だのってのは覚悟を決めればすぐに生まれるもんじゃねェのかね?」
 ただいま待機中の偽盗賊その一、天那岐蒼司(ea0763)は壁にもたれてぼんやり月夜を見上げていた。酒でも持って菓子でもつまんでいたら絶好の月見酒である。何が悲しくて恋のお膳立てに盗賊をしなければならないのか全く持って訳が分からない。
「デルタお兄ちゃんの株を上げる、か。ちゃんとこっちの計画どおりに強盗と戦ってくれるといいけどね。心配〜」
 チカ・ニシムラ(ea1128)は普段の煌びやか且つ華やかな衣装ではなく真っ黒な服装で待機していた。はぁっと寒い夜空の下で白い息が両手をかすめる。
「‥‥体がなまる。合図はまだでしょうかね。こんな寒いところに長時間居るのも大変です」
「大丈夫ですか?」
「まあ仕方ないでしょう。もうじきルーティさんからの合図が来るはず」
 セレス・ブリッジ(ea4471)がタイタス・アローン(ea2220)の身を心配しはじめたころメイシア・ラウ(ea8255)が顔を上げた。突如、轟音が響き渡る。合図だ。
 が、しかし。
「いくよーみんな」
 チカがフライングブルームでフワリと浮き上がる。そしてしがみつく冒険者ご一行。そう、いくらなんでも壁は壊すなと言われたのだ。馬も荷物も離れた場所に隠してある。一人がしがみつき、また一人がしがみつき。人間縄状態だ。
「おもいよーぅ」
 響き渡る二度目の轟音。砂煙が辺りに満ちる。
 女性が多いので言うのも何だが、フライングブルームの最大積載量は300kg。現在フライングブルームに引きずられている人数含め234kg。脱出時にレビテーションを使えるルーティと、デルタ側のクリムゾンを除き、レイヴァントとお嬢様の体重が加わる。
 はっきり言って限界越えだ。その為、帰りは飛べる者は飛び、魔法で塀を越えられる者は自力で越えることになった。難儀である。
「何者だ!」
 もくもくもく。ルーティが立ち上げた煙の中から現れたるは!
「‥‥何だかんだと聞かれたら、答えてやるが世の情け‥‥」
 どっかで聞いたことのあるフレーズが蒼司の口からこぼれ落ちる。
「なんだかんだと聞かれたら、答えて上げるが世の情け! って、これは違う! と、とりあえず、悪の魔法少女、まじかるチカ・ブラック登場だよ!」
 しかもこっちは名乗ってる。ラブリーちゃーみぃの口上は無いと見た! とか口上の考察はさておき招かれてるお嬢さん達が騒ぎ出した。辺りは騒然とする。
「あんたらにやる金なんてねぇんだよ、出て行け!」
「はっ! 私の敵ではないな!」
 クリムゾンがタイタスに立ち向かうも、予定通りあっさりやられる。悪を働く神聖騎士タイタス! いいのかそれで! と自分に突っ込む25歳。乙女並に複雑な心境だ。
「お嬢さんは頂きます!」
 メイシアがルフィアをかっさらった。セレスが普通の傭兵達にグラビティーキャノンを放つ。チカはメイシアにフライングブルームを手渡した。体重オーバーという心的ショックを考慮し、セレスはプラントコントロールで塀を越え、ルーティとチカは自ら宙を飛ぶ。
「いやぁ! 助けてぇ!」
 と声を上げてみるルフィア。デルタ君はボーゼンと様子を眺めている。
「ははは、悪いねべスばぁ。以前言ったろう? 私は強い女性が嫌いじゃないと! さあ、デルタ坊――ついて来れるか?」
 敵か!? 味方か!? 全く分からないぞ冒険者達! しかも再び飛べない者はフライングブルームにしがみついて飛んでゆく。間抜けとしか言いようがないが、塀を越えて闇の中へと身を翻した。能力的バランスをとるためか数名が離脱。物陰から様子を見守る。
 ルフィア抱えて馬の所まで走り出すわかりやすい悪役のタイタスとレイヴァント。
「まさか、目の前の女性一人守れないほど腰抜けじゃ在るまいな?」
「きました!」
 物陰の蒼司があきれかけた刹那、なんとデルタ君が走ってきた。とりあえず剣は持ってるらしい。メイシアの声に、皆、固唾をのんで様子を見守った。
「ああ、デルタお兄ちゃんがんばって〜〜」
 チカが祈るように声援を送る。彼らデルタ君見守り隊(仮)の目の前で、デルタは剣を一閃、レイヴァントと刃を交えた。タイタスも剣を構える。
「おぃあの馬鹿駄目だろ! 背中がら空き! タイタスが狙えるだろうが!」
「蒼司さん、バレるバレる。大声出してはだめですよ。あ、ルーティさんお疲れさまです」
「そちらこそ。メイシアさん、さっきの格好良かったですよ」
 小声で騒ぐ物陰は長閑だ。長閑だけど和んじゃいかんよ、そこの人達。
「あああ、危ないよ。デルタお兄ちゃん! 横! 横!」
「斬ろうとしてる節がない‥‥もしかしなくても、あいつ騎士向きじゃないだろ」
 チカや蒼司を始めとして皆さん心配そうに見つめている。なかなか剣筋はいいらしいのだが、何しろ二人相手。しかもデルタ君は隙が多い。正直言って埒があかない。
 いい加減やられた振りをしようかという様子になってきた頃、突然ルフィアがタイタスの鳩尾に肘鉄を食らわした!
