タオルの動く白 ―Really?―
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■ショートシナリオ
担当:やよい雛徒
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月30日〜12月05日
リプレイ公開日:2004年12月08日
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●オープニング
ギルドのおっちゃんは暇そうにしている冒険者を「おいでおいで」とばかりに招く。さて仕事が来たのか!? 俺の出番か!? と目を輝かせているが、よもや恐ろしい敵と対面しようとは思っていなかったに違いない。
「まずはな、ある酒場の看板娘の話を聞いてくれ」
おまえじじぃか、という露骨に嫌そうな顔をしながらも、ギルドのおっちゃんの話を聞くはめになる。
ある酒場に看板娘が居た。そしてある常連が恋をした。
いやまぁよくある話なのだが、男が看板娘と仲良くなり、君の家どこ? とにこにこ問いかけたところ、調理場から『包丁』持ったコックさんが飛び出してきたらしい。看板娘の彼氏だったらしいが、そのコックさん。接客スマイルと憤怒が入り交じった形相で常連の若者を叩き出した。そこで逆恨みした青年は。
「一センチくらいの黒い物体をばらまいたらしいんだな」
粉を置いてある倉庫に娘さんが行ったとき、不意に下に落ちていた手ぬぐいを拾い上げるとそこには‥‥
「おっちゃん、それって」
おっちゃんはただ頷いた。女の子には天敵だ。冒険者は逃げようかと思った。
「まてまてまて、まだ話はあるんだ! 逃げるんじゃない!」
ただのG退治かと思われた話には続きがあった。
実は白い手ぬぐいの下に居た『G』が問題なのではない。側には若い男物の服と思われる布の切れ端なども落ちていたという。そして娘さんの肩に何かが飛びかかった瞬間、娘さんの肩はあっけなく溶けてしまった。死にものぐるいで娘さんは逃げ出したという。
「‥‥何か棲みついてるってか」
「まあな、Gを持ち込んだ青年は食われたらしいぞ。娘さんの証言からしてビリジアンスライムあたりだろうよ。このままじゃあ何も取りにいけないし、死人が出る。G退治の前に化け物退治だな。ほれ、いってこい」
ぺしっと依頼状を渡されたのだった。
●リプレイ本文
「どこからモンスターが入ったか知らないか」
レーヴェ・フェァリーレン(ea3519)は店の人間を捕まえてそう聞いた。すると何となく思い当たることがあったらしい。店の人間はレーヴェ達を引き連れて倉庫の裏に回るとなんと其処には人の頭ほどの穴が空いていた。
「あー、やだやだ。私なんかが率先して出てったらドロドロにされそうだねぇ。ここは一つ、男どもに頑張ってもらわないとね」
「率先して俺達を生け贄にしようとしてないか?」
「あらやだよ、人聞きの悪い。男ならウダウダ言わないでいくんじゃ」
五百蔵蛍夜(ea3799)の指摘にマルト・ミシェ(ea7511)はけらけら笑いながら背を叩く。彼らは今扉の前間出来ていた。ユラヴィカ・クドゥス(ea1704)がエックスレイビジョンで透視をしている間、男達の数人はモンスター退治兼G退治に闘志を燃やしていた。
「Gめ、まさかこんな秘密個体を誕生させていたとはな。次はないぞ」
Gに嫌な因縁でもあるのかツウィクセル・ランドクリフ(ea0412)は拳をゴキゴキ鳴らして倉庫を睨んでいた。きっと凄い(珍妙な)活躍を見せてくれるに違いない。Gよ見せ場をありがとう! などというのはさておいて、クリフ・バーンスレイ(ea0418)はツウィクセルを興味深げなまなざしで眺め、悶々と考えにふけっている。
「Gですか、妹は嫌いですが私は平気ですし、ああ、面白いことを思いつきました」