「おぃおぃおぃ! なんだあのお嬢さん!」
 蒼司達の目の前で、拘束をとかれたルフィアが素早い動きでデルタと交戦中のレイヴァントの後頭部に護身用に持っていた投擲用のナイフを投げる! ナイスショット柄部分。でっかいタンコブこしらえて倒れるレイヴァント。
 どう見てもルフィアは戦い慣れていた。ぎっと睨まれてタイタスがへこりと頭を下げる。
「ぐあぁぁぁ、す、すまない! 命だけは助けてくだせい」
(「何でこんな目に! くそ、神聖騎士だぞ俺は! こんな無様な姿っていうか、言う相手が違うんじゃないか!?」) 
 などとタイタスの脳裏に止めどもない考えが浮かんでは消える。
 そして冒険者達の目の前で『囚われだったはずのお姫様』はデルタにこんな事を言った。
「情けない! それでも騎士ですか! そんなあまっちょろい根性は、私が叩き直して差し上げます!」
 ‥‥物陰の皆の目が文字通り『点』になった。

 あぁ愛しの根性なしと気丈な娘さん。

 娘さんはベスばぁの性格を色濃く受け継いでいた。
 これは後日談ではあるのだが、ベスばぁは亡き旦那さんに惚れた際、馬上槍試合で男性騎士に負け無しだった自分が唯一敗北した相手騎士、つまりは旦那さんに恋したという。ベスばぁと同じく男勝りなルフィア嬢の場合、自分より強い男ではなく普段弱っちぃデルタ君に惚れた様だ。
 惚れたと言うより苛ついたのかもしれないが。
 見てられずに『こんな弱い騎士許せない、私が教育しなおす』という義務感にかられたのかもしれない。
「ねぇねぇ、いいのかなぁ。上手くいったことは上手くいったみたいだけど。デルタお兄ちゃん、あんなだし」
 打ち上げ会の席でチカが呟く。
「よろしいんじゃありませんか? あ、クリムゾンさんもう一杯いかがですか?」
「あんたいいやつじゃん。おい、蒼司もセレスについでもらえよ」
「サンキュ。あいつもこれから当主として立派にやっていけりゃいいんだがねェ」
 多分無理だろう。とかいう現実じみた感想はさておいて。
 姫君救出! のはずが『囚われの姫君、騎士を救う』というトンデモ劇と相成った今回の依頼。演出担当の冒険者達はなんだか複雑な心境だ。当人達が幸せならそれでも良いのかもしれないが、デルタがルフィアの尻に敷かれるのは目に見えていた。
「大丈夫だと思います。ルフィアさんもやる気満々でしたし」
「ハーハハハハ、ルーティー君ナイス目の付け所だ。後はデルタ君が権力を握り次第、直談判で審査員との決闘の場を!」
 タンコブこしらえたレイヴァントの横でメイシアが呆れる。
「あー、ウチの兄様も出てたコンテストとかいうやつですか。結局おかしな家になりそうですけど、あれ? タイタスさん? タイタスさーん?」
「くそ、なんであんな無様な。神聖騎士だぞ俺は! 俺は騎士、俺は騎士、俺は騎士俺は」
 こうして依頼は終わりを告げた。
 終わりよければ全てよし?