端から見れば普通に微笑んでいるだけなのだが、彼の友人であるアリオス・エルスリード(ea0439)には怪しげな微笑にしか見えない。追求が怖いのでアリオスは見てみないフリを決め込んだ。そんな愉快な者達とは対照的にイフェリア・アイランズ(ea2890)はユラヴィカの側へいって様子を眺める。急に倉庫に入っては危険きわまりない。もし天井から降ってこられたらお馬鹿な青年の二の舞になってしまう。
「どないや〜?」
「荷物が山と積まれておるのじゃ。戦いにくそうなのじゃのう」
「ビリジアンスライムはどこにおるん」
「大方荷物の影にでも、と思うたのじゃが。いやはや天井に張り付いておるようじゃのう」
尚、Gらしき影は元気に床を徘徊中とのことである。どうやらGの動きにビリジアンスライムはついていけないらしく、のろのろと天井を這いずっているらしい。入ってきた獲物をとらえるためだろう。普通の店の娘さんでも逃げられたのだから、動きは『とろくさい』と言ってまず間違いない。問題なのは酸を飛ばしてくるのと‥‥
「粉が蔓延してたら炎は駄目だぞ」
アリオスが一部に釘をさす。
イフェリアとクリフは燃やしてしまえと考えていたのだが、もしも室内に粉が蔓延していたのであれば粉塵爆発の可能性は非常に高く、ビリジアンスライムと戦った英雄と名を残す代わりに爆発に巻き込まれて重傷を負うのはまず間違いない。実際彼の読みは当たっていて、倉庫の中は小麦粉だらけだった。Gが白い粉をかぶり白きGとなっているように。
「それじゃ行って来るで」
「おう。気をつけろよ。危ないからな」
「危険になったらすぐに戻ってこい」
イフェリアは自分の体にロープを結び、もう一方をツウィクセルに持たせた。レーヴェがオーラソードの準備万端でイフィリアを送り出す。保存食を投げて様子見をという声があったが、彼女は率先して偵察兼囮役を引き受けたのだ。ビリジアンスライムの次には、恐るべきG達の駆除も行わねばならない。イフィリアが意気込んで扉の中へ消えてゆく。
と、ツウィクセルが蛍夜の片手の物体に目を留めた。彼は愛刀である日本刀を片づけミドルクラブを手にしている。
「蛍夜さん、何でそんな鈍器持ってるんだ」
「相手は酸の攻撃をするゲル状モンスターなんだぞ。日本刀が駄目になったらどうするんだ」
賢明な判断だ。レーヴェが武器を持たずオーラソードを構えたのも同じ理由かもしれない。何にせよああいうモンスターに大事な武器は使わない方が吉である。なるほどとツウィクセルが呟く。矢もボロボロに溶けそうだなと呟くと、ぽそりと蛍夜が答えた。
「あとな。山程『G』を潰した武器、お前なら持ち帰るか? 自分は嫌だぞ」
こっちが本音か、五百蔵蛍夜。
と、そこへ。
「ひああああああああ!」
先ほど倉庫の中に入っていったイフィリアの悲鳴がこだました。一気に気を引き締めて扉を睨む。薄暗い中ははっきりと見えないが、ツウィクセルの持っている綱は大きく揺れた。小さな影が逃げまどうように飛び回っている。レーヴェがオーラソードを手に突入しようとしたが、クリフが腕をつかんだ。
「駄目です、さがって!」
「あぁあぁぁぁぁあぁ」
「みんな下がるのじゃ、来るぞ!」
エックスレイビジョンを再び駆使したユラヴィカが叫んだ。尾を引く悲鳴と共にイフィリアが飛び出してくる。イフィリアの影を何かがかすめた。水のような物が脇をすり抜け、大地に落ちて草木を溶かす。酸の攻撃だ。
「うちは美味くなんかないねん!」
「下がっていろ」
ずるずると這い出してきた緑の物体にアリオスが矢を打ち込む。突き刺さった矢にビリジアンスライムは食いかかった。食欲旺盛である、これでは拾うとか言う問題ではない。ツウィクセルが続いて矢を打ち込んだところへ、レーヴェが大地を蹴って見えない刃を一閃。蛍夜がミドルクラブで触手を殴り潰す。クリフがウインドスラッシュで真空の刃で胴を分断、畳みかけるような攻撃に中傷を負ったビリジアンスライムも外に出てきたのを失敗と思ったか再び中へ戻ろうと這いずり回り始めた。だがしかし。
「ふん、そうはいくかい! ウォールホール!」
待機していたマルトの呪文完成により、一メートルほどの穴が出来た。べちゃりと穴の中に落ちたビリジアンスライム。ずりずりと再び這い上がろうとし始める。飛ばしてくる酸に武器を溶かされ、あるいは避けながら冒険者達がとった行動は。
「燃やしちゃいましょうかぁ」
「せやなぁ」
クリフとイフィリアが穴の中に油を投げて火を落とす。
‥‥燃えた。
ジワジワと丸焼きにしながら上がってきた敵を切り刻み、あるいは殴り落とす。怪我を負いつつビジリアンスライム退治を終えた一行は、G退治に移った。扉の向こうでうごめく無数のG。皆思い思いの策でG退治に取りかかる。マルトの双眸は輝きに満ちていた。袖をめくりあげ不敵な微笑を漏らして群がるGを一瞥する。
「ふっふっふ、だてにこの年まで台所あつかっちゃいないんじゃ! 覚悟!」
ぷちぷちぷち。(想像にお任せします)
「うーおーあー、俺はあんな事をする度胸はない」
蛍夜が素手でGを潰すマルトを眺めて感心して良いのか気味悪がればいいのか分からない複雑な気分に悩まされた。ふと視線を斜め北に移せば、マルト以上に生き生きとした輝かしい目でGを眺め、よく分からない口上をあげているツウィクセルの姿が映る。
「Gの白い個体。我等エルフには白子も珍しくないが、それがGにも存在したという事なのか」
誰かに怒られそうな発言かましながら、粉かぶって白いだけのGを眺めて熱っぽい言葉を吐く。一体何が彼を其処までG潰しに意気込ませるのか全く持って分からない、
「白い奴め! 後顧の憂いを絶つために、お前はここで潰させてもらう!」
ぷちぷちぷち。(想像にお任せします)
「いやー、楽しそうですね」
クリフはにこにこと『素手で』白きGを『生け捕り』にしながらツウィクセルを眺めた。あんなに楽しそうなら手伝ってやろうという、しょーもない出来心からツウィクセルに白きGを投げ放とうとしたクリフだったのだが。
「って、あれ?」
クリフの手を抜けだした白きGは空を飛んだ!
そしてクリフに攻撃を繰り出すかと思いきや。
「――おきゃー!」
意味不明な雄叫びが上がった。なんと白きG、クリフの服の裾から侵入し、彼の柔肌を這い回る! 手づかみは平気でもさすがに服の中を延々這い回られたのではたまらない。
「あ、アリアには見せられない。く、こうなったら一匹捕まえて妹のプレゼントに」
そりゃ嫌がらせの間違いじゃないんですか、お兄さん。
その内Gと対面するであろう苦労性の妹を思ってG駆除を休んでいたイフィリアとユラヴィカは手を合わせた。何故休んでいるかというと、やっぱ疲れるからである。シフールとG。人間とGなら大したことはないが、大きさに比がありすぎる。アリオスはアリオスでGの住み難い環境を作るためにせっせと働いていた。レーヴェに関してはお店の人と共に壁に空いた穴をどうするか話に行っている。
「なんやGの方が大変やったな。何人か輝いてはるけど」
Gにそんな魅力があるとは思いたくはないのだが。
生き生きとして退治をしている者を眺めると心境は複雑だ。
「終わるのは夜じゃのう」
ユラヴィカはぽつりと呟いた。
そしてG潰しの作業は夜まで続いた。其処はすでに惨状と化しており、冒険者達は掃除も言いつけられたのである。薬があるとはいえ怪我をしていた者も居たのに大変だ。白きGに散々苦労させられた冒険者達は、小さな驚異は日常何処にでもあるものだと再認識して帰路につく。ただし一人、重要なことを思い出した者がいた。
「いくらなんでも、な」
せめて衣服ぐらいは持ち帰ってやろうと、蛍夜は忘れ去られていたビリジアンスライムに食われた青年の衣服を拾い上げ、彼の家族の元へ届けたのだった。
以上が、G(とビリジアンスライム)の奮闘記である。